脱衣ゲームでカップル成立 ~史上最強の淫魔、光堕ちしてキューピッドになる~

平良野アロウ

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第四章

第133話 脱衣ポーカー

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「ねえ、保育園の研修から帰ってきてから、先生の様子変じゃない?」

 淫魔学校の教室。授業中も何やら浮かない顔をしているルシファーを見ながら、リリムが言った。

「確かになー。何かあったんかな?」
「先生の言動が意味深なのはいつものことじゃね? そんな気にするほどのことでもねーだろ」

 お気楽な様子のルーシャとロイド。リリムは「むー」と唸り頬を膨らませながら、ルシファーの横顔をじっと見つめていた。
 するとそこでチャイムが鳴る。ルシファーは立ち上がり、教卓まで歩いた。

「ではこれまで。次の時間は自習だ。メイア、お前は淫魔領域展開の追試があるから体育館に来るように。ロイド、お前も領域に召喚される役として付き合ってくれ」
「は、はい」
「うっす」

 ロイドは返事をした後、メイアと顔を見合わせる。

「昨日の特訓通りにやれば大丈夫だ。俺だって付いてるしな」
「う、うん」


 メイアとロイドがルシファーの待つ体育館に行き、程なくして授業開始のチャイムが鳴る。

「ではこれより追試を行う。メイアは淫魔領域を展開した上でロイドを中に召喚すること。その後俺が領域に入って内部を評価する」
「はい! がんばります!」

 胸の前で両拳をぐっと握ってやる気を見せるメイア。元々魔力の使い方が上手くない彼女は、淫魔領域も不安定であった。しかし淫魔領域は淫魔が人間界で生きる上で生命線となる能力。安定した状態で完璧に使いこなせるようにすることは絶対必須なのだ。
 目をぎゅっとつぶり気合を入れて魔力を練り上げるメイアを、ロイドは手に汗握って見守った。
 程なくしてメイアの姿が、その場からすっと消える。淫魔領域の展開に成功したのだ。だがこれは第一段階。獲物の人間に見立てたロイドを、領域内に召喚して本当の完成と言える。だがそれも、ルシファーの見ている前でロイドがすっと消えて無事クリアとなった。
 ルシファーは先程メイアのいた辺りに手をかざして空間の裂け目を出現させ、それを手で広げてメイアの領域へと入り込んだ。学生淫魔程度の領域なら、羽根を使うまでもない。

 メイアの領域内部は天蓋付きのベッドが中央に置かれ、全体的にピンクやフリルの装飾が沢山使われたお姫様の部屋を思わせる乙女チックな内装である。部屋内に沢山置かれたぬいぐるみは皆ベッドの方に顔を向けており、ぬいぐるみに見られながら行為に及ぶイメージを想定していることが窺える。
 緊張して固まっているメイアに顔を向け、ルシファーは評価を告げた。

「ふむ……強度は十分。内装もよくできている。よほど練習したのが伝わってくるな。合格だ」
「よ、よかったぁ……」
「やったなメイア!」

 安心して脱力するメイアの隣で、ロイドはまるで自分のことのように喜んでいた。

「しっかしすげーよなぁ、領域の中まで入ってきて評価してくれるなんて。こんな先生に教われて本当よかったぜ」

 ロイドの言葉に、メイアは何度も頷く。ルシファーの顔を見る二人の表情は、希望に満ちていた。
 だがルシファーは、伝えねばならない。そのためにこの二人を、この場に隔離したのだから。

「よくやったメイア。だが、お前には今日を持ってこの淫魔学校を退学してもらう」
「えっ」

 あまりにも脈絡なく言い渡された、試験の結果と相反する一言。意味不明極まる状況に、メイアとロイドはただ唖然とするばかり。

「おい待てよ! 何の冗談だよ!」
「冗談ではない。メイア、お前は恋をしているな」

 ルシファーの指摘を受けたメイアはびくっと身震いし、狼狽えながら一歩後退した。反面、怒りに震えるのはロイドである。

「ふざけんな! てめーメイアが無能病だって言いてえのか!」

 いつも授業中生徒からの質問には真摯に答えるルシファーだが、この質問に対しては無言を貫く。
 ロイドが一度メイアの方に視線を移すと、メイアは青ざめた顔で目を泳がせ弱々しく身を震わせていた。ロイドはますます頭に血が上る。

「許さねえ! 一発ぶん殴ってやる!」

 領域に罵声を響かせるロイドだが、次の瞬間には彼の声は動揺に震えた。周りの景色が一変して、取調室のようになったからだ。

「な、何が起こったんだ……?」
「メイアの領域に俺の領域を上書きした。これでもう、お前達は俺のルールから逃れられない。さてロイド、メイアに退学通告を出すのに何故お前も呼んだかわかるか?」
「え……」

 一瞬ドキッとしたロイドの脳内で、様々な心当たりが渦を巻いた。

「ロイド、お前には俺とゲームをしてもらう。もしお前が勝てばメイアの退学は取り消しとする。ただし俺が勝った場合、メイアとお前は二人とも俺の眷属になってもらう」
「なっ……そうか、そういうことかよ“寝取りのルシファー”!! てめーガキには興味無いっつって本当はメイアのこと狙ってたのかよ! ざっけんな!!」

 額に青筋を浮かべながら改めて拳を強く握り殴りかかろうとするも、ルシファーに一目睨まれただけで体がすくみ上がり動かなくなった。

「冷静になれ。ゲームでと言っているだろう」
「……何でだよ先生。俺はあんたのことを信じてたんだ。すげーいい先生だと思ってた……尊敬できると思ってたんだ」
「ではゲームを説明しよう」

 いつも強気なロイドがいつになく弱々しい声で泣きそうになりながら言うが、ルシファーに会話を成立させる気は無いらしい。
 ロイドとルシファーの間にテーブルが出現し、その上にはトランプが一束置かれていた。

「今回行うゲームはポーカーだ。チップを賭けたりといった要素は無く、シンプルに役の強弱だけで勝敗を決める。俺が勝てばメイアが、ロイドが勝てば俺が服を脱いでいき、どちらかが四回負けて全裸になったらゲーム終了だ。さて、では早速始めようか」

 有無を言わさずゲームを始めようとするルシファーに戸惑うロイドは、一呼吸置いて精神を落ち着かせた後一度メイアの顔を見る。

「すまねえメイア。わけわかんねえが俺が戦うことになっちまった」
「ロ、ロイド君は悪くないよ。むしろ私のせいでロイド君まで巻き込んじゃって……」
「気にすんな。とにかく勝てばいいんだ。冷静になって考えてみりゃあ、史上最強相手にゲームで勝負なんて直接殴り合うよりはよっぽど勝ち目があるぜ」

 ロイドは机の前に来て、ルシファーと向き合う。やる気満々の反面、顔の強張りを見れば恐れと緊張を隠しきれていないのが窺えた。

「おいてめー、勝負に乗る代わり一つ約束しろ。俺が勝ったらてめーをぶん殴る!」
「構わんよ。では始めようか。メイア、ディーラーはお前がやってもらう」
「は、はい」

 メイアは山札を手に取り、シャッフルした後ロイドとルシファーにそれぞれ五枚ずつ配る。ルシファーはそれを受け取ると即座に五枚全てを捨て札にした。対してロイドは手札を見つめて考える。
 現代においては人間界のゲームが多く魔界に持ち込まれており、ロイドやメイアも同級生とポーカーで遊んだことはある。だが今回のゲームの特色は、役の強弱だけで勝敗がつくこと。それ即ちチップを賭けたポーカーと違って、手札が弱くてもハッタリで相手を勝負から下ろさせて勝つことはできないということだ。心理的な駆け引きはいらない、ただ強い役を作ることだけを考えて行うゲームなのである。

(運ゲーじゃねーか、こんなもん)

 そう考えながらロイドはペアの無い三枚を交換。
 手札の交換が終わったところで、両者は手札を公開する。ロイドはツーペア、ルシファーはスリーカード。お互い決して強い役ではないが、ここではルシファーに軍配が上がった。

「ちっ、所詮運ゲーだ」
「ではメイア、服を脱げ」
「はぅ……」

 メイアはルシファーの眼力に怯え、おどおどとしながらブラウスを脱いだ。柔らかそうな胸を覆うのはクリーム色のブラジャー。

「メイアっ……!」
「何を今更? お前も俺もメイアの下着や裸体などいくらでも見ているだろう」

 そうは言われても、不思議と焦燥感に駆られてしまうのが男心だ。
 カードは自動的に束ねられた後、新たな山札となりメイアの前に置かれた。メイアは再び山札をシャッフルし、二人に配る。
 今回ルシファーは一枚交換、ロイドは三枚交換だ。新たに引いたカードを見た途端にロイドの口角が上がり、彼にポーカーフェイスは無理であることを窺わせた。尤もただ役の強弱を競うだけのこのゲームにおいてポーカーフェイスは殆ど意味の無いものではあるのだが。
 そしてロイドは、勝ち誇ったようにカードを表向きで机に叩き付けた。

「ストレートだ!」
「俺はフラッシュだ」

 六から十までの数字を揃えたロイドに対して、全てのカードをハートに揃えたルシファー。役の強さは、フラッシュの方が上だ。

「また俺の勝ちだな。さあメイア、脱げ」

 淡々と進行するルシファー。メイアはまた嘆くような声を漏らしながらスカートを下ろした。股上の浅いクリーム色のショーツ上部からは、ピンクの陰毛が少しはみ出ている。

「くっ、連敗かよ……すまねえメイア!」
「わ、私は大丈夫……」

 掌で陰毛を隠しながら言うメイアの前に再びカードが集まり、隠す手をどけてシャッフルを強いられた。

 三回戦はロイドが手札全てを、ルシファーが三枚を交換。メイアから手渡されたカードを見たロイドは、目を泳がせて奥歯を噛んだ。

「くそっ……ブタだ」
「それはラッキーだな。ワンペアで勝てちまった」

 最弱の役を見せながら、役無しのロイドを見下ろすルシファー。ロイドは拳を握り締め、ルシファーを睨み返した。

「ラッキーだと? 毎回毎回狙ったように俺の一つ上の役を出しやがって。てめーイカサマしてんじゃねーのか!?」
「イカサマの糾弾はその手口を見抜いてからするものだ。何ならお前がイカサマをしたっていいんだぞ。俺にバレない自信があるならな」

 事実、ルシファーはイカサマをしていた。あらゆる女性を絶頂させられるルシファーフィンガーは、カードすり替えのテクにおいても他者の追随を許さない。
 このゲームは馬鹿正直にルールを守ってやったところでただの運ゲーだ。何かしら実力を競い合う要素があるとするならば、それはイカサマの腕に他ならない。
 だが悲しきかな、ロイドという男はそこに気付く思考を持ち合わせてはいなかった。

「さてメイア、三枚目を脱いでもらおう」
「は、はい……」

 メイアは恐る恐るブラのホックを外し、白いもち肌おっぱいを露にする。その身が恥じらいに震える度、胸もぷるぷると小刻みに揺れた。
 サキュバスにしては珍しく、恥じらいの精神を強く持っているメイア。それは男心をくすぐる立派な武器になり、劣等生とされていた彼女のサキュバスとしての能力をルシファーは高く評価していた。だが、彼女がその実力を人間相手に発揮する機会をルシファーはここで断たねばならない。

 山札を前にしたメイアは、胸の前から手をどけねばならないことに躊躇いを感じていた。
 一度ロイドに視線を向けると、ロイドは歯を食いしばり握った拳を机に押し付けて身を震わせていた。自分のせいでメイアが辛い目に遭っていると、焦燥感と自責の念に囚われているのだろう。
 それを見せられたメイアは目を背けたくなりながらも、一つの決意を胸に抱いた。手を胸の前からどけ、カードには手を付けずルシファーに体を向ける。

「先生、私のことは好きにして頂いて構いません。その代わりロイド君だけは助けて下さい。無能病にかかっているのは私だけです」

 両腕と翼を広げて無防備な裸体をアピールしながら、ルシファーと目を合わせた。あの弱々しいメイアが、史上最強の淫魔を相手に物申す。だがその瞳は涙で潤み、恐怖と悲しみを堪えながらの行動であることは明白だった。

「何言ってんだよメイア!!」
「だって、私が無能病になったせいで関係無いロイド君まで巻き込んじゃったんだもん! 大好きなロイド君に、酷い目に遭って欲しくないもん! 犠牲になるのは私一人だけでいい!」
「関係無くねーよ! 俺も無能病だ!!」

 ロイドは親指で己を指しながら叫び、メイアの裸体をルシファーから隠すように立ちはだかった。

「好きな女に守られるだなんてダセェことさせんじゃねえ。俺は勝つぜ。こっから実力で四連勝して大逆転勝利だ!」
「ロイド君……」

 メイアは広げていた腕を下ろし、翼を畳む。ピンクに染まった頬が宿した感情は、羞恥とはまた別のものだ。
 ルシファーはただ、冷徹にそれを見下ろしていた。

「やってみせろ」

 ルシファーが眉一つ動かさず受け答えると、ロイドは自分の位置に戻り堂々と身構えた。

「ではメイア、次のカードを配れ」
「……はい」

 覚悟を決めたメイアは、堂々と胸を曝け出しながら山札を切り二人にカードを配る。ロイドに良いカードが行くようにと願いながら。
 そしてロイドは手札を二枚捨て、メイアから二枚受け取る。ルシファーは五枚全てを交換だ。

(来たぜ……ハートのエース! ありがとなメイア!)

 狙っていた役を揃える最後のピースを手中に収め、ロイドはバンと手札を机に叩き付けた。
 四枚のエースと、キングが一枚。それが今回のロイドの手札。

「フォーカードだ。今回は勝たせてもらうぜ」

 するとルシファーは何も言わず、カードを裏向きにしたままマジシャンのような華麗な動きで手札を机に並べた。そして勿体ぶるように一枚ずつ、カードをめくってゆく。
 一枚目はクラブの二。二枚目、ダイヤの二。三枚目、ハートの二。四枚目、スペードの二。これでフォーカードの完成だ。

「お前もフォーカードか……だが俺は最強のエースでお前は最弱の二だ。俺の勝ちに変わりは……」

 ロイドが言い切るより先に、ルシファーは最後の一枚を表向けた。敗者を嘲るように、カードの中で道化師が笑っていた。

「ファイブカード。これでゲームセットだ」

 ルシファー最後の一枚は、ジョーカー。愛の力で引き当てたハートのエースも、卑劣なイカサマの前には無力であった。
 ロイドは拳で机を叩き、皺くちゃに歪んだ顔を机に伏せる。メイアは体から力が抜けてぺたんと座り込んでしまい、挙句放心して失禁。床に黄色い水溜まりを作った。
 メイアが自分で脱げる状態ではないので、小便に濡れたショーツをルシファーが魔法で脱がせた。ピンクのたわしが丸出しになっても、意気消沈したメイアにはそれを隠す気力も無い。
 そしてその下腹部には、容赦なくルシファーの紋章が刻まれた。ロイドにも、同様に。

「くそっ、くそっ、結局こんな結末かよ……好きになった女は寝取られて、俺は一生奴隷生活……俺がメイアを好きでメイアも俺を好きで……それがそんなに悪い病気なのかよ。そこまでされるほどのことなのかよ……なあ、俺の見ている前でやるんだろ、“寝取りのルシファー”。それがてめーのやり方だって知ってるからな」
「生憎だが、子供とする趣味は無い。それに俺にお前達を引き離すつもりも無い。ロイド、メイア、授業でやったので知っているはずだが、淫魔の紋章を刻んで眷属にした者は、主の淫魔だけでなく主が認めた者との性行為も可能となっている。俺がお前達に刻んだ紋章は、愛し合う者同士ならば何の障害も無く性行為ができるようになっている」
「何!?」
「えっ?」

 死んだ魚のようだったメイアの瞳に、光が戻る。ロイドは試しにとばかりにメイアの唇を奪い、紋章バリアが作動しないことを確かめるとすぐさまその場で性行為をおっぱじめた。

「本当だ……セックスできる!!」
「嬉しい……ロイド君!」

 挿入したまま熱い抱擁を交わし、メイアの瞳から涙が零れる。これまで授業でもプライベートでも当たり前にしてきて、日常の一部になっていた性行為。それをこんなにも幸福な気持ちでしたのは初めてのことだった。
 ルシファーが生徒達の前では一度も見せたことのない優しく温かな微笑みを湛えたことを、二人は知る由もない。



 二人がフィニッシュまで行くのを、ルシファーは見届けた。
 横たわって事後のクールダウンをするロイドは、メイアを胸に抱きながらルシファーに尋ねる。

「なあ、先生。あんたは結局何がしたかったんだ? 結局俺達は無能病だから退学なんだろ? こうしてメイアと両想いのまま一緒に眷属にしてくれたのはあんたなりの救済策だったのか?」
「まず、お前達にこれだけは伝えておく。お前達は病気などではない。無能病などという病気は存在しない」
「え……先生、何を言って……」
「お前達はただ、恋をしただけだ。ごく当たり前の感情として、恋をしただけなんだ」
「いや、淫魔がそれをすることを無能病と……」
「無能病という言葉を使うな」

 ロイドが言うのを遮るように、ルシファーは強い口調で言った。ロイドはびくっとし、胸に抱かれるメイアも連動して身を震わせた。

「……お前達に、紹介したい淫魔がいる。彼女は必ずお前達の助けになってくれる。お前達が服を着たらすぐに出発するぞ」

 ルシファーの意図がいまいち掴めず、ロイドとメイアは顔を見合わせた。
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