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第五章

第148話 脱衣アーチェリー・3

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 翼を広げ青空に浮かぶルシファーは、不敵に笑みを浮かべてゆっくりと弓を引いた。そして矢を放った瞬間が見えないほどの早業で、正面に浮かぶ的の中央を射抜いた。的の上には、当たり前のように『100』の数字が表示される。
 すぐさま次の的、そのまた次の的へ、巧みに翼を動かして空中に静止したまま体の向きを変え、的確に満点を奪ってゆく。
 ルシファーの空中での精密動作性は、驚くべきものである。常に重力に抗い羽ばたきで浮かんでいる以上、同じ座標に静止するのは決して易しいことではない。ましてやその状態で体の向きだけを変えるのは尚更だ。

 全体の半分の的を一点も取りこぼすことなく撃ち終えたところで、ルシファーが次に矢を向けたのは自身の真下にある的。脚を大きく開いて股の間を通すアクロバットな射撃を見せ、これも百点満点。
 得意分野だからこれなら勝てると思っていたテーミアは、雲行きが怪しくなってきたのを感じた。

(まさかこのまま完全パーフェクトやるつもりじゃ……)

 自分の番が来る前から鼓動がうるさくなってきたテーミアである。
 ルシファーはフィギュアスケートの要領で空中を滑るように身を回転させ、流麗な動きで弓を引き七つ目の的を射る。言うまでもなくこれも満点だ。
 更にそこから身体を海老反りにして、背後の的を狙い撃ち。更にそのまま足を空中に振り上げて上下逆さまの姿勢になると、ブレイクダンスのように回転しながら九つ目の的を撃ち抜いた。
 これで九連続パーフェクト。あと一つで、千点満点の完全パーフェクト達成となる。リリムとテーミアが手に汗握る中、ルシファーは両翼を大きく広げ、仰向けになって空中に寝転ぶような姿勢をとって高い位置にある最後の的を見上げた。

「フィニッシュといこうか」

 力いっぱい弓を引き天の頂に向かって垂直に放たれた矢は的の中央を射抜き――『99』のスコアを表示させた。

「おっと、少し狙いが逸れたか」

 驚異的な合計点『999』を青空に映し、ルシファーの番は終了。前半は普通にやっていたかと思いきや、後半は一転してトリッキーなパフォーマンスの連続。勿論そこに魔法の使用は無し。圧倒的な技量を、テーミアに見せつけたのである。

「お疲れ様ー、先生」
「ああ、惜しくもパーフェクトはならなかったがな」

 翼を畳んでゆっくりと戻ってきたルシファーを、リリムが出迎える。
 白々しく言うルシファーを見て、テーミアは拳を震わせた。
 最後は意図的に99点を取っていたことは明白だった。ゲームとして成立させるため、テーミアに逆転の余地を残すために。
 当然、これまでのステージだってそうだ。どれも本気を出せば完全パーフェクト可能であったのだ。

(このあたしが……弓の腕で完敗!? そんなの絶対にありえない!)

 負けっぱなしは自分のプライドが許さない。心の中で根性を叩き込み、テーミアはゲームに挑む。

 下着姿で青空に浮かぶテーミアは、まずルシファーが最後に射た真上の的に弓を引く。

(あたしはルナティエル一派のテーミア。ルナティエル様に実力を認められた、エリートキューピッドなのよ!)

 己を鼓舞しながらの最初の一射は見事満点。流石空を飛びながらの射撃には慣れているようだ。

「どう? あんたが満点取れなかった的で満点取ってやったわ」

 そしてこのマウントである。やはり第二ステージで診断した通り、難易度の高い的を最初に狙うタイプ。そして今回はそれを見事成功させたことで、メンタルにも大きくバフがかかった様子だ。
 続けてテーミアは正面の的をしっかり狙って満点ゲット。その右下の的、そこから右上の的、続けて真下にある的も満点で射抜く。これで全体の半分をパーフェクトで終えた。

 元々弓道やアーチェリーといった競技は、精神状態が成績に大きく影響を与える。
 ルシファーはテーミアの性格を読み取りプライドを刺激する方法で精神を乱す手段を執り優位に進めてきたが、ここにきてテーミアは快調を取り戻してきたようだ。

(心の支えになっているのはルナティエルか……ルナティエル一派は奴に心酔する女天使集団だと聞くが……)

 ルシファーの眼には視えていた。テーミアとルナティエルには肉体関係がある。異端のキューピッドと称される男ルナティエル。果たしてテーミアとの関係は、純粋な恋愛関係なのか、或いは。

(俺が同族嫌悪を感じる以上、碌な奴じゃあない。あの女もまた女たらしのクズにたぶらかされた被害者か。だがそれでも人間に危害を加える以上容赦はせん)

 ルシファーがそう考えている間に、テーミアは九つ目の的までをパーフェクトで終えたようだった。
 ルシファーのようなパフォーマンスは交えず、一つ一つ堅実に点を取っていったテーミア。勝ち誇った様子で、ルシファーの方に顔を向ける。

「どう? あと一個であたしの勝ちよ!」

 わざわざテーミアがそういった宣言をすることがどういう気持ちの表れなのか。自信があるかといえば否だ。むしろ不安の表れと言ってもいい。
 当然、ルシファーは声色や表情からそれを読み取っていた。

「ああ、お前がここまでやるとは思っていなかったよ。ルナティエルがここにいたらきっと褒めていたことだろう」
「馬鹿にしないでくれる? これがあたしの実力よ」
「では見せてみるがいい。できるものならな」
「やってやるわよ!!」

 下手をすれば負け惜しみにすら感じられるようなコテコテの挑発をかましてくるルシファーに、テーミアはまんまと乗せられる。愚か、とルシファーは心の中で嘲った。
 テーミアが最後に残したのは、自分が一番撃ち易い角度にあると感じた的である。これを最後に残すことによって、精神的な安心感を得たかったのだろう。
 ここまで完璧にこなしてきたテーミア。後はこれさえ済ませば、このステージを勝利で終わらせることができる。

(え、何で……?)

 だがふと、テーミアは矢羽を掴む手に震えを感じた。勝利を目前にして、突然の緊張。
 不安を払拭したいあまり、しなくてもいいのにわざわざルシファーに話しかけたのが運の尽きだった。無意味にワンテンポ置いてしまったばっかりに絶好調の流れが断ち切れたのは勿論のこと、ルシファーに煽る隙を与えてしまったことは大きなミスだ。
 だがテーミアは、緊張も手の震えも気のせいだと断じた。

(大丈夫。あたしは勝てる。ルナティエル様がついてるんだから!)

 そうしてメンタルが万全でないまま放った矢は中央目掛けて飛び――『98』のスコアを表示させた。

「はぁ!? インチキでしょ!」

 スコアが出た途端にその言葉が口から出た。毎度のようにその疑いをかけてくるテーミアだが、やはり今回も。
 とはいえ第二ステージ同様、あまりにも出来過ぎたルシファーより一点低いスコアである。疑念を持つのも無理はない。
 だがルシファーはそれで全く動揺することはなかった。

「では確かめてみるといい」

 ルシファーに言われてテーミアは最後に撃った的へと飛んで行く。近くで見れば、確かに矢の刺さった位置は中央から僅かにずれていた。確かに、98点相応といえるくらいの位置である。

「どうだ? スコアは間違っていなかっただろう」
「では、999対998で、先生の勝利ー! んじゃブラ脱ごっかー」
「くっ……こいつら……」

 絶妙に腹立つ笑顔でこちらを見てくるリリムに、テーミアは怒りが込み上げてきた。

「これはお前の自業自得による自滅だ。わかっているだろう」
「うぐぐ……」

 元よりその自覚はあった。ルシファーの冷徹な一言は、無意識下で密かに感じていたそれを明確化させた。

「無理! 絶対無理だから! これ以上脱ぐのは無理ー!」
「脱がないならば、俺が魔法で脱がせよう」

 ルシファーがテーミアに手をかざすと、テーミアの身体は自らの意思に反して勝手に動き出した。

「え? な、何これ!?」

 手を後ろに回してブラのホックを外すと、肩紐から腕を抜き、大きなカップのブラを豪快に投げ捨てる。
 風船のようなGカップの爆乳を包み隠すことなく露にさせられて、テーミアは目を回していた。乳首の色は茶色で乳輪やや大きめだ。

「ぎゃーっ! やだーっ! あたしのおっぱい見ていいのはルナティエル様だけなんだからー!」
「そのルナティエル様とやらは、お前以外の裸も散々見ているのだろう?」
「そうよ、それの何が悪いの!? ルナティエル様は地位も容姿も能力も、何もかも完璧なお方よ! それが沢山の女の子に愛されるのは当たり前よ!」
「……まあ、お前がそれで満足しているのなら俺は干渉するつもりはないが。そういう男女交際の仕方を人間にも押し付け、順風満帆な交際をしているカップルを壊そうとするのは頂けないな」
「何よ! あんたはルナティエル様の偉大さも、ルナティエル様の考えの素晴らしさもわからないからそんなことが言えるんだわ!」

 よほどルナティエルに心酔しきっていることが、彼女の発言から窺える。
 既に身体の自由が戻っているテーミアだが、ルシファーに反論するのに夢中になって胸を隠すのは忘れていた。
 勿論、女性の裸など腐るほど見ているルシファーがそれで反応するようなことはない。

「さて、ではこれにて第四ステージは終了。次の第五ステージで終わりにしてやる」

 ただ冷静に淡々と、とどめを刺すことを宣言したのである。
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