ヤンキーVS魔法少女

平良野アロウ

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第三章 自由行動編

第52話 魔法少女バトル博物館

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(うわ~、何あのラブコメ)
 二人の世界に出る幕が無くこっそり見ていた織江は、何とももどかしい様子に呆れていた。
(褌おっぱいちゃん、天然小悪魔って感じ? そしてあっちの美少年は免疫無さ過ぎ。さて、ここはいっちょ私がサービスしてやりますかな)
 織江はここぞとばかりに、「ぱん、つー、まる、みえ」のポーズをとる。途端に捲れる恋々愛のスカート。顕になったのはところどころシースルー生地の、大人なランジェリー。褐色の肌と白いパンツのコントラストが眩しく、非常に艶かしい。
 幸次郎の鼻の血管は一瞬ではち切れ、鼻血が噴出した。
「え……あ……え……?」
 あまりのセクシーさに現実で起こっていることを頭が理解できず、ただ本能で興奮して鼻血だけ出す幸次郎。
「幸次郎、どうしたの……? 鼻痛いの……?」
 パンツを丸出しにされているにも関わらず、恋々愛は全く動じない。恋々愛から声を掛けられて、幸次郎ははっと気が付いた。
「こっ、古竜さん下着! 下着が見えてるッ!!」
 裏返った声で、幸次郎は叫んだ。
「……? この下着、ミルフィーユが買ってくれたの」
 全く見当違いなことを言いながら、恋々愛はえへへと笑う。
「おっ、お願いだから隠して! 僕が耐えられない!!」
 幸次郎の初心すぎる言動を見ていて、織江は笑いを堪えきれなかった。
(ヤバい……ぷぷっ……あの反応ウケるー!! どんだけ女子に免疫無いんだって! ていうか褌おっぱいちゃんもこっちはこっちでヤバい子だし! 何これ小学生の穿くパンツじゃないでしょー!)
 自身の左太腿にコピーされた恋々愛のパンツを眺めながら、織江はその刺激的なデザインにドン引いていた。
(いやー、凄いもん見た。さーて、次はどこ行くかなー?)
 とりあえず恋々愛のパンツは手に入れたので、次の獲物を求めて織江は振り返る。
 そこに差し込む影。織江の後ろに立っていたのは、ピンク色の髪をした長身巨乳の美女であった。
 その顔は笑っているように見えるが、妙に威圧感がある。心は笑っていないことを、織江は瞬時に理解した。
「あ、あなたは妖精騎士団の……」
 身の危険を感じた織江は咄嗟に例のポーズをとりミルフィーユのスカートを捲ろうとするが、スカートの下はレオタードであるため全く効かない。織江は後退りする。
「え、えーと……あのエッチなパンツ、あなたがあげたんですよね? 何と言うか、凄――」
 ミルフィーユのご機嫌を取ろうとする最中、織江は手首を掴まれ、次の瞬間視界の天地が逆転した。一瞬にして投げられ地面に背中をつく。一撃の下に解かれる変身。
「魔法を悪用して不埒な行為をする魔法少女がいると通報を受けて来てみれば……よりにもよって恋々愛に手を出すだなんて。あまりそういうことばかりしていると、失格になりますよ」
 笑顔の裏で威圧しながら、ミルフィーユは言う。
「どうもすいませんでしたっ! それだけはご勘弁を!」
 織江はバリアの中で全力土下座。この件を済ませたミルフィーユは、織江への返事もせずに恋々愛の方へと向かった。
「あ、ミルフィーユ」
 ミルフィーユの姿を見た途端、恋々愛は喜んで駆け寄る。
「恋々愛、これ」
 優しい口調で、ミルフィーユは恋々愛にスマートフォンを手渡す。
「貴方のスマホ、泥棒に盗まれてたのよ。またぼーっとしながら歩いてて気付かなかったんでしょう?」
 このスマートフォンは、先程ホーレンソーが取り返したものだ。持ち主を調べた後その担当であるミルフィーユに手渡し、ミルフィーユが自ら返却に赴いたわけである。
「ありがとう……」
 恋々愛は受け取ったスマートフォンを胸に抱きしめる。
「そちらのに貴方は鼻血が出ているわね」
 ミルフィーユは幸次郎の鼻に手をかざした。掌から放たれる光を浴びると鼻血はピタリと止まる。
「止血と共に輸血もしておいたわ。これで貧血になることはないでしょう」
 ただ手をかざすだけでそこまでやれる妖精界の治癒魔法に、幸次郎は驚愕していた。
「それじゃ恋々愛、私は仕事があるからこれで」
「うん、またねミルフィーユ」
 去ってゆくミルフィーユに、恋々愛は手を振った。
「無くしたスマホは担当の騎士が届けてくれるようになっていたんですね。よかったじゃないですか」
 恋々愛は振り返り、幸次郎と目を合わせる。
「幸次郎も、ありがとう……」
 目を合わせて微笑んでくる恋々愛に、幸次郎はたじろいだ。
「いえ、僕は何もできませんでしたから……それでは、僕もこれで……」
 これ以上恋々愛と一緒にいたら、心臓がいくつあっても足りない。だから幸次郎は逃げるように去ろうとする。
 しかし、恋々愛の手は幸次郎の手首を掴んだ。
「幸次郎と、一緒に行きたい……」
 幸次郎の体は固まり、心臓が高鳴る。恋々愛は更に追い討ちをかけるように、もう片方の手で包み込むように幸次郎の手を握る。
 まるで体が吹き飛んでバラバラになるような衝撃。幸次郎は全身から汗が噴出し、その場から一歩も動けなくなった。


 拳凰と花梨は、白い石造りの巨大かつ優美な建物の前に来ていた。
 数百年前のゾディア王国特有の建築様式で作られおり、独特のデザインは見る者の目を引く。
「うわぁ、おっきい……」
「こいつはすげーな。早速行こうぜチビ助」
 二人は期待に胸躍らせて博物館へと足を進める。古風な建築物に似合わぬ自動ドアが二人を出迎える。入ってすぐの場所に貼られた解説文には、建設当初からこの自動ドアはあったという。恐るべき妖精界の魔法テクノロジーである。
 エントランスホールには、第一回の優勝者であるアフリカの少女から前回の優勝者であるドイツの少女まで、魔法少女バトル歴代優勝者全員の肖像がずらりと並んでいた。
 二人は一つずつ肖像を見てゆく。初めて日本で開催されたのは室町時代のことで、その時の優勝者はくの一の少女だった。その後も江戸時代初期と中期、そして大正時代に開催されており、今回は五度目の日本大会であった。
 大正時代に行われた大会の優勝者は、着物に袴の女学生。頭に大きな赤いリボンを付け、手には日本刀を握っている。
 それぞれの肖像がそれぞれの国と時代を反映しており、見ているだけで遥かな時の流れを感じさせる。八百年分の歴史が、この一室に詰まっているのだ。
「ん? あれデっさんじゃねーか?」
 幾多の肖像の中から、ある一枚をじっと見つめる男が一人。最強の傭兵デスサイズである。
「何だ拳凰か」
「それ、デっさんの国の人か?」
 デスサイズの見ていた写真に写る少女は、デスサイズと同じ肌の色をしている。魔法少女に変身しているため髪の色は紫で、緑地のドレスに多くの花々が咲き乱れた衣装。手には先端に大きな花が付いた杖を持っていた。
「ああ、俺の妻だ」
「!?」
 衝撃の発言が飛び出して、二人に電撃が走る。
「マジかよ……」
「ああ、事前にビフテキから話を聞いてはいたが、実際に見ると驚くものだ」
 可愛い衣装に身を包んだ若き日の妻の姿に、デスサイズはどこか安らいだような表情をしていた。
「綺麗な方ですね」
 花梨は恐る恐るデスサイズに話しかけた。
「ああ、俺には勿体無いくらいのな」
「奥様は、どんな願い事をされたんですか?」
「自分達の国で起こっている戦争を止めて欲しい、とな」
 想像以上に重い話で、花梨は気まずそうな顔をした。
「当時木っ端の少年兵だった俺が何人敵を殺しても大局に影響は無かった。だがあいつは、ただの村娘でしかなかったあいつは、たった一人で戦局を変えちまったんだ。まったく大したものだよ」
「そういや世界史の先公が言ってたな。二十年くらい前の中東の戦争で、勝っていた方の国が突然撤退して終戦が宣言されたことがあるとか。それは魔法少女バトルの願いでそうなったわけか」
「俺はあの戦争で最前線に送られていたから、意味不明な撤退をしていく敵軍をこの目ではっきりと見ていた。長年ずっとそれを疑問に思っていたが、まさかそれがあいつのやったことだったとは……世界は狭いもんだと思ったよ」
 デスサイズは目を閉じる。あの日の出来事は、今でも鮮明に思い出せる。
「奥様とは、その頃から?」
「ああ、同じ村の出身でな、所謂幼馴染という奴だ」
「戦争を止めるために魔法少女バトルに参加するだなんて凄いですね……私、尊敬します」
「尤もあの年のあの国で開催された大会だ。優勝したのが誰であっても同じ願いが叶っていたであろうことは想像に難くないがな」
 デスサイズはそう言うと肖像に背を向け、東の展示室へと歩いていった。
「デっさんの奥さんねえ……意外っちゃ意外だが。まああのおっさんもいい大人だし、結婚してても不思議じゃねーか」
 デスサイズの背中を見送った後、拳凰は両手を頭の後ろに回して肖像に目を向けた。

 歴代優勝者の肖像を一通り見たところで、二人は東の展示室へと向かった。
 まず入った場所には、魔法少女バトル黎明期に関する物が展示されている。
 拳凰は以前にザルソバから聞かされていたが、魔法少女バトルの起こりは妖精界のエネルギー問題を解決するためのものだった。
 魔法少女バトルを始めた王や、魔法少女バトルによって魔力エネルギーを作り出せる理論を編み出した学者の肖像、そしてその学者の書き記したノート等を二人は見てゆく。
 魔法少女バトルを構成する技術体系は八百年前の時点で既に大部分が完成されており、当時の妖精達の発想と技術には目を丸くさせられる。
 そこから少し移動すると、魔法少女の身を守るシステムに関する展示があった。
 魔法少女はこの国に魔力の恵みを与えてくれる存在であり、尊ぶべきもの。バトルが終わったら無事に人間界に帰してやらねばならない。かつての王が取り決めたその精神は脈々と受け継がれ、飽くなき安全性の追求が成されてきた。
 そこから続くのは、変身アイテムのコーナー。現在では参加者が元々所持していたスマートフォンを変身アイテムとして使用しているが、過去には全員に変身アイテムを配布していた。ここには歴代の変身アイテムが全て展示されているのである。
「すっごい……魔法少女バトルって奥が深いんだね……」
 様々な展示に圧倒された花梨は、そんな声を漏らした。
「そうねー、私もびっくりしちゃった」
 明らかに拳凰の声ではない返事。花梨が振り返ると、そこにはミチルが立っていた。
「やっほー、さっきぶりー」
「あ、あなたは……」
「てめーさっきの痴女じゃねーか」
 短すぎるスカートから堂々とパンツを見せてくるスタイルで、ミチルは明るく手を振る。
「ねえねえ、このパンフレットによると、向こうに面白いものがあるみたいよ?」
 ミチルは妖しい笑顔で花梨にパンフレットを見せながら言う。
「へぇー、こんなのが……」
「どうしたチビ助。何だ面白いのって」
「ウフフ、秘密ー」
 ミチルが答える。彼女が明らかに何か企んでいる顔なのは言うまでもない。
「じゃ、早速行きましょ?」
 花梨の手を引き、早足で進むミチル。拳凰は何だかわからないまま二人の後をついていった。

 ミチルに連れられてやってきたのは魔法少女体験コーナーと銘打たれた、過去の有名な魔法少女の衣装を着て撮影ができるコーナーであった。
「見て見て! 面白そうでしょ!」
 ここでは魔法少女達の可愛らしい衣装を着られると同時に、人間界の文化にも触れられる。妖精界の女の子に大人気のスポットなのだ。
 沢山設置された魔法陣に、妖精の少女達は入って行く。魔法陣の中心に立つと、まるで立体映像のようにタッチパネルが空中に現れた。それを操作して衣装を選ぶと、少女の身体は光に包まれ衣装を身に纏う。
「私達もやってみましょうよ」
 ミチルは花梨の肩に手を置いて誘う。
「おう行ってこいよチビ助。俺はこっちで待ってるからよ」
 拳凰は見学者用スペースから言う。そこには他の体験者の親や連れの男性等がいるようだ。
「せっかくだから、一緒に撮りましょ」
 ミチルは花梨と手を引き、二人で同じ魔法陣に入る。一つの魔法陣につき定員は二人までとなっている。
 花梨はタッチパネルから色々と衣装を見てゆく。
(やっぱりナース服の魔法少女って前にもいたんだ。これって外国のナース服かな?)
 次々とページを捲って見てゆくと、先程エントランスホールの肖像にあった魔法少女の衣装も多くある。
(あっ、これ可愛い)
「待って」
 花梨が一つ気に入ったものを見つけて選ぼうとしたところで、ミチルが呼び止めた。
「どうせなら、セクシー衣装で彼を悩殺したいって思わない?」
 ねっとりとした口調で、耳元で囁くように言う。花梨はドキリとした。
「おっ、思わないこともないけど……そういうのは恥ずかしいから無理!」
 魔法少女の衣装というのは、どういうわけか露出度の高いものも多い。やはりそういったものを着るというのは、なかなか勇気がいるものである。
「でもみんな結構そういうの着てるよ?」
 ミチルは隣の魔法陣を見て言う。歳は花梨と同じくらいの少女が、スリングショット状の衣装を着て可愛くポーズを取っていた。
(ひゃあ~~~!!)
 公衆の面前でこんな格好をできるだなんて、花梨は見ているだけで顔が火照ってきた。
「彼、ああいうの好きそうでしょ?」
 まったくもって否定のできない言葉である。事実、向こうで見学している拳凰は露出度の高い衣装を着た娘の方ばかり見ている様子だった。
(やっぱり妖精界の子達って普段からレオタード着てるから、肌の露出に抵抗無いのかな……)
 ちらちらと周りを見るも、ビキニやらハイレグやら、露出度の高い衣装を平気で選ぶ娘は他にもいる。
「私の衣装もここにラインナップされないかしらー?」
 衣装選びの傍ら、ミチルはそんなことを呟く。
「私これにきーめた」
 一つ選んでOKボタンを押すと、ミチルの身体は光に包まれる。だがその時、突然ミチルは魔法陣の外にぴょんと跳び出た。
「あれ、どうかしたんですか?」
「こんなセクシーな私と一緒だとあなたが目立たなくなっちゃうと思って。この衣装はあなただけに着せたげる」
 唇に人差し指を当て、悪戯に微笑む。花梨の身体は光に包まれ、次の瞬間ミチルの選んだ衣装が着せられた。
 魚座のブローチを髪飾りにし、頭には青のカチューシャ。耳には巻貝のイヤリングを付け、両手首には真珠のブレスレット。それは人魚を思わせるような、貝殻ビキニの衣装であった。
「ひゃあああっ!!」
 花梨の悲鳴が上がる。その身を覆うものは三枚の貝殻のみ。最低限隠すべき場所しか隠せていない、幾多の魔法少女の中でもとりわけ露出度の高い格好である。
 花梨ははっとして拳凰の方を見た。拳凰は当然の如くこちらをガン見している。
「ケン兄はこっち見ちゃダメーーー!!!」
「せっかくだから後ろも見せてあげたら?」
 罠に嵌めたミチルはくすくす笑いながらそう持ちかける。
「絶対無理!!」
 花梨は両手を後ろに回してお尻を隠しながら言う。この衣装は前もさることながらより恐ろしいのは後ろの方である。その身を覆うものは前に付いた三枚の貝殻だけ。即ち後ろは全くの全裸。当然ながらお尻も丸出しなのである。
(もぉー、何でこんな衣装があるの!?)
 恥ずかしさのあまり花梨は目が回りそうになった。
『写真を撮影します』
 魔法陣からアナウンスの音声が流れる。そうである、これは単に衣装を着られるだけでなく写真撮影もするものなのだ。
「ちょ、ちょっと待って!」
 花梨は慌てて止めようとするも止め方がわからず。左手はお尻を隠したまま右手を伸ばした格好で、パシャリと撮影。生成された写真が魔法陣から出てくると、花梨の服は元の私服に戻った。
「はぁ……よかった……」
 ようやく恥ずかしい衣装から解放され、ほっと一息。だが出てきた写真を見て、また顔から火を吹いた。
(こ、こんな格好……)
 花梨は写真を裏向けて体に付けながら、拳凰の方へと歩いた。
「おうチビ助、その写真俺にも見せろよ」
「絶対ダメ!」
 写真を持つ手の力をより強め、拳凰に見せることを強く拒否する。
「おっ、やべーなあいつ」
 拳凰がそんなことを言い出したので、花梨は拳凰の視線の先を見た。
 ミチルが自分自身の衣装にも負けず劣らずの下半身を強調した超セクシー衣装を着て、ノリノリで撮影をしていた。
「うわぁ……」
 花梨の顔が引き攣る。拳凰はその隙に、ぱっと写真を奪い取った。
「うっわ、似合ってねーな。こういうのはもっと出るとこ出てる奴が着るもんだろ」
「あっ! 返してよケン兄!」
「よし、あの痴女がこっち見てない内に逃げようぜ」
 拳凰は写真をポケットに入れると、ミチルが撮影に夢中になっているのを好機とばかりに早足でこの場から去る。花梨も慌ててその後ろをついていった。
「待ってよケン兄! ていうか写真!」


<キャラクター紹介>
名前:愛野あいのらび
性別:女
学年:小六
身長:140
3サイズ:68-53-70(AAカップ)
髪色:茶
髪色(変身後):ピンク
星座:射手座
衣装:うさぎの着ぐるみ
武器:うさぎのぬいぐるみ
魔法:ぬいぐるみからニンジン型のミサイルを発射する
趣味:ぬいぐるみ集め
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