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第三章

第99話 悲鳴を上げたら脱がされるお化け屋敷・4

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 全裸にされたと思ったら、最後に麦わら帽子だけは残っていた。
 千景は帽子で胸と下を同時に隠せないかとお腹の上に帽子を置いているが、結果として両方が全く隠せていない事態に陥っている。

「先輩、両方見えてます」
「わかってるよぉ」

 指摘された千景はさっと帽子を上に動かし胸を覆うが、そうしたら入院中手入れが及ばずジャングルになっている場所が丸見えに。
 今度はすぐさまそちらに帽子を動かして隠すが、当然そうしたら大きく柔らかそうなお胸と濃茶色の先っぽが丸見え。
 はうはう言いながら上下を交互に隠している千景であるが、信吾からしてみれば上下を交互に見せてくれているようなものである。

「どっちか隠すなら……やっぱりこっちだよね」

 最終的に選んだのは、下のジャングルを帽子で隠す形式。右手で帽子を押さえながら、左腕を胸に当てる。腋もぴったり閉めて、隙を見せない構え。
 しかし当然ながら、後ろから見れば大きな白桃が丸見え。信吾が見ていることに気付いた千景は、慌てて左腕を胸からどけてお尻の割れ目の上に置いた。

「うう……大木君てばエッチ……」
「あっ、いやその、すみません。男とはそういうものだとご理解頂ければと……」

 この状況で視線を向けるのを我慢できるほど、信吾の心は強くない。申し訳ないとは思っていながら、謝った後もついついチラチラ見てしまっていた。



 一方で、狭い密室に閉じ込められた当真と冬香。
 入ってきた扉の向こうではガシャンガシャンと金属が鳴る騒がしい足音が次第に大きくなっていきやがてピタリと止まった。

「扉の前まで来たみたいね」
「どうすんだよマジで。こっから出たら殺されるぞ!?」
「本当にあの剣で私達を傷付けようとしてくるかしら? 恋咲さんと神崎さんがこのゲームに関わってるなら尚更それはないと思うけれど」
「まあ、そう思いたいが……」

 当真の胸の高鳴りは、恐怖によるものか或いは。
 トップレスで堂々としている冬香を、当真はチラチラと見てしまう。半裸の女子と密室で二人きり。こんなの意識してしまうに決まっている。

「ちょっくら俺、トイレの方調べてみるぜ。何か脱出用の仕掛けがあるかもしれないからな。お前は鏡とか洗面台とか調べてくれ」
「わかったわ」

 少々気まずく感じてきた当真は、逃げるようにトイレへと向かった。
 便器の前に立った当真は、何かビックリさせる仕掛けがあるんじゃないかと警戒しつつ蓋を開く。が、とりあえずはごく普通の便器のようだ。トイレの個室内をざっと見渡しても、これといって不自然なものはない。

「うーむ……トイレだからな。もしかしてションベンしてみたら何か起こるんじゃねーか?」
「私にして欲しいの?」
「えっ、あ、いや……」

 割れた鏡の中の自分と見つめ合っていた冬香が尋ねると、当真は狼狽える。

「そう。代々木君はそういうの好きそうかと思ってたけど」
(まあ好きかと言われたら好きだが)

 見ず知らずの女性のポロリを探し求めるのは良くても、気になっている女子に放尿させるのは気が引ける。複雑な男心である。

「……俺、ちょっとションベンしてみるわ」

 この先また脅かされてビビッた拍子に冬香の前でお漏らしでもしたらダサすぎるから、今のうちに用を足しておきたかった当真である。
 扉を閉めて粗末な物をファスナーから出し、立ち小便を始める。扉の向こうでは、冬香がその音を鑑賞していた。
 尿を出し終えて水を流そうとした当真だったが、ふと脳裏に浮かんだのは冬香の乳首。

(せっかくだし、ついでに一発抜いとくか)

 扉の向こうで冬香を待たせているにも関わらず、当真はそのまま粗末な物をしごき始めた。
 こんな薄気味悪いトイレでも、つい先程オカズを得たばかりのタイミングでおあつらえ向きにトイレットペーパーが用意されていたら抜かざるを得ないのが男のさがだ。

(やっべえ、同級生の乳首とかどんなAVよりも抜けるわ)

 顔をにやけさせ興奮に身を委ねる当真は、ふと違和感を覚えて水面に目を向ける。
 黄色く染まった水面から覗く、二つの眼。当真の背筋が凍ったのも束の間、それは一気に浮かび上がって便器から飛び出した。

「んぐっ……!」

 つい先程まで自分の性器に触れていた手でも構わず、両手で自分の口を塞ぐ当真。こうでもしなければ、確実に悲鳴を上げていたという判断だ。
 慌てて逃げ出そうとするも、鍵のかかった扉に阻まれて突っ張る。焦りながら鍵を開け、必死に声を出すのを押さえながら勢いよく扉を開けて飛び出した。

(何で洋館にトイレの花子さんが出てくんだよ。世界観どうなってんだ)

 便器から現れたのは、おかっぱ頭に赤い吊りスカートの幼い少女。最初はびっくりした当真であったが、改めて振り返ってみれば可愛いものであった。

「あら可愛い」

 すると、こちらに寄ってきた冬香がそう呟く。

「だろ? あんなので悲鳴上げるほど俺も落ちぶれちゃいねーぜ」
「可愛いおちんぽ」

 どや顔で強がっていた当真だったが、直後の冬香の発言を聞いてぽかんと口を開ける。そしてはっとして顔を下に向け、粗末な物が出しっぱなしであることに今更気付いた。
 勃起時でも平常時の孝弘より小さい、子供と見紛うくらいのの短小包茎。慌てて出てきたばっかりにそれが出しっぱなしで、冬香に思いっきり見られた。

「うわあああああああ!!!」
『代々木君アウトー……ぶふふっ』
「これでアウトかよおおおおお!!!」

 笑いを堪える震えた声でアナウンスするリリムだったが、最後にはとうとう噴き出す。二度続けて、当真の絶叫が狭い部屋に響いた。
 それに応じるように、壁から伸びる無数の白い手。冬香のショーツに指先が引っかかろうとした、その時だった。

「待って。自分で脱ぐわ」

 冬香がそう言うと、白い手の動きはピタリと止まる。腰の両サイドからショーツに指を入れた冬香は、身を屈ませながら流麗な動きですっとそれを下ろした。

「代々木君、私を見て」

 言われなくても、当真は瞬きすらせずにじっと見つめている。あえて手入れをせず自然のままにしている下の毛は、髪の毛同様にボリュームがある。唾を呑んだ当真は、下半身に何かが込み上げてくるのを感じた。
 つい先程までしごいていて、出かかっていたものが、出た。少し体にかかった冬香は嫌がる素振りを見せず、それどころか愉悦と言わんばかりの表情を浮かべる。下腹部に付着したそれを軽く指先に取って口元に運び、ペロリ。

「ふーん、こんな味するのね」
「いやお前、何やって……」

 まさかの行動に呆気に取られた当真。とてつもない醜態を晒してしまい、顔面蒼白になる。
 そしてそこに鳴り響く、リリムのアナウンス。

『これにてゲーム終了でーす。全員屋敷の外に転送しまーす』


 同刻、千景と信吾の方にも同様のアナウンスを彩夏が告げていた。

「ん、向こう負けたみたいだな」
「よかった、私達勝ったんだ……」

 千景はほぼ全裸でふよふよと空中を漂いながら、ほっと胸を撫で下ろす。そして、案の定その千景を何度もチラ見していた信吾である。
 屋敷の廊下を進んでいたはずの二人は、瞬く間に屋敷の外に転送されていた。そして対する、当真と冬香も。

「うおっ!?」

 見知った部活の後輩女子が全裸になっているのを見た信吾は、思わずそんな声を上げる。瞬間、背筋に感じた冷気。

「大木君?」
「す、すいません先輩!」

 慌てて冬香から目を逸らした信吾を、千景は頬を膨らませて睨む。一瞬呪い殺されるかと思った信吾は、千景の裸体を見た時以上に心臓が爆音を立てる。基本明るくてあまり怖い感じのしなかった千景に、改めて幽霊だと認識した瞬間だった。
 そして相手側の女子に視線を向けたのは、勿論信吾だけではない。

「うおっマジかよ! 向こうも全裸だぜ!」
「代々木君?」

 出すもの出して一度柔らかくなったものが再び硬くなろうとしたその拍子に、冬香がそれを手で握った。当真は「ひょっ」と声を上げる。

「おまっ……チンコ握るのは反則だろ……」
「誰を見て勃ってるのかしらこのおちんぽは」

 股間を掴まれながら耳元で囁かれ、当真の背筋が凍る。

「わかった。もう向こう見ないから潰すのだけは勘弁してくれ」

 冬香が手を離すと、当真は慌てて粗末な物を仕舞った。
 するとそのタイミングで、ルシファーとリリム、そして彩夏が姿を現したのである。

「皆さん、お疲れ様でした。今回のゲームは、大木君&星野さんペアの勝利です。これにてお二人は、カップル成立となりました。おめでとうございます」

 有無を言わさずカップル成立と言われて、信吾と千景は顔を見合わせる。

「いやその、俺は一向に構わないんですが、先輩の気持ちは……少なくとも中学の頃、先輩が俺を好きな素振りは感じませんでしたが」
「あー、まあ、うん」

 期待と不安に心臓を押し潰されながら信吾が千景の気持ちを確認すると、いともあっさり玉砕を示す返事が千景の口から出た。心臓が止まったかのように、信吾からすっと血の気が引く。

「正直私年上が好みだし、二つくらいは上がいいと思ってたからさ、大木君の気持ちには気付いてたんだけど恋愛対象外だったんだよね」
「あ、はい。そうですか」
「あ、えっと、ごめんね? 話、最後まで聞いて」

 真顔のまま固まった声で信吾が返事をすると、千景は慌ててフォローするように話を続ける。

「でも結局私、一度も恋をしないまま死んじゃって……今際の際になってそれが心残りになって、ふと脳裏に浮かんだのが大木君だった。私から見たら恋愛対象外のつもりだったんだけど、同じ絵を描く趣味があって、私のことを好きでいてくれる男の子……図々しいとは思うけど、その時になって付き合っとけばよかったって思っちゃった。そうしてそれから四年が経って大木君が私の理想の年齢になった今、どういうわけか霊になって現世に戻ってきて大木君に憑いてたの」
「そう、だったんですか」
「うん、でも結局大木君に私は見えてないまま、ただ迷惑だけかけちゃってたみたいで……」
「そんな! 迷惑なんかじゃないですよ! こうして先輩と再会できただけでも俺は……あっ、そうだ、改めて気持ち、伝えさせて下さい! 俺、先輩のことが好きです!」
「ありがとう大木君……本当に、かっこよくなったね……」

 信吾の告白を聞くや否や、千景は人目も憚らず信吾を抱擁。全裸の相手に抱きしめられてその肌の感触が直に伝わってきた信吾は、身震いして変な声が出た。
 今は自分の方が年上なのに、不思議と年上の包容力を彼女に感じた。
 柔らかい胸の感触を堪能していた信吾だが、千景はすぐに離れてしまう。
 千景は彩夏の方に顔を向けると、深々と頭を下げた。

「脱衣ゲームはともかくとしても……大木君とこうしてお話させてくれて、思い出も作らせてくれて、ありがとうございます」
「どういたしまして」
「これで安心して、成仏できます」
「えっ」

 まさかの発言を受けて、信吾が千景の顔を見る。

「成仏する必要なんてありませんよ」
「えっ」

 今度は、千景がルシファーの顔を見た。

「お二人のカップル成立を祝して、私から天使の加護を。これで元の世界に戻っても大木君は星野さんの姿を見ることができ、お互い触れ合うこともできるようになりました。これでもう、普通の人間同士のカップル同様に過ごせますよ」

 思いもよらぬことを言われて、千景は信吾と顔を見合わせた。
 千景の下腹部にはルシファーの紋章が現れ、程なくしてすっと消える。

「だ、だってさ大木君」
「凄いですねキューピッドって……」
「愛することに、生者も死者も関係ありません。どうぞ是非現世に留まり、幸せに過ごして下さい。ちなみに星野さんの着る服や下着やアクセサリー等は、彼女のお墓に供えてあげれば霊体の彼女が使えるようになります。大木君、是非プレゼントしてあげて下さい。ああ、それとシェーバーも」

 ルシファーがそう言うと、千景はボッと顔を赤くして両腋をキュッと締めた。
 信吾はルシファーの方に体を向け、深々と頭を下げる。

「俺達のために何から何までして頂いて、本当にありがとうございます。あなた方には、感謝してもしきれません」
「いえいえ、我々は愛し合う人々に尽くすのが仕事ですから」

 物腰柔らかな口調で、天使のようににこやかな笑顔を向けるルシファー。躊躇なく同族を切り捨てた冷徹な姿とのギャップに、彩夏は身を強張らせる。
 役者業もしている身としては、彼の並外れた演技力には嫉妬の感情さえ湧くほどであった。



 一方で、ゲームに敗れた当真と冬香。

「なあ、負けちまった場合どうなるんだ?」
「私は、変わらず代々木君のことを好きでいるけれど」

 相も変わらず素直に想いを伝えてくる冬香に、当真は気圧される。ましてや素っ裸で、恥ずかしい部分を覆い隠すことなくである。

「……なあ目黒、何でお前俺なんかのこと好きになったんだよ。チビでスケベで短小包茎で口を開けば下ネタばっか出てくるしょうもねー男だぞ?」
「それの何が悪いのかしら」

 だから自分はモテないのだ、と当真が認識していた要素を、冬香はいとも容易く切って捨てる。

「私、昔から人には見えないものが見えてるの。そしてそういう不思議な世界を、絵に描くのが好きだった。周りからはそれを気味悪がられて避けられてたけれど……代々木君は、初めて私を肯定してくれた」
(単にその頃中二病なりかけで、そういうダークな感じのやつをかっこいいと思う感性だっただけなんだがな)

 黒歴史掘り返されたような気がして、当真は妙に羞恥心をくすぐられた。

「だからそれ以来私はずっと、代々木君が好き。何を理由に避けられたとしても、私はこの気持ちを諦めきれない」
「……俺だってこんな身長でさえなければ……ああ、いや、もうチンコも射精も見られてプライドもクソもねーよな……その、何だ、その。もう無理して逃げ続けるのにも疲れたっつーか……お前の気持ち、そろそろちゃんと受け止めようと思う。俺と、付き合ってくれ」

 冬香とまっすぐ向き合い、目線を少し上に向けて彼女と目を合わせる。微笑む彼女が、潤んだ瞳から一筋の涙を零した。

「……はい」

 肯定の言葉を冬香の口から聞くや否や、当真の身を包む柔らかく温かい感触。
 突然の抱擁にどぎまぎさせられながらも、当真はせっかくなのでこの感触を堪能。生のおっぱいは、やはり格別だった。

(これで俺もいよいよ彼女持ちか……一皮剥けた気分だぜ。チンコの皮は剥けてねーけど)



 今回も無事にカップル二組成立。皆を元の世界に帰すと、ルシファーは満足げに一息ついた。

「生者と幽霊とのカップル成立、初めての試みだったが、上手くいってよかった」
「流石先生! 何でもアリだね!」
「まさか本当にやるとは思ってなかったわ」

 ルシファーに相談した彩夏は今回のゲームの話を聞かされて驚愕したが、終わってみればルシファーの思惑通りに事は進んだ。

「それで、ゲームのアシスタントはどうだったかな神崎」
「もう二度と御免だわ」

 そこはきっぱりと、お断りの意思を示しておく彩夏である。


 三人は暫し領域に残って、雑談を続けていた。
 その中で、話題は彩夏の大ファンである矢島信司に彼女ができた件に。

「……そう、矢島君があの子と。彼があの子を助ける所を、私もステージから見ていたわ。相変わらずお人好しなんだって、少し嬉しくなっちゃった」
「で、彩夏ちゃんはどうなの? 例のマネージャーさんとは」
「全然よ。そもそも私はアイドルだから恋愛禁止。それに彼は大人で私は未成年よ。進展なんてあるわけないじゃない」
「えー、ボクは子供と大人が恋愛してもいいと思うけどなー」

 チラッチラッとルシファーの方を見るリリムだが、当のルシファーはスルー。

「誰もが恋咲さんみたいな自由人じゃいられないのよ。それでも、いつかは私も……」

 洋館を見上げ、彩夏はぐっと握った拳を胸の前に置く。
 冬香が長年の想いを遂げた光景は、彼女の心を打つものであった。
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