ヤンキーVS魔法少女

平良野アロウ

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第二章 最終予選編

第43話 ハンターVSハンター

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 サトゥガイ・コロッセオがこれまでに殺害した人間は、少女十三名と男性警官二名。彼にとって少女を殺すこととは即ち遊びであり、時にわざと逃がしたりもしながらじわじわと苦しめて殺すことを愉しんでいた。
 だが警官を殺すことはそれとは異なり、邪魔者の排除でしかない。その戦いには一切の遊びが無く、力の限りを尽くして迅速かつ確実に殺す。
 そして現在行われている拳凰との戦闘は、後者であった。少女を殺す愉しみを邪魔しに現れた拳凰を早く片付けて、再び遊びに戻りたい。今のコロッセオの頭の中には、そんな考えしか無かったのだ。
 一撃の下に首を刎ねようと、力いっぱい振りかざされた鉈が拳凰の首筋に迫る。拳凰は左の掌で鉈の側面を押し上げて軌道を変えると、体勢を低くしてどてっ腹に右ストレートをぶちかました。吹っ飛んですぐ起き上がりまた突撃してくるコロッセオに、拳凰はこちらも突っ込む。
 クロスカウンター気味に撃った右の拳が相手の頬を的確に抉りつつ、鉈の一撃は紙一重で避ける。更に左の拳でもう片方の頬にフックも入れる。
「あばああああああ」
 奇声を上げながら転がってゆくコロッセオ。だがその後すぐに立ち上がる。
「ちっ、このゾンビ野郎め。てめーミスターNAZOだな。最初に会った時から気持ちわりー奴だとは思ってたが、これほどとはな」
 何発殴っても一向に倒れないことに苛立ちを見せながら、拳凰は吐き捨てる。
「邪魔あ! 死ねえ!」
 勝ちを急ぐあまり大振りになるコロッセオ。拳凰はその隙を見逃さず、鉈が振り下ろされるより速くパンチを打った。

「つ、強いカニ……!」
「魔法少女を圧倒していたコロッセオを全く寄せ付けない。恐ろしいもんぜよ」
「おや、コロッセオの実力がこんなものだとお思いですか?」
 拳凰の強さに期待と注目が集まる中、カクテルはそれに水を差すように前に出た。
「この程度で倒されるような柔な改造はしていませんよ。コロッセオこそ最強のハンター。最強寺拳凰には彼のスプラッタ劇場の犠牲者になって頂きます」

 目にも留まらぬラッシュ。情け容赦無くひたすら殴る。だがそれでも、コロッセオを戦闘不能にするには至らない。
「あがああああああ!」
 殴られ続けながら、コロッセオは左手で拳凰の手首を掴んだ。続けて右手の鉈で、拳凰の腕を切り落とそうとする。
 拳凰は掴まれたまま腕の力だけでコロッセオを持ち上げ、地面に投げ伏せた。倒れ込んだコロッセオに、容赦の無いサッカーボールキック。
 拳凰にとって、強敵と戦うことは楽しみであった。だが今のコロッセオとの戦いは違う。怒りに燃えながらも冷静さを保ち、この非道な悪党を確実に叩きのめす。その一心が、この男をどこまでも駆り立てるのだ。
 ボロカスにやられたコロッセオはぎょろりと目を見開き、ボロボロの歯を剥き出しにして拳凰を威嚇する。
「殺す……殺す……僕は女の子を殺したいのに……邪魔者……殺す!」
 コロッセオの目が、突如として赤い光を放つ。コロッセオを中心に、空気が揺れた。何が起こったか警戒する拳凰の前で、コロッセオの体はボコボコと膨らみ肥大化を始める。肌の色が青紫に染まり、背丈は三メートル程の巨体に。鉈と融合した右腕は左腕と比べ倍近い大きさとなり、鉈の刃が変形してチェーンソーのような形状となる。
「こいつ……人間じゃねえ!」
 怪物へと変貌したコロッセオの姿を見て、拳凰はそう口走った。

 拳凰が戦っている最中、花梨は負傷者の治療を続ける。
「すみません恋々愛さん、まだ少なくとも一人、怪我をした人が残ってるはずです。アマゾネスっぽい格好をしてブーメランを持った人なんですけど、怪我をした状態でどこかへ逃げてしまって……」
 花梨は続けて、真紀が姿を消した場所の位置を伝える。それを聞いて恋々愛は頷き、ワープしようとした。
「待って、だったら私も一緒に!」
 そう言ったのは、既に完治した織江である。
「私の見つけた怪我人は、おむつ男に見つからないよう隠れてる子が多かったの。私、視力には自信があるから探すのは任せて!」
「……はい、お願いします!」
 この変態から強い協力の意思を見せられたことに花梨は驚いたが、すぐにそれを受け入れる。
「それじゃ頼むね褌おっぱいちゃん」
「うん……頑張る」
 恋々愛はそう言って織江を抱き抱える。
「うおっ、おっぱいの感触凄っ!!」
 半裸の魔法少女同士、肌が直に密着する。豊満な胸の感触を背中に受けて、織江はシリアスな空気をぶち壊すように興奮した。
(だ、大丈夫かな……?)
 不安がる花梨を他所に、二人は姿を消す。
「大丈夫ですよ。織江さんは変な人ですが、悪い人ではありませんから……多分」
 蓮華の微妙なフォローが、ますます花梨を不安にさせた。

 花梨の言った場所にワープした恋々愛と織江は、早速真紀の捜索を始める。
「エロパンナースちゃんの話によればこの辺りで行方不明になったらしいけど……それから結構時間経ってるし、もっと遠くに移動してるかも」
「どうするの……?」
「フフン、私に任せなさい!」
 自信満々に言う織江は、何を思ったか下ばかり見ている。
「あっ、見てこの足跡」
 地面の土についた足跡を指差して、織江は言う。
「ここで戦ってたみたいね。一番小さい足跡はさっき見たエロパンナースちゃんの靴の形と一致するわ。一番大きな裸足の足跡は多分おむつ男。消去法で残ったこの足跡が目星の子よ」
 織江の推理に、恋々愛はぽかんとしていた。
「この足跡を追っていけば居場所が掴めるかも」
「……わかった」
 恋々愛は織江を抱え、足跡の続く先へワープを繰り返していった。
 そうして追っていったところで、足跡は一本の樹の目の前で途切れている。
「この樹の上にいる!」
 織江が見上げた瞬間、突如樹の上からブーメランが飛んできた。織江に当たる寸前、恋々愛が斧でそれを弾く。
「ま、待って! 私達は敵じゃないわ! 君を助けに来たの!」
 織江は両腕を広げて攻撃の意思が無いことを示すが、真紀は弁明を聞こうともせずブーメランを再び投げようとする。
「させるか!」
 ブーメランを投げられるより早く、織江は広げていた腕を素早く胸の前に戻して合わせる。パンと音が鳴った直後、目にも留まらぬ速さで「つー、まる、みえ」とポーズを切り替えてゆく。
「なっ!?」
 樹上の真紀はスカートを捲り上げられた状態で落ちてきた。それを恋々愛がキャッチ。
「ほう、ピンクの豹柄。なかなかいい趣味してるねえ」
「な、何なのあんた達……」
「さっきも言ったでしょ、君を助けに来たって」
 何だか解らず呆然としている真紀を、恋々愛が下ろす。
「それじゃ褌おっぱいちゃん、エロパンナースちゃんとこに戻ろっか。あれ? どうかしたの?」
 恋々愛が明後日の方向を見ていることに気付き、織江は尋ねる。織江が恋々愛の視線の先に目を凝らすと、何かが飛んでくるのが見えた。織江が視認するよりも先に気配でそれを察知していた恋々愛は、斧を手に身構える。
「ひいっ!? 何あれ!?」
 真紀は驚いて悲鳴を上げる。こちらに飛んできたもの、それは蝙蝠の大群であった。
 蝙蝠達は恋々愛の前で寄り集まり、人の形を作る。
「あの子アイドルの……高橋麗子!?」
 蝙蝠の中から出てきたのがテレビでよく知る顔であることに、真紀はますます驚いた。
 高橋麗子は芸名。本名は小鳥遊麗羅という。麗羅は背筋をピンと伸ばした姿勢で、恋々愛の顔を見る。
「やっと見つけたわよ、古竜恋々愛。貴方に勝つために、私はすっごく特訓したんだから! さあ、勝負よ!」
 麗羅がそう言った途端、突如麗羅のスパッツがずり落ちて白地に青い水玉のパンツが顕になった。
「んなっ!?」
 突然の出来事に声を上げる麗羅。このめんどくさそうな相手を退けるため、織江が魔法を使ったのだ。
「ア、アイドルのパンツは聖域だから! 見えちゃいけないものだからー!」
 先程までの強気さはどこかに吹っ飛び、慌てふためきながら片手でパンツを隠し、もう片方の手でスパッツを上げようとする。だが当然片手だけでパンツ全部を隠すことはできず、織江の魔法にかけられている以上スパッツは上がらない。
 織江は麗羅のパンツを頭に移して体の支配権を得ると、必死に念を送って麗羅の動きを封じた。
「この子魔力超高い! 私の魔法もそう長くはもたないよ! 貴重なアイドルのパンツをもっと見ていたいのはやまやまだけど……今のうちに逃げよう!」
 恋々愛に指示を出すが、不思議と恋々愛はワープしようとしない。
「ど、どうしたの!?」
 恋々愛は麗羅に歩み寄った。
「あなたに……お願いがあるの」
 突然そんなことを言われ、麗羅は首を傾げた。

 一方その頃、花梨は順調に治療を進めていた。
「はい、終わりました」
「ありがとうございます」
 全員同時に自動治癒を行いつつ、怪我の重い者から順番に手動での治療も併用してゆく。織江を含め三人目の治療が終わり、残る患者は二人である。
「それにしてもまさかこんなことになるだなんて……絶対安全って言ってたのに」
「花梨ちゃんがいなかったらどうなってたことかだよね」
 これだけライバルが集まっているにも関わらず戦う気は起きず、雑談を始める魔法少女達。このバトルロイヤルにおいて、異様な空間ともいえる状態であった。
「あ、戻ってきた」
 夏樹が言う。恋々愛と織江が、真紀と麗羅を連れて姿を現したのだ。
「例の子見つかったよ!」
 織江が言う。真紀は花梨の顔を見るなり、気まずそうな表情をした。
「あ、あはは……ごめん、さっきは逃げちゃって……」
「いえ、気にしないでください。それより早く治療をしないと……ところでそちらの方は?」
「すっごく頼れる助っ人を連れてきたの!」
 織江がそう紹介すると、麗羅は前に出る。
「今、私の召喚した蝙蝠を森中に飛ばして超音波で怪我人を探させてるわ。これなら遠くに逃げた子や隠れている子も余さず見つけられるわよ」
「本当ですか!?」
「ええ。あっ、今一人見つかったみたい」
 麗羅は掌から蝙蝠を一匹出し、それを恋々愛の肩に乗せる。
「恋々愛、この子の案内する場所にワープしてくれるかしら。そこに怪我人がいるから」
 恋々愛は頷き、すぐにワープで姿を消した。
「す、凄い……」
 その手際の良さに、花梨は感銘の声を漏らした。
「あの、高橋麗子さんですよね!」
 と、そこで先程花梨の治療を受けた魔法少女の一人が花梨の前に出て麗羅に話しかける。
「私ファンなんです! 握手してください!」
「ええ、どうぞ」
 麗羅はそれを快く受け入れ、少女に手を差し出した。
「高橋麗子がこのバトルに参加してるって風の噂では聞いてたけど、本当だったんだ」
「私本物の芸能人初めて見た……」
 他の魔法少女達も、意外な場所で意外な場所で意外な人物に会ったことを驚いていた。
「やっぱり本物は可愛いなー。まさに貧乳の星! おっぱい無くてもアイドルになれるという全貧乳女子の希望!」
 麗羅のファンの魔法少女は、握手をしながら目を輝かせてそう語る。彼女の胸も、麗羅と同じく非常に残念なサイズであった。麗羅は複雑そうな顔で苦笑い。
 花梨も不意に顔を下向け、自分の胸を見る。
(私は貧乳のままよりもっと育ちたいな……)
 目指すは拳凰好みのグラマーボディである。
(そういえばケン兄は大丈夫かな……ケン兄ならおむつ男くらい倒せると思うけど……)
 ふと花梨の脳裏に、拳凰がハンバーグに完敗した時の光景がフラッシュバックする。
(ケン兄、どうか無事でいて……)

 花梨に心配される拳凰は、実際にピンチに陥っていた。
 森の木々をも薙ぎ倒すチェーンソーの攻撃は、避けるのが精一杯。かつて拳凰は鋼のドリルを拳で砕いたこともあったが、それとは大きさが違いすぎる。
 元より体格に恵まれた拳凰は自分より大きな相手と戦う機会はさほど多くない。ましてやこんな人間の体躯を超えた怪物と戦った経験など一切無い。拳凰の戦闘技術は、人間サイズの相手と戦うことを前提としたものなのだ。
(いつもの俺ならワクワクでもしてただろうが……今は怒りしか湧いてこねえ)
 相手の猛攻に手も足も出ず防戦一方ながら、拳凰は虎視眈々と反撃の隙を窺う。
 怪物化したコロッセオは獣のような雄叫びを上げながら、巨大チェーンソーをでたらめに振り回し拳凰をミンチに変えようとする。鉈ならば手捌きで何とでもなったが、あんなものに触れたら一瞬でお陀仏である。
 チェーンソーが強く地面に叩きつけられた瞬間に、拳凰は砂煙に紛れて相手の胴体とチェーンソーの間に入り込む。そして尾部津にやったように、股間を思いっきり蹴り上げた。怪物でも急所は急所、そう読んでの攻撃だった。
 直後、コロッセオの赤く光る目が拳凰の方を向く。痛がっている様子はない。
(き、効かねえ!)
 そう思った瞬間、コロッセオの巨大な足が拳凰の腹を抉った。足下のゴミを蹴るように、拳凰を蹴飛ばしたのだ。飛ばされる先には、砂粒を巻き上げながらギュルギュルと音を立て回転するチェーンソー。拳凰が振り返った時、既に遅し。回転する刃が、拳凰の背中に触れた。


<キャラクター紹介>
名前:星野ほしの空絵そらえ
性別:女
学年:中一
身長:153
3サイズ:78-56-80(Bカップ)
髪色:黒
髪色(変身後):紺
星座:水瓶座
衣装:ストリートダンサー風
武器:ヨーヨー
魔法:ヨーヨーを自在に操る
趣味:玩具集め
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