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第五章

第143話 例のプールで石拾い・1 ~初恋の人で兄の彼女VS俺を慕うちびっ子後輩~

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 三鷹兄弟は、気が付くと知らない場所――ある意味で言えば見知った場所にいた。
 優一の隣には小学生からの付き合いであり現在は婚約者となった愛梨が、隆二の隣には高校時代の部活の後輩である千佳がいた。

「おい兄貴、どうなってんだよこれは!」
「わからん……」
「つーかこれ例のプールじゃねーか」

 四人のいる場所は、男なら誰もが一度は見たことがあるであろう例のプール。

「例のプールって何ですか?」

 と、そこで千佳の純粋な疑問。その場が静まり返ったのは言うまでもない。
 そしてそのタイミングを見計らったかのように、ブーメランパンツ姿の銀髪美男子が漆黒の翼を羽ばたかせどこからともなく現れて爪先で水面に立った。

「ようこそ愛天使領域キューピッドゾーンへ。私は愛の天使、キューピッドのルシファー」

 そしてその背中からひょっこりと現れたのは、ピンクの競泳水着の上から白いTシャツを着た褐色肌の小悪魔美少女。

「ボクはアシスタントのリリムちゃんでーす」
「今日のお客さんじゃないか! でもその髪の色……」
「赤い髪の毛もカワイイでしょー!」

 ツインテールに結ったさらさらつやつやの髪を手で掬いながら、リリムは自慢げに微笑む。
 人間に扮する時は魔法で髪を黒く染めているリリムだが、キューピッド活動をする際には本来の赤色に戻しているのである。

 リリムの存在に驚いていた優一であるが、その視線はほどなくしてルシファーに向いた。

「それにしてもあの男……」

 優一は目を細め、握った拳を震わせる。

「なんて綺麗な髪なんだ!!」
「ツッコむとこそこ!?」

 ルシファーの長い銀髪は、美容師から見て大変魅力的なもの。リリムが衝動的にツッコミを入れるが、優一の人格をよく知る愛梨と隆二は「だよね」と言わんばかり。

「……それはさておき、これより皆さんにはゲームをして頂きます。今回のゲームは、水中石拾いです」

 プールの底に、色とりどりの丸い小石が出現する。ゴム製で、大きさはゴルフボールほどである。

「皆さんも水泳の授業等で、プールの底に沈んだ小石を拾うゲームを経験したことはあるでしょう。こちらはそれを発展させたものです。ではここで、リリムと私の分身体に実演してもらいましょう」

 ルシファーの横にもう一人ルシファーが現れて、四人の参加者はびっくりした。
 リリムと分身ルシファーは軽く準備運動を済ませると、綺麗なフォームで空中からプールに飛び込む。

「皆さんは全員でプールに潜り、今隣同士にいる男女のペアで同色の石を拾って頂きます」

 リリムと分身ルシファーは、共にプールの底から青色の石を探し出して掴んだ。分身ルシファーは右手に青い石を掴んだまま左手で黄色い石を取ろうとするが、そちらは底に貼り付いたように動かない。

「石を一人が二つ以上同時に持つことはできません。既に石を持った状態だと、別の石はプールの底に固定され動かなくなります」

 分身ルシファーは黄色い石を諦め、リリムと共に青い石を以って浮上し水面から顔を出した。

「ペアで同色の石を持った状態で二人ともプールから顔を出すと、男性の持っていた石は消え、女性の持っていた石はカプセルに変わります」

 分身ルシファーは何も持っていない掌を見せ、リリムは先程まで小石だったものがガチャガチャのカプセルのような形状に変化したのを見せた。その後リリムは水面下で足を動かして水に浮きながら両手でカプセルを開けようとするが、カプセルはびくともしない。

「このカプセルですが、今の状態ではどうやっても開きません」

 分身ルシファーが、再び水中に潜った。とはいえ底までは潜らず、頭頂部が水面下に来る程度である。するとカプセルが緩まり、蓋が動くようになった。

「パートナーの男性が頭頂部まで水に浸かり息を止めた状態でのみ、カプセルが開けられます。途中まで開けた状態で男性が顔を出す等して条件が満たされなくなると、カプセルはその途中の状態で固定されます。再び男性が潜って条件を満たすと、またカプセルが開くようになります。なお、手もカプセルも濡れている関係上、開封の際には滑りで苦労することにはなるでしょう。男性の方は無理をせず、適度に息継ぎを致しましょう。事故の恐れがある場合、我々が救助致します」

 そうやって説明している間に、リリムは無事カプセルを開けられたようだ。カプセルの中には、防水仕様の紙が一枚入っていた。

「カプセルの中には、お題が入っています。これに書かれた内容を、ペアの二人でやって頂きます」

 リリムが皆に見せた紙の内容は『九九 七の段 女性が式を言い男性が答えを言う』というものだ。

「しちいちが」
「七」
「しちに」
「十四」

 早速リリムと分身ルシファーはそれに従う。だが程なくして。

「しちさん」
「二十一」
「しちし」
「二十七」

 途端、不正解を告げるブザー音が響いた。

「お題を達成できなかった場合、そのペアの女性には服を一回分脱いで頂きます」

 リリムはピンクの競泳水着の上に着ていた白いTシャツを脱ぎ捨てる。

「え、ちょ、待って」
「脱ぐ部位はトップス、ボトムス、ブラジャー、ショーツの四ケ所。最初の一回目では上半身をブラジャー一枚になるまで脱がなければなりません。まあ、今回説明のためリリムは下に水着を着ていますが」

 愛梨がストップをかけるが、ルシファーは構わず説明を継続。

「逆に無事お題を達成できた場合、相手のペアの女性が服を脱ぐことになります。この場合は手動で脱ぐのではなく、自動で破れて消えます。これをどちらかの女性が全裸になるまで続け、相手を全裸にした側が勝者となります」
「そんなことをして私達に何のメリットが」
「勝った側のペアには、良いことがあります」
「良いことって……」

 良いことという曖昧な説明をされて、四人はますます困惑するばかり。

「なお、負けても全裸になる以外のデメリットはありません。ゲームが終わるまでここから出られませんので、悪しからず。それでは今回の参加者をご紹介致しましょう。赤コーナー男性、二十五歳美容師、三鷹優一! 同じく女性、二十五歳美容室事務員、志摩愛梨Dカップ! 青コーナー男性、二十歳大学生、三鷹隆二! 同じく女性、綿環高校三年生、清水千佳Aカップ! こちらのペアで、ゲームを行って頂きます!」

 有無を言わさず強引にゲーム開始へ持ち込むルシファーを前に、四人の参加者はただ戸惑うばかりだ。

「どうする愛梨」
「やらなきゃ出られないって言ってる以上はやるしかないんじゃないかな。気乗りはしないけど……」

 そうやって相談する愛梨達の方を、隆二はじっと見つめていた。

(マジかよ……勝てば愛梨が全裸になるだと!?)

 隆二にとって、愛梨は初恋の相手だ。恋をした時既に愛梨は兄の彼女で、幼い自分の手が届く相手ではなかった。幼き日の憧憬が、今なお自分を『年上のお姉さん』に縛り付けているのである。
 隆二は幼い頃、愛梨の裸を見たことがあった。愛梨が泊まりに来た日に、優一と愛梨と三人で風呂に入った時のことである。小学一年生の隆二にとって、六年生のお姉さんのヌードは衝撃的な光景であった。ある意味で言えば、それこそが恋をした瞬間だったと言えるのかもしれない。
 やがて隆二自身にも恋人ができる等、時が経つにつれて愛梨への気持ちは薄れていった。だが今もなお、優一と愛梨の仲睦まじい様子を見ると妙に心がざわつき、完全に吹っ切れてはいないことを自覚していた。

 そして現在、唐突に訪れたこの機会。下心が沸き立つのは、男として致し方ないことだ。

「先輩? どうかしましたか?」
「あ、いや……頑張って勝って脱出しようぜ」

 不審に思った千佳が尋ねると、隆二は焦って誤魔化した。

「では皆さん、プールに入る前には念入りに準備運動を」

 両ペアともパートナー同士で顔を見合わせて互いに参加の意思を確かめ合うと、ルシファーの動きに倣って準備運動を始めた。四人全員が元水泳部という今回の参加者達。準備運動の大切さはよく存じている。ましてや今回は着衣水泳である。安全のため念入りに体をほぐしておかねばならない。

 一通り準備運動を終えたら、いよいよ四人ともプールに入る。いくら元水泳部といえど、しっかりと服を着た状態で泳いだ経験は四人ともさほど多くはない。夏の薄着とはいえ、水を吸った服がずっしり重くなった感覚を覚えた。

「それでは、ゲーム開始!」

 ルシファーの合図と共に、四人は水中へ潜り始めた。水深は一般的な競泳用プールと同程度。
 水中での動きが一番素早いのは、千佳である。ついこの間まで現役だったことは元より、タンクトップにショートパンツという水の抵抗を受けにくい服装であることも大きい。
 千佳は早速手近にあった赤い石を手に取り、隆二に見せた。

(よし、赤だな)

 隆二は頷くと青い水底をキョロキョロと見回し、少し泳いで赤い石を拾った。浮上した二人が顔を出すと、石は一つに融合しカプセルに変わる。

「凄い、本当にカプセルになりましたよ」
「ガチで魔法なんだな……」

 そう言葉を交わす二人だが、隆二はそんなことをしている場合じゃないとはっとして水に潜った。
 千佳の日に焼けた健康的な太腿が視界に入り、水で捲れたタンクトップからはおへそがチラリ。
 隆二が視線を奥に向けると、優一と愛梨が浮上していく姿が見えた。

(まだか清水)

 どうやら千佳はカプセルを開けるのに苦戦している様子だ。水中で息を止めるのには自信のある隆二だが、あまりに長いと流石に辛くなってくる。
 と、その時。カプセルが開いたことを隆二に伝えるように、二分されたカプセルの片割れを千佳が手に持って隆二の顔の前に持ってきた。隆二は急いで水から顔を出す。

「よし、それでお題は?」
「それが……」

 千佳がお題の紙を見せると、隆二は顔が引き攣った。
 何せ紙に書かれた内容というのが、

『しりとり交互に5単語連続。女性側からスタートで、最初の単語は“ちんこ”』

 というものであったからだ。

「いや、ちんこて……」

 男性である隆二からしてみれば平気で口に出せる単語だが、千佳にとってはそうではない。隆二の口からその単語が出ただけでも、千佳は顔を真っ赤にしている様子だった。
 だが千佳がまごついている間にも、既に相手のペアはカプセルを開け終えていた。

(もう開いたのかよ。愛梨はあれで握力あるからな……)

 隆二がそう思ったのも束の間、優一は人目も憚らずその場で愛梨の唇に自らの唇を重ねた。

「おーっと、これは素早い! 流石カップル、やり慣れてます!」

 リリムの実況が響く。どうやらあちらはお題としてキスを引き当てたようである。
 隆二からしてみれば、今更な光景だ。優一と愛梨のキスシーンなんて、何度も目撃したことはある。
 だけども妙に胸がざわつき、嫌な焦燥感が身を襲ったのだ。いつまで経っても吹っ切れられない一種の病気である。

「……先輩!」

 千佳の呼びかけに、隆二ははっと我に返る。

「しりとり、しましょう! ちんこ!」

 空気を割るように発せられた淫語が、プールの天井に響く。そしてそれと同時に、彼女のタンクトップが破れてオレンジに白い水玉のAカップブラが露になった。隆二は思わず咳き込む。

「五秒間ディープキス成功! まずは赤コーナー一歩リードです!」

 薄っぺらな胸を覆う子供っぽいブラを好きな人に見られた千佳は、顔を真っ赤にしながら無言で口をぱくぱくさせていた。
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