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第四章

第137話 脱衣ゲームでカップル成立

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「これで結論は出たな。まだ服を全部脱いではいないが、これ以上このゲームを続ける必要もあるまい」

 ギルバートは眼鏡をクイッと上げ、勝ち誇るように言った。
 魔界と魔族の全てを作り上げた創造主たるサタン一世は、魔界の民から実像以上に神格化されている。完全無欠で全知全能の存在だと崇拝を籠めて思い込まれているが、実際の彼は所詮一人の魔族であり、一人の天使であり、一人の復讐鬼であった。
 当然、創造した新種族に致命的欠陥があることも時にはあった。しかし純粋な少年少女に、それを認めるのは難しいことであったのだ。

「先生、ゲームの終了を宣言して下さい」
「さてジークとヒルダ、ギルバートはああ言っているが反論は無いか?」

 ルシファーがジーク達の方を向くと、ヒルダが挙手した。

「……では、現在淫魔が絶滅の危機に瀕していることはどう説明するの? 恋愛感情を否定し恋愛感情を持った者を病気と見なすことで淫魔が結婚しなくなり、まともに生殖行為が行われなくなった。結果人口激減を招き絶滅の危機を呼んだ。これこそ欠陥種族だと言うべきではないの?」
「それはっ……」

 ヒルダの鋭い指摘に、ギルバートはたじろぐ。

「サタン一世様は、淫魔をちゃんと子孫を残せる種族として創られた。それは欠陥でも何でもなかったのよ。それを為政者の都合で無理矢理欠陥だということにしてしまったというのが、先程のルシファー先生のお話でしょう?」

 ギルバートは何も反論をしないが、その隣でルーシャのブラが弾け飛び、支えるものを無くした胸が大きく跳ねた。このことこそがギルバートの心境を表していたと言っても過言ではないだろう。
 一方でギルバートを論破したヒルダは、立ち上がったまま身体を隣のジークに向けた。何かをジークに伝えようとするのはわかったが、この状況で何をしようとしているのかはこの場の誰も理解し得ない。
 ギルバートに相対する時の自信に満ち溢れ凛とした佇まいから一転して、その立ち振る舞いにはどこか緊張が見られた。

「それにこの気持ちが病気ではないと知ったのなら、私は自信を持ってこの言葉を伝えられる」

 ヒルダは深呼吸し、改めてジークの顔を見る。ジークはこの時点で、彼女のこれから言おうとしていることが何となく察せた。緊張がこちらにもうつったようで、ジークは唾を呑む。

「ジーク、私は貴方が好き」
「ヒルダ……」
「正気かヒルダ!?」

 ジークの返答を遮るように、ギルバートが叫んだ。

「お前自分が何言ってるかわかってんのか!? 無能病に罹った淫魔がどうなるか知ってるだろう! ゲームに勝つための戦略だとしてもリスクが大きすぎる!」
「戦略なんかじゃないわ。私は気付かされたの。ずっと、理解ができずにいた感情があった。ジーク以外の男の子としていてもあまり気持ち良くないし、ジークが他の女の子としていると胸がもやもやした。それは私の好きな恋愛小説に書かれた描写と似てはいても、淫魔にその感情があるはずがないという先入観に囚われていた。でも今ならわかる。これは紛れもない恋だって」
「嬉しいよヒルダ。僕も同じ気持ちだ」
「待てジーク。お前はただ思考停止で先生の言うことに従っているだけだろう。まさか本当にお前まで無能病に罹っていたというのか!?」
「ああ……僕も先生の話を聞いて、いろんなことが腑に落ちたんだ。淫魔の歴史、淫魔という種族、そして僕の感情……僕にとってヒルダはいつも一緒にいたいと思えて、一緒にいると幸せな気持ちになれる特別な女の子だ。僕はヒルダに恋をしていた。ようやくそれを、認めることができる」

 ジークはヒルダの手を握り、美しい顔に強い意志を宿らせてヒルダを見つめた。
 二人はその場で口付けを交わし、改めてギルバートとルーシャを見る。

「やめろ、俺だってこれ以上学友を失いたくはない。きっとお前達は洗脳魔法をかけられているんだ。落ち着いて正気に戻れ」
「いいえ、私達は先生に洗脳を解いてもらえたの」
「ギルバート、君にもわかるはずだ。君にとっては、ルーシャが特別な女の子なのだろう?」
「は……? お前、何言って……」

 口では否定したギルバートだったが、ふと胸に何か刺さるような感覚を覚えた。

(馬鹿な、俺が……)

 ついつい振り返ってルーシャの顔を見てしまうと、上半身裸でパンツ一丁のルーシャが潤んだ瞳でこちらを見つめていた。
 ドキッとしてしまった感情を否定しようと、ギルバートは歯を食いしばって首を横に振る。
 だがその様子を見るや、ヒルダは畳みかけた。

「ギルバート君、前に私としていた時に口走っていたわよね。ルーシャだったらよかったのにって。貴方の心は、ルーシャを求めているのでしょう?」
「違う! あれはただ、ルーシャが一番胸がでかくて俺の求めている反応をしてくれるからで……」
「ルーシャだって同じだ。ギルバートとしている時の君は、僕やロイドとしている時は比べ物にならないくらい楽しそうだ」
「やめろ、薄気味悪いことにルーシャまで巻き込むな。何が恋だ馬鹿馬鹿しい。俺達には淫魔の誇りがあるんだ。絶対にそんな感情あるはずがない!」
「ギル……」

 ルーシャの声がしたので振り返ると、ハート型の陰毛が視界に入った。

「あたし達、もう負けてる……」
「あ、あああ……」

 ギルバートの嗚咽が領域の天井に響く。すると突然に、ルーシャはギルバートの顔を自分の胸に押し付けるようにしてぎゅっと抱きしめた。

「ごめんギル……あたしが足を引っ張ったから……」
「……わかってたよ。お前が最初から向こうの考えに同調してたことくらい。俺の味方になりたくてこっちに付いたんだろう? 皮肉にもそれが、お前が俺を好きだという根拠になってしまった」
「ごめん……」
「いや、いいんだ。俺も気付かされた。何が淫魔の誇りだ。そんなものより、このおっぱいの方がよほど俺を気持ち良くさせてくれる。結局俺はそんな不確かなものに縋って、ジークやロイドのような優れた技能も無い情けない自分を誤魔化していたに過ぎないんだ。本当は人間界に行くのが怖かった。俺のテクが人間界で通じるのか不安だった。どうして淫魔だけが、こんな辛い試練を乗り越えなければ幸せになれないのかとずっと思ってた。でもそんな不安も、お前としている間は忘れられたんだ」

 ギルバートは顔を上げ、まずジークとヒルダを、次にルシファーとリリムを見る。

「俺の負けだよ。結局俺は無能病――いや、ルーシャに恋をしていたんだ」

 そしてはっきりと、そう宣言した。
 ぽかんとしているリリムの横で、ルシファーは拍手をする。

「二組ともカップル成立、おめでとう。さて、ではこの後のことについて説明しよう」


 ルシファーは愛の園の概要と、ロイドとメイアもそこにいること、ギルバート達四人が形式上自分の眷属になるということを話した。
 そうしてリリムを学校に残し、四人と共に保育園へと飛び立ったのである。



「またお越し下さったのですねルシファー先生。それにヒルダ、ルーシャ、ジーク、ギルバート……」

 愛の園に入ると、ルシファーから事前に連絡を受けていたティターニアが四人を歓迎した。

「保育園以来ですね。これからまたよろしくお願いします、ティターニア先生」

 かつての恩師との再会を喜びつつ、ヒルダは丁寧に頭を下げた。
 そしてティターニアの横には、ロイドとメイアの姿も。

「お前らもこっちに来たのかよ」
「俺も自分に正直に生きると決めたんだ。先生のおかげでな」
「こっちでもよろしく頼むよ、ロイド」
「ヒルダさん、ルーシャさん、これからも一緒にいられて嬉しい」
「私もよ。もうメイちゃんには会えないかと思ってたから……」
「これであとリリムもいたら全員揃うんだけどなー」

 生徒達の顔が、ルシファーの方に向く。

「そうだな、このクラスにもう一人男子がいればよかったのだが……まあ、リリムにも相手ができ次第こっちに連れてくるつもりだ。いつになるかはわからんがな」

 ルシファーがそう言うと、生徒一同は顔を見合わせルシファーに深々と頭を下げた。

「ルシファー先生、本当にありがとうございました。先生には、感謝してもしきれません」
「構わないさ。俺の方こそお前達に感謝している。お前達のおかげで、俺も大切なことに気付けたんだ。いいかお前達、淫魔が恋をすることは決して病気なんかじゃない。お前達はその感情を持ったことを誇りに思え。ロイド、メイア、ジーク、ヒルダ、ギルバート、ルーシャ、お前達がここで幸せに生きていくことを、俺は願っている」

 まっすぐ純粋な瞳で見つめる生徒達に、ルシファーは真摯に答えた。教師をやって良かったと、心から思えた瞬間だった。

「では俺はこれにて失礼する。リリムも待っていることだしな。ティターニア先生、俺の生徒達をよろしくお願いします」
「ええ、この子達が幸せに生きられるよう、わたくしもこの身に賭けて努力致しますわ」

 別れの挨拶を交わしたルシファーは生徒達に背を向けて手を振ると、翼を広げて飛び立った。
 ルシファーの中では、既に一つの考えが形になっていた。
 この魔界でこれからやるべきこと、そして再び人間界に赴いた際にやるべきこと。漠然としたイメージが、明確なビジョンへと昇華されたのである。

(誰かの恋を叶えてあげることに喜びを感じる……幸せそうなカップルを見ていると、こっちまで幸せになってくる……か。まったく、お前の言うとおりだな、大島……)
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