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第四章

第123話 断髪ビーチバレー・3

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 全く手入れされていない剛毛がお尻の穴まで続いているワイルドな下半身を堂々と晒し腰を落として構える浅葱に、泰之の視線は吸い込まれる。すると浅葱は余裕の無い口調で怒鳴った。

「おい桑原早く打てよ! 恥ずいんだよ!」

 傍から見れば堂々としているようだが、本人は凄く恥ずかしいのである。
 サーブの構えを取って狙いを定めている琴奈も、同じく下半身は丸出し。だがこちらのアンダーヘアは丁寧に手入れされていて、しかも髪と同じ色に染めているというおまけ付き。勿論Oゾーンは綺麗に処理済みである。自分の裸体に見苦しい所など一つも無いと言わんばかりの堂々たる姿は、さながら芸術作品のよう。
 あらゆる部分で対照的な二人だが、こんなところまでというのには流石にリリムも驚かされた。
 そして琴奈の下半身をガン見して睨まれた倫則は、やはりまともに試合ができる状態ではないように見える。
 それでも戦力になって貰わねば困るので、とにかく正面は向かせておくのだ。


 倫則が琴奈と出会ったのは、この春の入学式。殆ど一目惚れであった。
 しかし同じクラスにいながら特に仲良くなるわけでもなく一学期を終え、このまま進展が無いかに思われた。
 そこに降って沸いたチャンスが、この脱衣ゲームであった。琴奈のピンチを救ったヒーローとなり、琴奈のハートを射止める。そんなシナリオが、倫則の頭の中では描かれていた。
 尤も琴奈の裸体を目の当たりにしたことでその考えはどこかへ吹っ飛び、ヒーローになるよりも裸を見ていたいという気持ちが勝ってしまったわけだが。


 浅葱に急かされた琴奈だが、慌てることなく冷静に状況を視つつ倫則がよそ見していないタイミングでサーブを打った。浅葱から遠く離れた位置を狙って放たれたサーブだが、泰之が素早くそれを拾う。
 打ち上がったボールを浅葱は即座に相手コートに叩きこむが、琴奈はすかさずブロック。しかし強烈なスパイクを防ぎきることはできず、ボールは威力を殺されながらも後ろへと飛んだ。

「田垣君!」

 ジャンプする琴奈の尻を見ていた倫則は浅葱に呼ばれてはっとし、慌ててボールに走り手を伸ばした。
 かろうじてボールがコートに落ちるのは阻止したものの、スパイクを打てる高さまでは上がらず。それでもこのタイミングで相手のコートに入れられなければ相手の得点になってしまうため、琴奈は両手で押し出すように相手のコートに飛ばす。
 だが当然浅葱はこのチャンスを見逃さない。甘い球を容赦なく、ダイレクトにスパイクで返す。琴奈が振り返ったのも束の間、コート内の砂浜には深い跡が付けられた。

「ゲームセット!!」

 ルシファーは高らかに宣言。リリムの吹くホイッスルが、青空に鳴り響いた。

「勝者は、大井泰之君、本田浅葱さんペアです!」
「っし!」

 浅葱が手を挙げると、泰之はフッと微笑んでハイタッチを交わす。直後、浅葱は自分の格好に気が付き両手で股間を隠した。泰之もその仕草に心臓が跳ねる。

「……で、大井てめーさっきの話なんだが」

 さっきの話というのは、浅葱の裸を他の男に見せたくなかったという発言のことである。

「言葉通りだよ。お前の裸を田垣に見られたくなかった」
「だから、何でだよ!? 俺の裸を田垣に見せないことでお前に何のメリットがある!?」

 わかっていない風を装って尋ねてみたが、とうに答えは察せている。だけどもそれを直接彼の口から聞きたかった。

「お前が、好きだからだよ」
「お……おう」

 浅葱は耳まで真っ赤にしながら俯き、股間を隠している手をもぞもぞと動かした。
 こんな下半身裸の女の子にこんな状況で告白して、そんな特殊な状況もあって向こうはいつになくしおらしい。泰之はドキドキしながら悶々として、何だか気まずい空気だ。

「……で、返事は」
「あー……いや、まさかお前が俺のことそういう風に見てたとは全く気付かなくて……正直どうしたらいいか……まあ、何だ、その……付き合ってやっても、いいぞ」

 伏し目がちになりながらチラチラと泰之の様子を窺いつつ素直じゃない返事をすると、泰之はぱあっと目を輝かせた。

「ありがとう浅葱! 夢のようだよ!」

 勢い余って浅葱を抱きしめると、浅葱は「ぴぁっ」とらしくなくも可愛らしい声を上げた。
 そこで聞こえてきた拍手に振り返ると、ネットの向こうで琴奈が拍手をしている。ただでさえ真っ赤になっていた浅葱の顔が今にも噴火しそうな色になったのは言うまでもない。

「おめでとうございます、先輩」
「く、くくく桑原! 見てんじゃねーよ!!!」

 見られたくないところを見られたくない相手に見られてしまい、裸を見られること以上の羞恥心が浅葱を襲った。
 と、そこで口を挟むのはルシファーである。

「ところで桑原さん、最後の一枚を脱いで下さい」
「……まあ、それがルールなら仕方がないけど」

 琴奈が一度泰之を見ると、泰之はすぐさま琴奈から顔を背けた。それを確認した琴奈はスポーツブラを捲り上げて、そこそこあるけど巨乳というほどではない胸を露にする。
 綺麗なピンク色の乳首を目の当たりにした倫則は、興奮が表情に出て目も当てられないほど鼻の下を伸ばしていた。

「桑原さん、好きだ! 俺と付き合ってくれ!」
「ごめん無理」

 勢い余ってこちらも愛の告白をかますも、即答で玉砕。倫則はピタリと固まり頭の中が真っ白になった。

「いや待って。でももしかしたら付き合ってみれば俺のこと好きになるかも……」
「無理」

 どうにか気を取り直して食い下がるも、再び即答。

「俺のこと嫌い!?」
「別に田垣君に特別な感情は無いよ。私、恋人が欲しいって思わないの。恋をしたこと自体が無い。多分、私には恋愛感情が無いんだと思う」

 まるでどこぞの種族みたいなことを言う琴奈に、リリムはぽかんとしていた。一度ルシファーの顔を見上げると、感情を読めぬ真顔で琴奈を見ている。
 が、ほどなくしてにんまりとした笑みを顔に貼り付けて二年生ペアの方へと歩み出した。

「と、いうわけで今回のカップル成立は一組だけとなりました。大井君、本田さん、おめでとうございます。お二人には、私から天使の加護を」

 ルシファーがそう言うと、浅葱の下腹部にルシファーの紋章が現れて消えた。

「では、女子のお二人の服をお返しします」

 消えた服が戻ってきた女子二人は、すぐにそれを着始める。

「さて、服を着終えたら皆さんを元の世界にお戻ししますが、それに際して一つ説明を。このゲーム中に恋人以外に裸や下着を見られた、及び恋人以外の裸や下着を見た記憶はお帰りの際に全て消去されます。つまり一人一人挙げるならば、大井君は本田さんのを見た記憶は残り桑原さんのを見た記憶は消え、本田さんは大井君に見られた記憶は残り田垣君に見られた記憶は消えます。田垣君はどちらの女子のを見た記憶も消え、桑原さんはどちらの男子から見られた記憶も消えるわけです」
「そ、そんな……」

 失恋のショックを上乗せする説明をされ、倫則はますます落ち込んだ。
 服を着ながら、琴奈はふと浅葱に話しかける。

「本田先輩、今日は負けました。最初に決めたルールには、ちゃんと従わせて頂きます」
「……まあ、普段やってる六人制とはルールの違いもあるし、お前は足手纏い抱えての勝負だったからな。強制はしねーよ」
「そうですね。素人と一緒に戦って、うちのチームの練度の高さを改めて認識しました。中でも本田先輩がどれだけ優れた腕の持ち主なのかも」
「わかりゃいいんだよ。お前だってすげーんだからさ、これからもその調子で頼むぜ」
「勿論そのつもりです。こうして先輩と勝負をして、やっぱり私はバレーが好きなんだって思いました」
「ああ、楽しかったぜお前との真剣勝負」

 ギスギスから一転、終わってみれば爽やかな雰囲気。バレーボールが好きな者同士、一度闘ってみれば何だかんだで通じ合えるという体育会系理論である。

「ところで先輩、彼氏もできたことですし、私がメイクとかお教えしましょうか」
「なっ……てめー調子に乗りやがって……まあ、どうしてもって言うなら教わってやらんでもないが……」



 和やかなムードの中でゲームを終えて参加者一同を元の世界に帰すと、ルシファー達も領域を後にしルシファーは職員室、リリムは新体操部の練習場へと戻った。
 ルシファーは職員室で一人黙々と仕事をしながら、今日の脱衣ゲームについての反省会を頭の中で展開していた。
 今回の脱衣ゲームの趣旨は、バレー部内で起こった価値観の違いに起因するトラブルの解決である。カップル成立はその副次的なものだ。故に最初から殆ど脈が無いと判っていた倫則の片想いを、気の毒ではあるが利用させて貰う形となった。
 少なくとも当初の目的は完遂された。だがそれはそれとして、今回のゲームはルシファーの中で一つのしこりを残す結果となった。

 と、そこで沖田先生が水泳部の朝練から戻ってきた。途端、沖田に話しかけに行くのは二年C組担任の瀬川恵美だ。

「沖田先生、聞きましたよ。彼氏ができたんですって」
「ええ、まあ」

 生徒達からも散々問い詰められてうんざりしていた沖田は、またかと言いたさげな表情。とはいえ相手は頼りになる先輩教師。沖田は落ち着いた様子で話し始めた。

「先日の婚活パーティで出会った方で、とりあえずは結婚を視野に入れた上でお付き合いを始めました。婚活パーティの後で軽いデートをして色々お話もしましたが、価値観も合っていて素敵な方ですよ」
「それは本当によかったです。以前私のセッティングした合コンでも失敗されていましたし、沖田先生が良い相手と巡り会えるか、心配していたんですよ」
「あの時は私のためにああして頂いたのに期待に沿えずすみませんでした」
「いえいえ、構いませんよ。沖田先生がその彼と上手く行くことを祈っています」
「ええ、このまま結婚まで行けたらいいのですけどね。何分初めての男女交際ですから、どう転ぶか……」
「沖田先生、前に学生だった頃は恋愛になんて興味が無かったと仰ってましたよね」
「ええ、それが今になって相手が欲しくなって焦り出すとは……人生何があるかわかりませんね」

 自分の仕事をやりつつ二人の会話を聞いていたルシファーは、沖田の最後の発言に今日の琴奈を重ね合わせていた。
 恋愛感情が無いと自称する桑原琴奈。それは沖田がそうであったように、あくまでも今だけのことなのか。或いは本当に、彼女は恋愛感情が欠落しているのか。
 今はただ、静観に徹するのみである。



 翌朝の体育館。登校してきた浅葱の姿を見て、バレー部員達がざわついた。
 昨日から一転、軽く眉を整えて薄っすらメイクを施した顔で現れた彼女は、昨日自分で否定したことを自分でしているような状態。小さいようで大きな変化を遂げた浅葱に、誰もが目を丸くしていた。

「え……浅葱どしたん?」
「いや、まあ……」

 真っ先に声をかけたのは里緒である。浅葱が言い淀んでいると、密かに一緒に登校してきていた泰之がその後ろから現れる。

「俺ら付き合うことにしたんだ」
「えーっ!?」
「可愛いだろ? 俺の彼女」
「おまっ……こういうとこでそういうこと言うなバカ!!!」

 らしくなくも顔を真っ赤にして恥じらう浅葱の様子を見せられたバレー部員一同は、唖然とするばかり。

「と、いうわけで新キャプテン自らこうして可愛くなってきたわけで、機能のお洒落禁止発言は撤回だね」
「……ちゃっかりてめーの手柄みてーに言いやがって」

 肘でどつくと、泰之は気にしない素振りで穏やかな顔をして浅葱の頭をぽんぽんと撫でた。

 泰之がバスケ部の方に行くと、バスケ部員達からは即座に問い詰められた。

「お前ありゃどういうことだよ!?」
「どうって、言った通りだよ」
「マジか。あの本田が……」

 そう話していると、マネージャーの高梨比奈子とその恋人である二階堂篤もやってきた。

「わぁー、大井君おめでとー」
「やるじゃないか泰之」
「いやまあ、別に俺の手柄ってわけでもないんだけどね」

 と話していると、またバレー部の方が騒がしくなってきた。視線をそちらに向けると、またもびっくり仰天。

「おはようございます」
「琴奈どうしたのその髪型!」

 琴奈と仲が良いバレー部の一年生が、登校してきた琴奈の姿を見て声を上げた。
 昨日と変わらず派手な装いの琴奈。だが一つ大きな変化が、全体を驚くほど短く刈り揃えた髪だ。パンクな印象を感じさせる金髪バズカットになった彼女に、誰も彼もが衝撃を受けた。それこそ浅葱の変貌があっという間に忘れられるくらいに。
 ちなみに今回負けたら変えるよう言われたのは髪型だけであるため、髪色やメイクやアクセは以前と変わらない。

「ま、こういうルールの勝負に負けたわけだし。最初は抵抗あったけどさ、こういう髪型になった自分を実際に見てみたら案外アリじゃんって思ったんだけど、どうかな?」

 女子にとっては致命的な罰ゲームを受けたと言える状態でありながら、意外なほどにあっけらかんとしている琴奈。
 実際素材の良さも相まってなかなか様になっており、これはこれでお洒落に感じられた。ベリーショートの似合う女性は本物の美人というのは絶対的不文律である。

「かっこいいー……なんか海外のモデルさんみたい」

 比奈子が感嘆の声を漏らし、目を輝かせる。バレー部員一同も初め驚きこそしたものの、琴奈の美しさとお洒落意識の高さに感銘を受けて彼女を口々に賞賛していた。
 だが女子からは概ね好評な琴奈の新しい髪型であるが、いくら髪型を選ばないほどの美人であってもその髪型は男受けがあまりよくないのも事実。
 またしても失恋のショックを上乗せされるような形となった倫則は、ショックのあまり固まっていた。

「く、桑原さんの髪が……」

 とことん気の毒な倫則。強く生きて欲しいと、バスケ部員一同は思うのであった。
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