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第四章

第117話 嘘つきは脱がされる婚活パーティ・2

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 フリップに嘘を書いて服を脱がされた栗本典可――自称二十三歳は、比較的大きめな胸を覆う紫レースの高級感あるブラジャーをフリップで隠していた。

(何で婚活パーティに来てこんなことに……もしかして騙されてAVの撮影か何かに参加させられてるんじゃ……?)
「では栗本さん、筧さん、真実を表示するかどうか選択して下さい」
「えっと、それはどういう……」
「嘘がバレた方には、その後フリップに真実を表示するかどうかの選択権が与えられます。表示を許可した場合、嘘偽りない真実が強制的に表示されます。拒否した場合、真実は隠されたままです。これは嘘をついて服を脱がされてでも隠したい秘密がある場合にご利用下さい。尤もフリップの内容が嘘であることだけはバレた状態ではありますが。また、そこまでしてまで隠すほどの後ろめたいことを抱えているのだと他の参加者に認識され、婚活で不利になることもご留意下さい」
「わ、わかりました。真実を表示します」
「では、私も……」

 栗本と筧がそう言うと、栗本のフリップの『23歳』が『26歳』に、筧のフリップの『32歳』が『36歳』に変わった。二人とも見栄を張って年齢を鯖読んでいたのである。

「さて、それでは次のお題に……」
「冗談じゃない! こんな馬鹿げたことやってられるか!」
「残念ですがこの催しが終わるまで皆さんは帰れません」

 ルシファーが進行しようとした途端に声を上げたのは、沖田である。しかしルシファーはそれを一蹴。

 一方初めは栗本の胸にばかり注目していた男性陣であったが、やがてその視線が向けられるのは高田葉月に変わる。
 フリップの内容が訂正されず服も脱がされなかったということは、即ちそれが真実であることの証明である。二十歳という若さで婚活パーティに参加していることに不審な気持ちはありつつも、何だかんだで若い子に魅力を感じてしまうのが男心なのだ。
 その高田はといえば、冷静を装いつつも内心はかなり焦っていた。

(あわわわわわわ、どうしよう……こんなことになるだなんて聞いてない……)

 女性陣の焦りが伝わってくる中、リリムは別の場所を不安視。

(あー、どうしよ。他の二人ばっかモテてて沖田先生全然注目されてないよー)

 男性にとって、女性は若い方が良いという価値観は不変だ。だからこそ栗本は鯖を読んだ。女性陣の中で一番年長の沖田は、その時点で不利な立場といえる。

「さて、では二つ目のお題に参りましょう。女性の方はバストのカップサイズをアルファベットで」
「セクハラじゃないですか!」
「脱衣を伴うゲームなのですから、今更でしょう。ちなみに白紙提出は嘘として扱われます」
(やっぱりこれAVの撮影なのでは……)
「さて話は逸れましたが、男性の方は身長をセンチメートル単位でお書き下さい」
「そこはチン長じゃないんだね」

 そう言ったリリムの脳天に、ルシファーは軽くチョップをかます。
 どちらも男女それぞれで、何かと盛りがちな身体スペック。明らかに嘘をつくことを誘っているお題だ。六人は渋々と書き始めた。

「はい、全員書けましたね。では皆さんの回答を見ていきましょう。

 魔法で体が勝手に動き、フリップの文字が書かれた面を正面に向ける。

斉木光男:170
筧仁助:167
戸塚修一郎:177
沖田春:F
栗本典可:E
高田葉月:B

 それぞれの回答に、ルシファーは目を通す。

「さて今回は……一人嘘つきがいますね」

 ルシファーがそう言うと、参加者達に緊張感が走る。そして×が付いたのは、筧のフリップだ。

「えっ、間違ってた?」
「では真実を表示しますか?」
「はい」

 筧の表情と発言は、嘘をついていた自覚が無いことを窺わせるもの。訂正されたフリップの数字は『166』である。僅か一センチ差。

「いや、今回は鯖読んだんじゃないですよ。最近ずっと計ってなかったからうろ覚えで……」
「嘘をついたつもりがなく間違えた場合でも、ルール上嘘をついたという扱いになります。では筧さん、ボトムスを一枚脱いで下さい」

 がっくりして溜息をつくきながら、筧はスラックスを脱ぐ。彼はボクサー派である。他の男性陣は、男が脱いでもなぁとこちらも溜息。
 だがそれはそれとして、今回女性陣のバストサイズが判明したのである。各々女性陣の胸部とフリップを交互に見ていくが、勿論その視線は女性陣からバレバレであった。

「あの、ルシファーさん?」

 ルシファーにひっそりと声をかけたのは、すっかり存在感を無くして棒立ちしていた天使ティアラである。

「女性陣から男性陣への印象、ちょっと悪くなってません? 本当に大丈夫なんですかこれ」
「まあ、なるようになるさ。全ては本人達次第だ。さて、では三つ目のお題に参りましょう。皆さんの職業を、フリップにお書き下さい」
「あ、今回はまともですね」

 そしてフリップに書かれた内容は。

斉木光男:化学者
筧仁助:システムエンジニア
戸塚修一郎:建築現場作業員
沖田春:高校教師
栗本典可:デパート店員
高田葉月:小説家

「これはまた多種多様な職業の方が来ていますね」

 その回答を受けて、ルシファーはわざとらしくニヤニヤしてみせた。

「なるほどなるほど。今回も……一人が嘘をついているようです」

 ドキッとした高田のフリップに、×が付けられる。女性に×が付いたことで、男性陣の心中でテンションが上がったのは言うまでもない。

「あの、やっぱ、駄目ですか? デビューしてないのに名乗るのは……駄目ですよね、はい」

 高田が眼鏡の奥の目を泳がせながら言うと、ルシファーは「ええ」とだけ答えた。高田は縮こまりながらこそこそとブラウスを脱ぎ、小ぶりな胸を覆うシンプルながら清潔感のある白のブラジャーを露出させた。高田は頬を紅潮させ、すぐにフリップでそれを隠す。

「それで真実の表示は如何しますか?」
「もう表示していいです。どうぞ」

 訂正されたフリップの内容は容赦なく『無職』に書き換えられた。二十歳で婚活パーティに参加した理由の一端を、その場にいた一同は多かれ少なかれ察した。

「ところで皆様、ゲーム中の参加者同士での雑談は自由となっております。このゲームで判明したことについてでも、それ以外のことでも、ご自由に会話をして下さい」

 そうは言われても、こんなどこか気まずい状況で何を話せばよいか。皆が皆戸惑っている様子。すると突然、全員のフリップがすっと消えた。これで下着を隠していた栗本と高田は災難である。

「あ、ちなみにフリップは次のお題まで私が預かっておきます」
「え、ちょっと……」
「さあさあ、これは婚活パーティなのですから会話を弾ませて」

 ルシファーに促され最初に他の参加者に声をかけたのは、女性陣の中で唯一まだ脱いでいない沖田であった。

「戸塚さん、建築現場でお仕事されているんですね。道理で良い筋肉をしていると思いました」
「いやぁ、はは……まあ、筋トレは趣味も兼ねてますから」

 体育会系同士通じるものを感じたのか、話しかけた相手は戸塚である。戸塚の方も、なかなか好感触だ。
 そして沖田に触発されたのか、筧も高田に話しかけ始める。

「高田さんは、どのような小説を書かれているんですか?」
「えっ? それは、その……恋愛物、といいますか……」
「ああ、BL的な……」
「違います」

 真顔できっぱり否定されて、筧はドキリ。

「私が書いているのは男女のピュアな恋愛物です。腐女子認定はやめてもらえます?」
(やっべ地雷踏んだっぽい)

 こちらは残念ながらコミュニケーション失敗で悪印象を持たれる。
 余った栗本と斉木も、とりあえず話し始めた様子。

「斉木さんは化学者だそうで、どんな研究をされているんですか?」
「工業用の素材開発が主ですね」
「へー」

 栗本は自分から話しかけておいてあまり興味が無さそうな返事。
 話している間も男性陣は女性陣の身体をチラチラ見ていて、女性陣は恥ずかしい思いをさせられた。

「さて、ではここで次のお題です。性器以外で一番の性感帯をお書き下さい」
「はい?」
「性感帯です」
「セクハラじゃないですか!」
「皆さんこれから夫婦になる方をお探しなのでしょう? 満足できる夜の生活を送る上では大事なことですよ」

 言いくるめようとしてくるルシファーに、女性陣は疑いの目を向ける。すると前に出たのはリリムだ。

「ちなみに司会のお姉さんはアナルらしいよー」
「何でそれ言うんですかあぁぁぁぁ!!」

 慌ててリリムの口を塞ぐティアラだったが、彼女の性感帯はとっくに皆に知られてしまったのである。

「では皆さん、回答をどうぞ」

 そうは言われても、こんなお題を出されては手が止まるのが人の心理だ。沖田に至ってはどうしていいかわからず、顔を青くする始末。

(わからん……自分の性感帯なんて意識したことがなかった……)

 スポーツと教育に人生を捧げてきた沖田。保健教科を受け持つ以上知識に関しては人並み以上にあるつもりでいたが、あくまでそれは教科としての知識。実践的な面では、実は一人Hの経験すら無かったのである。
 対して高田は、この窮地を乗り切る一つの手段を思い付いていた。

(これ、真実を表示しない選択もできるわけでしょ? だったら服一枚犠牲にして白紙で出せば本当に恥ずかしいことは隠せるはず……)

 高田は視線を下に向け、自分のスカートを見る。あと一回だけならば、下着までで留まれる。だが次にまた答えたくないお題が出た時には、下着と引き換えにするかの選択を迫られることになるのだ。これは悩ましいことである。

 そして、全員の回答が提示される。

斉木光男:わからない
筧仁助:脇腹
戸塚修一郎:背中
沖田春:わからない
栗本典可:首筋
高田葉月:耳たぶ

「ほうほう、なるほどなるほど。自分の性感帯というのは案外と知らなかったりするものですからね。わからないという回答も正直なものなのでしょう。ですがこれは事実上の白紙回答とみなします。よって白紙二名と、嘘つき二名の計四名に脱いで頂きましょう」

 ×が付いたのは斉木と女性陣三人。
 女性陣三人が一斉に服を脱ぐ光景は壮観。悔しそうな顔でブラウスを脱いだ沖田の着ている飾り気のないベージュのブラジャーは、奇遇にも前回の脱衣ゲームと同じものだ。やはり下着のお洒落をしようという考えは無いようで、これを人に見られることは全く意識していなかった様子だ。
 恥じらいつつも仕方ないと割り切った様子でスカートを脱ぐ栗本は、色っぽい紫レースのショーツ。涙目になりながら脱ぐ高田は清楚な白のショーツである。ついでに斉木もワイシャツを脱いだことには、誰も注目しない。

「さて、では皆さん真実を表示しますか?」
「しません」

 四人同時に答える。
 ちなみにルシファーにだけ解っている正解はそれぞれ沖田が太腿の内側、栗本が腋の下、高田が乳首である。斉木については割愛。栗本と高田はいずれもフリップに書いた部分も性感帯であることは間違っていないが、もっと感じる部分が他にあり、いずれも人前で公表するのを躊躇う部分であった。

「では、ここで雑談タイムです」

 そしてやはり、フリップが消える。そして案の定男性陣が女性陣をチラ見するばかりで、なかなか会話が始まらない。

「えーっと……筧さんはシステムエンジニアだそうで。お勤め先はどちらに?」

 やっと口を開いたかと思えば、斉木が筧に同性同士で話しかけていた。

「え、私ですか。富岡コーポレーションです」
(あ、櫻ちゃんちの会社だ)

 筧の答えた会社名に、まず反応したのはリリムである。続いて、栗本も。

(富岡コーポレーション!? この辺りじゃトップレベルの大手じゃない。てことは彼、もしかして高収入!?)

 栗本の中で、突然急上昇した筧の株。元々彼は男性陣三人の中では、ルックス面で一歩劣る印象だった。だがそれを以って余りある、高収入という魅力。
 尤も、脱衣ゲームに選ばれなかった婚活パーティ参加者の中にはたとえ金持ちであっても結婚お断りレベルの人が少なくなかったため、それらと比べれば彼は遥かに恵まれた容姿ではあるのだが。

 筧に声をかけようとした栗本であったが、その前に声を発したのは沖田だ。

「奇遇ですね。うちの高校に、富岡コーポレーション社長のご令嬢が通っているんですよ」
「へぇ、そうなんですか。櫻お嬢さん、今年の新体操インターハイでもご活躍されたそうで」
(あ、あの女……!)

 自分が狙った瞬間に、他の女に共通の話題で持っていかれる。栗本が焦ったのは言うまでもない。

(今は雑談タイムであってゲーム中じゃない。嘘ついても脱がされることがないわけだから、二番の彼が高収入だとわかった途端職業を活かした嘘で食いついたってこと? いや待って。それを言ったら彼が富岡の社員だってこと自体が嘘の可能性も……)

 一人で勝手に疑心暗鬼になる栗本だが、沖田の話は勿論のこと筧の話も真実であることをルシファーは理解している。

「ではそろそろ、次のお題に参りましょう。貴方が異性の身体に対して最もフェチを感じる部位をお書き下さい」
「またセクハラ系じゃないですか」
「これも夫婦生活には大事なことですよ」

 ブレないルシファー。戸惑う面子の中で、ルシファーはある参加者に視線を向ける。どういうわけか嬉しそうに口角を上げる栗本だ。

(いいじゃないこのお題。相手のフェチを知れたらアピールに活用できるってことでしょ!?)
(このゲームの意図に気付いたな。面白くなるのはここからだぞ)

 つられるように口角を上げるルシファー。その顔を見上げて、隣のティアラは未だに意図が読めず不安げに表情を曇らせていた。
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