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第五章
第161話 脱衣ツイスターゲーム・2
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話は遡ること昨日の午後、今回の脱衣ゲームの打ち合わせにて。
「え……先生それどゆこと!? 幼馴染カップル二組じゃないの!?」
ルシファーからペアの組み合わせを聞かされたリリムは、きょとんと目を丸くした。
「前にも言ったが、脱衣ゲームは女子の片想いを叶えるのには向いているが男子の片想いを叶えるには不向きだ。単純にこの組み合わせの方が成立させやすいというのがまず一つ。性格や身体面等も含む様々な相性を考慮した結果というのがもう一つだ」
「でも男子達はこれに納得するの?」
「誰かの恋が叶うというのは、別の誰かが悲しむ結果を伴う可能性がある。そんなのは当たり前のことだ。誰かの想いを成就させるために別の誰かの想いを切り捨てねばならないのは、キューピッドをやる上で必要なことなんだよ」
脱衣ゲームでカップル成立した人に片想いをしていて、結果として失恋することになった人。言い方を変えるならば『ルシファーに選ばれなかった人』について、リリムはいくつか心当たりがあった。
「尤もそれを善しとせず、複数人の異性と同時進行させたがってるキューピッドも中にはいるようだがな……」
「それって……」
「ああ、そういうわけで今回の参加者達には、早急にカップル成立してもらわないといけない事情がある。まあ基本的には俺の選んだ組み合わせで成立させるつもりだが、男子達の努力次第で幼馴染カップルの成立の可能性もなくはないだろうな」
そして現在、ルシファー曰く事情があるという脱衣ゲームにて。
真智が上半身の衣服を脱ぎ、ブラジャー姿になった。真智に片想いをしている優也が露骨に挙動不審な態度をとる中で、その真智から片想われている亮一はといえば、極力真智の方を見ないようにしてあげていた。
今日のプールでも陸上部員の男子達がでかいでかいと騒いでいた真智の胸。
内外共にイケメンの亮一は女子から大変モテており、中学や以前の高校でも女子から何度も告白されていた。勿論その中には、胸の大きい子もいた。
胸が大きいことは、男性の気を引くための女性の魅力としては大変優れたものといえるだろう。だがだからといって、亮一はそれで好きになるような男ではない。
ちなみにモテていることと慣れていることは別である。告白を断り続けてきた亮一の女体への耐性は、一般的な思春期童貞のそれであった。
好きにはならないにしても、下半身が反応してしまうのは致し方ないことなのだ。
極力真智の方を見ないようにはしていたものの、ついついチラ見してしまうのも致し方のないこと。
そしてそういう時に限って、当の真智と目が合うのである。
「あ……」
「あー……その、すまん寺井」
「う、うん。気にしてないから。進藤君に見られる分には、何も嫌じゃないから」
「お、おう……」
女子からストレートに好意を向けられることには慣れているが、こんな状況ではどうにも気まずい。
そうしていると、ルシファーがアナウンスを始めた。
「そろそろ宜しいでしょうか。二戦目は先程ミスした進藤君からスタートです」
亮一の確認をとることなく、ルーレットが回り出す。慌ててそちらに視線を向ければ、針が示すのは左足が緑、右足が赤。亮一は一番隅で、左右に脚を開いて両端の円を踏んだ。
(今はあまり考えないようにしよう。とにかく勝つことだけに集中するんだ)
亮一の次は優也の番。指示は右手が赤で右足が黄色。右手を赤い円につきながら、右足を左後ろの黄色い円に置いた。
男子勢が終わればいよいよ女子の番。まずは既に一枚脱いでいる真智からである。針が止まった先は、右手が緑で左手が赤だ。
シートに踏み込んで歩く真智を見て、手はフリーになっている亮一は掌を広げて静止のジェスチャー。
「待った寺井。あまりこっちに来ればさっきみたいに接触からのミスになりかねない。できるだけ離れた位置でやった方が有利だ」
「あ、うん」
真智は素直に従い、途中でストップして四つん這いになり両掌を指定された円に置いた。
これが亮一からすれば、深い胸の谷間が丁度いい感じに見える位置である。当然、亮一の心中は穏やかではない。
(狙ってやってるのか……?)
顔を横に向けて視界からシャットアウトしようと思うと、隣でゲームに挑む沙雪の姿が目に入った。
沙雪への指示は右足を青、左足を黄色。沙雪は一歩進んでまず右足を青の円に置くと、脚をクロスさせるようにして左足を黄色の円に置いた。
特別大きくバランスを崩すような姿勢というわけではないがこれはこれでなかなか辛く、両脚はプルプル震えていた。
「立松さん、身体を後ろに向けて。そうすれば脚がまっすぐになるから」
「う、うん……」
優也のアドバイスを受けた沙雪はゆっくりと足を小刻みに動かし、円から出ないようにしつつ体の向きを変える。
が、その時だった。動いた拍子に急に身体のバランスが崩れ、沙雪はぽてんと尻餅をついた。
「沙雪ちゃん、アウトー」
まさかの一手目で即アウトに、その場にいた一同は唖然。しかし沙雪の運動音痴ぶりについては優也も真智も亮一もよく知るものであったため、納得といえば納得であった。
そんな中で顔を青くしたのは優也である。
(いや待って。向こうは運動部二人なのにこっちは立松さん抱えてるの不利すぎじゃない!? このままじゃ真智と進藤がくっつくコース一直線だ……僕がどうにかしないと……)
「では立松さん、服を脱いで下さい」
考え込んでいたところでルシファーからそのアナウンスがあり、優也は思わず沙雪の方に顔を向けてしまった。他意はないはずだが、あくまでも男の本能がそうさせた。
勿論亮一の視線も、沙雪に吸い寄せられていた。長年想い続けていた女の子が、自分と恋敵の見ている前で服を脱ぐ。心臓がドッドッと爆音を立てた。
沙雪は身を縮こませてオロオロし皆の表情を窺うように首を右往左往させると、やがて諦めたように両手を下からTシャツの中に入れた。
くすんだピンクのショートパンツがぽとっと足元に落ちる。表面上の沙雪の見た目は、何も変わっていなかった。何せ今日の沙雪の服装というのが、膝くらいまで丈のあるぶかぶかのTシャツをワンピースのように着ているのである。男子勢からしてみれば、がっかりしたようなほっとしたような複雑な気持ちであった。
「あ、あの、これでいいですか……?」
「ええ、構いませんよ」
我ながらこれは卑怯だと思ったのか、沙雪はオロオロしながらルシファーの顔を見上げ尋ねた。ルシファーに快く認めてもらえて、沙雪は平たい胸を撫で下ろす。
真智がたまたま今日可愛い下着を着けてきていたのとはまた違うベクトルで、今日の服装に助けられた形である。
何にしても色々な面で対照的な二人であると、リリムは思った。
片や好きな人へのアプローチに使えると思ったなら恥ずかしくても利用して、もう片や裸体を見せないことに使えると思ったなら卑怯だと思っても利用するのである。
見せるか見せないか、それぞれのスタンスの違いが、この一回目の脱衣で顕著に表れたようであった。
「さて、では三戦目と参りましょう。先程ミスした立松さんからスタートです」
「は、はい……」
沙雪はびくびくしながら、シートの前まで来た。不安に苛まれるのは優也である。
(まずいな……一番最初にやる人は辛い体勢でいる時間が一番長くなるということだ。ただでさえ立松さんはこういうゲームが苦手だろうに、より立松さんのミスを助長するルールじゃないか)
止まった針が指し示すのは、右手が青で左足が緑。今回も沙雪はシートの一番外側に位置取ろうとするが、優也はそこに声をかけた。
「ごめん立松さん、一番外側じゃなくその一歩手前に手足を置いて。僕に考えがあるんだ」
「は、はい」
沙雪はその指示に従い、しゃがんで手足を優也に指定された場所に置く。だが当然ながら体勢自体は一番隅の時と何も変わらない。運動音痴が長く維持するのには心許ない体勢だろう。
沙雪を心配しているのは、勿論亮一もだ。小学生の頃とちっとも変らぬ運動音痴ぶりに、心がきゅっと窄まった。
(沙雪……できることなら俺が力になってやりたいけど……くそっ、何で敵同士にされちまったんだよ)
そうこうしているうちに亮一のルーレットも止まり、亮一は左手と左足を青に置いた。
次は優也の番。ルーレットが指し示すのは右手が赤で左足が黄色。それを見た優也は何思ったか沙雪のすぐ前まで歩いていくと、沙雪が右手を置いた青のすぐ横の赤に右手を置いた。
(えっ? えっ? 何? 何でこんなに近く!?)
優也の思いもよらない大胆な行動に、沙雪の心臓が爆音を立てる。だがまだそれで終わりではない。優也の左足は、沙雪の股の間を通して一番奥の黄色の円に置かれたのである。沙雪は思わず変な声が出た。
「ひゃえっ!?」
「ごめん立松さん、理由を話すから」
頬を染め瞳を揺らす沙雪に、優也は小声でそっと話しかけた。
「立松さんがこういうゲームを苦手なのは知ってる。だから必要となったら、遠慮なく僕の体を支えに使って」
そう言うが返事はなく、沙雪はぽーっとしていた。
「立松さん? もしかして、嫌だった?」
「い、いえ、そんなことは……ありがたく使わせていただきますっ!」
震えた声で返事をする沙雪は、恍惚とした表情を隠すこともできなかった。好きな人から急に間近でそんなことを言われて、今にもおしっこが漏れそうなくらいキュンとしてしまった。
とりあえずはやや遠慮がちに、脚の上に軽く腰を下ろして身体を休めようとした。
瞬間、ぴくっと優也の脚が痺れたように動く。それに伴って刺激が沙雪にも伝わり、沙雪は「ひゃん」と上擦った声を上げる。
「ご、ごめん」
「え、あ、はい」
丁度股間で座る形になったが故に、それに気付いた優也が反射的に身震いしてしまい、その反応が沙雪の股間にダイレクトに伝わったわけである。
尤もこれで両者がミスになるほど体勢を崩すことはなく、そこは一件落着である。
改めて沙雪は優也の脚に座り直し、一旦優也にその身を預けた。
(よくよく考えたら僕、とんでもないことを提案してしまったのでは……)
今更後悔しても、もう事は起こってしまっていた。
亮一から向けられる憎悪の視線が、痛いけれどどこか気持ちいい。
(何だ今のは……沙雪に一体何をした!?)
一連の流れをまじまじと見せられた亮一は、胸中に蟲が這いずり回るような感覚を覚えた。
あまりの光景に気が気でなかった亮一だが、ふと顔の左側に影が差したことに気が付きそちらを向けば、目と鼻の先にFカップがあった。
右足を黄色、左足を赤に置いた真智が亮一のしゃがんでいるすぐ前に立ち、前屈みになって丁度亮一の顔のすぐ近く――ともすれば接触しかねない距離に胸を持ってきていたのである。
「進藤君、向こうばかり気にするよりも、さ……」
「あ、ああ……今は勝つことに集中だな」
パートナー同士互いに意思を確認し合い頷く。真智が伝えんとしていることはそれではないのかもしれないが、亮一はそういうことに、強引にでもそういうことにしておいた。
一転して、嫉妬の炎に燃え上がるのは優也である。
(あいつ、真智の胸をあんな間近で……)
どちらのペアも身体的接触を厭わなくなり、愛憎渦巻く脱衣ツイスターゲームは本格化し始めた。
ルシファーの蒼い眼は、無心にそれを見下ろしていた。
「え……先生それどゆこと!? 幼馴染カップル二組じゃないの!?」
ルシファーからペアの組み合わせを聞かされたリリムは、きょとんと目を丸くした。
「前にも言ったが、脱衣ゲームは女子の片想いを叶えるのには向いているが男子の片想いを叶えるには不向きだ。単純にこの組み合わせの方が成立させやすいというのがまず一つ。性格や身体面等も含む様々な相性を考慮した結果というのがもう一つだ」
「でも男子達はこれに納得するの?」
「誰かの恋が叶うというのは、別の誰かが悲しむ結果を伴う可能性がある。そんなのは当たり前のことだ。誰かの想いを成就させるために別の誰かの想いを切り捨てねばならないのは、キューピッドをやる上で必要なことなんだよ」
脱衣ゲームでカップル成立した人に片想いをしていて、結果として失恋することになった人。言い方を変えるならば『ルシファーに選ばれなかった人』について、リリムはいくつか心当たりがあった。
「尤もそれを善しとせず、複数人の異性と同時進行させたがってるキューピッドも中にはいるようだがな……」
「それって……」
「ああ、そういうわけで今回の参加者達には、早急にカップル成立してもらわないといけない事情がある。まあ基本的には俺の選んだ組み合わせで成立させるつもりだが、男子達の努力次第で幼馴染カップルの成立の可能性もなくはないだろうな」
そして現在、ルシファー曰く事情があるという脱衣ゲームにて。
真智が上半身の衣服を脱ぎ、ブラジャー姿になった。真智に片想いをしている優也が露骨に挙動不審な態度をとる中で、その真智から片想われている亮一はといえば、極力真智の方を見ないようにしてあげていた。
今日のプールでも陸上部員の男子達がでかいでかいと騒いでいた真智の胸。
内外共にイケメンの亮一は女子から大変モテており、中学や以前の高校でも女子から何度も告白されていた。勿論その中には、胸の大きい子もいた。
胸が大きいことは、男性の気を引くための女性の魅力としては大変優れたものといえるだろう。だがだからといって、亮一はそれで好きになるような男ではない。
ちなみにモテていることと慣れていることは別である。告白を断り続けてきた亮一の女体への耐性は、一般的な思春期童貞のそれであった。
好きにはならないにしても、下半身が反応してしまうのは致し方ないことなのだ。
極力真智の方を見ないようにはしていたものの、ついついチラ見してしまうのも致し方のないこと。
そしてそういう時に限って、当の真智と目が合うのである。
「あ……」
「あー……その、すまん寺井」
「う、うん。気にしてないから。進藤君に見られる分には、何も嫌じゃないから」
「お、おう……」
女子からストレートに好意を向けられることには慣れているが、こんな状況ではどうにも気まずい。
そうしていると、ルシファーがアナウンスを始めた。
「そろそろ宜しいでしょうか。二戦目は先程ミスした進藤君からスタートです」
亮一の確認をとることなく、ルーレットが回り出す。慌ててそちらに視線を向ければ、針が示すのは左足が緑、右足が赤。亮一は一番隅で、左右に脚を開いて両端の円を踏んだ。
(今はあまり考えないようにしよう。とにかく勝つことだけに集中するんだ)
亮一の次は優也の番。指示は右手が赤で右足が黄色。右手を赤い円につきながら、右足を左後ろの黄色い円に置いた。
男子勢が終わればいよいよ女子の番。まずは既に一枚脱いでいる真智からである。針が止まった先は、右手が緑で左手が赤だ。
シートに踏み込んで歩く真智を見て、手はフリーになっている亮一は掌を広げて静止のジェスチャー。
「待った寺井。あまりこっちに来ればさっきみたいに接触からのミスになりかねない。できるだけ離れた位置でやった方が有利だ」
「あ、うん」
真智は素直に従い、途中でストップして四つん這いになり両掌を指定された円に置いた。
これが亮一からすれば、深い胸の谷間が丁度いい感じに見える位置である。当然、亮一の心中は穏やかではない。
(狙ってやってるのか……?)
顔を横に向けて視界からシャットアウトしようと思うと、隣でゲームに挑む沙雪の姿が目に入った。
沙雪への指示は右足を青、左足を黄色。沙雪は一歩進んでまず右足を青の円に置くと、脚をクロスさせるようにして左足を黄色の円に置いた。
特別大きくバランスを崩すような姿勢というわけではないがこれはこれでなかなか辛く、両脚はプルプル震えていた。
「立松さん、身体を後ろに向けて。そうすれば脚がまっすぐになるから」
「う、うん……」
優也のアドバイスを受けた沙雪はゆっくりと足を小刻みに動かし、円から出ないようにしつつ体の向きを変える。
が、その時だった。動いた拍子に急に身体のバランスが崩れ、沙雪はぽてんと尻餅をついた。
「沙雪ちゃん、アウトー」
まさかの一手目で即アウトに、その場にいた一同は唖然。しかし沙雪の運動音痴ぶりについては優也も真智も亮一もよく知るものであったため、納得といえば納得であった。
そんな中で顔を青くしたのは優也である。
(いや待って。向こうは運動部二人なのにこっちは立松さん抱えてるの不利すぎじゃない!? このままじゃ真智と進藤がくっつくコース一直線だ……僕がどうにかしないと……)
「では立松さん、服を脱いで下さい」
考え込んでいたところでルシファーからそのアナウンスがあり、優也は思わず沙雪の方に顔を向けてしまった。他意はないはずだが、あくまでも男の本能がそうさせた。
勿論亮一の視線も、沙雪に吸い寄せられていた。長年想い続けていた女の子が、自分と恋敵の見ている前で服を脱ぐ。心臓がドッドッと爆音を立てた。
沙雪は身を縮こませてオロオロし皆の表情を窺うように首を右往左往させると、やがて諦めたように両手を下からTシャツの中に入れた。
くすんだピンクのショートパンツがぽとっと足元に落ちる。表面上の沙雪の見た目は、何も変わっていなかった。何せ今日の沙雪の服装というのが、膝くらいまで丈のあるぶかぶかのTシャツをワンピースのように着ているのである。男子勢からしてみれば、がっかりしたようなほっとしたような複雑な気持ちであった。
「あ、あの、これでいいですか……?」
「ええ、構いませんよ」
我ながらこれは卑怯だと思ったのか、沙雪はオロオロしながらルシファーの顔を見上げ尋ねた。ルシファーに快く認めてもらえて、沙雪は平たい胸を撫で下ろす。
真智がたまたま今日可愛い下着を着けてきていたのとはまた違うベクトルで、今日の服装に助けられた形である。
何にしても色々な面で対照的な二人であると、リリムは思った。
片や好きな人へのアプローチに使えると思ったなら恥ずかしくても利用して、もう片や裸体を見せないことに使えると思ったなら卑怯だと思っても利用するのである。
見せるか見せないか、それぞれのスタンスの違いが、この一回目の脱衣で顕著に表れたようであった。
「さて、では三戦目と参りましょう。先程ミスした立松さんからスタートです」
「は、はい……」
沙雪はびくびくしながら、シートの前まで来た。不安に苛まれるのは優也である。
(まずいな……一番最初にやる人は辛い体勢でいる時間が一番長くなるということだ。ただでさえ立松さんはこういうゲームが苦手だろうに、より立松さんのミスを助長するルールじゃないか)
止まった針が指し示すのは、右手が青で左足が緑。今回も沙雪はシートの一番外側に位置取ろうとするが、優也はそこに声をかけた。
「ごめん立松さん、一番外側じゃなくその一歩手前に手足を置いて。僕に考えがあるんだ」
「は、はい」
沙雪はその指示に従い、しゃがんで手足を優也に指定された場所に置く。だが当然ながら体勢自体は一番隅の時と何も変わらない。運動音痴が長く維持するのには心許ない体勢だろう。
沙雪を心配しているのは、勿論亮一もだ。小学生の頃とちっとも変らぬ運動音痴ぶりに、心がきゅっと窄まった。
(沙雪……できることなら俺が力になってやりたいけど……くそっ、何で敵同士にされちまったんだよ)
そうこうしているうちに亮一のルーレットも止まり、亮一は左手と左足を青に置いた。
次は優也の番。ルーレットが指し示すのは右手が赤で左足が黄色。それを見た優也は何思ったか沙雪のすぐ前まで歩いていくと、沙雪が右手を置いた青のすぐ横の赤に右手を置いた。
(えっ? えっ? 何? 何でこんなに近く!?)
優也の思いもよらない大胆な行動に、沙雪の心臓が爆音を立てる。だがまだそれで終わりではない。優也の左足は、沙雪の股の間を通して一番奥の黄色の円に置かれたのである。沙雪は思わず変な声が出た。
「ひゃえっ!?」
「ごめん立松さん、理由を話すから」
頬を染め瞳を揺らす沙雪に、優也は小声でそっと話しかけた。
「立松さんがこういうゲームを苦手なのは知ってる。だから必要となったら、遠慮なく僕の体を支えに使って」
そう言うが返事はなく、沙雪はぽーっとしていた。
「立松さん? もしかして、嫌だった?」
「い、いえ、そんなことは……ありがたく使わせていただきますっ!」
震えた声で返事をする沙雪は、恍惚とした表情を隠すこともできなかった。好きな人から急に間近でそんなことを言われて、今にもおしっこが漏れそうなくらいキュンとしてしまった。
とりあえずはやや遠慮がちに、脚の上に軽く腰を下ろして身体を休めようとした。
瞬間、ぴくっと優也の脚が痺れたように動く。それに伴って刺激が沙雪にも伝わり、沙雪は「ひゃん」と上擦った声を上げる。
「ご、ごめん」
「え、あ、はい」
丁度股間で座る形になったが故に、それに気付いた優也が反射的に身震いしてしまい、その反応が沙雪の股間にダイレクトに伝わったわけである。
尤もこれで両者がミスになるほど体勢を崩すことはなく、そこは一件落着である。
改めて沙雪は優也の脚に座り直し、一旦優也にその身を預けた。
(よくよく考えたら僕、とんでもないことを提案してしまったのでは……)
今更後悔しても、もう事は起こってしまっていた。
亮一から向けられる憎悪の視線が、痛いけれどどこか気持ちいい。
(何だ今のは……沙雪に一体何をした!?)
一連の流れをまじまじと見せられた亮一は、胸中に蟲が這いずり回るような感覚を覚えた。
あまりの光景に気が気でなかった亮一だが、ふと顔の左側に影が差したことに気が付きそちらを向けば、目と鼻の先にFカップがあった。
右足を黄色、左足を赤に置いた真智が亮一のしゃがんでいるすぐ前に立ち、前屈みになって丁度亮一の顔のすぐ近く――ともすれば接触しかねない距離に胸を持ってきていたのである。
「進藤君、向こうばかり気にするよりも、さ……」
「あ、ああ……今は勝つことに集中だな」
パートナー同士互いに意思を確認し合い頷く。真智が伝えんとしていることはそれではないのかもしれないが、亮一はそういうことに、強引にでもそういうことにしておいた。
一転して、嫉妬の炎に燃え上がるのは優也である。
(あいつ、真智の胸をあんな間近で……)
どちらのペアも身体的接触を厭わなくなり、愛憎渦巻く脱衣ツイスターゲームは本格化し始めた。
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