ヤンキーVS魔法少女

平良野アロウ

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第二章 最終予選編

第35話 ぱんつ丸見え

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 智恵理と梓がデスサイズとの激戦を繰り広げていた最中、別の場所でも二人の魔法少女が対峙していた。
 その内の片方の衣装は上半身がさらし一枚で、下半身は黒いスパッツの上から白いまわしを巻いている。顔や手足は黒く日に焼けているがお腹は白く、肩にはスクール水着の形に沿った日焼け跡。群青色の髪をポニーテールに結んだヘアゴムには、蠍座のブローチが付けられていた。
「水橋香澄……ハバネロさんとこの本命カニな」
「天才相撲少女っつったっけか? だが相撲向きの体型にゃとても見えねーぞ」
 ハンバーグの言うとおり、彼女の体型は相撲をやっている風にはとても見えなかった。小学五年生という年齢を差し引いても全体的に華奢で痩せ型、腕は小枝のようである。
「そう見えるだろ? だがあいつは天才なんだ。幾多の大会で優勝してるし、体の大きな男子にだって負けたことはねえ」
 ハバネロのサングラスがキラリと光った。

 相手の魔法少女は、ハンマーで殴りかかる。だが香澄に近づいた途端地響きが鳴り、地面から土俵がせり出してきた。
 土俵に一歩でも足を踏み入れた時、ハンマーは所持者の手を離れ土俵の外へと吹き飛ばされる。そしてスカートの上から白いまわしが巻かれた。
「なっ、何これ!?」
 せっかくの可愛い衣装に変なものを付けられて、相手は嫌な顔をする。
 香澄は悠々と土俵入りし、四股を踏んだ。
「はっけよーい、のこった!」
 構えた後駆け出した香澄は相手のまわしを掴み、土俵外へ勢い良く投げ飛ばした。
 相手の体が地面につくと、地雷でも踏んだかの如く地面が爆発。一撃の下に変身解除させられた。
(相撲のルールを再現した、一撃必殺の魔法……)
 その戦いを、陰から見る者が一人。
(しかも土俵を出現させて相撲勝負を強制というあたいと同じタイプの魔法も持ってやがる)
 二次予選で智恵理と対戦したプロレス魔法少女の、金剛峰寺磨里凛であった。
(だがあたいの魔法の完全上位版ってわけじゃない。あたいにも勝つ手はあるってわけだ)
 磨里凛は物陰から姿を現し、香澄の前に立つ。磨里凛の身長は百七十超えであり、香澄と並ぶと象と仔兎のように見えた。
「プロレスと相撲、どっちが強いか決めないかい?」
 プロレスのマイクパフォーマンスの如く香澄を挑発する磨里凛。三十センチ以上の身長差による異種格闘技戦が、その幕を上げた。

 一方その頃、花梨もまたバトルに白熱していた。
 ヨーヨーを自分の腕のように自在に操り花梨を攻め立てるのは、ストリートダンサー風の衣装を着た魔法少女。名は星野ほしの空絵そらえといった。空絵の操るヨーヨーは六つに分裂し、四方八方から花梨を攻撃する。
 花梨は包帯を操って盾にしつつ、注射器を飛ばして反撃。だが空絵はヨーヨーで注射器を掴み取って防御。互いに一進一退の攻防が続いていた。
 だがその戦いに水を差すように、空絵の背後から飛来する無数のシャボン玉。花梨はそれに気付いたものの、空絵は反応が遅れて背中に攻撃を受けた。
「くっ、な、何!?」
 振り返る空絵。回転するバトンからシャボン玉を発射しつつローラースケートでこちらに向かってくるのは、先程拳凰から逃走した坂崎棗である。
「たかがシャボン玉で……なっ!?」
 攻撃を受けた空絵は起き上がろうとするが、急に足が滑って尻餅をついた。
「ど、どうなって……?」
 何度起き上がろうとしても滑って転ぶ、棗の恐るべき魔法。
「あんたの体はシャボンの膜に包まれた! 永遠に滑り続けな!」
 空絵を術中にかけた棗は、花梨も狙う。バトンを一回転させる毎に両端から一つずつシャボン玉が現れ、高速回転させることで無数のシャボン玉を一気に放出する。棗は周囲をシャボン玉で埋め尽くし、花梨の逃げ場を無くす作戦で来た。
 花梨は自分の周りに包帯を纏わせ、シャボン玉が体に触れるのを防ぐ。空絵は転んだ体勢のまま分身ヨーヨーでシャボン玉を割りつつ、花梨と棗にも攻撃。ヨーヨーは花梨の包帯には弾かれたが、棗には見事ヒットした。
「うあっ!」
 吹っ飛ぶ棗。その時空絵は地面を滑る感覚が無くなったことに気付いた。
(相手にダメージを与えれば解除されるってわけか)
 付近のシャボン玉をヨーヨーで割りつつ、更なる追撃を狙う。だがその空絵の脚に、花梨の包帯が巻きついた。
「なっ!?」
 驚く空絵を包帯が持ち上げ、シャボン玉の中を突っ切りながら、ハンマーの如く棗にぶつける。
 二人同時にダメージを与えたが、まだ二人のHPは残っている。花梨はとどめを刺すため、必殺技の体勢に入る。
 花梨が両腕を広げると、周囲の空中に無数の注射器が出現。
「これでとどめ! サウザンドニードル!」
 広げた両腕を前面に突き出すと、鋭い針を煌かせ無数の注射器は弾丸の如く発射される。全てのシャボン玉を残さず割って、注射器の雨は突き進む。
「させるかーーっ!!」
 空絵はヨーヨーを十個に分身させて高速で伸縮。全力を振り絞ってできる限りの注射器を砕いて身を守る。棗は全速力でローラースケートを走らせ、回避に専念した。
 大技を使って息を切らした花梨。空絵と棗は、変身解除されていなかった。互いに大きなダメージこそ受けていたものの、防御や回避が功を奏しHPがゼロになるには至らなかったのだ。
(あれを受けて倒れないなんて……やっぱりここまで勝ち残った魔法少女は強い!)
 必殺技を耐えられて、逆にピンチに陥ったのは花梨である。棗は再びシャボン玉を生成し始め、空絵は分身ヨーヨーを繰り出す構えをとる。二人は共に、花梨を真っ先に倒すべき相手と認識した様子だった。
 花梨は自分の身長よりも大きな注射器を出現させて両腕に抱える。三つ巴の戦いから一対二に移行したこの状況、一瞬たりとも油断はできない。
 緊張感が走る中、突如異変は起こった。
 突如花梨のスカートが、上から引っ張られるかの如く捲れ上がったのだ。
「!?」
 幼い容姿に似合わぬセクシーな黒レースの下着を顕にされ、花梨は顔を真っ赤にする。
「え? 何? 嫌ぁ!」
 思わず注射器を手放しスカートを戻そうと掴むも、まるでその位置に固定されているようで動かない。
 花梨と対峙する二人の魔法少女も、これには唖然。
 花梨の背後の木の枝で、一人の魔法少女がその様子を見下ろしていた。その少女は手を一回叩き、ピースサインを出し、親指と人差し指で丸を作り、最後に指を伸ばして額に当てる。早い話が「ぱん、つー、まる、みえ」のポーズである。すると棗のスカートも捲れ上がり、黄緑と白の縞パンが顕となった。
「ひゃっ!?」
「何これ!? 敵の攻撃!? あ、あたしはスカートじゃないから大丈夫なはず!」
 空絵の衣装はホットパンツのため、この謎のスカートめくり攻撃を受ける心配はない。これを好機にと、空絵は駆け出しヨーヨーで花梨を狙おうとした。
 だが不運にも駆け出そうとした途端にホットパンツが足下までずり落ち、お尻を突き出した格好で前のめりに転んでしまった。パンツの色は水色である。
(誰かが私達三人を纏めて攻撃してる……? それよりこの恥ずかしい格好どうにかして! ただでさえ私はこんな恥ずかしいパンツ穿いてるのに!)
 必死にスカートを戻そうとする花梨だったが、スカートはびくともしなかった。
「ムフフフフー! 素敵なパンツが三枚ー!」
 変な笑い声が響く。枝の上に立つ声の主は丸い眼鏡を掛けており、髪は白のボブカット。双子座のブローチはカチューシャに付けられて側頭部にある。何より特徴的なのはその衣装であった。一見するとミイラのように全身に包帯を巻いた格好のようにも見えるが、よく見るとそれは包帯ではない。色とりどりの女性用ショーツを、全身にびっしり貼り付けたというとんでもない衣装なのだ。
「な、何あの人!? 変態さん!?」
 あまりにも奇怪なその格好に、花梨は目を疑った。
 しかも彼女の全身のパンツの中には、花梨達三人が穿いているのと同じものもある。右肩に花梨の黒レース。左脚に棗の縞パン。そして脇腹に空絵の水色。
「私の名は藍上あいうえ織江おりえ。パンツ使いの魔法少女よ」
「ま、また変な魔法少女が出た……」
 二次予選で戦った紙幣使いの変態さんを思い出し、花梨はゲンナリする。
「私も初めは申し訳程度に乳首を隠す以外はパンツ一丁の魔法少女だった……私の全身に貼り付けたこのパンツ達は、私の戦った魔法少女から得たもの。そしてこの私の穿いたたった一つのパンツが、私の自前よ!」
 織江が腰に手をあて主張する、唯一パンツ本来の用途に使われているパンツ。それはステレオタイプな女性用ショーツを体言したかのような、フロントに小さな赤いリボンの付いた白の綿パンツであった。
 訊いてもいないのにわざわざ自分の衣装の概要を説明してくれた織江は、更に説明を続ける。
「そして私の魔法は『ぱん、つー、まる、みえ』のポーズをとることで相手のパンツを自分の衣装の一部としてコピーするというもの。コピーされた相手は私と戦っている間、パンツが丸出しになるというおまけ付きでね!」
「な、何て嫌な魔法!」
 素でツッコむ花梨。織江は眼鏡を光らせ、いやらしい笑みを浮べる。
「それにしてもそこのミニスカナースちゃん、そんなナリしてエッチな黒下着とは、やりますなあ」
「ち、違っ……これはこの衣装で勝手にこんなのにされちゃっただけで……普段はこんなの穿いてないから!」
 慌てて否定する花梨を、織江は高いところから見下ろしニヤニヤ笑う。
「隙あり!」
 そんな会話をしている隙を狙って、空絵が転んだ体勢のまま織江目掛けてヨーヨーを放つ。
「そうはいかないよ!」
 織江は脇腹にある空絵のパンツに触れる。すると空絵の水色パンツが、織江の頭部に移動した。まるで下着泥棒が盗んだパンツをそうするように、空絵のパンツを頭に被った織江。
 それはただの変態行為か、否そうではない。織江を攻撃しようとした空絵の動きが、急に止まったのだ。
「な……体が……動かな……」
「ここからが私の魔法の本領。私は相手のパンツを頭に被ることで、その体の支配権を得る!」
 織江が手を振りかざすと、空絵は地面をゴロゴロ転がって樹に背中を打ちつけた。花梨の必殺技で削られたHPもあってその一撃がとどめとなり、空絵の変身は解除される。
「嘘……」
 変身が解けたことで空絵は織江の支配から解放されたものの、織江の脇腹に付いた水色パンツは消えない。
「やったね。このパンツは戦利品として貰っとくよ」
 この少女は、こうして多くの魔法少女からパンツを奪い取ってきたのだ。続けて織江は左脚の縞パンにも触れ、棗の身体を支配する。
「ちょっ、待っ……」
 自分の意に反して走らされた棗は樹に頭を打ちつけ、変身解除させられた。
「これで二人目。次は君だよ、黒パンナースちゃん」
 右手で花梨を指差し、左手は右肩の黒パンツに触れる。花梨のパンツが、織江の頭に移動した。

「……酷い魔法少女もいたものぜよ」
「下半身丸出しの変態を担当してる方の言うことですか?」
「それは関係無いぜよ!」
 織江に苦言を呈するミソシルを、カクテルがからかう。
「それにしても、あんなに強いならもう少し目立ってもよかったんじゃないカニ? 今日見るまで俺は存在すら知らなかったカニ」
「確かにそうですね。ですが彼女は一次予選、二次予選共にあと一敗で脱落というギリギリの状況で勝ち残っています」
「そうなのカニ!?」
 画面上に織江のデータを表示しながら、ザルソバが解説する。
「一見彼女は圧倒的な最強能力を持っているように見えます。ですが彼女には一つ、致命的な弱点があるのです」

 織江に操られ、花梨は体を樹や地面に打ちつけられる。
 魔力が高ければこの手の魔法にある程度の耐性ができるため、花梨はそれによって抵抗。織江は操作に難しさを感じるが、負けじと気合を入れて花梨の体を動かす。
(このままじゃ負けちゃう……! こんな時、ケン兄だったら……)
 拳凰だったらどうするか。花梨は知恵を振り絞って考える。
(ケン兄だったら、やっぱり……)
 花梨は身体にぐっと力を籠め、己の身に宿る魔力をひり出す。
「はあああああっ!」
 雄叫びと共に、花梨は支配からの解放を示すように全身を伸ばす。
 導き出した答えは根性。花梨は力ずくで、織江の支配から逃れたのだ。

 この展開には、騎士団の面々も真顔にならざるを得なかった。
「弱点とか関係なく、力ずくで逃れましたね」
「……どうやら彼女は、最強寺拳凰の影響が強いようです」

「な、なーっ!? こんな強引な方法で!? 君、相当魔力高いみたいだね」
 普段の調子を装いつつも、織江の表情には動揺が見える。
「だったら何度でも操るまで!」
 織江は再び花梨を操ろうと、全身に力を籠める。
 操ろうとする織江、操られまいとする花梨。二人の間では熾烈な攻防が展開されていたが、傍から見れば二人とも殆ど動かない地味な戦いであった。
 なお、花梨は絶えずパンツ丸出しである。

「これは完全に膠着状態的なー」
「いえ、そうでもありませんよ」
 つまらなそうに口を尖らせて言うポタージュに、ザルソバはマップに表示された一つの点を指差した。
「本命と本命の邂逅。ここから大きく動きますよ」

 膠着状態の続く花梨と織江。だがその場に水を差す者が一人、足を踏み入れた。
 小麦色の肌に、薄紅色の髪。さっぱりと刈り揃えたスポーツ刈りベリーショートに、変身前から付けていた花のヘアピンがワンポイント。F1カーの意匠を含ませたメカニカルなコスチュームは、彼女が陸上選手であることからレース繋がりによるもの。靴の踵には大きな車輪が付いており、両手にはガントレットを装備していた。腰骨まで露出したシャープなカットのハイレグレオタードは、セクシーさと同時に彼女の圧倒的な速さも表現している。
 大正時代に行われた魔法少女バトル日本大会優勝者の玄孫にして、今回の天秤座の本命、悠木小梅がやってきたのである。
「そこの二人ー! そのバトル、あたしも混ぜてよ!」
 底抜けに明るい声で、小梅は八重歯を見せるように笑いながら言った。


<キャラクター紹介>
名前:水橋みずはし香澄かすみ
性別:女
学年:小五
身長:140
3サイズ:67-51-72(AAカップ)
髪色:黒
髪色(変身後):群青
星座:蠍座
衣装:上さらし+下スパッツ&まわし
武器:無し
魔法:土俵を出現させ相撲勝負を強制する
趣味:相撲
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