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第四章

第127話 脱衣脱出ゲーム・4

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 男子中学生が大人になり、背中から翼まで生えた。目の前で繰り広げられる正気を疑う光景に、陸也と律はただ唖然とするばかりであった。

「ねえ、あれ……百代君なの?」
「そだよー」

 いつの間にかヴェゾットの魔法が解けて身体が動かせるようになった律は、陸也に尋ねる。
 すると質問に答え二人の前に現れたのは、先程までとは別人のように口調と声色が変わった甘音だ。
 彼女が眼鏡を外すと三つ編みが独りでに解けたかと思えばその髪が赤く染まり、ツインテールに結い直される。シンプルな白無地のショーツはあえてそのままにした上で、ぺったんこの胸には黒のビキニを身に纏う。背中からはヴェゾットのものと似た形状の翼が生え、お尻の上部からは長い尻尾が。大人しい眼鏡っ娘から、あっという間に小悪魔美少女へと早変わりだ。

「ボクはルシファー先生の助手兼弟子のリリム。輝君と甘音ちゃんは、悪いヤツを欺くためのお芝居。これがホントのボク達なんだー。とりあえず土井さんはボクの魔法で……えいっ」

 リリムがポンと魔法をかけると、素っ裸の律の身体に服が現れる。律がびっくりして慌てふためいたのはこの魔法もさることながら、着せられた服が思いっきりコスプレ衣装だったことにである。

「何でナース服!?」
「カワイイでしょー」

 看護の現場での実用性度外視なピンクのミニスカナース服。スカートは股下ギリギリの丈で、なんとも危なっかしい。陸也はつい、見入ってしまっていた。

「……似合ってるぞ」
「……ありがと」

 気まずい状況の中でとりあえず彼女の服を褒めるモテテクを実践してみるも、勝手に着せられた服ということもあって微妙な反応。

「ちなみにねー、ぱんつはこう!」
「きゃーっ!」

 途端、リリムが律のスカートを捲り上げ律が悲鳴を上げた。リリムのチョイスした色っぽすぎる黒の透けレースを見せつけられて、陸也は目玉が飛び出そうになった。

(落ち着け俺。とっくに律の陰毛まで見てるんだぞ!)

 だが一糸纏わぬ裸体と隠す所は隠した上で色っぽいランジェリーとは、また違った興奮を誘うものなのだ。
 陸也は目をつぶって首を横に振り気を紛らわせ、改めてリリムの方を見た。

「つーかお前は何なんだよ。あの野郎と同じ羽してるが。本当に俺達の味方なのか!?」
「当ったり前じゃーん。ボクとルシファー先生は、ああいう悪い奴らと戦ってる正義の味方! 見ててよ、今に先生があいつやっつけてくれるから」

 そう言うリリムがヴェゾットに視線を向けると、彼の経験人数が視界に表示される。その数、一万四千百七十九人。かのテュポーンをも遥かに上回る数値だ。
 それもそのはず。ヴェゾットはリリムでさえその名を知っている、族長に近い地位を持つインキュヴェリアの重鎮だ。ルシファーを除けば、現存する淫魔の中で最強クラスの一角と言ってもよい。
 だがそれを理解した上でも、リリムの表情に不安は微塵も表れていなかった。


 ルシファーと対峙するヴェゾットは、腰が引けて汗だくになり歯ぎしりをしながら見開いた目を泳がせていた。領域に召喚した獲物の一人が史上最強の淫魔だった。こんな理不尽な不運に遭遇したなら、こんな顔をするのも致し方ない。先端が焼け焦げた触手も畏縮しており、顔以上に彼の恐怖心を表しているようにさえ見えた。
 対するルシファーは冷酷な蔑みの眼差しで、ヴェゾットをじっと見つめていた。この腐れ外道に対して抱く感情は、強い怒り。真顔で立っているだけでも空気を震わせ肌をぴりつかせる、絶対的強者の佇まいを携えている。

「脱衣ゲームでカップル成立を装って人間に危害を加える……その所業は万死に値する。覚悟はできているな?」
「う、うるさい! 全て貴様が悪いのだ!」
「俺が?」
「貴様が俺の眷属を全て逃がしやがったせいで、俺は老体に鞭打って再び人間界に赴かざるを得なくなったのだ! 俺にはお前の評判を貶める権利がある!」
「百歳ちょっとの若造が老体とは笑わせる。俺は八百を超えているが、自分が老いたなどとは思っていないぞ。だがなるほど、確かにお前の話を聞く限りそれは俺にも責任があるな。ならば尚更、己の不始末は己で片付けねばならん」

 威圧されたヴェゾットが背筋にぞわっとする感触を覚えたのも束の間、突如として寝室の景色は薄暗い牢獄へと姿を変えた。
 この部屋全体に満ちるルシファーの強大な魔力。最早自分が逃げられないことを、ヴェゾットは本能で理解した。

「お前の領域に俺の領域を上書きした。これよりこの場は『ゲームに勝たないと出られない部屋』だ。お前は二度と魔界の土を踏むことはないと思え。では、早速脱衣ゲームを始めようか」

 例によってルシファーの完全勝利であるため、ゲームの内容は割愛する。


「ば、馬鹿なああああ!!!」

 全裸にされた挙句、下腹部にある自身の紋章をルシファーの紋章に上書きされたヴェゾットから悲痛な叫び声が上がる。黙っていれば普通に美男子な顔を醜く歪ませて絶望に暮れるこの男を、ルシファーは冷徹に見下していた。
 天井からシャッターのように下りてきた鉄格子がヴェゾットを閉じ込めると、ルシファーは背を向けた。

「これでお前は俺の眷属となった。そしてこの領域のルールに則り、お前はもう二度とここから出ることは叶わない。飢えに苦しみながら、己の所業を悔いて死ね」

 ヴェゾットの慟哭が響く中で、ルシファーは陸也と律の前に歩み寄る。

「お疲れ様ー、先生」
「ご苦労だったリリム。後は俺が」

 ルシファーを見る陸也と律は、まだ不安を隠しきれていないことが表情に出ている。

「あの……ありがとうございます。助けて頂いて……」
「あんた、百代輝……なんだよな?」
「ええ。あれは芝居ですが、紛れもなく私自身です」

 探偵気取りの眼鏡のガキんちょが見た目は子供で頭脳は大人だったことに、二人はまだ戸惑っている。

「まずはお二人に、天使の加護を。これでもうあなた方はあのような輩に狙われることはありません」
「それは、どうも……」
「それと、奴に奪われていた服もお返しします」

 律の服一式と陸也のTシャツが、綺麗に畳まれた状態でそれぞれの前にポンと現れた。

「何から何まで、ありがとうございます……」
「礼などいりませんよ。私は愛し合う者達の味方ですから。ただ、あなた方が幸せでいてくれればそれで」


 ナース服を脱いで元の服を着直す律を、陸也は横目でチラチラと見ていた。
 下着までは流石に脱ぐ気になれず、リリムに着せられたセクシーランジェリーをそのまま着用した上に元の服を着る。
 ちなみにブラはカップ部もシースルー生地であり、胸の先っぽが透けて見える仕様だ。

「そのナース服と下着はボクからのプレゼント。どうぞご自由に使ってねー」

 そう言われると色々と妄想が膨らんでしまうのが男のさが。唾を呑んだ陸也を、律は肘で小突いた。


 服を着終えた二人を無事元の世界に帰すと、ルシファーとリリムは飛んで自宅に戻った。

「はー、終わった終わったー」

 ベッドにごろんと寝転がって大の字になるリリムは、下半身パン一のままである。

「ヴェゾットってすっごく強いって聞いてたけどー、先生の前ではザコもいいとこだったよねー」

 いい気になっているリリムだったが、返事が来ないので体を起こしルシファーの顔を見る。狙っていた敵を無事に倒せたにも関わらず浮かない顔をしたルシファーに、リリムは首をかしげた。

「先生どしたの? あ、そうだ。せーんせ、魔力回復、しよ?」

 ルシファーの方に身体を向けて脚を開き、左の人差し指で股布をずらして割れ目を見せる。右手は人差し指を口元に当てて、あざとくも可愛らしいポーズで誘惑だ。
 リリムはVゾーンやOゾーンの手入れはルシファーの好みに合わせて自然な感じに整えているが、Iゾーンは割れ目をはっきり見せたいからと綺麗に剃り落としている。
 暫し真顔でリリムを見ていたルシファーは無言でそちらに歩み寄ると、恥ずかしげもなく丸出しにしている割れ目に指先を挿入した。リリムの甲高い喘ぎ声が部屋に響いたのは、言うまでもない。



 ベッドの上でも、例によってルシファーの完勝。へとへとに疲れ果て息を切らし大股開きで股の間から精液を溢れさせるリリムの横で、ルシファーはまるでばてた様子もなくベッドに腰掛け虚空を見上げていた。

「……せんせ?」
「ああ、少し考え事をしていた。俺は一年前、淫魔に拉致されていた人々を救出し人間界に帰した。だが結果としてそれが、人間界から魔界に帰り余生を送っていた淫魔を再び人間界に向かわせ新たな被害者を生むことに繋がってしまった。俺が浅はかだったんだ。この結果を考えられず、自己満足で起こした行動がこれを招いたんだ」

 感情を読み取られることを拒むように、抑揚のない声色で淡々と語るルシファー。だがそうしていると、突然リリムは人差し指でルシファーの頬を突っついてきた。

「そうやって自分を責めるの、先生の悪いとこだよ? 先生は立派に人助けをして、みんなを幸せにしてる。それでいいじゃん。今日の二人だって、先生に感謝してたよ。それにボクや、ボクの同期のみんなだって……」

 と、その時だった。枕元に置いていたリリムのスマートフォンがメッセージの着信を知らせた。

「あ、何だろ? あれ、これって魔界から……?」

 画面に表示されたメッセージ。それは淫魔学校の同窓会の知らせであった。人間界で活動する淫魔に魔界からこの手のメッセージが届くこと自体、ごく稀なことである。

「わぁー、すっごい! またみんなに会えるよ! ヒルダちゃんにルーシャちゃんにメイアちゃん! それに男子のみんなも! 先生も楽しみだよね!」

 激しいセックスの疲れも吹っ飛ぶ朗報に、リリムは目を輝かせてテンションを上げていた。
 リリムのスマホの画面を見るルシファーの脳裏にも、昨年魔界で過ごした日々と自分にとって初めての生徒達の思い出が想起される。

 淫魔学校。それはかつてルシファーが青き時代を過ごした地であると同時に、一度心砕けたルシファーの再起の地。教師として、そしてキューピッドとしての始まりの地である。
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