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第四章

第140話 淫魔学校の同窓会・2

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 メイア達六人は、ルシファー宅に一晩泊って翌朝に魔界へ帰る予定である。
 夕食を終えると、女子三人はリリムと共に入浴することになった。

 ルシファー宅の浴室は流石高級マンションだけあって広めに作られているが、それでも四人で入ると狭く感じる。
 だがせっかくのお泊まりなのである。この状況で一緒に入らない選択肢は無かった。

「ひっさしぶりだねー、みんなと一緒にお風呂入るのも!」

 テンションの上がったリリムは素っ裸で小躍りするが、悲しきかな胸は微塵も揺れない。
 他の三人は、裸で歩くだけで胸が揺れるのである。

「ルーシャちゃん、またおっぱい大きくなったー?」
「いやー、ギルが散々揉むもんで」
「ボクだって先生に沢山揉まれてるんだけど!?」
「リリムだってちょっとは大きくなったじゃん」
「あ、わかるー?」

 淫魔学校当時はAAだったリリム。何気に今はAになったのである。

「ところでみんな、彼氏と一緒にお風呂入ったりしてるんでしょー? 彼氏の体、どんな風に洗ってあげてるのかここで実演してみせてよー」
「えー? まあいいけど」

 そう言いながらルーシャはボディソープを自分の胸に垂らし始めた。メイアは自分の陰毛で泡立て始める。普通にスポンジを手にしていたヒルダは、頬を染めながら軽く苦笑い。

「下の毛で泡立てるのはやるよねぇ」
「えへへ……どちらかといえば私は、ロイド君に洗ってもらう方が好きだけど……」
「だったら今日は代わりにボクがメイアちゃんを洗ってあげよー!」

 四人は輪になって互いに洗いっこを始めた。ルーシャの大きな胸を押し付けられながら洗われるリリムは、なんとも複雑な気持ちにさせられた。
 そのリリムは小さな手でメイアのむちぷに柔肌を撫でまわすように洗い、メイアはヒルダに後ろから抱きつき濃い陰毛で立てた泡を擦り付けるようにした。ヒルダはルーシャのダイナマイトボディを、優しく丁寧な手つきで綺麗に手入れしてゆく。

 洗いっこを終えると、四人は一斉に湯船に浸かる。こうなると流石に洗い場以上に狭く、巨乳三人が体積を広くとる中で体を密着させざるを得なかった。

「あはは、流石に狭いなー。淫魔学校の大浴場が懐かしいよ」
「ごめんねみんな、私のお尻が大きいから……」
「ていうか一番狭くしてるのルーシャちゃんじゃん」
「言ったなこいつぅー」

 ルーシャに乳首をつねられて、リリムはきゃんと声を上げた。

「うふふ、こういうのも久しぶりね」
「淫魔学校にいた頃だったら、この中に男子達もいたんだよね」
「今じゃ考えられないよね、自分の彼氏以外の男の人と一緒にお風呂に入るだなんて」
「だよなぁ」

 ヒルダの発言に、ルーシャとメイアが強く頷いた。
 従来の淫魔社会とは全く異なる環境の愛の園。彼女達が既にあちらの価値観に完全に迎合したことを示していた。

「そういえばメイアちゃん、赤ちゃん作ろうと頑張ってるって言ってたよね? そっちの調子はどうなの?」
「うーん……毎日してるし、もしかしたらもうできてるのかも」

 見た目からはまだ判別できないお腹をさすりながら、メイアは言った。

「愛の園に来た時からね、ずっと憧れてたの。ロイド君と、ロイド君の赤ちゃんと、温かい家族を作りたいって。まだ早いって思われるかもしれないけど、それが愛の園で見つけた私の夢だから」
「あたしもいずれはギルと結婚して子供産むつもりだけどさー、やっぱちょっと実感わかないよな。インキュヴェリアじゃ子供産むのは人間界帰りの優れた淫魔だけだったし」
「愛の園ではこの歳で産むのも珍しくないのよね。私もジーク君も、いずれ親になるための準備として色々調べているわ」

 皆、将来のことについてちゃんと考えている。
 そんな話を聞いていると、先程までテンションの高かったリリムが急に大人しくなった。



 一方その頃、男子三人はルシファーと共にリビングにいた。

「ロイド、お前は父親になると言っていたな。インキュヴェリアで生きてきて親に育てられたことのないお前にできるのか?」
「……まあ、不安はありますよ。先生の言うとおり、俺は家族や父親という文化の無い世界で生まれ育ってきましたから。それでも、メイアの願いを叶えてやりたいと思うんで。愛の園の大人達に色々教わりながら、父親としてやってくための準備をしてる最中っス」
「そうか、良い大人に恵まれたのだな」
「はい、外から来た俺にも優しくて、今やってる仕事のことも沢山教えてくれる恩師っスよ。あ、勿論ルシファー先生も一生の恩師っス!」
「それはよかった。そういえば仕事は何をやっている?」
「大工っス。家とか建ててますね。今はまだ下働きっスけど」

 ロイドがそう言うと、ギルバートが口を挟む。

「今、建築関係はかなり需要の大きい仕事です。ティターニア先生の族長就任以降少しずつ愛の園の住民が外の世界に移住し始めていまして、新しい住居や愛の園の住民向けの施設をインキュヴェリアに沢山建てる必要があるんですよ」
「愛の園はそれ自体がティターニア先生の淫魔領域ですから、ティターニア先生の身に何かあれば崩壊する定めにあります。インキュヴェリア側が愛の園の価値観を受け入れるようになった以上は、安全のためそちらに移住すべきだというのがティターニア先生の考えなんですよ」

 続けてジークが補足を入れた。

「うちの親方達はすげーんスよ。魔法とかも使ってぱーっと建てちまうんで」
「愛の園の淫魔は外の世界と比べて平均的に魔力が高いですから、魔法の研究もかなり進んでいるんです。僕としても凄く興味深いですよ。僕はあちらの学校でそういった研究をさせてもらってます。いずれは学者になりたいと思ってますね。あ、ヒルダも小説家になりたいという夢を見つけたんですよ」

 生き生きとした様子を見せるロイドとジークに、ルシファーは自然と頬の筋肉が緩んだ。
 だがルシファーが少々不安を感じていたのはギルバートである。元々マラコーダ派の価値観、即ち為政者の都合によって歪められた“淫魔らしい淫魔”の価値観を強く持っていた彼が果たして愛の園で上手くやれているかを。

「ギルバート、お前はどうなんだ? 新しい生活で居心地の悪さは感じてたりしないか?」
「初めはそういうのもありました。けれどルーシャが側にいてくれたから、愛の園での生き方にも次第に慣れていきましたよ。尤も自分にとってのハードルはまた他にありまして。ずっと人間界に行き淫魔としての務めを果たすことしか考えていなかった自分にとって、愛の園の自由さにはなかなか迎合できず何をすればよいのかわからない日々を過ごしていたんです。ルーシャは性格もあるのでしょう、あっという間にやりたいことを見つけてあちらの生き方に迎合しましたよ。自分の好きなファッションを流行らせたいんだとかで」

 苦い話し方をするギルバートだが、ルーシャの話をする時だけは不思議と声色が明るくなった。

「ルーシャには随分と助けられましたよ。おかげで俺自身のやりたいことも見つけられました。ルーシャの夢をサポートしたいという夢を。今は俺もジークやヒルダと同じ学校で勉強しています」
「そうか。それを聞いて安心した」

 生徒達が無事新生活を満喫しているようで、ルシファーの不安は無事解消された。
 もう二度と会うことはないと思っていた生徒達。教師として気になっていた彼らの現在を知れたことは、嬉しい誤算であった。


 暫く話していると女子達が風呂から出てきたので、次は男性陣が入浴。
 それが終わったら全員でリビングに集まって暫し談笑を楽しみ、手頃な時間で就寝となった。
 泊まる部屋はカップル毎に一部屋ずつ割り振る形である。
 三組とも早速とばかりにおっぱじめたのを、ルシファーは感じ取った。こういうところはやはり淫魔である。
 毎日同じベッドで寝ているルシファーとリリムは当然今日も同衾するわけであるが、どうにも今日はルシファーが消極的である。

「せーんせ、どしたの?」

 素っ裸でルシファーに馬乗りになったリリムは、不審な様子のルシファーを疑問に思って尋ねた。

「あ、もしかして、みんなのいる家でボクとするのが恥ずかしいのー?」

 しめたとばかりにしたり顔で煽り散らすリリムを見上げるルシファーは、眉間に皺を寄せていた。

「期待してるんだろ? そうやって煽れば俺がむきになってお前相手に本気を出すと」

 すぐに真顔に戻ったルシファーは、抑揚のない口調で聞き返した。
 一瞬リリムが背筋に冷たいものを感じたのも束の間、ルシファーの独壇場になったのは言うまでもない。



 事を終えてリリムがぐったりしていると、ルシファーはふとその頬を人差し指でそっと撫でた。

「……すまなかったな、リリム」
「ほえ?」

 ルシファーが何に謝っているのかわからず、リリムはぽやぽやした声を漏らしながら軽く首を傾げる。

「俺が魔界を去った日、俺はお前を見捨てる形を取ってしまった。そのせいでお前はマラコーダ達に再教育された状態で人間界に来て、人間に手を出してしまった。もしもあの日俺がお前を助けることを優先していたなら、お前は何の罪も犯すことなくメイア達のように幸せに暮らしていたことだろう」
「そんなこと……でも、結果としてボクは今こうして先生のそばにいる。ボクが罪を犯したのはそう。だけどだからこそ、ボクは先生と同じ罪を一緒に背負っていくよ」

 リリムは意趣返しのように、そっと掌でルシファーの頬に触れる。

「……ねえ、先生にとって、ボクって何? 先生はボクのこと、どう思ってる?」
「何だ藪から棒に。お前は俺の教え子で、キューピッド活動の助手だろう」
「……ねえ先生、先生はどうして淫魔は人間を攫ってハーレムを作るんだと思う?」
「また何だ藪から棒に。そういえばそれについては禁書庫でも詳しくは調べていなかったな。大方、上からそうするように言われたんだとは想像できるが……」
「ボク、思うんだ。淫魔達はもしかしたら、家族を求めていたんじゃないかなって。淫魔には存在しないことにされた、家族という関係を」
「なるほど、良い着眼点を持つじゃないか」
「ボクは先生のこと、もう家族だと思ってるよ」

 そう言うなり、リリムはおもむろにルシファーの唇を奪う。
 ルシファーはそれを受け入れたが、何も言葉を返すことはなかった。

 この場所で四組の男女が体を交えている。それは奇しくも、ルシファーがかつて理想とした『この教室にもう一人男子がいた場合』を体現したものであった。
 しかしルシファーは決してそれを認めようとはしなかったのである。

(すまんなリリム、俺にその資格は無い)



 翌朝。一晩泊っていった六人の元生徒は、ルシファーに朝食を振舞われた後魔界に帰っていった。
 転移の魔法陣に乗っての去り際、一人一人がルシファーとリリムに声をかける。

「先生、ありがとうございました。先生がいてくれたおかげで、今の僕達がいます」
「先生もリリムも、どうかお元気で」
「またいつか会おうぜ」
「本当はもっと沢山話したかったけど、時間じゃ仕方ないよな」
「あたしもあっちでギルと仲良くやってるからさ、リリムも頑張んなよー」
「では、先生。いつかまた」

 別れを惜しみながらも、六人はルシファーとリリムに見送られながらすっと光の中に消えていった。

「みんな、帰っちゃったね……」
「あいつらが幸せそうでよかったよ。それに淫魔族全体が良い方向に向かっていることも。このままいけば淫魔が人間を襲うことのない世の中が来ることも夢ではないだろう。尤も、すぐにとはいかないが……」

 当然であるが、今もなおインキュヴェリアの変化を知らず人間界で活動を続けている淫魔はいる。そして、リリムと同じ日に人間狩りのため再びこちらの世界に赴いた元人間界帰りの淫魔達も。
 その内の一体である触手王ヴェゾットは先日ルシファーが倒した。だが決してそれだけで終わるような生温い戦いではないのだ。

(俺はこれからもキューピッドとして活動し続ける。人々の愛を結びながら、人々の愛を守るために)
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