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第四章

第121話 断髪ビーチバレー・1 ~女捨ててる系バレー部員VSお洒落好きバレー部員~

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「馬鹿言わないでくれる? こんなゲームをして私に何のメリットがあるの?」

 最初にルシファーに抗議したのは、琴奈である。実に真っ当な疑問だ。勿論ルシファーは、それに回答を用意している。

「あなた方は先程体育館で言い争いをされていましたよね? それで勝負をして決着をつけると。私はその勝負の機会を作ってさしあげたのですよ」
「へえ」

 途端、口角が上がりやる気が出たのは浅葱である。

「上等じゃねーか。俺が勝てば桑原は頭坊主にしてくる。桑原が勝てば俺は桑原がチャラついた格好するのを認めた上で、頭つるっぱげにしてくる。ついでに負けた側は男の見てる前で全裸にもなる、と。それでいいな桑原」
「いやよくないだろ!」

 琴奈が返事をする前に、まず声を上げたのは泰之である。

「お前何言ってるかわかってんのか!?」
「構いませんよ先輩」

 そこで琴奈の思わぬ返事に、男子二人はぎょっとさせられた。

「曖昧なままで今後もあれこれ言われるのは嫌なので、ここできっちり決着つけておきましょう。どちらが勝っても恨みっこ無しです」
「く、桑原さん!? やめといた方が……」

 止めようとした途端冷たい目線を向けられたので、倫則は怯む。

(ひぃぃ……桑原さんが坊主にされるなんて絶対嫌だ! いや待てよ? もしここで俺のおかげで桑原さんが勝負に勝てたとなったら、桑原さんの俺への好感度爆上がりだろ!? こいつはチャンスじゃないのか!? それに負けない程度にギリギリいい勝負をしていれば、桑原さんの下着や……もしかしたらおっぱいくらい見れるかもしれない!)

 それに気付いたら、倫則のやる気も急激に上がってきた。

「では両ペアは代表者を選んでジャンケンをして下さい。勝った側にボールかコートか選ぶ権利が与えられます」
「よし、俺が出る。来いよ桑原」

 泰之一人が乗り気でないままで、ルシファーはゲームを進行。
 浅葱に手招きされた琴奈は無言で前に出て、ジャンケンに応じた。ジャンケンの結果は、浅葱がグーで琴奈がパー。

「ではボールを貰います」
「だったら俺はこっちのコートだ」

 浅葱のサーブの強さをよく知る琴奈は、ボールを選択。そもそも少ないポイントで決着がつくこのゲームでは、先攻を取った方が明らかに有利だ。
 そうして始まったビーチバレー。まずは琴奈のサーブ。抜群のコントロールでコート角を狙って打った一発だが、浅葱は易々とそれに追いついてレシーブ。

「大井トス上げろ!」
「っ……任せろ!」

 まだ戸惑いが収まらない泰之であるが、流石バスケ部のキャプテンを任せられるだけあってスポーツのセンスは非常に良い。バレーは専門外でありながら、浅葱の意図を組んでネット際に的確なトスを上げる。

「オラァ!!!」

 高く垂直に跳び上がりドスの効いた掛け声と共に放たれた、強烈なスパイク。構えていた倫則の横に叩き付けられて、砂浜に深い跡を作った。

「大井本田ペア、一ポイント」

 ルシファーがそう宣言し、リリムがスコアボードに記録する。

「では桑原さん、トップスを脱いで下さい」
「田垣君?」
「あっ、ご、ごめん!」

 また凍り付いたような目で見られて、倫則は顔面蒼白。活躍するどころかいきなり足を引っ張ってしまい、頭の中が真っ白になってしまった。

(やべー……相手が女子だからって油断してた。スパイク打ったのが大井先輩だったらきっともっと本気で取りに行ってたと思う。相手は女は女でも女捨ててるゴリラ女だ。油断せず気を引き締めていかないと……)

 両掌で頬を叩いて気合を入れ直し次に臨む倫則だったが、その前にまずは大事なことがある。琴奈の脱衣を、ガン見することだ。脱ぐのを躊躇っていた琴奈は倫則の視線に気付き、不快そうに目を細める。

(あっやべ、また桑原さんを怒らせて……いや待てよ? 岡本先輩も、あの胸と背のでかい彼女に最初嫌われてたけどいつの間にか両想いになってたわけだろ? きっかけさえあれば俺だってここから桑原さんに好かれることだって……)

 そうやって考えていると、とうとう観念した琴奈がユニフォームを脱ぎ始めた。倫則は慌てて目を見開きその姿を脳内に刻み込む。

(うおおおおお!! 桑原さん、どんな下着なんだろう? やっぱお洒落なピンクのレース系とか……)

 少しずつ捲り上げられたユニフォームから白い肌が露になってゆく度、倫則の興奮は増す。やがてピンクの生地が見えてきて、予想が当たったと歓喜する。
 が、色はともかく形状に関しては意外なものであった。ピンク地に白の星柄を散りばめたスポーツブラに、倫則はパチパチと瞬きをする。

「へ、へぇ……桑原さんってスポブラ派なんだ」
「お生憎様。フリフリの可愛いブラでもしてると思った? 部活で動くし汗かく時にそんなブラ着けるわけないでしょ。男子ってそんなこともわからないの?」
「あっ、はい」

 つい思ったことが口に出てしまった倫則は、かなり辛辣な言葉で拒絶の感情を向けられ意気消沈。
 琴奈が脱いだことを確認すると、ルシファーはゲームを進行する。

「さて、このゲームでは一ポイント入る毎に、ミーティングタイムを行います。今後の作戦について、自由に話し合って下さい。なお、終了の時間は私の裁量で決定致します。それでは、ミーティングタイムスタート」

 早速、浅葱が泰之に話しかける。

「よし、次からは俺のサーブだからな。この調子でガンガン行こうぜ」
「……なあ、本田。お前何であんな賭けしたんだよ」
「何の話だ?」
「負けたら頭剃るってやつだよ。何でまたそんなこと」
「俺とあいつじゃそもそも髪の長さが違うんだ。そこまでしなきゃフェアじゃねーだろ。俺が坊主にしたところでちょっと切るだけで済むんだからな」
「お前そういうところ律儀だよな……そもそも負けたら髪切るなんて賭け自体やめりゃいいのに」

 泰之がそう言っても、浅葱が聞く様子はなかった。

 一方の、一年生ペア。

「えーと……桑原さん? 次はどうしたら……」
「田垣君、バレーの経験はある?」
「体育でやった程度に」
「だったら次は上手くやって」
「は、はい」

 こちらもこちらでコミュニケーションが上手く行っておらず、不機嫌な琴奈に倫則はビビりっぱなし。

「はい、ではここでミーティングタイム終了です。試合再開となります」

 丁度いいタイミングで終了を告げたルシファーに従って、四人は位置について構える。
 ボールは浅葱の手の上に出現。高く上げたボールを勢いよく打つ、強烈なパワーサーブだ。レシーブに回るのは琴奈。ボールを弾いた手首が痺れるも、どうにか打ち上げる。

「田垣君!」

 倫則は指示通りトスを上げるが、位置はあまり良くない。それでも琴奈はしっかりとボールの軌道を見極めて跳び、スパイクを打った。
 だがそんな緩いスパイクは浅葱に容易く取られ、泰之のトスからのパワースパイクで反撃。

「私が取る!」

 レシーブしに行こうとする倫則を制止した上で、琴奈は拳でボールを拾う。打ち上がったボールに倫則が駆け寄って精一杯のトスを上げるも、ボールはあらぬ方向に飛んでいきコート外に出た。

「大井本田ペア、一ポイント」
「ご、ごめん桑原さん! わざとじゃないんだ!」
「わかってる。本田先輩のスパイクで勢いのついたボールは、素人がコントロールできるようなものじゃない」
「だ、だよねぇ」

 フォローして貰えたのでそれを肯定したら、何故か睨まれて倫則はビクリと身震い。

(何だよ結局不機嫌になるんじゃないか)
「さて桑原さん、ボトムスを脱いで下さい」

 ルシファーに淡々と指示されると、琴奈は割り切ったかやけになったか、即座にショートパンツを下ろした。途端、倫則が「うおっ」と声を上げる。

「く、桑原さん! 凄いパンツ穿いてるね!!」

 ブラジャーの時とは違うベクトルで予想だにしない下着が出てきて、白桃のようなお尻をガン見しながら興奮に声を震わせた。
 琴奈のショーツはブラと同じピンク色で、まさかのTバックであった。

「下着が食い込むのが嫌なのと、動きやすいから部活用に穿いてるだけ。まあ、ファッション的な意味でも好きな方ではあるけど」
「へぇー……」

 変な誤解をされたくなかったから説明したのだが、それが気を許したと認識されたようで倫則は遠慮なくガン見してくる。琴奈は両掌でお尻を隠し、細めた目と釣り上がった眉により拒絶の感情を顔に表した。

「男に見せるつもりで穿いたものじゃないから」
「あ、そ、そうだよね!」

 慌てて目を泳がせる倫則は、それでも何度も琴奈をチラ見していた。
 二人の会話が切りの良いところに来たら、ルシファーがミーティングタイムの開始を宣言。

「そうだ田垣君、貴方バスケ部ならジャンプ力あるよね?」
「え、まあ、ある方かな」

 琴奈は即座に気持ちを切り替えて、試合に勝つための策を提案し始める。

「だったら私がトス上げるから、田垣君がスパイク打って」
「よし、任せてくれ!」

 今度こそ良い所を見せようと張り切る倫則に、琴奈は少々不安げ。彼を信用はできないが、今は勝つために彼がバスケで培った技能に頼るしかない。

 一方の二年生ペア。二点目を取って大きく差を付けたにも関わらず、浅葱は不満を表情に露にしていた。

「ちっ、お前の後輩が足引っ張ってばっかいるから桑原に勝ったって気があんましねーな」
「いいじゃないか、勝ってるんだから」

 泰之はこのままストレートで勝つことを望んでいる。浅葱の脱いだ姿を見てしまったら、自分の中で何かが変わってしまいそうな気がしていたからだ。

 そして、試合が再開される。サーブは引き続き浅葱。剛腕から放たれる強烈な一発を、倫則は両腕で受け止める。琴奈が弾かれたボールの軌道を的確に読んで動きトスを上げると、倫則はネット際まで素早く駆けて垂直に跳ぶ。

(高い!)

 見上げる浅葱は、鳥人のように跳躍する倫則に仰天させられた。次の瞬間、砂浜に叩き付けられるビーチボール。

「田垣桑原ペア、一ポイント」

 暫く唖然としていた浅葱だったが、倫則のガッツポーズと共に放たれた「っしゃあ!」という叫びを聞いてはっと我に返った。浅葱と顔を見合わせる泰之は、やられたと言わんばかりに眉をひそめていた。

「あいつはダンクがやりたくてバスケ始めた奴だからな。ジャンプ力は相当鍛えてる」
「そこに名セッター桑原のトスが合わされば……やべーぜこいつは」

 足手纏いかと思いきや、思わぬ伏兵。優勢にあった二人に、一転して緊張が走った。

「それでは本田さん、トップスを脱いで下さい」
「げっ、マジかよ……」

 嫌そうな顔をする浅葱の横で、泰之は胸中をざわつかせた。

(本田が脱ぐとか……やめろよそんな。そういう色気とは無縁の女だろ!)

 だけども体は感情に反して、浅葱の方を横目で見てしまう。
 そして浅葱はユニフォームを捲り上げ、一気に脱ぎ捨てた。アンダーに黒のゴムバンドをあしらった白のスポーツブラは彼女らしくありつつも、そこに明確な“女”を感じさせるもの。腹筋の割れた筋肉質な身体は、スポーツ少女の健康的な色気を醸し出す。
 泰之は下半身に何かが湧き上がってくるような感覚を覚え、それを頭で必死に否定した。

「大井てめー見てんじゃねーよ」
「あっ、いや……」

 ガンつけられて慌てて浅葱に背を向けた泰之は、少し硬くなりかけていた股間に手を当てる。

(こいつで勃つとか……ああー……)

 泰之が自己嫌悪に陥る横で、浅葱の三白眼は倫則の方にも睨みを向けた。

「そっちのてめーもだ」
(言われなくてもあんたの下着なんかに興味ねーよ)

 浅葱を視界からシャットアウトし、琴奈だけを注視。
 男子二人の視線を遠ざけた浅葱はフンと鼻を鳴らし、胸の前で腕を組んだ。その頬が仄かに赤く染まっていることに、泰之は気付く由もなかった。
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