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第三章
第98話 悲鳴を上げたら脱がされるお化け屋敷・3
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千景の下着を奪おうと、無数の白い手が壁から伸びる。信吾は一度唾を呑むも、はっとして白い手を掴みにかかった。だが信吾が触れようとしても、その手は白い手をすり抜ける。
白い手の一つがホックを外すと、あれよあれよという間にブラは引っぺがされる。そして露になったのは、大きく実った白い胸。乳首の色味は濃い方であるために、肌の白さと相まって余計に目立つ。
「ひぁぁぁぁ」
目に涙を浮かべてへろへろと震える声を出す千景。掌を両胸に当てるも、彼女の小さな手ではその全てを覆い隠すのは到底無理。
「先輩!? 大丈夫ですか!?」
「だいじょばないよぉ……」
とはいえ幽霊達はこれで本当に信吾と千景への関心を失くしたようで、こちらに近寄ることもなく好きに踊っている。入ってきたのと反対側の扉も自動で開いた。
「とにかく、急いでここを出ましょう。あいつらがまた襲ってくる前に」
「手、繋いでて……」
不安に震える千景は右手を胸から離して信吾に差し出すが、すると当然片胸が丸見えに。ごく自然にぽろんと出てきたそれに、信吾はぎょっと目を見開いた。
「先輩、胸見えてます」
「ひゃっ!?」
千景は慌てて左腕の位置を変え掌で右胸、腕で左胸を隠す。しかし彼女の細腕からは、濃茶色の輪っかが堂々とはみ出していた。
信吾は千歳の右手を握って引き、ダンスホールを後にする。極力千景の方を見ないようにしようとはするが、ついつい男の本能が働いてちらちらと視線を向けてしまっていた。
一方で、ダイニングを出て廊下を進む当真と冬香。
「……なあ、お前、あの幽霊に憑かれてた男に乗り換えたんじゃねーのかよ」
「何の話? 私はずっと代々木君一筋よ」
こんな格好で堂々と好意をアピールしてくる冬香に、当真はたじろぐ。その様子を楽しんでいるように、冬香はくすくすと笑うのだ。
「あの人は部活の先輩よ。彼に霊が憑いていることに私が気付いて、相談に乗ってあげたの。そうしたらどういうわけかこんな状況になったのだけれど……正直どうしてこうなったのか私にも理解できないわ」
「神崎と恋咲も何やらこのゲームに関わってるみたいだけどよー、何なんだろうなこれマジで。まあ俺としちゃ役得ではあるが……」
「私の下着姿が見られて嬉しい?」
前を行く当真を足を速めて追い抜いた冬香は、両手を背中に回した状態で当真の前に立ち塞がる。当真が妬いてくれたことへの嬉しさが、表情に滲み出ている。
少し大人っぽい下着姿を堂々たる振る舞いで見せつけられては、いかにスケベで名の知れた当真といえど逆に面食らってしまった。
クラスの女子の中でもとりわけ白い肌をしていて、不健康に感じるほど筋肉量の少ない細身の肢体。それでいて胸はそこそこあり、決して性的魅力に欠けているわけではない。
「俺がスケベだと知ってて言ってんだろ」
下着姿への感想らしい感想は告げないまま、冬香の横を通り抜けて当真は再び前に出る。
「ほら、早く付いてこいよ。はぐれんなよ」
怖がりな癖に、こういう時だからこそ男らしく格好つけて自分のプライドを保とうとする。そんな様子が無性に微笑ましく、冬香は笑みがこぼれた。
目を吊り上げて周囲を威嚇しながらずけずけと進む姿は、さながら小型犬のようであった。
どこで恐怖の仕掛けがドッキリさせてくるか分からず不安に怯えさせられながら、当真は長い廊下をただ進む。
洋館らしい調度品の数々はどれもこれも何かありそうに思わせて、不安感を煽る。
そして二人が、剣を構えた騎士鎧の横を通り過ぎた時だった。背後からするガチャガチャという金属音に二人が振り返ると、動き出した鎧が剣先をこちらに向けていた。
「ぎゃああああああ!!!」
『代々木君、アウトー』
剣というあからさまな凶器を前にして、当然の如く当真は絶叫。冬香も口元に手を当てていた。
「にっ、逃げるぞ目黒!」
当真は冬香の手を握って引っ張るが、冬香は首を振る。
「駄目。代々木君の足に付いていけない」
「そういやお前運動音痴だったな」
そうこうしている間に、鎧は剣を振り上げていた。
「くそっ、おぶってやるから早く乗れ!」
今度は背中を差し出した当真に、冬香は躊躇うことなくおぶさった。瞬間、当真は脱兎の如く駆け出す。
(何だこいつ無茶苦茶軽いな。ちゃんと飯食ってんのか?)
低身長といえど曲がりなりにも体力自慢のスポーツ男子。痩せ細った女子一人背負ったくらいで、大した負担にはならない。
冬香は当真の背中で振り返り鎧の様子を観察するが、あちらは剣を振り上げたまま静止しており追ってくる様子は見られなかった。
「追ってはこないみたいよ。あくまで驚かすだけで、怪我をさせたりするつもりはないみたいね」
冬香の冷静な指摘を受けて、当真は足を止めた。頭が冷えると、途端に感じてくるのは冬香の体温と肌の感触。下着姿で密着してこられて、その上に恐らく意識して胸を背中に押し当てている。
(やっべええええ。何気に今すげー体勢じゃね?)
そう考えていると、不意に背中に当たる双丘の感触が少し変わった。ブラのレースのものから、より柔らかく、それでいて突起のような少し硬いものが一つずつ付いた感触へ。
(これはまさか……)
「今、白い手がブラを持っていったわ。凄いわね、ブラが代々木君の背中に密着していたのに、二人の体をすり抜けて壁の中に持っていかれたのよ」
「マジかよどういう仕組みだよ」
お化けに体を貫通されたのに、当真の感情は性欲が恐怖を上回っている。
背中に触れる生乳の感触を通じて、冬香の鼓動が当真に伝わる。あちらもこの状況に、ドキドキしているのだ。
「代々木君、下ろして」
「お、おう」
「こっち、見て」
惜しみつつも冬香を下ろした当真は、その後に続く爆弾発言に心臓が跳ねる。
「いいんだな? 本当に見るからな」
「ええ、どうぞ」
見てと言われたら、かえって遠慮がちになる男。改めて冬香の許しを得たので、ばっと体を冬香の方に向ける。
全体的に細い身体の中で胸だけはそこそこあり、茶色く大きめの乳輪はどことなく大人の魅力を放つ。
「……どうかしら? そんなに綺麗な裸ではないと思うのだけど……代々木君になら、見られても嫌じゃないわ」
蝋燭の灯りに照らされた彼女の頬は、仄かにピンクに染まる。恥じらいを誤魔化すように指先で前髪をいじっているが、あえて腕は当真が胸を見るのを阻害しない位置に持っていっている。
「おー……すっげ……マジで本物のおっぱいだぜ……」
「そんなに喜んでくれて、私も嬉しい……」
「な、なあ、せっかくだからちょっとくらい触っても……」
当真がそう言った瞬間だった。廊下の奥で固まっていた先程の鎧が、こちらに向かって歩き出したのである。
「ヤベえ、逃げるぞ目黒」
相手は重たい足を引きずるようにゆっくりのんびり歩いており、よほどもたもたしていなければそうそう追いつかれることはない。だが早く逃げるに越したことはないので、当真は冬香の手を握りながら彼女がついていける速度で走った。
長い廊下の突き当りまで近づくと、正面の扉が自動的に開いた。
「よし、ここに入るぞ」
とにかく鎧の入ってこられない場所に行きたくて、この先に何があるかもわからぬまま部屋へと飛び込む。急いで扉を閉めて鍵をかけると、当真はその部屋を見渡した。
随分と狭い小部屋で、洗面台と不気味に割れた鏡が設置されている。そして入ってきた扉以外に、扉が一つ。
「多分……トイレだよなここ」
当真が恐る恐る扉を開けると、案の定洋式便器が一つ設置されていた。
「やっべえ……閉じ込められたんじゃねーかこれ?」
見たところ入ってきた場所以外に出口は無い。そしてそこから出れば、剣を持った動く騎士鎧が待っているわけである。当真の顔から、みるみるうちに血の気が引いていった。
一方で、ダンスホールを出て廊下を進む信吾と千景。
上半身裸でFカップの胸を丸出しにさせられた千景は、顔を真っ赤にしながら左腕で胸を隠し右手は信吾の手を握っている。
胸があまり信吾の視界に入らないようやや高めの場所を浮かんで移動する千景だが、その状態で信吾が横を見たら丁度白無地に小さなリボンが付いた千景曰くダサいショーツが目に入るのだ。しかも至近距離で見たら、所々ほつれていて何だかみすぼらしささえ感じてしまう。
「大木君、パンツ見てるでしょ!? んもー……どうしてよりにもよってこの下着で……」
真っ赤になった頬を手で押さえたくても、両手が塞がっていてできない千景。信吾はつい目線を上げてしまい、腕一本で隠しきれていない胸と恥じらいに染まった顔を見た。
だがそれと同時に信吾の瞳には、先程ワンピースを脱がされるためにバンザイさせられた時にも見えたびっくりするものが映っていた。
「先輩、腋……」
信吾がそう言うと、千景ははっとして右胸に当てていた左の掌を更に右側に動かし、信吾の目線の先にある右の腋の下を覆い隠した。
「あああもう最悪……入院中は処理できる状態じゃなかったから……」
女の子が人様にお見せするのはあんまりなことになっていた千景の腋の下。
ますます顔から火を噴く千景に対し、信吾は申し訳なさそうに目を閉じ頭を下げた。
ワンピースを脱がされる時のバンザイでより全開で見えてしまっていたことは、本人のために言わないでおく。
「あの、俺、気にしませんから。女性にも普通に生えるものだって、ちゃんとわかってますし」
「うぅ……」
気を遣われてしまって、かえって羞恥心を刺激される千景である。
「せめて綺麗な状態で死にたかったよぉ……」
「……先輩は十分綺麗ですよ」
「ぱえ!?」
突然聞こえた甘い言葉に、千景は思わず奇声が口から出る。
だがその瞬間だった。大きな音と共に真横の壁が割れ、おぞましい巨体が二人に影を落とす。
信吾の倍はあろうかという身の丈で、全身継ぎはぎだらけで頭の両サイドに巨大なネジを嵌めたフランケンシュタインの怪物。それが血走った目玉でぎょろぎょろと、こちらを見下ろしていたのである。
「いやあああああああ!!!」
千景の絶叫が響く。そこに彩夏の『星野さん、アウトー』の声が重なった。
信吾の手を掴んだままもがく千景に、壁から伸びる白い手が容赦なく迫る。
「いやあああああああ素っ裸にされちゃうううう!!」
抵抗を叫ぶも虚しいかな、宙に浮く千景は、丁度ショーツを脱がすのを遮るものが何も無い体勢であった。一度布を掴まれたらあっという間にずり下ろされて、床に阻まれることすらなくすっぽ脱がされた。
それを目の当たりにした信吾の瞳孔が狭まり、口はあんぐり。想像以上の密林に、信吾はびっくり仰天。腋の処理ができない状態であったのだから、当然下もなのである。
「うわあああん、返して私のパンツー」
そう言っても返してはもらえず、あっさりと壁に消えてゆく激ダサぱんつ。
素っ裸で宙に浮かんでいるものだから、当然その間にも信吾には至る所を見られてしまっているわけである。それに気付いた千景は、ますます瞳を潤ませる。
「ううううう……」
「あの、先輩。俺は先輩の身体、綺麗だと思ってますから……」
「そういうフォローされると余計に恥ずかしいよぉ! ていうか何で全裸になったのに脱出できないの!? これで私の負けなんだよね!?」
「あー……確か、四回驚いて悲鳴を上げたら全裸にされて負けだって言ってましたよね。骸骨で一回、ダンスホールの幽霊で二回、このフランケンで三回。まだ一回残ってます。それで最後に残った服は、多分……」
信吾が千景の頭上を指差すので、千景は被っている麦わら帽子の鍔を両手で掴む。
「もしかして、この帽子~~!?」
白い手の一つがホックを外すと、あれよあれよという間にブラは引っぺがされる。そして露になったのは、大きく実った白い胸。乳首の色味は濃い方であるために、肌の白さと相まって余計に目立つ。
「ひぁぁぁぁ」
目に涙を浮かべてへろへろと震える声を出す千景。掌を両胸に当てるも、彼女の小さな手ではその全てを覆い隠すのは到底無理。
「先輩!? 大丈夫ですか!?」
「だいじょばないよぉ……」
とはいえ幽霊達はこれで本当に信吾と千景への関心を失くしたようで、こちらに近寄ることもなく好きに踊っている。入ってきたのと反対側の扉も自動で開いた。
「とにかく、急いでここを出ましょう。あいつらがまた襲ってくる前に」
「手、繋いでて……」
不安に震える千景は右手を胸から離して信吾に差し出すが、すると当然片胸が丸見えに。ごく自然にぽろんと出てきたそれに、信吾はぎょっと目を見開いた。
「先輩、胸見えてます」
「ひゃっ!?」
千景は慌てて左腕の位置を変え掌で右胸、腕で左胸を隠す。しかし彼女の細腕からは、濃茶色の輪っかが堂々とはみ出していた。
信吾は千歳の右手を握って引き、ダンスホールを後にする。極力千景の方を見ないようにしようとはするが、ついつい男の本能が働いてちらちらと視線を向けてしまっていた。
一方で、ダイニングを出て廊下を進む当真と冬香。
「……なあ、お前、あの幽霊に憑かれてた男に乗り換えたんじゃねーのかよ」
「何の話? 私はずっと代々木君一筋よ」
こんな格好で堂々と好意をアピールしてくる冬香に、当真はたじろぐ。その様子を楽しんでいるように、冬香はくすくすと笑うのだ。
「あの人は部活の先輩よ。彼に霊が憑いていることに私が気付いて、相談に乗ってあげたの。そうしたらどういうわけかこんな状況になったのだけれど……正直どうしてこうなったのか私にも理解できないわ」
「神崎と恋咲も何やらこのゲームに関わってるみたいだけどよー、何なんだろうなこれマジで。まあ俺としちゃ役得ではあるが……」
「私の下着姿が見られて嬉しい?」
前を行く当真を足を速めて追い抜いた冬香は、両手を背中に回した状態で当真の前に立ち塞がる。当真が妬いてくれたことへの嬉しさが、表情に滲み出ている。
少し大人っぽい下着姿を堂々たる振る舞いで見せつけられては、いかにスケベで名の知れた当真といえど逆に面食らってしまった。
クラスの女子の中でもとりわけ白い肌をしていて、不健康に感じるほど筋肉量の少ない細身の肢体。それでいて胸はそこそこあり、決して性的魅力に欠けているわけではない。
「俺がスケベだと知ってて言ってんだろ」
下着姿への感想らしい感想は告げないまま、冬香の横を通り抜けて当真は再び前に出る。
「ほら、早く付いてこいよ。はぐれんなよ」
怖がりな癖に、こういう時だからこそ男らしく格好つけて自分のプライドを保とうとする。そんな様子が無性に微笑ましく、冬香は笑みがこぼれた。
目を吊り上げて周囲を威嚇しながらずけずけと進む姿は、さながら小型犬のようであった。
どこで恐怖の仕掛けがドッキリさせてくるか分からず不安に怯えさせられながら、当真は長い廊下をただ進む。
洋館らしい調度品の数々はどれもこれも何かありそうに思わせて、不安感を煽る。
そして二人が、剣を構えた騎士鎧の横を通り過ぎた時だった。背後からするガチャガチャという金属音に二人が振り返ると、動き出した鎧が剣先をこちらに向けていた。
「ぎゃああああああ!!!」
『代々木君、アウトー』
剣というあからさまな凶器を前にして、当然の如く当真は絶叫。冬香も口元に手を当てていた。
「にっ、逃げるぞ目黒!」
当真は冬香の手を握って引っ張るが、冬香は首を振る。
「駄目。代々木君の足に付いていけない」
「そういやお前運動音痴だったな」
そうこうしている間に、鎧は剣を振り上げていた。
「くそっ、おぶってやるから早く乗れ!」
今度は背中を差し出した当真に、冬香は躊躇うことなくおぶさった。瞬間、当真は脱兎の如く駆け出す。
(何だこいつ無茶苦茶軽いな。ちゃんと飯食ってんのか?)
低身長といえど曲がりなりにも体力自慢のスポーツ男子。痩せ細った女子一人背負ったくらいで、大した負担にはならない。
冬香は当真の背中で振り返り鎧の様子を観察するが、あちらは剣を振り上げたまま静止しており追ってくる様子は見られなかった。
「追ってはこないみたいよ。あくまで驚かすだけで、怪我をさせたりするつもりはないみたいね」
冬香の冷静な指摘を受けて、当真は足を止めた。頭が冷えると、途端に感じてくるのは冬香の体温と肌の感触。下着姿で密着してこられて、その上に恐らく意識して胸を背中に押し当てている。
(やっべええええ。何気に今すげー体勢じゃね?)
そう考えていると、不意に背中に当たる双丘の感触が少し変わった。ブラのレースのものから、より柔らかく、それでいて突起のような少し硬いものが一つずつ付いた感触へ。
(これはまさか……)
「今、白い手がブラを持っていったわ。凄いわね、ブラが代々木君の背中に密着していたのに、二人の体をすり抜けて壁の中に持っていかれたのよ」
「マジかよどういう仕組みだよ」
お化けに体を貫通されたのに、当真の感情は性欲が恐怖を上回っている。
背中に触れる生乳の感触を通じて、冬香の鼓動が当真に伝わる。あちらもこの状況に、ドキドキしているのだ。
「代々木君、下ろして」
「お、おう」
「こっち、見て」
惜しみつつも冬香を下ろした当真は、その後に続く爆弾発言に心臓が跳ねる。
「いいんだな? 本当に見るからな」
「ええ、どうぞ」
見てと言われたら、かえって遠慮がちになる男。改めて冬香の許しを得たので、ばっと体を冬香の方に向ける。
全体的に細い身体の中で胸だけはそこそこあり、茶色く大きめの乳輪はどことなく大人の魅力を放つ。
「……どうかしら? そんなに綺麗な裸ではないと思うのだけど……代々木君になら、見られても嫌じゃないわ」
蝋燭の灯りに照らされた彼女の頬は、仄かにピンクに染まる。恥じらいを誤魔化すように指先で前髪をいじっているが、あえて腕は当真が胸を見るのを阻害しない位置に持っていっている。
「おー……すっげ……マジで本物のおっぱいだぜ……」
「そんなに喜んでくれて、私も嬉しい……」
「な、なあ、せっかくだからちょっとくらい触っても……」
当真がそう言った瞬間だった。廊下の奥で固まっていた先程の鎧が、こちらに向かって歩き出したのである。
「ヤベえ、逃げるぞ目黒」
相手は重たい足を引きずるようにゆっくりのんびり歩いており、よほどもたもたしていなければそうそう追いつかれることはない。だが早く逃げるに越したことはないので、当真は冬香の手を握りながら彼女がついていける速度で走った。
長い廊下の突き当りまで近づくと、正面の扉が自動的に開いた。
「よし、ここに入るぞ」
とにかく鎧の入ってこられない場所に行きたくて、この先に何があるかもわからぬまま部屋へと飛び込む。急いで扉を閉めて鍵をかけると、当真はその部屋を見渡した。
随分と狭い小部屋で、洗面台と不気味に割れた鏡が設置されている。そして入ってきた扉以外に、扉が一つ。
「多分……トイレだよなここ」
当真が恐る恐る扉を開けると、案の定洋式便器が一つ設置されていた。
「やっべえ……閉じ込められたんじゃねーかこれ?」
見たところ入ってきた場所以外に出口は無い。そしてそこから出れば、剣を持った動く騎士鎧が待っているわけである。当真の顔から、みるみるうちに血の気が引いていった。
一方で、ダンスホールを出て廊下を進む信吾と千景。
上半身裸でFカップの胸を丸出しにさせられた千景は、顔を真っ赤にしながら左腕で胸を隠し右手は信吾の手を握っている。
胸があまり信吾の視界に入らないようやや高めの場所を浮かんで移動する千景だが、その状態で信吾が横を見たら丁度白無地に小さなリボンが付いた千景曰くダサいショーツが目に入るのだ。しかも至近距離で見たら、所々ほつれていて何だかみすぼらしささえ感じてしまう。
「大木君、パンツ見てるでしょ!? んもー……どうしてよりにもよってこの下着で……」
真っ赤になった頬を手で押さえたくても、両手が塞がっていてできない千景。信吾はつい目線を上げてしまい、腕一本で隠しきれていない胸と恥じらいに染まった顔を見た。
だがそれと同時に信吾の瞳には、先程ワンピースを脱がされるためにバンザイさせられた時にも見えたびっくりするものが映っていた。
「先輩、腋……」
信吾がそう言うと、千景ははっとして右胸に当てていた左の掌を更に右側に動かし、信吾の目線の先にある右の腋の下を覆い隠した。
「あああもう最悪……入院中は処理できる状態じゃなかったから……」
女の子が人様にお見せするのはあんまりなことになっていた千景の腋の下。
ますます顔から火を噴く千景に対し、信吾は申し訳なさそうに目を閉じ頭を下げた。
ワンピースを脱がされる時のバンザイでより全開で見えてしまっていたことは、本人のために言わないでおく。
「あの、俺、気にしませんから。女性にも普通に生えるものだって、ちゃんとわかってますし」
「うぅ……」
気を遣われてしまって、かえって羞恥心を刺激される千景である。
「せめて綺麗な状態で死にたかったよぉ……」
「……先輩は十分綺麗ですよ」
「ぱえ!?」
突然聞こえた甘い言葉に、千景は思わず奇声が口から出る。
だがその瞬間だった。大きな音と共に真横の壁が割れ、おぞましい巨体が二人に影を落とす。
信吾の倍はあろうかという身の丈で、全身継ぎはぎだらけで頭の両サイドに巨大なネジを嵌めたフランケンシュタインの怪物。それが血走った目玉でぎょろぎょろと、こちらを見下ろしていたのである。
「いやあああああああ!!!」
千景の絶叫が響く。そこに彩夏の『星野さん、アウトー』の声が重なった。
信吾の手を掴んだままもがく千景に、壁から伸びる白い手が容赦なく迫る。
「いやあああああああ素っ裸にされちゃうううう!!」
抵抗を叫ぶも虚しいかな、宙に浮く千景は、丁度ショーツを脱がすのを遮るものが何も無い体勢であった。一度布を掴まれたらあっという間にずり下ろされて、床に阻まれることすらなくすっぽ脱がされた。
それを目の当たりにした信吾の瞳孔が狭まり、口はあんぐり。想像以上の密林に、信吾はびっくり仰天。腋の処理ができない状態であったのだから、当然下もなのである。
「うわあああん、返して私のパンツー」
そう言っても返してはもらえず、あっさりと壁に消えてゆく激ダサぱんつ。
素っ裸で宙に浮かんでいるものだから、当然その間にも信吾には至る所を見られてしまっているわけである。それに気付いた千景は、ますます瞳を潤ませる。
「ううううう……」
「あの、先輩。俺は先輩の身体、綺麗だと思ってますから……」
「そういうフォローされると余計に恥ずかしいよぉ! ていうか何で全裸になったのに脱出できないの!? これで私の負けなんだよね!?」
「あー……確か、四回驚いて悲鳴を上げたら全裸にされて負けだって言ってましたよね。骸骨で一回、ダンスホールの幽霊で二回、このフランケンで三回。まだ一回残ってます。それで最後に残った服は、多分……」
信吾が千景の頭上を指差すので、千景は被っている麦わら帽子の鍔を両手で掴む。
「もしかして、この帽子~~!?」
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