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第二章 最終予選編
第38話 チートの代償
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ユニコーンの森内の一角で、六人の魔法少女によるバトルが繰り広げられていた。それも四人組のチームと二人組のチームによる対決である。
四人組のチームは、開会式で花梨の近くでハンター達で誰が好みか話していたあの四人組である。
二人組の魔法少女の片方が放った魔力弾を、ポニーテールにウェイトレス衣装の魔法少女、向井舞が刀で真っ二つにする。
「どうだい、あたしのこの刀。こいつで斬ったものは魔法効果を無力化されるんだ」
驚いている二人組に、舞はしたり顔で自分の魔法を説明する。
魔力弾が効かないと解った二人組の片方はもう片方に声で作戦を伝えようとするも、何故かもう片方は何も聞こえてないかのようなそぶり。
「ムダだよー。あたしの魔法は指定した音を消せるんだ」
背後から音も無く忍び寄った後耳元で囁いたのは、暗殺者風のピッチリした黒い衣装に身を包んだボブカットの魔法少女、山野清美である。
「残念だけど、あんたの声は相棒には届かないよー」
ナイフの一突きで相手を仕留める姿は、まさに暗殺者そのものであった。
一方でもう一人もまた、ミニスカ婦警の衣装を着たショートヘアの魔法少女、久世悠里の操る巨大な手錠を胴体に填められて動きを封じられていた。
更にそこからとどめを刺すのは、エキゾチックな踊り子風ビキニを身に纏った、ロリ巨乳体型でショートツインテールの魔法少女、天城沙希である。
「そんじゃ、とどめ行っくよー!」
沙希は両手に一つずつ持った円月輪を投げる。この円月輪を体の一部のように自在に操ることが沙希の魔法であった。回避不能の連続攻撃で、相手の魔法少女は為すすべなく倒される。
「やったね! また勝利!」
二人組を倒し、四人組は勝利のハイタッチ。
「やっぱ最強じゃん、うちらのコンビネーション」
「だよねー」
そんなことを言いながら、四人組は移動を始めた。
「この段階でチームを組んでいるとは、本戦では有利になりそうぜよな」
システムルームで、ミソシルがザルソバにそう話しかける。
「彼女達は中学二年生の幼馴染四人組ですね。天城沙希が円月輪を上空に飛ばして仲間に位置を知らせ、早々に合流。以降四人で行動を共にしています」
「同じくチーム組んでたホーレンソー親衛隊は戦う相手を誤って即行で脱落した的なー」
「最終予選はバトルロイヤルですからね。そういうこともあります」
ミソシルやポタージュが四人組のバトルを見ている間、ハンバーグが注目するのはやはり拳凰である。
「あのアホ、空飛んでやがる」
蘭の横槍によって空高く打ち上げられた拳凰は、まだ上空にいた。狭い結界内での試合となる二次予選では、ジャンプ台に打ち上げられた相手は上部の結界に叩きつけられる。だが広いフィールドで行われる最終予選では、どこまでも飛んでゆくのだ。だからこそ今回のルールにおいてこの魔法は、ハンターのような邪魔なだけの相手を少ない労力で排除できる手段になるのである。これまでは魔法少女同士のバトルに乱入していた拳凰だったが、今回は自分が乱入される側にもなり得るのだ。
暫く飛んでいた拳凰だったが、やがて上昇を終えて下降を始める。
(マズいな……この高さから落ちたらケガじゃ済まねーぞ)
ただ一人バリアの恩恵を受けられない拳凰にとって、この状況は絶体絶命であった、
とりあえず拳凰は手足を大きく振って体を回転させ、上昇気流を起こし落下速度を落とす。そして落下地点にあった木の枝に足を引っ掛けると、一回転して幹に足をつける。その勢いで木は根元からへし折れ、地面に着くとクッションの役割を果たし拳凰への衝撃を吸収した。
(ふー、危機一髪だったな)
無事着地に成功した拳凰は、腕で汗を拭う。
(さて、どっちに行くかね……)
先程寿々菜と戦っていた場所からは随分遠くに飛ばされてしまった。ここから寿々菜の所に戻ってバトルを再開するか、或いは別の魔法少女と戦うか。
と、その時拳凰は近くで戦っている音を聞いた。
(あっちに行ってみるか)
戦いの匂いには目ざとい拳凰である。迷っていても埒が明かないので、とりあえずそちらの方向に行ってみることにした。
恋々愛と対峙する幸次郎は、剣を握る手が震えていた。
恐怖にではない。恋々愛があまりに性的すぎるからだ。
(お、おおお落ち着け。平常心、平常心……明鏡止水の心を!)
幸次郎は一度目を閉じ、全ての視界をリセット。勿論、恋々愛はそんな隙だらけの状況を黙って見てはいない。斧を地面に刺すと、すかさず幸次郎に掴みかかる。
次の瞬間、カッと目を見開いた幸次郎が、光の如き一閃。いきなりHPを削られ、恋々愛はぽかんと口を開いた。
あまりに速い剣捌きに、システムルームの妖精騎士達も驚愕する。
幸次郎は更にそこから二撃目、三撃目と畳みかける。だが四撃目は、黄金の腕輪によって防がれた。
「私……負けない」
四つのリングが割れて外れ、恋々愛の姿が消える。斧の側に瞬間移動すると、斧の柄を持って構えた。
「もう封印を解きやがった。ここからが古竜恋々愛の本領発揮か……」
「こうなればもう勝ったも同然カニな」
騎士団内でも幸次郎がここで脱落することは確定事項のように語られ出すが、恋々愛の担当であるミルフィーユは不思議とあまりいい顔をしていなかった。
「どうかしましたかミルフィーユさん?」
カクテルがミルフィーユの顔を覗き込むようにして言う。
「……いえ、何でもないわ」
不安がるミルフィーユを見るカクテルは、愉快なものでも見ているかのような表情をしていた。
縦横無尽の連続ワープで四方八方から攻撃を仕掛ける恋々愛に対し、幸次郎は鉄壁防御のオーブで一つずつ的確に防いでゆく。
(ワープの魔法……厄介な相手だ。でも僕だって、オーブ操作をより鍛えたんだ!)
重たい斧の一撃を受けても三色のオーブはびくともせず、まるで空中に浮かんだまま固定されているようである。このオーブがある限り、幸次郎にはなかなか攻撃が通らない。恋々愛は一旦少し離れた位置にワープし、様子を見ることとした。
(攻撃が止んだ……)
お互い構えた状態で、一触即発の空気。先に動いたのは幸次郎である。三つの中から黄色いオーブを選んで柄の窪みに収める。
(相手がワープできる以上、こちらの攻撃を当てるのは難しい。ならばどこにワープしても避けられない攻撃をするまで!)
天を突くように雷の剣を掲げ、辺り一帯に網目のように電撃を放つ。恋々愛はキョロキョロと周囲を見回した。とりあえずワープをしてみるも、出現した先で電撃を背中に浴びる。
「っ……!」
バチッと痺れて、恋々愛は目を瞑る。当たった場所から煙が出た。そう、どこにワープしても電撃の餌食。最早これは雷の檻であった。
「おや、随分と痛そうですね」
核心を突いたような表情で、カクテルが言う。
「ザルソバさん、今の攻撃で古竜恋々愛のHPは減っていますか?」
カクテルからあまりにも意図の解らない質問をされ、ザルソバは首を傾げる。彼女がダメージを受けているのは明白であり、HPが減っていないはずがないからだ。
「何故そんなことを尋ねるのかわかりませんが……データを表示します。ん? これは……!」
疑問を抱きながらも従うザルソバだったが、出てきたデータを見て驚愕。
小さな画面に表示された恋々愛のHPMPデータ。それには先程リングを外す前の一太刀でHPが減ったことは記録されていたが、電撃を受けたことでは微塵もHPが減っていなかったのである。
「どういうことだ? 電撃の方がより痛がってたよな?」
「痛がってたのは演技的な?」
「いえ、そうではありませんよ。あれを見てください」
モニターに映された恋々愛の後ろ姿を、カクテルは指差す。
「むっちりぷりんぷりんのでっかいお尻的なー?」
ポタージュがそう言うと、一人朝香の監視に専念していたホーレンソーがピクリと反応した。
いくら小学生に見えないとはいえ、仮にも小学生にこんな殆どお尻丸出しのTバック衣装を着せるのは犯罪的である。
「いえ、そこではなく、背中の右上辺りを注目してください」
カクテルは冷静に返す。背中の右上、即ち先程電撃に当たった場所である。
「何も無えぞ」
ハンバーグが言う。カクテルは慌てて見直すが、何一つおかしい所は無い綺麗な肌のままであった。
(馬鹿な……先程見た時は火傷していたはず。これはビフテキさんの仕業ですねえ。相変わらず捏造や隠蔽には都合のいい魔法です)
カクテルは目を細めてビフテキを見る。
「……ああ、どうやら私の思い過ごしだったようです。よく見ればHPもちゃんと減っていますね」
白々しくそう言うと、カクテルはミルフィーユに顔を近づけた。ザルソバが眼鏡の奥で睨む。
「チートの代償とでも言ったところですか? 知りませんでしたよ、貴方が私と同じ趣向でしたとは」
不気味な笑顔と共に、耳元でそっと囁く。
「あんな裸同然の格好、傷つけてくださいと言っているようなものではありませんか。クックック、楽しみですねえ、彼女が内臓ブチ撒ける姿が」
一瞬空気が揺らいだ。ミルフィーユが静かに怒ったことを、その場にいた誰もが理解した。本人は冷静を装い微動だにしないものの、怒髪点を突くほどの怒りが、空気を通じてピリピリと感じるのだ。
「カクテル、何を言ったか知らぬが、騎士団内での揉め事はやめてもらえぬか」
ムニエルが注意したところで、カクテルは呆れたようなポーズをとる。
「仕方がありませんねえ、ムニエル様にお叱りを受けては引き下がるしかありません。ああ、怖い怖い」
そう言ってカクテルは自分の席に腰掛けた。
怒りを静めたミルフィーユは、画面の向こうの恋々愛をじっと見ながら、人間界で恋々愛と最後に過ごした日のことを思い出していた。
ミルフィーユと恋々愛の住むマンションの一室。二人は正座で向き合い、最終予選に向けての話をしていた。
「いいかしら恋々愛、貴方は封印を解けば強力な魔法を使えるけど、その代償としてHPとバリアの恩恵を受けられなくなるの。それは貴方の体を危険に晒す行為。あくまで切り札として扱い、乱用はしないこと。いいわね」
ミルフィーユの忠告に、恋々愛は黙って頷く。
「でもここからは相手も強くなって、封印を解かざるを得なくなることも増えるでしょう。それにワープによる回避の通じない攻撃をされることも……貴方の体を極力傷つけないために、これからは私の教えた格闘術はリングを付けている時に使い、封印を解いたら斧のリーチを活かして相手から適切な距離をとって戦うことにしなさい。捨て身の戦法は厳禁。いいわね」
恋々愛はまた黙って頷く。
「貴方を危険に晒さなければならないのは私もとても辛いわ。胸が締め付けられる思い……貴方だって本当は辛いでしょう、自分だけ他の魔法少女のように安全が保障されていないのは」
恋々愛は黙ったまま首を横に振る。
「……強い子ね。ええ、貴方なら優勝できると信じているわ。だって貴方は今大会で最も高い魔力を持つ、最強の魔法少女だもの。だけどくれぐれも、体が傷つくことにだけには気をつけて……」
封印を解いた恋々愛は、ミルフィーユの忠告通り斧を使って戦っていた。だがこの雷の檻を展開されてはワープの魔法も活かせず、体が傷つくデメリットばかりが目立つ。しかも金属製の刃を有する斧は電気を引き寄せ、体を守るためリングを付けたとしても黄金のリングがこれまた電気を引き寄せる。まさに万事休すの状態であった。
そこで恋々愛は、何を思ったか畑を耕すように斧を地面に思いっきり叩きつけた。
「何!?」
突然の奇行に、幸次郎は目を丸くした。舞い上がった土煙が、電気の流れを遮った。だがこの中では恋々愛自身もワープすることはできない。恋々愛は斧を投げ捨てると、自ら走って幸次郎に突っ込む。電撃の被害を最小限に抑えるならば、裸一貫での格闘戦が最適と判断したからだ。
「させるか!」
二つのオーブが恋々愛の前に立ちはだかり、幸次郎の盾となる。だが恋々愛は両手で一つずつオーブを掴むと、それを支点に跳び上がって鉄棒競技のように空中一回転。幸次郎の頭上からヒップアタックを喰らわせた。
「がはっ!?」
不意を突かれた幸次郎は仰向けに倒れこみ膝をつく。恋々愛は更にそこからワープし、幸次郎の前から姿を眩ます。
「ど、どこに消えた!?」
恋々愛は土煙の中に出現できないことを、幸次郎は知らない。恋々愛は少し離れた位置の土煙が薄い場所にワープした。
幸次郎はサンダーオーブからフリーズオーブに換装する。剣の一振りで吹雪を起こし、土煙を吹き飛ばす。
「そこにいたか!」
氷の剣を振ると、その先にある恋々愛の立つ場所に氷柱が出現。だが恋々愛は既にワープを完了しており、その攻撃は当たらない。
「そこだ!」
再び恋々愛の位置に剣を振る幸次郎。だが振り切る寸前に切り返し、別の場所に氷柱を出す。奇しくもその場所に、氷柱が現れる寸前に恋々愛がワープしてきた。そして恋々愛の身は、氷柱に閉じ込められたのである。剣士としての直感が、恋々愛の出現地点を先読みしたのだ。
「これでとどめだ!」
サンダーオーブに換装し剣先を天に向けると、再び雷の檻が辺り一帯に張り巡らされた。たとえ恋々愛がその腕力で氷柱を砕いても、これでは逃げ場がない。
「雷牙氷砕突!」
稲妻が迸る剣先を真っ直ぐ恋々愛に向けて、ダッシュでミサイルの如く突貫。身動きのとれない恋々愛にとどめの一撃を喰らわせようとする。
だがその時、氷柱の中から恋々愛の姿が消えた。彼女の魔法の前にはどんな拘束も無力なのである。
恋々愛の現れた場所は――幸次郎の目の前。二つのオーブの防御圏内であり雷の檻から狙われることもないこの場所こそ、最大の安全地帯。だが幸次郎は走っている。当然幸次郎は恋々愛に体当たりをかますこととなり、幸か不幸か幸次郎の頭部は、丁度恋々愛の胸に当たる位置にあった。
顔面から恋々愛の胸に突っ込み、豊満なバストに顔を埋める幸次郎。温かな柔肌の感触。恋々愛の格好は裸同然のため、肌と肌が直接触れ合った。
「!? !?!?!?」
顔を埋めたまま、幸次郎は声にならない叫びを上げる。あまりにも衝撃的な出来事に、明鏡止水の心で収めていた男の本能が再び湧き上がってきた。普段だったら鼻血を噴き出しそうなものだが、HPMPシステムの影響下では出血することはない。
恋々愛はすぐさま幸次郎の手首を掴み、剣を手放させる。そして今度は幸次郎諸共上空へとワープした。
「う、うわああああああ!」
顔を上げたら空中にいたことに、幸次郎は悲鳴を上げる。恋々愛は幸次郎の体をぶん回す。何も障害物のない空中で、幸次郎はいいように弄ばれる。そうして勢いがついたところで、幸次郎は地上へとぶん投げられた。地面に全身を打ちつけ、呻き声が上がる。
恋々愛は素早く地上にワープして斧を手にした後、倒れている幸次郎のすぐ上へとワープ。上から斧を突き刺してとどめを刺した。
バリアに包まれる幸次郎。恋々愛はその横でリングを拾い、両手首と両足首に装着した。
「つ、強い……そして、柔らかい……」
意識が朦朧としているのか、幸次郎は思わずそんなことを口走った。
「勝ちましたね、古竜恋々愛」
カクテルがミルフィーユに言う。だがミルフィーユの表情は優れない。
(あの子ったら私の忠告を守らないで……)
ミルフィーユが怒っているのはそれである。軽い気持ちで簡単に封印を解いてしまう上に、封印を解いた状態で格闘戦。幸次郎の突進を体で受け止めたことに至っては、一歩間違えれば剣が身を貫いていた。無論そんなことになれば恋々愛の生命が危機に及ぶのは言うまでも無く、刺した幸次郎にも耐え難いトラウマを与えてしまうことだろう。
(あくまで勝つために、私の忠告を破った。本当の母親に会いたいという思いは、それほどにまで強いのね……)
ミルフィーユの胸が痛む。恋々愛は願いのためならば自分の身を危険に晒すことに何の躊躇もない。そしてその戦いに恋々愛を引き込んだのはミルフィーユである。二人の思いは、静かにすれ違い始めていた。
<キャラクター紹介>
名前:赤木留美奈
性別:女
学年:高一
身長:159
3サイズ:85-61-84(Bカップ)
髪色:茶
髪色(変身後):金に赤メッシュ
星座:魚座
衣装:薔薇をイメージしたドレス
武器:茨の鞭
魔法:鞭の棘から毒を注入できる
趣味:ソーシャルゲーム
四人組のチームは、開会式で花梨の近くでハンター達で誰が好みか話していたあの四人組である。
二人組の魔法少女の片方が放った魔力弾を、ポニーテールにウェイトレス衣装の魔法少女、向井舞が刀で真っ二つにする。
「どうだい、あたしのこの刀。こいつで斬ったものは魔法効果を無力化されるんだ」
驚いている二人組に、舞はしたり顔で自分の魔法を説明する。
魔力弾が効かないと解った二人組の片方はもう片方に声で作戦を伝えようとするも、何故かもう片方は何も聞こえてないかのようなそぶり。
「ムダだよー。あたしの魔法は指定した音を消せるんだ」
背後から音も無く忍び寄った後耳元で囁いたのは、暗殺者風のピッチリした黒い衣装に身を包んだボブカットの魔法少女、山野清美である。
「残念だけど、あんたの声は相棒には届かないよー」
ナイフの一突きで相手を仕留める姿は、まさに暗殺者そのものであった。
一方でもう一人もまた、ミニスカ婦警の衣装を着たショートヘアの魔法少女、久世悠里の操る巨大な手錠を胴体に填められて動きを封じられていた。
更にそこからとどめを刺すのは、エキゾチックな踊り子風ビキニを身に纏った、ロリ巨乳体型でショートツインテールの魔法少女、天城沙希である。
「そんじゃ、とどめ行っくよー!」
沙希は両手に一つずつ持った円月輪を投げる。この円月輪を体の一部のように自在に操ることが沙希の魔法であった。回避不能の連続攻撃で、相手の魔法少女は為すすべなく倒される。
「やったね! また勝利!」
二人組を倒し、四人組は勝利のハイタッチ。
「やっぱ最強じゃん、うちらのコンビネーション」
「だよねー」
そんなことを言いながら、四人組は移動を始めた。
「この段階でチームを組んでいるとは、本戦では有利になりそうぜよな」
システムルームで、ミソシルがザルソバにそう話しかける。
「彼女達は中学二年生の幼馴染四人組ですね。天城沙希が円月輪を上空に飛ばして仲間に位置を知らせ、早々に合流。以降四人で行動を共にしています」
「同じくチーム組んでたホーレンソー親衛隊は戦う相手を誤って即行で脱落した的なー」
「最終予選はバトルロイヤルですからね。そういうこともあります」
ミソシルやポタージュが四人組のバトルを見ている間、ハンバーグが注目するのはやはり拳凰である。
「あのアホ、空飛んでやがる」
蘭の横槍によって空高く打ち上げられた拳凰は、まだ上空にいた。狭い結界内での試合となる二次予選では、ジャンプ台に打ち上げられた相手は上部の結界に叩きつけられる。だが広いフィールドで行われる最終予選では、どこまでも飛んでゆくのだ。だからこそ今回のルールにおいてこの魔法は、ハンターのような邪魔なだけの相手を少ない労力で排除できる手段になるのである。これまでは魔法少女同士のバトルに乱入していた拳凰だったが、今回は自分が乱入される側にもなり得るのだ。
暫く飛んでいた拳凰だったが、やがて上昇を終えて下降を始める。
(マズいな……この高さから落ちたらケガじゃ済まねーぞ)
ただ一人バリアの恩恵を受けられない拳凰にとって、この状況は絶体絶命であった、
とりあえず拳凰は手足を大きく振って体を回転させ、上昇気流を起こし落下速度を落とす。そして落下地点にあった木の枝に足を引っ掛けると、一回転して幹に足をつける。その勢いで木は根元からへし折れ、地面に着くとクッションの役割を果たし拳凰への衝撃を吸収した。
(ふー、危機一髪だったな)
無事着地に成功した拳凰は、腕で汗を拭う。
(さて、どっちに行くかね……)
先程寿々菜と戦っていた場所からは随分遠くに飛ばされてしまった。ここから寿々菜の所に戻ってバトルを再開するか、或いは別の魔法少女と戦うか。
と、その時拳凰は近くで戦っている音を聞いた。
(あっちに行ってみるか)
戦いの匂いには目ざとい拳凰である。迷っていても埒が明かないので、とりあえずそちらの方向に行ってみることにした。
恋々愛と対峙する幸次郎は、剣を握る手が震えていた。
恐怖にではない。恋々愛があまりに性的すぎるからだ。
(お、おおお落ち着け。平常心、平常心……明鏡止水の心を!)
幸次郎は一度目を閉じ、全ての視界をリセット。勿論、恋々愛はそんな隙だらけの状況を黙って見てはいない。斧を地面に刺すと、すかさず幸次郎に掴みかかる。
次の瞬間、カッと目を見開いた幸次郎が、光の如き一閃。いきなりHPを削られ、恋々愛はぽかんと口を開いた。
あまりに速い剣捌きに、システムルームの妖精騎士達も驚愕する。
幸次郎は更にそこから二撃目、三撃目と畳みかける。だが四撃目は、黄金の腕輪によって防がれた。
「私……負けない」
四つのリングが割れて外れ、恋々愛の姿が消える。斧の側に瞬間移動すると、斧の柄を持って構えた。
「もう封印を解きやがった。ここからが古竜恋々愛の本領発揮か……」
「こうなればもう勝ったも同然カニな」
騎士団内でも幸次郎がここで脱落することは確定事項のように語られ出すが、恋々愛の担当であるミルフィーユは不思議とあまりいい顔をしていなかった。
「どうかしましたかミルフィーユさん?」
カクテルがミルフィーユの顔を覗き込むようにして言う。
「……いえ、何でもないわ」
不安がるミルフィーユを見るカクテルは、愉快なものでも見ているかのような表情をしていた。
縦横無尽の連続ワープで四方八方から攻撃を仕掛ける恋々愛に対し、幸次郎は鉄壁防御のオーブで一つずつ的確に防いでゆく。
(ワープの魔法……厄介な相手だ。でも僕だって、オーブ操作をより鍛えたんだ!)
重たい斧の一撃を受けても三色のオーブはびくともせず、まるで空中に浮かんだまま固定されているようである。このオーブがある限り、幸次郎にはなかなか攻撃が通らない。恋々愛は一旦少し離れた位置にワープし、様子を見ることとした。
(攻撃が止んだ……)
お互い構えた状態で、一触即発の空気。先に動いたのは幸次郎である。三つの中から黄色いオーブを選んで柄の窪みに収める。
(相手がワープできる以上、こちらの攻撃を当てるのは難しい。ならばどこにワープしても避けられない攻撃をするまで!)
天を突くように雷の剣を掲げ、辺り一帯に網目のように電撃を放つ。恋々愛はキョロキョロと周囲を見回した。とりあえずワープをしてみるも、出現した先で電撃を背中に浴びる。
「っ……!」
バチッと痺れて、恋々愛は目を瞑る。当たった場所から煙が出た。そう、どこにワープしても電撃の餌食。最早これは雷の檻であった。
「おや、随分と痛そうですね」
核心を突いたような表情で、カクテルが言う。
「ザルソバさん、今の攻撃で古竜恋々愛のHPは減っていますか?」
カクテルからあまりにも意図の解らない質問をされ、ザルソバは首を傾げる。彼女がダメージを受けているのは明白であり、HPが減っていないはずがないからだ。
「何故そんなことを尋ねるのかわかりませんが……データを表示します。ん? これは……!」
疑問を抱きながらも従うザルソバだったが、出てきたデータを見て驚愕。
小さな画面に表示された恋々愛のHPMPデータ。それには先程リングを外す前の一太刀でHPが減ったことは記録されていたが、電撃を受けたことでは微塵もHPが減っていなかったのである。
「どういうことだ? 電撃の方がより痛がってたよな?」
「痛がってたのは演技的な?」
「いえ、そうではありませんよ。あれを見てください」
モニターに映された恋々愛の後ろ姿を、カクテルは指差す。
「むっちりぷりんぷりんのでっかいお尻的なー?」
ポタージュがそう言うと、一人朝香の監視に専念していたホーレンソーがピクリと反応した。
いくら小学生に見えないとはいえ、仮にも小学生にこんな殆どお尻丸出しのTバック衣装を着せるのは犯罪的である。
「いえ、そこではなく、背中の右上辺りを注目してください」
カクテルは冷静に返す。背中の右上、即ち先程電撃に当たった場所である。
「何も無えぞ」
ハンバーグが言う。カクテルは慌てて見直すが、何一つおかしい所は無い綺麗な肌のままであった。
(馬鹿な……先程見た時は火傷していたはず。これはビフテキさんの仕業ですねえ。相変わらず捏造や隠蔽には都合のいい魔法です)
カクテルは目を細めてビフテキを見る。
「……ああ、どうやら私の思い過ごしだったようです。よく見ればHPもちゃんと減っていますね」
白々しくそう言うと、カクテルはミルフィーユに顔を近づけた。ザルソバが眼鏡の奥で睨む。
「チートの代償とでも言ったところですか? 知りませんでしたよ、貴方が私と同じ趣向でしたとは」
不気味な笑顔と共に、耳元でそっと囁く。
「あんな裸同然の格好、傷つけてくださいと言っているようなものではありませんか。クックック、楽しみですねえ、彼女が内臓ブチ撒ける姿が」
一瞬空気が揺らいだ。ミルフィーユが静かに怒ったことを、その場にいた誰もが理解した。本人は冷静を装い微動だにしないものの、怒髪点を突くほどの怒りが、空気を通じてピリピリと感じるのだ。
「カクテル、何を言ったか知らぬが、騎士団内での揉め事はやめてもらえぬか」
ムニエルが注意したところで、カクテルは呆れたようなポーズをとる。
「仕方がありませんねえ、ムニエル様にお叱りを受けては引き下がるしかありません。ああ、怖い怖い」
そう言ってカクテルは自分の席に腰掛けた。
怒りを静めたミルフィーユは、画面の向こうの恋々愛をじっと見ながら、人間界で恋々愛と最後に過ごした日のことを思い出していた。
ミルフィーユと恋々愛の住むマンションの一室。二人は正座で向き合い、最終予選に向けての話をしていた。
「いいかしら恋々愛、貴方は封印を解けば強力な魔法を使えるけど、その代償としてHPとバリアの恩恵を受けられなくなるの。それは貴方の体を危険に晒す行為。あくまで切り札として扱い、乱用はしないこと。いいわね」
ミルフィーユの忠告に、恋々愛は黙って頷く。
「でもここからは相手も強くなって、封印を解かざるを得なくなることも増えるでしょう。それにワープによる回避の通じない攻撃をされることも……貴方の体を極力傷つけないために、これからは私の教えた格闘術はリングを付けている時に使い、封印を解いたら斧のリーチを活かして相手から適切な距離をとって戦うことにしなさい。捨て身の戦法は厳禁。いいわね」
恋々愛はまた黙って頷く。
「貴方を危険に晒さなければならないのは私もとても辛いわ。胸が締め付けられる思い……貴方だって本当は辛いでしょう、自分だけ他の魔法少女のように安全が保障されていないのは」
恋々愛は黙ったまま首を横に振る。
「……強い子ね。ええ、貴方なら優勝できると信じているわ。だって貴方は今大会で最も高い魔力を持つ、最強の魔法少女だもの。だけどくれぐれも、体が傷つくことにだけには気をつけて……」
封印を解いた恋々愛は、ミルフィーユの忠告通り斧を使って戦っていた。だがこの雷の檻を展開されてはワープの魔法も活かせず、体が傷つくデメリットばかりが目立つ。しかも金属製の刃を有する斧は電気を引き寄せ、体を守るためリングを付けたとしても黄金のリングがこれまた電気を引き寄せる。まさに万事休すの状態であった。
そこで恋々愛は、何を思ったか畑を耕すように斧を地面に思いっきり叩きつけた。
「何!?」
突然の奇行に、幸次郎は目を丸くした。舞い上がった土煙が、電気の流れを遮った。だがこの中では恋々愛自身もワープすることはできない。恋々愛は斧を投げ捨てると、自ら走って幸次郎に突っ込む。電撃の被害を最小限に抑えるならば、裸一貫での格闘戦が最適と判断したからだ。
「させるか!」
二つのオーブが恋々愛の前に立ちはだかり、幸次郎の盾となる。だが恋々愛は両手で一つずつオーブを掴むと、それを支点に跳び上がって鉄棒競技のように空中一回転。幸次郎の頭上からヒップアタックを喰らわせた。
「がはっ!?」
不意を突かれた幸次郎は仰向けに倒れこみ膝をつく。恋々愛は更にそこからワープし、幸次郎の前から姿を眩ます。
「ど、どこに消えた!?」
恋々愛は土煙の中に出現できないことを、幸次郎は知らない。恋々愛は少し離れた位置の土煙が薄い場所にワープした。
幸次郎はサンダーオーブからフリーズオーブに換装する。剣の一振りで吹雪を起こし、土煙を吹き飛ばす。
「そこにいたか!」
氷の剣を振ると、その先にある恋々愛の立つ場所に氷柱が出現。だが恋々愛は既にワープを完了しており、その攻撃は当たらない。
「そこだ!」
再び恋々愛の位置に剣を振る幸次郎。だが振り切る寸前に切り返し、別の場所に氷柱を出す。奇しくもその場所に、氷柱が現れる寸前に恋々愛がワープしてきた。そして恋々愛の身は、氷柱に閉じ込められたのである。剣士としての直感が、恋々愛の出現地点を先読みしたのだ。
「これでとどめだ!」
サンダーオーブに換装し剣先を天に向けると、再び雷の檻が辺り一帯に張り巡らされた。たとえ恋々愛がその腕力で氷柱を砕いても、これでは逃げ場がない。
「雷牙氷砕突!」
稲妻が迸る剣先を真っ直ぐ恋々愛に向けて、ダッシュでミサイルの如く突貫。身動きのとれない恋々愛にとどめの一撃を喰らわせようとする。
だがその時、氷柱の中から恋々愛の姿が消えた。彼女の魔法の前にはどんな拘束も無力なのである。
恋々愛の現れた場所は――幸次郎の目の前。二つのオーブの防御圏内であり雷の檻から狙われることもないこの場所こそ、最大の安全地帯。だが幸次郎は走っている。当然幸次郎は恋々愛に体当たりをかますこととなり、幸か不幸か幸次郎の頭部は、丁度恋々愛の胸に当たる位置にあった。
顔面から恋々愛の胸に突っ込み、豊満なバストに顔を埋める幸次郎。温かな柔肌の感触。恋々愛の格好は裸同然のため、肌と肌が直接触れ合った。
「!? !?!?!?」
顔を埋めたまま、幸次郎は声にならない叫びを上げる。あまりにも衝撃的な出来事に、明鏡止水の心で収めていた男の本能が再び湧き上がってきた。普段だったら鼻血を噴き出しそうなものだが、HPMPシステムの影響下では出血することはない。
恋々愛はすぐさま幸次郎の手首を掴み、剣を手放させる。そして今度は幸次郎諸共上空へとワープした。
「う、うわああああああ!」
顔を上げたら空中にいたことに、幸次郎は悲鳴を上げる。恋々愛は幸次郎の体をぶん回す。何も障害物のない空中で、幸次郎はいいように弄ばれる。そうして勢いがついたところで、幸次郎は地上へとぶん投げられた。地面に全身を打ちつけ、呻き声が上がる。
恋々愛は素早く地上にワープして斧を手にした後、倒れている幸次郎のすぐ上へとワープ。上から斧を突き刺してとどめを刺した。
バリアに包まれる幸次郎。恋々愛はその横でリングを拾い、両手首と両足首に装着した。
「つ、強い……そして、柔らかい……」
意識が朦朧としているのか、幸次郎は思わずそんなことを口走った。
「勝ちましたね、古竜恋々愛」
カクテルがミルフィーユに言う。だがミルフィーユの表情は優れない。
(あの子ったら私の忠告を守らないで……)
ミルフィーユが怒っているのはそれである。軽い気持ちで簡単に封印を解いてしまう上に、封印を解いた状態で格闘戦。幸次郎の突進を体で受け止めたことに至っては、一歩間違えれば剣が身を貫いていた。無論そんなことになれば恋々愛の生命が危機に及ぶのは言うまでも無く、刺した幸次郎にも耐え難いトラウマを与えてしまうことだろう。
(あくまで勝つために、私の忠告を破った。本当の母親に会いたいという思いは、それほどにまで強いのね……)
ミルフィーユの胸が痛む。恋々愛は願いのためならば自分の身を危険に晒すことに何の躊躇もない。そしてその戦いに恋々愛を引き込んだのはミルフィーユである。二人の思いは、静かにすれ違い始めていた。
<キャラクター紹介>
名前:赤木留美奈
性別:女
学年:高一
身長:159
3サイズ:85-61-84(Bカップ)
髪色:茶
髪色(変身後):金に赤メッシュ
星座:魚座
衣装:薔薇をイメージしたドレス
武器:茨の鞭
魔法:鞭の棘から毒を注入できる
趣味:ソーシャルゲーム
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