脱衣ゲームでカップル成立 ~史上最強の淫魔、光堕ちしてキューピッドになる~

平良野アロウ

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第五章

第165話 脱衣ツイスターゲーム・6

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 ルーレットが示した――正確に言えば、ルーレットに無理矢理付け足された亮一への指示は、左手をピンクへ。
 そして今亮一の手の届く範囲にピンクの円は、確かに二つあった。

(いやそんな馬鹿な、まさか)
「……いいよ」

 ルシファーの意図を察したらしき真智が、亮一の目を見て囁く。

(本当にやっていいのか? でもやらなければ負けるわけだし……)

 亮一は形式的に葛藤してはみるものの、考えるまでもなく選択肢は一つだ。
 ためらいの表情を浮かべながら体はそれと相反するように、掌は勝手に胸へと動いていた。
 先っぽの突起を掌の中央に当てるように、真智の大きな乳輪をピンクの円に見立てて左手を置く。
 触れた瞬間、ぶわっと鳥肌が立って世界が変わるくらいの柔らかさ。指が勝手に吸い付き、心で抵抗しても体は体はその感触を堪能することを選んでいた。


(進藤の奴、真智の胸を揉んで……)

 音声と状況から察して心をざわつかせる優也だが、沙雪の尻が邪魔であちらの様子を窺うことはできない。

「小森君、右足赤、左手青ー」

 と、そこでリリムのアナウンス。指示自体は簡単なもので、左手を赤からすぐ手前の青に動かし、フリーの右足は元々置いていた場所から僅かに動かしたのみ。
 まるで狙いすましたように、優也の位置は沙雪のお尻を見やすい場所を維持された。ついそちらに見入ってしまって、真智の方への意識は途切れた。


「真智ちゃん、左手青、右足黄色ー」

 続く真智はといえば、左手を亮一の腕の下の青に置き右足は元々フリーの状態で置き場にしていた黄色から殆ど動かさずに済ませた。
 動きが最小限のため、直接的に接触している亮一への負担も最小限で済んだ。しかしそうであっても、元々非常に辛い体勢を維持している亮一の負担は大きいのだ。
 何せ真智の胸に触れている左手はほぼ浮かせた状態に近く、右腕一本に体重をかけて上体を支えているようなものなのである。

「進藤君大丈夫? どこか痛めてない?」
「ああ、大丈夫。気にすることないよ」

 亮一は爽やかな笑顔を向けるも目が笑っておらず、いろんな意味で無理しているのは明白だった。
 喋った拍子に胸を掴む手に少し力が入ってしまい、亮一ははっとして手を緩める。

「進藤君は優しいね。そういうところ、やっぱり好きだな」

 真智がそう伝えると亮一は何か言おうとしたが、それを遮るように真智は続ける。

「あたし、進藤君のこと、最初は単なるチャラい人だと思ってた。でもあの日自販機の前で話した時に、思ってたのとちょっと違うなってなって。それから教室や部活で一緒に過ごす内に凄く思いやりのある人だって気付いて……今だって、ほら。あたしに体重かけないように、凄く気を遣ってくれてる」
「……当然だろ、そのくらい」
「やっぱり進藤君はモテて当然の人だよ。あたしなんて所詮胸しか取り柄ないから、こんな色仕掛けに頼ることになって、それでも結局進藤君には好きになってもらえないんだなって」
「……少し、考えさせてくれ」

 亮一はすぐに返事が出なかった。女子から愛の告白を受けたことは数あれど、これほどの状況になったのは初めてでどうしていいかわからなかった。


「沙雪ちゃん、右足黄色、左足青ー」

 一方の沙雪は、フリーになっている右足は既に黄色を踏んでいたためそのままに。青の位置を確認しようと後ろを振り返れば、自分のお尻をガン見している優也の顔が見えた。

「ぴっ……」

 か細い声が上がる。優也ははっとして目を逸らした。

「ご、ごめん……」
「あ、あう……」

 しかし今一番の問題はそこではない。自分のいる場所近くにある青二つは優也の両手で既に埋まっており、残るは一番遠くにあるものだけ。即ちそこを踏むには脚を大きく開く必要がある。背が低くどちらかと言えば脚の短い方である沙雪にとっては尚更だ。

(負けたくない、勝って小森君と付き合いたい、けど……)

 それは真後ろにいる優也に、乙女の大事な所を全部晒すということに他ならない。
 だが沙雪がふと正面を向けば、亮一に堂々と胸を揉まれている真智の姿が。

(寺井さんは凄いな……あれだけスタイル良かったら、そのくらいできちゃうよね……それでも、私が寺井さんに勝つには……)

 沙雪の中で、何かが吹っ切れる音がした。

(……もういい。どうせ……)

 優也の見上げるお尻が、きゅっと窄まった。

(どうせお付き合いしたら見せることになるんだもん!)

 優也の両手を下にしてガバッと開かれた脚。両手を床について四つ足に屈んだ状態であるため、誰にも見せたことのない乙女の秘部も、それよりもっと恥ずかしい後ろの穴も、何もかもが曝け出された。

(あああああどうしよう恥ずかしくて死んじゃうよぉ……人に見せられる状態になんかしてないしましてや好きな人になんて……私お尻の穴にまで毛生えてるんだよ!? 汚いって思われたらどうしよう……)

 勢い任せでやってはみたものの、その直後に猛烈に後悔。
 小学生のように幼いルックスとは裏腹に、そちらは普通に歳相応。むしろ濃い方と言えるくらいであり、未処理のジャングルが後ろ側まで広がっていた。
 周りを囲うように毛の生えたお尻の穴をひくつかせながら身を小刻みに震わせ、羞恥と辛い姿勢に耐える。
 むしろ先に耐えられなくなったのは、優也の方であった。

(立松さん、ごめん……)

 同じ趣味を持つ友達で、大切に思ってはいるけれど恋愛対象としても性欲の対象としても見ていない。そのつもりでいた子の一番恥ずかしい所をまじまじと見せられて、その背徳感が劣情となって押し寄せてきて。思春期童貞の情緒は、とてもそれに耐える力を持ち合わせてはいなかった。
 それで出してしまったのである。パンツの中で。

(ああ、情けない。見ただけで出ちゃうなんて……せめてどうか誰も気付かないでいて欲しい)

 自己嫌悪に落ち込んでいても、ゲームはまだ続いている。たとえこんなことになっても、指定の部位をシートにつけた姿勢は維持していたのだ。
 そして我に返れば――俗に言う賢者タイムに入って異様に心が落ち着いてみれば、自分の股間に感じる不快感が負傷に気になってくる。

(うわ、パンツの中、気持ち悪……というかこの状態で動かなきゃいけないんだよな……)

 げんなりしながら顔を上げるとまた沙雪の大事な所が目に入り、一回出して萎んだものがまた硬くなってきた。それがパンツの中で動くことで付着した液体を伸ばして広げ、ますます嫌な気持ちにさせられるのである。
 と、その時だった。

「真智ちゃん、アウトー」

 急にリリムのアナウンスが入ったので、優也は慌ててそちらに顔を向けた。
 ルーレットの上に表示された顔のアイコンは、まだ沙雪のままだった。つまり亮一のルーレットの指示が出ていない段階で、真智がミスをしたということである。



「勝者は小森優也、立松沙雪ペア!」
(一体何が……?)

 優也の視線は、沙雪の股の間から覗く陸上部ペアのシートへと向く。
 実のところ、沙雪が脚を大きく開いたことであちらの様子はここからずっと見える状態になっていたのだ。だが亮一がそのことに気付いたのはたった今。それほどにまでに、沙雪の陰部が亮一の視線と意識を奪っていたのである。
 真智は亮一に胸を揉まれたまま、尻餅をついた姿勢になっていた。
 ゲームが終わったとわかるや、沙雪はぺたんと地べたに座り込み捲れたTシャツを直した。それが再び優也の視界を遮る目隠しとなる。
 陸上部ペアに一体何があったのか。それはすぐに、亮一の口から語られた。

「何だよ寺井、何で自分から負けにいった!? それで身を退いたつもりなのか!? それとも……」

 沙雪と小森をくっつけて俺を失恋させる気か、と言いかけて途中でやめる。

「身を退いたってのは、合ってる。あたしじゃ進藤君には好きになってもらえないって思ったら、こんな悪い女みたいな色仕掛けでどうにかしようとしてる自分が情けなく思えて……」
「っ……俺はな、君の告白を受け入れようと思ってたんだぞ!」
「えっ」

 全くもって思いもよらない言葉を好きな人の口から聞かされて、真智はぽかんと口を開けて目を見開く。

「俺は寺井をちゃんと魅力的な子だと思ってる。それに、色々な境遇で共感を覚えた。だから俺は君の気持ちに応えたいと、君と付き合いたいと思う」
「あ……う、うん! ありがとう! 私も進藤君が大好き!」
「カップル成立、おめでとうございまーす!」

 真智が花咲く笑顔で応えると、カップル成立と見るや早速リリムが飛んで来た。

「ところで真智ちゃん、ルールだからちゃんとぱんつは脱ごうね!」

 リリムに指摘されると、真智ははっとして、告白成功の勢いで上がったテンションのままその場で腰を浮かせて一気にショーツを脱ぎ捨てた。
 陰毛の形は中心線にだけ残した細めの楕円形。今日ビキニを着るだけあって、決してはみ出たりしないよう万全の手入れを施している。
 そうして一糸纏わぬ姿になった真智は、勢い余ってこの場で抱いてくれと言わんばかりに亮一の前で脚を開いた。
 だけど亮一のぎょっとした顔を見て、自分がどんな奇行をしたのかに気が付き顔を真っ赤にしながら脚をピッタリ閉じた。

「あ、あはは……さっきのは、見なかったことに……」
「あ、うん」

 お互いちょっと気まずい様子で目を合わせられず、真っ赤に染まった頬を人差し指で掻いた。


 一方でルシファーはといえば、勝った手芸部ペアの方に向かっていた。二人の前に大きな翼を広げてしゃがみ、亮一の視線から真智の裸体を隠す役割も兼ねているようであった。

「さて、勝ったお二人はこれにてカップル成立となるわけですが」

 ルシファーがそう言うと、沙雪は脚を震わせながら一旦立ち上がり優也と向き合う形で座り直す。

「あの……えっと……」
「えーと、立松さん。ルール上お付き合いすることになったわけなんだけど……」

 沙雪が言い淀んでいると、優也の方から切り出した。
 ゲームには勝ったものの向こうが結ばれたため失恋した立場となる優也であるが、一回射精したせいもあってか妙に冷静になっていた。

(真智の件はもう、仕方がないよな。ライバルがあんなイケメンじゃ、最初から勝ち目のない戦いだったんだ)

 或いはそう思い込むことによって、この悲しみをどうにか晴らそうとしているか。
 結局優也の方も黙ってしまい、気まずい沈黙が流れる。

「あっあの」

 沈黙を破ったのは、沙雪の方であった。

「わた、私、小森君のことが好きで……」
「えっ? あ、えーと……そっか。そうなんだ。立松さんが僕のことを好きだから、こうしてペアを組んで……」

 優也の認識では、このゲームにおける沙雪は自分と真智と亮一の三角関係になぜか巻き込まれた部外者というものであった。沙雪が自分のことを好きだという可能性が、完全にすっぽ抜けていたのだ。
 あまりに寝耳に水な出来事に優也は唖然とするばかりであった。だが考えてみれば当たり前のことだった。

「立松さん」
「はい」

 覚悟を決めて沙雪の目を見ると、沙雪は緊張した様子ながら目を合わせてきた。

「付き合って……みようか」

 優也はそう言ってはみたものの、沙雪の返事はない。その代わり、彼女の目から涙がぽろぽろと零れ落ちた。

「立松さん!?」
「あ、ご、ごめん。あまりに嬉しくって……」
「カップル成立、おめでとうございます」

 ルシファーが優しく微笑んで二人を讃えると、二人は途端に恥ずかしくなって互いに顔を俯かせた。



 四人に天使の加護を付与し、女子二人に服を返し、諸々の説明も終えた。

「では皆さんを元の世界にお帰し致しますが、その前に何か言いたいことはございませんか?」
「あっ、じゃあ僕から」

 すると手を挙げたのは優也である。
 照れ臭そうに目を伏せながら、優也は真智の側へと一歩前に出る。

「真智、その……おめでとう」
「優也と沙雪ちゃんこそ。てか優也ってば、やーっと沙雪ちゃんの気持ちに気付いたんだからー」
「はは……」

 君は僕の気持ちに気付かなかった癖に、とは思ったけど言わなかった。

「でもよかったー、あたしの恋が叶っただけじゃなくて、優也にも彼女ができて。今度ダブルデートとかしようね!」
「うん。お互い恋人ができても、友達でいてくれる?」
「当たり前じゃん。あたし達は一生親友だよ!」

 笑顔でサムズアップしてくる真智に、優也は苦笑いを返すしかなかった。

「他にはいませんか」
「あの……」

 おずおずと控えめに挙手したのは沙雪であった。

「その……亮一、君」
「え、何!?」

 まさか今の沙雪から名前を呼ばれたことが信じられず、亮一は焦って挙動不審に顔を強張らせた。

「さっきのゲーム中の寺井さんとの話、少し聞いちゃってた……その、ごめんなさい!」
「あ、え? え?」

 突然深々と頭を下げて謝られて、亮一は困惑。まさか自分が沙雪を好きだということを知られたのかと焦る。

「私、わざと亮一君を避けてた。そういう見た目した男の人が苦手だったから……亮一君が怖い人になっちゃったのかと思って。本当にごめんなさい。でも亮一君、本当は昔と変わってなかったんだね。寺井さんとの話を聞いて、そのことに気付かされた」
「……そっか。そういうことだったんだ」

 かっこよくなりたくて磨いたファッションセンスが、好きな人のタイプから致命的にずれていた。ただそれだけの話だったのである。

「その、沙雪、おめでとう。俺がいなくなってからどうしてたか心配してたけど、いい人と出会えたようで本当によかったよ」
「亮一君の方こそ、寺井さんとお幸せに」

 一度はすれ違った二人は、無事仲直りして爽やかな幕切れ。


 優也も亮一も自分の気持ちを伝えることなく、初恋の思い出として終わらせることを選んだ。
 そして自分を好きでいてくれる人の気持ちに応え、新しい恋と共に生きてゆくことを選んだ。
 恋を叶えて幸福に満ちた恋人と共に元の世界に帰ってゆく優也と亮一は、どこか寂しげで、でもどこか満ち足りた顔をしていた。


「ねえ先生、男子達はホントにこれで幸せになれたのかな?」
「まあ、暫くは未練が残ることもあるかもな。だがいつか必ず、この相手を選んでよかったと思う日が来るさ。少なくとも俺は、この組み合わせの方が相性がいいと思ってるわけだしな」
「そっかぁ」
「恋を叶える者がいれば、それに想いを寄せる者が恋に敗れることにもなる。それでもできる限り沢山の人間を幸せにするのが、俺達キューピッドの務めだ。そうは思わないか」

 ルシファーが顔を向けた先は、リリムではなかった。リリムもそれに同調して同じ方に顔を向ける。
 二人が見ている先は、二人の斜め後ろにあるこの部屋の隅の角。

「ルナティエル一派の構成員、マリン・オルティス」

 彼女は最初からずっと、そこにいた。
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