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第三章

第92話 ラッキースケベプール・1

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 綿環市民プール。その女子更衣室。

「あれー? いいんちょ達も来てたんだー」
「こんにちは恋咲さん、宮田さん」

 悠里、凛華、佐奈の三人が適当なロッカーの前に来ると、丁度そこで着替えていたリリムが声をかけてきた。その後ろには、麗の姿も。
 悠里が挨拶を返すと、リリムは一糸纏わぬすっぽんぽんのまま三人の方に近寄ってきた。

「ねえねえ聞いて聞いて! 麗ちゃん彼氏できたんだって! それで今度のプールデートの下見のために、ボクとここに来たんだー」
「そうなんだ。おめでとう」
「いやー、はは」

 嬉し恥ずかしな様子の麗は、ガールズブリーフを半分下ろした状態で止めて頭を掻く。
 二人でここに来ているリリムと麗。元々は櫻も一緒に来る予定であったのだが、生理につき急遽キャンセル。領域で麗に絶交宣言をされたリリムは必要次第では櫻に仲を取り持ってもらうつもりだったためこれには戦々恐々だったが、ルシファーの言った通りゲームが終わったらリリムがゲームの主催者であることを麗は忘れていた。懸念は杞憂に終わり、リリムはほっとしていた。

「そういえば菊花ちゃんも昨日このプールに彼氏と来たんだって。それでね、その後初Hしたんだって!」
「本当!?」

 それに強い反応を示したのは、凛華である。一方で悠里は顔を真っ赤にしており、佐奈は興味津々で目を輝かせている。

「実は今日、龍之介君も一緒に来ててね……」


 今日凛華がここに来たのは、臨海学校のリベンジのため。すぐにパーカーに隠されてしまった水着姿を、改めて龍之介に見てもらうためなのだ。
 二人きりのデートでは龍之介が怖気づいてしまうと考え、悠里と佐奈には凛華の目的を遂行するためのサポートとして付いてきてもらったのである。


「ほうほう、道理で下着もえっちなのを用意してきたわけだねぇ」

 早速着替え始めた凛華の下着を眺めながら、リリムは相槌を打つ。
 今日の凛華の下着は、青紫に黒のレースが付いたちょっぴりオトナな一品。あわよくば水着だけでなくこちらも龍之介に見せる機会を、がっつり意識した代物だ。
 凛華が特にタオルで隠したりはせず堂々と脱いでいる一方で、下だけタオルを巻いて着替える佐奈と、バスタオルでしっかり全身ガードしている悠里。リリムはその様子を、自分が水着を着るのも忘れ素っ裸のまま眺めていた。

「凛々夢、いい加減水着着たら?」

 凛華にツッコまれると、リリムは「テヘ」と舌を出して自分のロッカーの前に戻った。


 本日のリリムが持ってきた水着は、大変あざとく褐色肌とのコントラストも映える白の旧スク。菊花が競泳水着でこのプールに来たと聞いて、ならば自分もと水泳の授業で使っている水着を持ってきた次第である。
 麗は臨海学校の時に着ていたバンドゥビキニだが、今日はそれにショートパンツを合わせて多少露出を抑えるスタイル。白黒ツートンカラーのキャップを被って暑さ対策をしつつボーイッシュな雰囲気を出していく。
 凛華は勿論、龍之介に見せたかった紫の紐ビキニ。大胆に攻めつつも下品にならない塩梅を捉えた、男心をがっしりと掴む色っぽい水着だ。
 佐奈も同じく臨海学校の時に着ていたもので、小さなスカートが付いたピンクのフリルビキニ。仲良し三人組の中で悠里だけは臨海学校とは別の水着を持ってきており、普段着とそう変わらぬ布面積の半袖トップスにキュロットスカートを合わせたかなり肌の露出を抑えたもの。色は悠里の好きな水色である。
 日焼け止めもバッチリ塗って準備万端。皆は意気揚々と更衣室を出ようとするが、凛華はまだ鏡の前で細かい調整を続けていた。完璧な自分を龍之介に見せるべく、努力は惜しまない。

「待って、もう少し準備を……」
「じゃあ、私達先行ってるね。いい感じに盛り上げとくから」

 ウインクして小さく手を振る佐奈に手を振り返すと、凛華は水着の位置を動かして胸を寄せ谷間をより目立たせた。

(目指せ初キス! 目指せ初H! これで絶対龍之介をドキドキさせてやるんだから!!)



 佐奈達が更衣室を出て階段を上った先では、先に着替えを済ませていた龍之介が待っていた。

「お待たせー川澄君。あれ?」

 龍之介と一緒にいる背の高い男子と背の低い男子、見知った顔二人に佐奈は気付いた。
 その存在に驚きつつも目を輝かせていたのは悠里である。

「孝弘君!」
「やあ、悠里」
「俺もいるぜ」

 佐藤孝弘と代々木当真、二年B組の野球部凸凹コンビである。

「どうしてここに?」
「当真に誘われてね。そうしたらここで川澄と会って、悠里も来てるって言うから一緒に待ってたんだ」

 男子と女子、いずれも偶然別の同級生グループと更衣室で鉢合わせていたのである。
 じっと水着を見てくる孝弘に、悠里の鼓動が早まる。
 今日は臨海学校の時と違って、好きな人に見せることを意識した水着を着てきているわけではない。清楚な雰囲気はしっかりと意識しつつ、男の不埒な視線からは肌を隠すつもりで着てきた水着である。
 果たしてこれに彼氏の反応は。

「そういう水着も可愛いね。凄く似合ってるよ」

 にっこり微笑んで褒めてくれて、悠里は安堵した。
 一方で、友人が彼女に対してだけ向ける顔を隣から見上げていた当真は引き気味。

(おーおーキザなこと言いなさる。ホント委員長の前だとキャラちげーなこいつ)

 こちらのカップルが二人の世界に入っている中、もう一組のカップルの片割れ、川澄龍之介は凛華がいないことを不思議に思っていた。

「三鷹さん、凛華は?」
「まだ見た目整えてる最中。もうすぐ来ると思うけど……あっ、来た」

 階段を上ってくる凛華を見つめた佐奈がそう言うと、龍之介は自分の着ていたパーカーをおもむろに脱ぎ、凛華の水着姿を視界に入れないようにしながらパーカーを凛華に着せる準備を始めた。
 その瞬間、龍之介がよそ見しているのをいいことに死角からリリムがパーカーをぶんどった。

「パーカー確保! 代々木君、これ代々木君のロッカー入れといて!」
「俺かよ」

 リリムにパーカーを押し付けられた当真は、とりあえず意図は理解できたので渋々ながらもパーカーを持って男子更衣室へと下りていった。

「ちょっ、何を……」
「龍之介君」

 リリムの突然の行動に不意を突かれた龍之介の目の前に、凛華が迫っていた。

 凛華はややギャル寄りのメイクとファッションでありながら、中身は裁縫と料理が得意な家庭的な子というギャップが魅力の美少女。
 スリムでありつつ出るべき所は適度に出ているボディは同性から羨望の眼差しを向けられ、異性から見ても痩せすぎているとは思われない魅惑的なプロポーションだ。

 少し身を屈ませて、並以上巨乳未満くらいのサイズの胸を寄せ、谷間を強調させるようにしつつ上目遣いで見つめる。
 対する龍之介は、体を捻じって思いっきり顔を凛華から背けていた。

「ねえ麗ちゃん佐奈ちゃん、アレどう思う?」
「んー、もし自分が彼氏にアレやられたとしたら多分ひっぱたくかなー」
「ウブもあそこまで行くと最早ただの失礼だよねー」

 女子達から投げつけられた辛辣な言葉も、今の龍之介の耳には入らない。

「ねえ川澄君、さっき副委員長はいいんちょの水着褒めてたよ。川澄君も凛華ちゃんに何か言うことがあるんじゃないの?」
「え、えっと……似合ってるとオモイマス……」
「せめてちゃんと見て言いなよ」

 そっぽ向いたまま雑な褒め方をする龍之介にイラっとしたリリムは、つい声にドスがかかった。
 普段のデートでは凛華の私服を頻繁に褒めてくれる龍之介だが、今回に関してはそうはいかない。
 凛華と龍之介は、一年の秋から交際を続けている安心安定の幸せカップルという印象を教室内では持たれている。しかし実際は少しでも性的な要素が出てくると急激に龍之介がへたれて不安定になる、脆さを抱えたカップルでもあった。

「ったく川澄よぉ」

 と、そこで龍之介のパーカーを自分のロッカーに隠し終えた当真が更衣室から戻ってきた。

「せっかくエロいビキニ着て見せてくれてる羨ましい状況で顔を背ける意味が理解できねーぜ」
「代々木君! 俺のパーカーは!?」
「安心しろ、後でちゃんと返すから。今はしょうもねーことしてねーでせっかくの彼女の水着を堪能しとけや」

 当真からもそう発破をかけられる龍之介であったが、変わらずうじうじしている様子。
 一瞬凛華の方をチラッと見はしたものの、すぐにまた顔を背けてしまう。
 誰もが凛華を不憫に感じている中、リリムが動いた。

「そうだいいんちょ、せっかく佐藤君と会えたんだから、今日は二人で楽しんできなよ」
「え? でも私、凛華の手助けが……」
「そこはボクに任せて! いいんちょに代わってバッチリやってみせるから!」
「ちょ、凛々夢、あたしのデートの下見は?」
「それだったら私がするよー?」

 麗の質問に答えたのは佐奈である。

「私小さい頃から夏になる度このプール通ってるからすっごい詳しいよ。麗ちゃんがいいデートできるよう、ここのいい所沢山紹介するね」
「じゃあ、佐奈にお任せしよっかな」

 悠里は孝弘と急遽デートで離脱。リリムと佐奈はそれぞれ麗と凛華のサポート役を入れ替わる形となった。
 そして余った当真は。

「じゃあ、俺は一人寂しく水着美女ウォッチでもしてくるぜ」
「ごめんね代々木君」
「気にすんなよ委員長」

 孝弘を取ってしまった立場の悠里は頭を下げて謝るが、当真は気にしていない様子でこちらに背を向け手を振り去っていった。


 ここで一時解散、それぞれ別れて行動することとなった。
 リリムに耳打ちされた凛華は、早速作戦に移したのである。

(さあゆけ凛華ちゃん。極上のラッキースケベを川澄君に提供してさしあげるのだ!!)

 意固地になっているかの如く凛華の水着姿を見ようとしない龍之介を振り向かせるべく凛華の取った行動とは――

「さ、行こっか龍之介君」

 龍之介の腕に自分の腕を絡めて寄せ、横から胸を押し当てる。不意打ちでやってきた柔らかい感触は、薄布一枚でしか遮られておらず殆ど胸の柔らかさを直に伝えている。
 瞬間「ひょっ」と奇声が喉から出た龍之介は、凛華の腕を振りほどき逃走。向かった先は、浮き輪で水に浮かびながらどこかに巨乳の水着美女がいないかと辺りを見回していた当真の所である。

「ごめん代々木君、暫く一緒にいてくれないかな!?」

 プールから見上げる当真は龍之介が股間を抑えて前かがみになっていることから状況を察し、呆れて溜息が出た。

「だらしねーな、たかだか勃ったくらいのことで」
「くらいのことじゃないだろ!」
「とりあえず何でもいいから萎えることでも想像してさっさと相川んとこ戻れ。それにちゃんと相川の方見ろ。ポーズだけでも相川の方向いとけ。あんまりバカやりすぎて愛想尽かされても俺は知んねーからな!」

 そう言ってバタ足で泳ぎ去る当真。
 当真にも見放されたので、龍之介は呆然としながら萎えるのを待って凛華の所に戻った。

「ごめん凛華、待たせちゃって……」
「ううん、私は気にしてないよ」

 逃げられたことはともかく、ドキドキさせるということに関しては十分好感触な反応を得られた。意外に満足げな凛華である。
 とにかくちゃんと見てあげなければと龍之介は顔を凛華の方に向けるが、果たしてどこに視線を向ければいいやら。胸はまず駄目。腰付近も駄目。布で覆われている部分に限ってピンポイントで視線を向けられないようになっているが、肌色部分もそれはそれで駄目。だったら結局、顔を見つめて視線をそこから下に向けないよう気を遣うしかない。

「凛華ちゃん! 川澄君! ボクアイス買ってきたんだー。そこのベンチで食べよー!」

 助け船のようにリリムの呼ぶ声がしたので、二人はベンチへと移動。再び腕にしがみ付かれるのではないかと警戒して身を強張らせる龍之介の様子を見て、凛華は拒絶されたようで傷付く気持ちと、初心な彼を微笑ましく思う気持ちで複雑な感情に。

 ベンチに腰を下ろした凛華と龍之介に、リリムはバニラ味の棒アイスを手渡す。そしてそれを、何かを連想させるようにペロッと舐めてみせた。凛華は即座に、意図を察する。
 龍之介にそういう行為をしてあげる妄想は幾度となくしてきたけれど、いざ見せるとなると緊張してきた。
 確かにこれはいやらしい想像を働かせられて、龍之介の劣情を煽るにはもってこいだ。顔しか見てこない今の龍之介に対しても、十分な効果を得られる。だけどもちょっと彼をドキドキさせたいというくらいの気持ちでやるには、品が無さすぎやしないかという躊躇いもある。

「……凛華、普通に食べて」

 が、実行に移す前に龍之介から牽制を喰らったのでやむなく、或いはやらずに済んでほっとして普通に食べた。
 今回リリムの持ってきた作戦は残念ながら不発。だけどもリリムはしっかりと次の弾を用意していた。アイスを食べる凛華に、ひっそりと耳打ち。
 アイスを食べ終えた凛華は、龍之介も食べ終えたのを確認すると作戦を実行に移す。

「龍之介君、ちゃんと水着見て」

 先程は龍之介の要求を聞いたのだから、こんどはこちらが要求する番。
 訪れた次なる試練。龍之介はこの窮地に、身を硬直させていた。
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