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第四章

第139話 淫魔学校の同窓会・1

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 ある日の夕暮れ時。今日はリリムの同期達がルシファー宅に集まる、淫魔学校の同窓会だ。
 ルシファーの部屋の床に描かれた魔法陣からは、現在は愛の園で暮らすお馴染みの六人が姿を現した。

「メイアちゃん、ヒルダちゃん、ルーシャちゃん、ロイド君、ジーク君、ギルバート君! みんな久しぶりー!!」

 久々の再会にテンション上がったリリムは、ルーシャに飛びついて胸に顔をうずめた。
 髪を短く切り揃えた活発な印象も、抜群のプロポーションをひけらかすようにやたらめったら肌を露出したがる癖も変わらず、懐かしの友がそこにいたのである。
 ギルバートに愛されながらたっぷり胸を揉まれて、その立派な果実はますます実った様子であった。
 ルーシャはリリムの頭をわしゃわしゃと撫で、ギルバートがリリムを引き剥がす。

「相変わらちっこいなーリリム」
「おい、その乳は俺専用だ。勝手に触るな馬鹿」

 相変わらず棘のある物の言い方だが、ギルバートの表情からは淫魔学校にいた頃のような険しさが抜けており、角が取れたような印象があった。

 一方でジークとヒルダは、ルシファーに丁寧に頭を下げる。
 相変わらず淫魔らしからぬ清らかな雰囲気の二人だ。

「お久しぶりです先生。リリムともども、お元気そうで何よりです」
「こうして再びお会いできたこと、心から嬉しく思っています」

 耳に心地よさを感じさせるルーシャの澄んだ声が、ルシファーの心に強く響いた。
 きめ細やかな水色のストレートロングヘアとあえて肌の露出を抑えた落ち着いた服装は今も変わらず。
 美貌と気品にますます磨きをかけ、清楚可憐な令嬢と形容するに相応しい立ち振る舞いを見せる。

「お前達も元気そうじゃないか」
「はい、ありがとうございます」

 丁寧な物腰のジークだがどこかそわそわした様子で、憧れのルシファーとの再会に興奮を抑えきれないようであった。
 その清潔感があり物腰柔らかな美形ぶりにはますます磨きがかかり、常にキラキラを背負っているかのような雰囲気を感じさせた。

 そしてルシファーが視線を向けたのは、ロイドとメイアである。
 ロイドは愛の園での労働の成果か、前にも増して筋肉が付いた様子であった。
 粗暴さは鳴りを潜め、少し落ち着いた様子も見える。
 そしてメイアはメイアで少し自信がついて明るくなった様子で、ロイドともども愛の園での生活が彼女に良い影響を与えているのが見て取れた。
 彼女の一番の性的魅力と言うべき安産型の巨尻はロイドに揉まれ叩かれますます大きくなってきた様子だ。
 ふと、ルシファーはメイアとロイドの薬指にある指輪に目が向いた。

「お前達、その指輪は……」
「俺ら、結婚したんスよ」
「はい、今は赤ちゃん作ろうと毎日頑張ってるところです」

 そう言った途端、リリムが目を輝かせてこっちにやってきた。

「わぁっ、メイアちゃん、ロイド君、おめでとー!」
「それはめでたいな。俺からも祝福を贈ろう」

 自分が結んだカップル達の幸せな様子に、ルシファーは心が洗われる気持ちであった。


 再会の挨拶はさておき、ルシファーは六人をダイニングへと案内した。時刻は丁度夕食時。今日のために真心こめて作った手料理を、かつての生徒達に振舞うのである。
 八人で食卓を囲み、また話に花を咲かせる。

「驚きましたよ。先生が料理に目覚めていたなんて」
「セックス無しでどうにか魔力を得ようとした結果でな。まあすぐ破綻して死にかけたんだが」

 今となっては、それも笑い話である。

「ところでお前達、まだ前回のゲート解放から半年経っていないがどうやってこっちに来たんだ?」
「サタン五世陛下の許諾を得て、ゲートを開いて頂いたんです」

 ゲートの開閉は半年に一度のスケジュールに沿って自動で行われるものだが、それを任意の時に手動で行う権限を持つのは大魔王ただ一人だ。

「これは単に同窓会というわけではなく、インキュヴェリアの情勢をルシファー先生に報告することも兼ねていまして。僕達は言わば、使者の扱いでこちらに来ていることとなります。こちらにいる間にも制約が課せられていまして、この先生のお家からは出られないようになっているんです。あ、これ美味しいです。人間界にはこんな食べ物があるんですね」
「人間界での活動ができなくなったことを悔やんでいるのか?」
「そんなまさか。僕は今の生活を本当に気に入っていますから。何かに悔やむとしたら、どうして僕は最初から愛の園に生まれてこなかったのかということに対してですよ」

 ジークの主張には、他の五人も同調している様子が見られた。

「それで、本題はインキュヴェリアの情勢だったな。リリムから多少は聞いているが、マラコーダ側の立場で見聞きしたことしかリリムは知らないからな。では話してくれ」
「はい、では僕から」

 ジークは畏まって一礼し、ルシファーが魔界を去った後のインキュヴェリアのことを話し始めた。



 人間界へのゲートは半年に一度しか開かないため、インキュヴェリアの淫魔達は新たな眷属を狩りに行くこともできず人間のいない状態での生活を強いられた。
 飢えた淫魔の中にはどうにか人間界に行こうと試みる者や、魔界に残ることを自ら望んだ僅かな人間をその主の淫魔から奪おうとする者も少なくなかったが、いずれも失敗に終わった。
 まさにマラコーダの言った通りの大混乱が起こり、インキュヴェリアを騒乱の渦に巻き込んだのである。

 その一方でルシファーの幻覚リモート授業に感化された一部の淫魔の間で、淫魔同士積極的に恋人を作ろうという動きもあった。
 良いパートナーと巡り会えた者もいれば、上手くいかずにすぐ破局する者やそもそも相手にされない者もいた。
 そしてその風潮を快く思わず、旧来の生き方を支持する淫魔との対立も生じた。
 ティターニアら愛の園の淫魔達はこの状況を好機とし、外の世界でも啓蒙活動を開始。飢えた淫魔達に生き方を変えることを促したのである。


 愛の園の住民として新生活を始めたジーク達六人は、外界と隔絶された淫魔領域の中で平穏な暮らしをしていた。
 愛し合う相手と共に安定した魔力供給が得られるこの場所では、外界の様々な騒乱とは無縁である。

 その一方で一人残されたリリムはマラコーダらから再教育を受けて、この世代唯一となる淫魔学校の卒業生となった。
 激しい思想対立の最中にあるこの時代のインキュヴェリアにおいて、リリムの存在はマラコーダ派にとっての希望であった。
 なんとしても彼女を人間界へ送り、“淫魔らしい淫魔”の系譜を途絶えさせてはならないと躍起になっていたのだ。


 そして来たる、淫魔学校の卒業式。即ち、半年に一度ゲートの開く日である。
 ゲートの所在地である淫魔学校は、当然マラコーダ派が厳重な警備を敷いていた。
 それでもここでゲートを制圧せねばルシファーのしたことが無駄になると、ティターニア派の淫魔達は淫魔学校への襲撃を敢行。
 魔力に飢えてジリ貧のマラコーダ派に、愛の力で甚大な魔力を得たティターニア派に打ち勝つ力は無かった。

 ゲートを制圧したティターニア派は、この日人間界から帰ってくる淫魔が新たな人間を魔界に連れ込むことを阻止。
 しかし優先順位としてそちらに重きを置いたため、淫魔を魔界から出させないことが疎かに。マラコーダ派に隙を突かれ、リリムにゲートを通させることを許してしまったのである。
 そればかりか、失った眷属に代わって新たな人間を狩りに行こうとする人間界帰りの淫魔数名にも、ゲートを通られてしまった。

 尤もあくまでも優先すべきは魔界に人間を入れさせないことである。その目的はティターニア派の目指す新時代の淫魔社会の秩序のためであり、人間や人間界のためではない。
 淫魔を人間界に行かせないに越したことはないが、出ていく淫魔のことはそれほど重要視するほどのことではないのだ。いつか再び魔界に戻ってきた際に、厳しく検閲を行い人間を入れさせなければよいという考えである。


 リリムを人間界に送り込むことに成功したマラコーダは、満足げに息を引き取った。
 元々高齢な上に、殆ど魔力の供給が途絶えた状態である。淫魔社会をひっくり返したルシファーの一件から半年生きられただけでも奇跡的と言えるほどであった。

 だがそれから程なくして、族長選挙が開催。満を持して族長に立候補したティターニアは、マラコーダ派の候補者に圧倒的な差をつけて当選した。
 この時、気運は完全にティターニア派に傾いていた。淫魔族の恋愛解禁がもたらした影響はあまりにも大きかったのだ。
 安定した魔力供給は勿論のこと、精神的充足感によって多くの淫魔がこれまでにない感覚を覚えたのである。

 ティターニアの統治の元、愛の園の淫魔達は次第に外の世界に合流していった。
 淫魔族の法も次々と改められていき、積極的に恋愛する淫魔は日を増す毎に増えていった。
 人間を必要とせず、淫魔同士だけ魔力を供給できる時代の幕開けでった。


 そしてティターニアの族長就任からおよそ四ヶ月。
 停滞した淫魔社会を大きく動かした真の英雄に現状を伝えるため、彼の友人たる大魔王の力を借りて例外的にゲートを開き人間界に使者が遣わされた。
 今人間界で教師を務めている彼の、初めて受け持った生徒達が。



「そうか……これでもう、淫魔が人間に危害を加えることはなくなるのだな。二度と俺のような邪悪で下劣な存在を生まれなくしてくれたこと、感謝する」
「そんな、先生が邪悪で下劣だなんて!」
「あ、気にしないでジーク君。先生が自分を悪く言うのはいつものことだから」

 リリムが料理を頬張りながら言う。

「リリムが結局愛の園に来なかったのは残念だけど、今こうして先生と幸せそうにしててよかったよ」
「え、そう見える? ボクと先生もカップルに見える!?」
「勘違いするな。俺達はそういう関係じゃない」

 ルシファーがきっぱりと否定すると、元生徒一同はそれぞれ自分のパートナーと顔を見合わせた。

「でもルシファー先生、淫魔学校にいた頃と比べてとても血色が良くなりましたよね」
「……リリムのおかげで安定した魔力を得られていることは確かだ。だがあくまでもキューピッド活動をする上での同志であり師弟として、お互い必要な魔力を得るために体を交えているにすぎない」
「こういう頑固なとこ、変わってねぇなぁ」

 ロイドがケラケラ笑ってそれにつられて皆が笑い出すと、ルシファーは咳払い。
 リリムはあざと可愛く頬を膨らませるも、程なくして呆れ混じりにはにかんだ。
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