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第四章

第122話 断髪ビーチバレー・2

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 ようやく一点返した一年生ペア。サーブが回ってきたのは倫則である。

「よーし、この勢いで逆転しよう桑原さん!」
「油断しないで。コントロールを意識して」

 倫則のサーブに一抹の不安を抱える琴奈はアドバイスを送るが、倫則は琴奈から話しかけてもらえたことに浮かれている様子。
 チラッと琴奈のお尻に顔を向け、琴奈のTバック姿を見た興奮に身を任せ勢いに乗ってボールを打つ。しかし泰之に難なく拾われて、琴奈のトスからの素早いスパイク。しかし琴奈はそれを読んでブロック。泰之はネット際を落ちるボールに飛び込んで拳で上に弾いた。

「田垣君!」

 琴奈の呼び声に呼応するように、倫則は駆け出した。甘いボールがネットを越えると、相手のコートに叩き付ける。

「田垣桑原ペア、一ポイント」
「っしゃあ!」

 倫則は琴奈にハイタッチを求めるが、琴奈はそれをスルー。ぷいっとそっぽを向かれたのは残念ではあるが、それはそれとしてTバックのお尻は拝んでおく。

 一方で同点に追いつかれた二年生ペアは、額に汗を浮かべる。

「あいつら、息が合ってきたな」
「桑原さんが田垣を上手く操ってる。こういう状況だからこそ、田垣の単純さがむしろ長所として働いてるんだ」
「ところで本田さん、脱衣を忘れていませんか」

 二人の会話にルシファーが割り込むと、浅葱は舌打ちの後すぐさまショートパンツを下ろした。

「おい、見てんじゃねーよ」
「……悪い」

 泰之はそう言いつつも、露出度はショートパンツを脱ぐ前とそう変わってないじゃないかと不満に思った。
 白地に黒のゴムバンドを巻いたスポーツ用のボクサーパンツは、ブラとセットになったもの。同じスポーツ用ショーツでも、琴奈のそれとは肌の露出もその形状である目的も異なるものだ。

(いや、何ガッカリしてるんだ俺は。そんなまるで俺があいつのエロい格好を見たがってるみたいな……)

 無意識に湧いた感情を必死に否定しながら、泰之は目をつぶって首を横に振る。

「本田、もう次は無いと思うべきだ」
「わかってんだよ、んなこと。とにかく気合い入れて全力でぶっ倒すぞ!」
(無策じゃねーか)

 このピンチにおいても脳筋ぶりを発揮する浅葱に不安を募らせる泰之だが、浅葱は変わらずやる気満々でいる。

 試合が再開され、サーブは引き続き倫則。勢いの良い掛け声と共にコート真ん中付近に放たれたサーブを、浅葱は難なくレシーブ。
 どちらもあと一点取られたら下着を脱がなければならない状況で、ピリピリした緊張感の中お互い一歩も引かないラリーが続く。

「よそ見しないで田垣君! 一瞬の油断が命取りなんだから!」

 一人集中力を欠きついつい琴奈の方をチラ見してしまっている倫則は、琴奈から叱責を受けて気まずそうに視線をボールへと集中させた。
 琴奈の正確なトスにより丁度打ちごろの位置に浮いたボール。倫則はそれに飛びつき力を籠めて打った。
 が、琴奈は気付いていた。跳ぶのが遅く、琴奈の狙った位置で倫則が打てなかったことに。
 レシーブに行く泰之。だが瞬間浅葱は振り返らぬまま叫んだ。

「取るな大井!」

 寸でのところで動きを止めると、ボールは泰之の眼前を通り過ぎていった。

「大井本田ペア、マッチポイント」

 ボールが砂浜に跡を付けたのは、ラインの外側。脳筋無策に見えて、状況はしっかりと見ている。浅葱が確かにキャプテンの器であることを窺わせる一幕だ。

「ナイス大井」

 浅葱がハイタッチを求めると、泰之は快くそれに応じた。心地良い音が青空に響き渡る中で、相対する一年生ペアは沈黙していた。

「あと一点だな。最後まで油断せずに行こうぜ」
「……ああ」
「何だよお前、桑原が脱ぐのが気になるのか?」
「いや、そういうわけじゃ……」

 焦る泰之を、浅葱は白い目で見る。
 そして遂に三点目を奪われて下着を脱ぐ立場となった琴奈は、黙って俯いたまま。

「あー……桑原さん? ごめん、わざとじゃないんだ、決して」

 弁明する倫則であるが、心の中では。

(まあいいや。どうせならおっぱいくらい見てから勝ちたかったしな。俺のミスとはいえ結果オーライだ)

 反省がないどころか喜んでいる始末。その上で自分達の勝利を疑っていないのは、大した楽天家である。

「では桑原さん、下着を一枚脱いで下さい。どちらからでも構いませんよ」

 暫く静止していると、ルシファーからの催促が入る。期待に胸躍らせる倫則の見ている前で琴奈は、Tバックのショーツに指をかけ一気に下ろした。

(うおおおお! 桑原さんは下から脱ぐ派!!!)

 足音を立てないように琴奈の正面に回り込んで、今度は前の方を見ようとする。琴奈はイラっとしながらも諦めたようにそのまま脱いだ。途端、びっくりして目を見開く倫則。
 短めに整えられた逆三角形の陰毛は見た目の手入れに熱心な彼女の性格を表しているかのようだが、問題は陰毛の形状ではない。

「えっ!? 琴奈さんマン毛も金髪!? もしかして髪も地毛なの!?」
「どっちも染めてる。それが何か?」

 琴奈はそう言うと両手で股間を隠す。倫則は露骨にガッカリしたように眉尻が下がった。
 AVでもそうそう見ない色をした陰毛に衝撃を受けた倫則だが、琴奈はそのことに対してさらっとしている。

「わざわざそんな所の毛を染めてるってことは、まさか見せる相手がいるってこと!?」
「見せる相手がいなきゃ染めちゃいけないわけ? 私は私がやりたいから私のためにやってる。人に見せるためにやってるわけじゃないから」

 つい思ったことが口に出た倫則。苛立つ琴奈は言葉に棘が出てくるが、性的興奮がそれをシャットアウトし琴奈の感情は倫則に伝わらなかった。

「それよりも田垣君、こっちにはもう後が無いんだから、本当に真剣にやってよ」
「わかってる! 俺が桑原さんを勝たせてあげるよ!」

 良い笑顔で自信満々な倫則だが、琴奈の不安は膨らむばかりであった。
 対する二年生ペアの泰之も、琴奈の脱いだ姿にはドギマギ。目を泳がせて、相手のコートがまともに見られない。

「おい大井」
「み、見てない! 俺は見てないから……」
「いや試合が始まったら相手のコートちゃんと見ろよ」
「ええ……」

 この命令は役得と言えば役得だけども、下半身裸の美少女が視界に入ってまともに試合ができる自信は無かった。

 そうして試合は再開。サーブを打つのは泰之だ。琴奈はといえば股間から手をどけ包み隠さぬ姿勢。嫌でも彼女の金色陰毛が目に入り、どうしても意識をそちらに持っていかれてしまう。
 打ったボールはコントロールが乱れ、ネットに当たって自分のコートに落ちた。

「田垣桑原ペア、マッチポイント」

 痛恨の自殺点。泰之から血の気が引いていった。

「このゲームにデュースはありませんので、次に点を取った側が勝者となります。では本田さん、下着を一枚脱いで下さい」
「大井てめー……」
「わ、悪い……いやまあ言い訳がましいのはわかってるけどさ、あれを目の前にして集中するのは男には無理だって!」

 男子は女子の裸体に意識を持っていかれて集中力を失い、女子は裸体を隠そうとするあまり動きが鈍る。それが脱衣ゲームの恐ろしい所だ。泰之は見事それに引っかかってしまった。
 だがこのサーブミスは、琴奈にとっては九死に一生を得たものであったかもしれない。何故なら腰を落とした姿勢で構えていた琴奈の後ろで、倫則はそれ以上に姿勢を低くして琴奈のお尻を覗いていたからだ。勿論、ボールや相手の選手など視界に入ってすらいない。

(うおおおおお!! アナル見えた!!!)

 泰之の比ではないほどに集中を欠いていた倫則。仮にサーブが入っていたら、そこで決着がついていたかもしれない。

 それはさておき、浅葱の脱衣である。ギリギリと奥歯を噛む浅葱は脱衣に抵抗しているようだが、やがて折れて自分からショーツを下ろした。やはり体を動かすゲームでは、胸の揺れを気にして下から脱ぐ女子が多いようである。
 彼女の陰部はある意味予想通りと言うべきか、実に野性的であった。全く手が入っていないと思わしき黒々とした原生林が、広い範囲に生い茂っている。

「何だよ、見てんじゃねーよ」
「あー……うん」

 歯切れの悪い返事。男らしい下半身なのに、紛れもなく女だと認識させられる。脳がバグったような感覚で、ただ悶々とさせられる。

「次のサーブは向こうに回るんだ。ぼさっとしてる余裕なんかねーぞ!」
「あ、ああ、わかってる」

 女子二人がショーツを脱がされた得点は、いずれも男子のミスに起因するもの。気が抜けている泰之に、浅葱は釘を刺す。
 なおその浅葱は両手で股間を隠しても広範囲に生えた毛が隠しきれておらず、それがまた泰之の集中を削ぐものであったりするのだが。

(ああ……意識しないようにしてたのに……やっぱさ、女なんだよな……こいつ)
「てめー俺が脱ぐ度いちいち嫌そうな顔しやがって。そんなに俺の裸を見るのは不快かよ」
「あ、いや、別にそういうつもりでは……」

 強気な口調でいる浅葱だが顔は紅潮しており、言葉のきつさは照れ隠しも含んでいるのだろう。そんな様子を、泰之はつい可愛いと感じてしまった。
 その感情に身を任せて泰之は弁明の言葉が自然と口から出てくる。

「お前の裸を他の男に見せたくなかったんだよ!」
「はぁ!?」

 途端、浅葱の顔の赤みはより深まり、ただでさえ小さな瞳がより窄まった。


 二人は小学校からの同級生であった。あの頃からがさつで脳筋なスポーツ少女であった浅葱。スポーツ好きで何かと話が合い、男友達感覚で接することができるため二人が仲良くなるのは自然な流れであった。
 尤も浅葱はバレーボールを始めて以来それ一筋であるのに対し、泰之は飽き性でやるスポーツをコロコロ変えるタイプ。浅葱と一緒にバレーボールをやっていた時期もあったが、結局長続きはせず他のスポーツに移った。

 そんな泰之は、高校進学に際して髪を染めて一気に見た目がチャラくなった。高校で入った部活はバスケットボール部。浅葱から何でそうしたのか訊かれたら、モテたくてと答えた。
 嘘はついていなかった。そして元々ルックスは悪くなかったこともあって、実際モテた。だが恋人は作らなかった。
 モテたいという言葉に「特定の人物に」という意図が含まれていることに、浅葱が気付く由は無かった。

 泰之が浅葱を好きになったことに、特別なきっかけは無い。友達として普通に接している間に、気付けば好きになっていたことを自覚した。
 だけど浅葱は、色恋に関しては極端に疎かった。その手の話には全く興味が無いと言わんばかり。せっかくお洒落して格好良く決めても、彼女から好意的な反応は無かった。
 高校デビューで垢抜けた泰之とは対照的に、女を捨ててバレーに人生捧げたままで成長した浅葱。お陰で関係性は単なる友達同士から発展することはなかったのである。


(ああ……こう言ったら流石に理解するよなぁ……)

 ようやく、といったところだが、果たして今の状況を喜んでいいものか。
 密かに好きだった女の子の下半身裸の姿を見て、後輩の男子にも見られて、こんな状況でちゃっかり気持ちが伝わって。頭がどうにかなりそうだった。

「さて、ではそろそろ試合を再開しましょうか」

 と、そこでルシファーが再開を宣言。泣いても笑っても次の得点で決着がつく。
 浅葱は一度深呼吸をすると、股間の前から手をどけ、相手のサーブに備えて通常通り構えた。
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