ヤンキーVS魔法少女

平良野アロウ

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第二章 最終予選編

第31話 魔法少女を狩る者

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 遂に始まった最終予選。ユニコーンの森には人間界に存在しない植物が生い茂り、どことなく神秘的な雰囲気を醸し出していた。
 魔法少女達は森の中を彷徨いながら、対戦相手を探していた。相手を見つけたらバトルスタート。正々堂々もあれば不意打ちもある。複数人での乱闘も起こり得る。狭いフィールド内で一対一の試合形式にて行われた一次・二次予選とは大きく異なるルールに少女達は戸惑いつつも、勝ち残って願いを叶えるため己の持てる力を振り絞って戦いに臨んでいた。
 木々を掻き分けて進む拳凰は、早速戦う二人の魔法少女を発見。一方は金色のメッシュの入った髪と薔薇をイメージしたドレスが特徴の魔法少女。もう一方は空色の髪とバトントワリング風の衣装が特徴の魔法少女である。
「おっ、やってるな。俺も混ぜろよ」
 拳凰は駆け出し、二人のバトルに乱入。空色の髪の魔法少女、坂崎さかざきなつめははっと気が付くと敵に背を向け、足に履いたローラースケートで逃走。だが対応が遅れたもう一人の魔法少女、赤木あかぎ留美奈るみなは拳凰に逃げ道を塞がれた。
「くっ……ハンターなんかにやられてたまるか!」
 留美奈の武器は茨の鞭である。鞭の棘は単に攻撃力を高めるのみならず相手に毒を与えじわじわとHPを削る効果もある。
 当然、留美奈は拳凰に毒を与えることを狙っていた。しなる鞭が棘の先端を光らせ、拳凰へと襲い掛かる。だが拳凰は棘の無い部分を見極めて掴み、そのまま勢いよく引いて留美奈を空中に投げ出した。そして落ちてきた留美奈の腹目掛けてアッパーを繰り出し、一撃の下にKOした。
「まだ始まったばっかなのに……不幸だぁ……」
 変身解除された留美奈はバリアに包まれた後、すぐ人間界に送還された。
「何だ一撃かよ。ちょっと呆気なさ過ぎやしねーか」
 留美奈には棗から受けたダメージもあったが、それ以上に拳凰のアッパー一発が強すぎた。まさかの瞬間決着に、拳凰自身が一番驚いていた。
 拳凰は棗の逃げた方向に目を凝らすが、既に姿は無い。
「もう一人の奴はどっか行っちまったみてーだな。ったく、なーにがハンターとは戦わないことをお勧めしますだよ、白けること言いやがって」
 と、その時だった。背後から攻撃の気配を感じた拳凰は、振り返りざまに飛び退いて避ける。飛来し足下に刺さったのは、三日月状のガラスの刃だった。
「いい得物を見つけたにゃー」
 木の枝の上に立ち拳凰に声を掛けたのは、頭に猫耳、スカートに猫の尻尾が付いた魔法少女。耳と尻尾は単なる飾りではなく、体の一部のように自らの意思で動いている。
「私は遠野とおの寧々子ねねこ。魔法少女バトルで優勝する魔法少女だにゃー」
「ほう、優勝とは大きく出たじゃねーか」
 自信満々で拳凰を見下ろす寧々子。対する拳凰も全く動じず不敵な笑みを浮べている。
「言っとくが俺を倒しても魔法少女の人数減らねーぞ。ルール説明聞いてなかったのかお前」
「メガネの人はハンターとは戦わない方がいいって言ってたけど、私はハンターを倒した人に特別なボーナスが貰えるって思ってるんだにゃー」
 猫の手を模った可愛らしい手袋から、本物の猫の手のように爪がせり出す。寧々子はそれでおもむろに空中を引っ掻いた。するとその爪の軌跡が実体化してガラスの刃となり、拳凰目掛けて飛んで行く。
 拳凰は走り出し、飛んでくる刃へと自ら突っ込んだ。走りながら最小限の動きで刃を避けると、木の幹を駆け上り枝の上の寧々子にアッパーを繰り出す。
 寧々子は猫のような軽やかな動きで空中一回転し、アッパーを回避。だが拳凰は枝を掴んで支点にし、鉄棒の要領で体を回転させてハイキック。空中の寧々子を爪先で蹴飛ばした。
「ふにゃあっ!?」
 悲鳴を上げながら近くの木に背中を打ちつけた寧々子に、拳凰は追い討ちをかける。空中で木の幹を蹴って跳び、寧々子の体を木に打ちつけるかの如きストレート。怯んだ寧々子に更なる猛烈ラッシュをかけて、そのままHPを削りきった。
「な、なんと……」
 何より驚いたのは、システムルームから観戦していたザルソバである。寧々子は天秤座の魔法少女で、ザルソバが担当しているのだ。
「彼女は一次・二次予選を全勝で勝ち抜いた実力者です。それがこうも容易く倒されるとは……最強寺拳凰、あの短期間の特訓でここまで成長するとは、まさに天才の所業と言う他ありません」
 ザルソバがそう語る中、同じく拳凰のノーダメージ二連勝を観戦していたビフテキはニヤリと口角を上げていた。

 一方その頃、幸次郎もまた魔法少女と対峙していた。
「拙者の名は武蔵野むさしの灯里あかり、侍にござる。天才少年剣士穂村幸次郎とお見受けした。いざ、尋常に勝負!」
 灯里は腰に二本の刀を差し、侍風の衣装を纏った魔法少女である。魔法少女になる以前より幸次郎のことを知っていた彼女は、腕試しがしたくてあえて自分から幸次郎に戦いを挑んだのだ。
「せ、拙者とかござるとか……キャラ作りしすぎじゃありません?」
 幸次郎が辛辣なツッコミを入れると、灯里は火を噴きそうなほど顔を真っ赤にした。
「う、うるさい! それはどうでもいいだろ! せ、拙者の魔法は二刀流の達人になること! いくら剣道の天才と言われた貴殿でも、拙者には敵わぬでござる!」
 一瞬キャラ作りが崩れかかったがすぐ持ち直し、抜刀して襲い掛かる灯里。幸次郎は冷静にオーブを操って防御する。
 猛攻を掛ける灯里と、オーブでの守りに徹する幸次郎。灯里の剣術は本人の言葉通り、まさに達人の動きであった。幸次郎は自身の通う道場の師範にも劣らぬ技術だとさえ感じていた。単純な剣術勝負に持ち込んでいたら、幸次郎に勝ち目は薄い。だが今の幸次郎が使う武器は、ただの剣ではないのだ。
「サンダーオーブ!」
 黄色いオーブが三属性の剣トリニティーソードの柄に填まり、刃から電撃が迸る。灯里は後ろに飛び退き、直撃を避けた。
「何でござるかその玩具のような剣は。拙者の美しき刀とは月とスッポンのようでござるな」
「これは僕じゃなくて姉さんの趣味だから……」
 三属性の剣トリニティーソードは本来、幸次郎の双子の姉である瑠璃の武器である。アイテムの換装で能力を変化させる武器というのは、特撮オタクである瑠璃の趣味が多大に反映された結果生まれたものなのだ。
(姉さん……どうして姉さんが昏睡状態になったのか、僕はこの妖精界で突き止めてみせる)
 決意を胸に、雷の剣を構える幸次郎。カクテルに真実を隠されている幸次郎は、それが妖精界に来た理由だった。
 ちなみに当の瑠璃本人は昏睡した理由は割とどうでもよく、昏睡中に見逃した特撮番組の方が大事といった様子であった。幸次郎が妖精界に行っている間も、家で録画を流しながら玩具をいじる特撮三昧の夏休みを堪能していたのである。
 迸る電撃は金属の刀によく通り、灯里の体に電気を流す。感電により体が麻痺していては、達人の剣術を繰り出すこともできない。
「ぐ……ひ、卑怯な! 拙者と剣術勝負をするのではなかったのでござるか!?」
「いや、貴方そんなこと一言も言ってませんでしたよね? それに妖精騎士団のザルソバさんが言っていました。魔法の技術は武器の技術と同等に重要視されるものだと」
 幸次郎はフレイムオーブに換装し、炎の連続斬り。更にそこから繋げて、とどめの必殺技を繰り出す。
「秘技……灼熱紅蓮斬!」
 剣道の面打ちの要領で踏み込みと当時に振り下ろされた炎の刃が、痺れて動けない灯里を叩き斬る。
 変身解除させられバリアに包まれる灯里の前で、幸次郎は剣を鞘に収めた。
「しゃ……灼熱紅蓮斬……」
 自分のござる口調は棚に上げて、幸次郎の技名にドン引きする灯里。
「ぼ、僕の考えた技名じゃありませんから!」
 幸次郎がそう言い終わる前に灯里は強制送還され、結局誤解は解けなかった。

 一方その頃デスサイズは茂みに隠れてライフルを構え、魔法少女を待ち伏せしていた。
 魔法少女がデスサイズの存在に気付かず通りがかったところで、正確なヘッドショットが炸裂。だがその一発でHPを削りきることができず、更に数発弾を撃ち込んで変身解除させた。
(頭を撃たれてピンピンしてるとは、まったく魔法少女って奴はどうかしている。それはそれとしても、子供相手に銃を撃つのはあまりいい気がしないがな)
 そんなことを思いながら、デスサイズは再び待ち伏せに戻る。
 その様子を物陰に隠れながら、見張る者が一人。二次予選で拳凰と戦ったミリタリー魔法少女の諏訪美波であった。
(す、凄い……あれが本物の、最強の傭兵……)
 デスサイズの華麗な早業に目を輝かせる美波。最強の傭兵と呼ばれる男が、目の前で戦っている。ミリタリーオタクとしてこれを生で見られたことに、美波は感動と感謝を覚えた。
 だが呆けて隙を晒した美波を、デスサイズは容赦なく狙い撃つ。
「わわ! 見つかった!」
 ロケットランチャーの砲身を盾にしてライフル弾を防ぐも、隠れ場所を見つけられたことは大きなピンチである。
(こ、こうなったら戦うしかない……)
 そう思っている間にもデスサイズは的確な狙撃を続け美波のHPを削ってゆく。美波は負けじと、弾の飛んでくる方向にロケットランチャーを向け発射。着弾して力強い爆炎が巻き起こった。
「やったか!?」
 そう言ったのも束の間、着弾したのとは別の茂みからデスサイズが飛び出し、低い姿勢で美波に向かって突撃してきた。デスサイズは接近と同時に美波の手首を蹴り、ロケットランチャーを手放させる。そして美波を組み伏せて動けなくさせた後、ナイフで喉を一突きにした。
「す、凄すぎる……」
 変身解除させられた美波は今日の記憶を失うことを惜しみつつ、敬礼しながら送還されていった。

 ハンター達の活躍をシステムルームから見ていた妖精騎士達は、彼らの強さに驚きの声を漏らしていた。
「ほえー……これはもう魔法少女達みんなハンターに蹂躙されちゃうんじゃないカニ」
「みんな、はさーん」
「カニミソもソーセージも自分の担当する魔法少女のレベルが低いからそう感じる的なー。その点僕の魔法少女は皆レベルが高いからハンターが来ても全然問題ない的なー」
「む、今牡羊座が一人最強寺に倒されたぜよ」
「的なっ!?」
 調子に乗った矢先に鼻を折られるポタージュを、他の騎士達は呆れて見ていた。
「如何ですかムニエル様、彼の実力は」
 拳凰の映るモニターをムニエルに見せながら、ビフテキは言う。ムニエルは不機嫌そうな表情になり、何も言葉を返さなかった。
(最強寺拳凰……あの男が、我の……)
「ムニエル様!」
 ハンバーグに声を掛けられ、ムニエルははっと気がつく。
「ムニエル様のお友達の白藤花梨も、順調に勝っているようですよ」
 花梨が他の魔法少女に勝利する姿が映るモニターに目線を向けながら、ハンバーグが言った。
「うむ、そのようじゃな!」
 ムニエルは精一杯の笑顔をハンバーグに見せる。その表情を痛ましく感じたハンバーグは、ぐっと拳を握った。
「そういえばもう一人のハンターは何してる的なー?」
「ミスターNAZOですか。そういえばずっと映っていませんね」
 ここで使用している魔力カメラは大きな動きがあったり見栄えの良い場所を自動で検出して撮影するシステムとなっており、目立った動きの無い場所はなかなか画面に映らない。ザルソバは手動でカメラを動かし、ミスターNAZOの位置を画面に映した。
「な、何をやってるんだこいつは……」
 騎士団一同は驚愕した。ミスターNAZOは最初に転送された地点から一歩も動かず、ただ棒立ちしているのだ。
「やる気があるんぜよか?」
「ワケわかんない的なー」
「マンドクセ?」
 疑問を口にする面々に、答えたのはミスターNAZOに関することを一任されているカクテルである。
「彼は今集中力を高めているのですよ。スロースターターですからねえ」
 時間でも止まったかの如く静止しピクリとも動かない姿は、あまりにも不気味であった。近くを通りがかった魔法少女が背筋を凍らせ急ぎ足で逃げていっても、追おうとすらしない。
 騎士団の中で誰よりもこの男を警戒していたのは、やはりホーレンソーである。
(ミスターNAZO……何一つ素性がわからない異常な男だが、一つだけ言えることがある。あのカクテルが連れてきたという時点で、間違いなく禄でもない奴だということだ)
 そんなホーレンソーを横目で見ながら、カクテルは言う。
「今に見ていてください。ミスターNAZOのショータイムが、最終予選のメインイベントになりますから」


<キャラクター紹介>
名前:遠野とおの寧々子ねねこ
性別:女
学年:中三
身長:157
3サイズ:90-58-88(Eカップ)
髪色:黒
髪色(変身後):白
星座:天秤座
衣装:猫風
武器:爪
魔法:爪で空中を切るとその軌跡がガラスの刃になって飛んでいく
趣味:猫の写真集め
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