ヤンキーVS魔法少女

平良野アロウ

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第一章 一次・二次予選編

第18話 カニミソの逆襲

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 とある山脈。ホーレンソーは一つの山の頂に立ち、隣の山の頂に設置した的に向けて弓を引いていた。本来ならば肉眼ではとても見えないような遠くの的にしっかりと狙いを定めて放たれた矢は、まっすぐに飛び的の中央をほんの僅かにずれた位置に刺さる。
(駄目だな……)
 普段ならば中央をぴったり捉えているのだが、ここ最近はずっと調子が悪い。胸騒ぎに悩まされ、訓練への集中力を欠いているのだ。
 それもこれも、カクテルとソーセージの暗躍のせいである。彼らが一体何を企んでいるのか。そしてこの一件に妖精王も関わっているという疑惑。ホーレンソーの悩みは尽きない。
(カクテル……あの男の思想は危険だ。そしてソーセージ、常にカクテルに付き従う得体の知れない男。何故陛下はあのような者達を重宝するのか。誇り高き妖精騎士団に相応しいとはとても思えない)
 再び放たれた矢は、やはり中央を僅かに逸れて刺さる。
 妖精騎士団は、基本的に貴族がなるものである。だが近年は平民出身の者を数名在籍させておくのが慣わしとなっている。現在の妖精騎士で平民出身なのは蠍座スコーピオンのハバネロ、獅子座レオのハンバーグ、双子座ジェミニのソーセージの三名である。
 ハバネロは貴族ではないが古来より王家に仕えてきた一族の出身。ハンバーグは貧民からの成り上がりで騎士になったことが周知されている。だがソーセージは、その経歴の一切が秘匿されている。わけのわからない喋り方をすることといい何から何まで怪しい人物であるが、何故か妖精王からは騎士団の中でも上位に位置する信頼を受けている。
 王からの信頼に関してはカクテルも同様であり、この二人は王から不自然なまでの優遇を受けていることになる。カクテルは魔法科学の優秀な技術者でありこの点で優遇を受けるのは納得できるところであるが、危険な思想を咎められている様子は無い。
(陛下は一体何を考えているのだろうか……)
 仕えるべき主君への不信感が、胸の片隅を刺す。それでも尚自らの務めを果たすべく、ホーレンソーは再び弓を引いた。

 一方その頃拳凰は、自宅でカニミソのフェアリーフォンを使い魔法少女バトルの対戦予定を見ていた。
 次はどの試合に乱入しようか考えていた拳凰だったが、ふとあることに気がつき手を止めた。
(そういやこのスマホ、電池切れたことねーな)
 拳凰がカニミソからフェアリーフォンを奪ってから、既に二ヶ月が経つ。にも関わらずフェアリーフォンのバッテリーが切れる気配は無く、そればかりか画面にはバッテリー残量を示す表示そのものが無いのだ。
 疑問に思った拳凰は、もしかしたら知っているかもしれないと思って花梨の部屋を訪ねた。
「ムニちゃんが言うには、フェアリーフォンの動力は電気じゃなくて魔力だから、こっちの世界のスマホと違ってバッテリー切れの概念は無いらしいよ」
「ほー、そいつは便利だな。こっちの世界で売ったら大儲けできるんじゃないか?」
「あくまで妖精界の人向けに作られたものだから、そうもいかないみたい。魔力を持たない人が触っても反応しないらしいし」
「そういうもんなのか。ん? つーことは俺、魔力持ってんのか?」
「多分、そうだと思う。結界の中に入れるのもそれが理由だと思うし……どうしてケン兄が魔力を持ってるのかは私にもわからないけど」
「まあ、理由なんか何だっていいぜ。そのお蔭で俺は魔法少女と戦えるんだからな」
 自分には魔力があるという衝撃的な事実にようやく気付いた拳凰だったが、あまり驚いている様子もなくさらりと流した。

 そしてその拳凰にフェアリーフォンを奪われたカニミソはといえば。
「いやー助かったカニ。智恵理は命の恩人カニな」
 田中山で行き倒れていたところを偶然試合後の智恵理に助けられ、智恵理の家で料理を振舞われていた。
「で、どうしてあんたはあんなところで行き倒れてたのよ」
「俺は最強寺拳凰を倒すための修行をしていたんだカニ。でも山の中には俺の食べられそうなものが全然無くて、お腹が空いて死にそうだったんだカニ」
「バカでしょあんた……てかそれが理由でずっと連絡無かったわけ?」
「面目ないカニ。貴族生まれで甘やかされて育った俺が突然山篭りを始めて、上手くいくはずがなかったカニ。それにしても、智恵理の作る料理は美味いカニなー。うちのシェフが作ったのと同じくらい美味しいカニ」
「ちょっ……変なお世辞やめてよ!」
 あまり褒められ慣れていない智恵理は、カニミソからの絶賛に顔を赤くする。
「っていうか、あんた泥だらけで汚いんだからあんまりうちに長居しないでよ」
「それは悪かったカニ。でもここは結界の中だから本当の家には汚れ付かないカニよ」
 そう言いながらも智恵理の気持ちを汲んで手早く食べ終えたカニミソは、自宅に帰る支度をする。
「ちょっと待って、あんたこれから最低寺と戦うつもりなんでしょ? だったらあたしにも協力させて。あいつをやっつけたいのはあたしも一緒だから」
「わかったカニ。それじゃとりあえず相談するから俺んち来るカニ」
 カニミソはそう言って、智恵理と共に自宅にワープした。

 現在のカニミソの住居は、安アパートの一室。質素で狭い部屋の中に高級感溢れるインテリアが置かれており、智恵理は奇妙なチグハグ感を覚える。
「あんた、こんな所に住んでるんだ」
「前はもっといいとこに住んでたカニ。でもフェアリーフォンを奪われて給料が引き出せなくなり、安月給のバイトで凌ぐ日々……だからこそ最強寺拳凰を倒してフェアリーフォンを取り戻さねばならないんだカニ!」
「それで修行を……」
 部屋の中をキョロキョロと見回す智恵理は、ふと窓の外に目を向ける。そうしたところでびっくり仰天、何と道路を二つ挟んだ場所に自分の家が見えている。
「えっ、ここ超近所じゃない!?」
 そう、ここは智恵理の家の近所にあるアパートだったのだ。
「あんたがこんな近所に住んでただなんて……」
 衝撃の事実に、智恵理は気が抜けてしまった。
「それじゃあ俺はシャワー浴びてくるから、暫くここで待ってて欲しいカニ」
 そう言って浴室に向かうカニミソ。智恵理は一人、ぽつんと残された。
「……」
 暫しの沈黙。ふと、床に敷きっぱなしの布団が目に入った。智恵理ははっと気が付く。
 さも自然な流れで一人暮らしの男の部屋に連れ込まれ、男がシャワーを浴びている間を部屋で一人待つこの状況。ドラマや漫画で見たような、妙にいかがわしさを感じさせるものではないか。
 これまで彼氏なんていたことのない智恵理にとって、男性の部屋に足を踏み込むこと自体が初めての経験である。更に見た目チャラいホストのカニミソは、いかにも「そういうこと」をしそうな雰囲気がある。これから自分は一体どうなってしまうのか、妙な緊張と胸の高鳴りを智恵理は感じていた。
(……って、違うから! 何期待してるみたいになってんの!? いくらあいつが見た目イケメンでも中身カニだし! 全然そういうのありえないから!)
 頭に浮かんだ不埒な考えを、必死になって否定する智恵理。一先ず自衛のためにと、近くに落ちていたリモコンを手にして身構える。
 丁度その時、カニミソがシャワーを終えて出てきた。上半身裸、腰にタオル一丁の格好で。
「ぎゃああああああっ!」
 火がつきそうなほど顔を真っ赤にして、智恵理はカニミソの顔面にリモコンを投げつける。
「痛いカニ!」
「そんな格好で出てくんな!!」
「しょうがないカニ。着替えこっちにしかないんだから」
 カニミソは平然とこちらに向かってきて、この貧乏臭い部屋には見るからに不釣合いなクローゼットを開く。
 智恵理は恥ずかしさのあまり両手で目を覆いつつも、指の隙間からさりげなくカニミソを覗いて見ていた。意外によく鍛えられた肢体は、この男が戦いを生業としていることをはっきりと感じさせた。
 まるでお城にでもにあるような立派なクローゼットから出てきたのは、芋臭いジャージであった。ずっこけそうなこのギャップ。カニミソとはそういう男なのだ。
 手早くジャージに着替えたカニミソは、智恵理の前に腰を下ろす。
「それじゃあ最強寺拳凰を倒すための会議を始めるカニ」
「う、うん」
 いつものホスト感はどこへやら。こうなっては普通の兄ちゃんである。智恵理のドキドキもどこかへと吹き飛んだ。

 翌日の学校。いつものように席についたまま握力トレーニングをしている拳凰に、智恵理が声をかけた。
「最低寺、今日学校が終わったら加門公園まで来なさい」
 そうとだけ言うと、これ以上拳凰と話したくないのでさっさと後ろを向いて自分の席に戻る。
 拳凰は智恵理の意図がよくわからなかったが、特に無視する理由も無いのでとりあえず行ってみることにした。

「で、何の用だオレンジ」
 言われた通り学校が終わった後公園に向かった拳凰を、智恵理とカニミソが待ち構えていた。
「おっ、カニホストじゃねーか。久しぶりだな」
「最強寺拳凰、ここで貴様を倒すカニ」
 黒スーツでバッチリと決めたカニミソは、ただならぬ闘気を放っている。
「生憎だが俺は一度倒した相手とは戦わない主義だ。そんなことよりカニホスト、お前丁度いいところに……」
 拳凰が言い終わる前に、カニミソは手刀から衝撃波を放ち牽制する。
「たとえ貴様にその気がなくとも、俺は貴様を倒さねばならんカニ!」
「ほう……そこまで言うなら相手になってやるよ」
 カニミソの衝撃波を見た拳凰の目つきが変わり、俄然やる気を出した。
「智恵理は後ろに下がっているカニ」
「う、うん」
 智恵理は結界隅の安全な位置まで下がり、二人の戦いを見守る。
「騎士の誇りにかけて、必ず貴様を倒すカニ!」
 そして、拳凰とカニミソはぶつかり合った。顔面目掛けて突き進む拳凰の拳を紙一重で避けたカニミソは、すかさず手刀を振り下ろす。手刀から発せられる衝撃波を拳凰は横から叩いて割り無力化。更にそこからもう片方の手で下から抉るようにパンチを打つ。カニミソは衝撃波を纏った左手で拳凰の拳を叩いて防御した。息もつかせぬ攻防の後、二人は同時に一旦後ろに下がる。
「衝撃波への対策は既にできているカニか」
「一度見た技を二度も喰らうかよ」
 二人は互いに睨み合い、次の一撃に備える。先程の僅かな攻防の間に、二人は相手が前回の対戦時より強くなっていることを察した。
(最強寺拳凰、あの後も幾多の魔法少女を倒して力をつけてきたようカニな。でも俺は負けるわけにはいかないカニ!)
(カニホストの野郎、随分と腕を上げたじゃねえか。あんま期待してなかったが、こいつは楽しくなってきたぜ)
 睨み合いの末、先に動いたのは拳凰だった。踏み込んで加速したストレートがカニミソを襲う。
「たあっ!」
 突如甲高い叫びが公園に響いた。どこからともなく飛んできた星型の魔法弾に、拳凰は吹き飛ばされる。受身を取って転がり素早く起き上がった拳凰は、攻撃の主をすぐに理解した。
「ぐ……不意打ちとはやりやがったなオレンジ」
「あたしだってあんたをやっつけたいんだから!」
 魔法少女に変身した智恵理が参戦。この戦いは二対一となる。
「しょうがねえ、まずは弱い方からぶっ倒すか」
 拳凰は智恵理に狙いを絞る。
(やば……勢いで飛び込んじゃったけど、あたしあと一回負けたら脱落……)
 自分の短絡的な行動を今更後悔した智恵理。青ざめたのも束の間、拳凰の拳はすぐそばにまで接近していた。
(やられる!)
 その時だった。カニミソが拳凰と智恵理との間に入り、拳凰に殴り飛ばされる。智恵理は直接殴られこそしなかったものの、腰を抜かしてへなへなとへたりこんでしまった。今の一発がクリーンヒットになったカニミソは、体が痙攣して起き上がれずにいる。
「勝負ついたな。つまんねー勝ち方だぜ」
 カニミソは戦闘不能、智恵理は戦意喪失。拳凰の勝利は決まった。
「そうだカニホスト、これ、お前に返すわ」
 拳凰はフェアリーフォンを倒れたカニミソの顔の近くに置く。
「お前にはチビ助を助けてもらった恩があるからよ、今度会った時に返してやろうと思ってたんだ」
「そ、そうだったんカニか……」
「そんじゃ返すもんも返したし、俺も家帰るわ。じゃあなお前ら」
 拳凰は二人への興味をなくしたように背を向け、公園の門を抜けて結界の外に出る。智恵理は地面にへたりこんだままその様子をぽかんと見ていた。
 拳凰の姿が見えなくなった後、智恵理ははっと気が付く。
「カ、カニミソ、あんた大丈夫!?」
「だ、大丈夫カニ。このくらい何てことないカニ」
 ようやく痺れから回復したカニミソは、智恵理の手を借りず自力で立ち上がる。
「あんた、どうしてさっきあたしを……?」
「当たり前カニ。妖精騎士として、魔法少女を傷つけさせるわけにはいかないカニ!」
「そ、そう……ありがと」
「智恵理が無事でよかったカニ。勝負には負けたけどフェアリーフォンは返してもらえたし。それじゃ俺んち戻るカニ」
 カニミソはフェアリーフォンを大事そうに握りながら、自宅へと魔法で飛んだ。

 カニミソの自宅に戻って智恵理はまた布団の上にぺたんとへたりこむ。先程から無性に顔が熱くなって仕方が無い。
「あれ、どうしたカニ智恵理、顔が赤いカニよ。まさか熱でもあるカニか!?」
「な、何でもないわよ!」
 急に顔を近づけたカニミソにびっくりして、思わず平手打ち。直後、慌てて謝る。
「ご、ごめん、痛かった?」
「大丈夫カニ。最強寺のパンチと比べたら何てことないカニ」
(……ったく、顔だけはイケメンなんだから)
 そう考えて自分の気持ちを否定しようとする智恵理だったが、カニミソの男らしい姿を見せられた今となっては、もう顔だけとは言えない。一度意識してしまうと、もうどうにもならなくなってしまうのだ。
「最強寺を倒せなかったことは心残りカニけど、これでやっと騎士団の仕事に戻れるカニ。給料も引き出せるようになったことだし、貧乏生活ともおさらばカニなー」
「えっ、あんたここから引っ越しちゃうの!?」
「そ、そのつもりカニが……」
 智恵理が妙なところに食いついたことに、カニミソはビクリとした。
「その、もう暫くここに住むつもりとか、ない? ほら、うちの近くに住んでた方が何かと便利だったりとか、しない?」
「え? 何でカニ?」
 きょとんとするカニミソ。
「だ、だってほら、こっちからあんたに連絡とる方法無いし……近くに住んでた方が直接会いにいけるじゃない!」
 大胆なことを言ってしまい、直後真っ赤になる智恵理。
「ああなるほど、それは確かに便利そうカニ。そうカニなー、山篭りの後だとここでの生活もそんなに不便には感じないだろうし、せっかくだからもう暫くここに住んでみるカニ」
「そ、そう、ありがと……」
「智恵理また顔が赤くなってるカニ。本当に熱があるんじゃないカニか!?」
「だ、大丈夫だから!!」
 突然額に触れてきたカニミソの手を振り払い、智恵理はあたふたする。
「べ、別に変な意味じゃないから! あんたにはこれからもあたしの優勝に協力してもらわなきゃ困るんだし……とにかく変な意味じゃないから!」
 初めての気持ちにどうしていいかわからない智恵理は慌てふためき、自分でも何を言っているのかわからなくなっていた。
 出て行こうとする智恵理を見て、カニミソは呼び止める。
「あ、俺が家まで送ってくカニ」
「別にいいから! クラスの子とかに見られたら恥ずかしいし……」
「? 魔法でワープするだけカニよ?」
 カニミソに言われて、智恵理は再び顔を真っ赤にした。
「それじゃ行くカニよー」
 肩に手を置かれ、智恵理は鼓動が高鳴る。
(やば……心臓の音聞かれそう……)
 ドキドキしながら縮こまる智恵理の様子を意にも介さず、カニミソは平然と智恵理の家に飛ぶ。
「着いたカニよ」
「あ、ありがと」
 智恵理は逃げるようにカニミソから離れる。
「それじゃあ智恵理、二次予選もそろそろ佳境カニ。俺も可能な限りサポートするから、これからも気を抜かず頑張るカニよ」
「う、うん」
 爽やかな激励を受けて、智恵理の心はますますときめく。
 手を振りながら自宅に戻るカニミソを、智恵理は何も言わず見送った。カニミソの姿が完全に消えた後、智恵理は三度みたび腰を抜かしてへたりこむ。
(やばいどーしよ。あたし恋、しちゃったかも)


<キャラクター紹介>
名前:諏訪すわ美波みなみ
性別:女
学年:中三
身長:147
3サイズ:77-56-78(Cカップ)
髪色:黒
髪色(変身後):茶
星座:山羊座
衣装:軍隊風迷彩服
武器:ロケットランチャー
魔法:ロケット弾を砲内に生成する
趣味:ミリタリー
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