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第三章
第90話 まねっこダンスゲーム・4
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お尻を開いて、アナル公開。
衝撃的な決めポーズを手本として見せられて、幹人と麗に緊張が走った。
(やるのか麗、まさかあれを……)
幹人が唾を呑む中、ルシファーが開始を宣言。そして決戦の火蓋を切るパーカッションが鳴り出した。顔を真っ赤にして瞳を揺らしていた麗は即座に切り替えて、股間を隠していた手をどける。
ややモリマン気味の恥丘。掌一つで隠せる範囲の長方形に整えられたアンダーヘア。上半身はスポーツブラで下半身裸というマニアックな格好をして堂々と立つ麗の姿に、幹人はぎょっと目を見開いた。
(信じられるか? 俺今麗のマン毛見てるんだぜ?)
夢でも見ているような光景に、幹人は喜びと焦りを同時に感じる。麗は両手を頭上に持ち上げ、手本通りに艶めかしく腰をくねらせる。ただでさえ扇情的な振り付けに下半身裸という異様な格好が合わさって、それは最早狂気すら感じさせるいかがわしさ。
はっとして自分も踊り始めた幹人であるが、どうしても視線は麗に向いてしまう。
ふと下半身から顔に視線を向ければ、平気で堂々としているように見える麗が実際は顔の赤みが冷めず表情も強張っていることに気付く。
ダンスをしていれば恥じらいは忘れる。その感覚だった麗だが、流石にこれは堪えたようだ。
視線だけは麗から離さぬまま必死にオタ芸を踊る幹人。パーカッションの終わりが近づくにつれその鼓動は早まってゆく。
さっと幹人に背を向けた麗は、笑顔で振り返り左手は細くくびれたウエストに、右手は小さく引き締まったヒップに当てた。
そして目を血走らせる幹人に見つめられながら、麗はその期待に沿うかの如く、右手でくいっとお尻を開いたのである。
肉の薄い小尻は、軽く開いただけで窄まった所が丸見えに。幹人は唾を呑み、それをしっかりと目に収めた。
たとえこんな恥ずかしすぎるポーズでも、笑顔でこなす麗。だが良い感じに身体の捻りを効かせて立つこのポーズは、下半身裸でお尻を開くという部分を除けば普通に格好いいと言える代物。バッチリ決まった姿は不思議と気品すら感じさせる。
それらは全て、麗のダンサーとしての技量あってのものだ。並大抵の者がそれをしていたなら、ただ無暗に恥部を見せびらかしているだけのいやらしく下品なポーズに留まっていただろう。彼女が如何ほどに自分の身を魅せる術に長けているか――そのために一体どれほどの努力を積んできたか。たった一つのポーズで、その全てを幹人は理解させられた。
そんな幹人であるが、これ以上醜態を晒すわけにはいかないと最後の決めポーズだけはバッチリと決める。それは昭和の定番ギャグ、所謂『シェー』のポーズであり、好きな女の子のお尻の穴を目の当たりにしてしまった今の心境と妙にマッチしていた。
ルシファーが「そこまで」の宣言をすると、麗はすぐさま割れ目に重ねるように腕を置いてお尻を隠した。そして左手は股間に添えて、再び正面を向く。
「……幹人、ガン見してたでしょ」
女の子は案外と男からの視線に鋭いもの。当然、幹人が見ていたことは麗にバレていた。
幹人は前かがみになりながら、気まずそうに無言で麗から目を逸らす。
「じゃあ今回のスコアを発表するねー。まず真世ちゃん、7点!」
この色っぽいダンスを上半身裸で踊ることに抵抗感の強かった真世は、通常のダンスパートは2点に留まる。しかし後ろを向くことで胸を隠せることに加えてショーツの上からお尻を開くだけなのでさして恥ずかしくもない決めポーズは問題なく決まり、5点のボーナスを得るに至った。
「続いて矢島君、10点満点。流石オタ芸は踊り慣れているだけありますね。決めポーズもバッチリでした。お二人のスコアを合計して17点。これはなかなかの高得点が出ました」
信司は勿論今回も手本を覚えた後はすぐに眼鏡を外し、女子の裸体が視界に入らずダンスに集中できるようにしていた。
「じゃあ次は麗ちゃん。勿論~10点満点!!! ナイスアナルだったよ麗ちゃん!」
「いや出したくて出したわけじゃないからね!?」
羞恥に耐えてやりきっただけの結果は得られた。だが今回は相手側もパーフェクトを含む高得点を出しており、まだ油断はできない。
「最後に畑山君……7点。決めポーズはちゃんとできていましたが、ダンスパートは宮田さんの方ばかり見ていてボロボロでした」
そして幹人のスコアが発表され、麗と幹人は落胆した。ましてや情けない減点の理由をはっきりと口に出されて、幹人は赤っ恥である。
「……スケベ」
「うっせー! 男はみんなスケベだバカヤロー!」
白けた顔で罵られた幹人はやけっぱちになって反論するも、麗の冷めた目つきは変わらず。
「さて、こちらのペアの合計スコアも17点。よって今回は同点のため脱衣は無しで八回戦へと移行します」
「えぇ……まだ続くんですか……」
げんなりする真世であったが、ルシファーは待ってはくれない。次のパーカッションが、早くも鳴り出した。
リリムが踊るのは可愛らしく上品でありつつも優れた技術と柔軟性を必要とするバレエ。動き自体はゆったりとしており激しく跳ねたりするような部分は無いものの、踊り疲れた真世にとって厳しいものであることに変わりはない。
そしてルシファーは、こちらもハイレベルなジャズダンスを披露。どうせまたおふざけだろうと高を括っていた幹人は、逆の意味で驚かされた。漆黒の翼を翻しクールに舞うその姿は、幹人の目を麗の裸体からさえ奪う。
最後は掌を顔の前に持っていった厨二感溢れるスタイリッシュなポーズで決め。幹人は鳥肌が立った。
(やっぱあいつ……凄え……!)
そう思った瞬間だった。麗の「ちょーっ!」という叫びを聞いて、幹人は顔をそちらに向けた。
リリムの決めポーズは、片足立ちでもう一方の脚を高く上げた所謂ところのY字バランス。それも一番恥ずかしい所――このポーズで大きく目立つ、両脚の付け根の間にある一点が丁度パートナーに見やすいように体を向けている。
「あたし今下半身裸!!」
「だからこそだよ麗ちゃん」
「もう凛々夢とは絶交だから!」
「ガーン!」
『気にするな。元の世界に帰す時お前が恋咲凛々夢であることは忘れる』
絶交宣言にショックを受けるリリムに、ルシファーはテレパシーで伝えた。
そしてこのポーズに麗以上に動揺しているのが幹人である。
(麗がY字バランス!? 下半身裸で!?)
下半身裸で踊っている麗だが、正面の毛やお尻は見えても奥まった所にあるそれはそうそう見られるものではない。
幹人の心臓が爆音を立てる中、ダンスは始まった。
(そうだ! こういうクールなダンスを俺は待ってたんだ! 麗の裸に気を取られてる場合じゃない!)
今度こそ失敗は許されないと、幹人は気合いでダンスに集中。相手が眼鏡を外すという最強の集中手段を持っている以上、こちらがそれと並ぶ集中力を得るにはとにかく根性を絞り出すしかない。
麗は下半身裸のまま優雅にバレエを踊っているが、たとえ黒い茂みが視界にちらついても幹人はそちらに視線を引かれることなくきびきびと体を動かす。
(これで……ジ・エンドだ!)
パーカッションの終わり、かっこよすぎるくらいかっこいいポーズを華麗に決めて締める。満足のいくダンスが踊れた高揚感で、幹人の心はこの上なく昂っていた。
そして顔の前に置いた掌の指の隙間から見えるは――一番恥ずかしい所をまっすぐこちらに向けて下半身裸でY字バランスをとる麗の姿であった。
(綺麗なピンク……!)
AVにおいてさえモザイクがかかっていて、実物を見ることはそうそう叶わないその一点。幹人はしっかりと瞳に刻んで、もうこの場で射精してもいいと思えるほどの興奮を覚えた。
「そこまで!」
ルシファーの宣言が出ると、麗は即座に足を下ろして両手で股間を隠す。そして顔を真っ赤にしながら、揺れる瞳で幹人と目を合わせた。むすっとした表情は恥じらいに満ち、背徳感を押し上げてますます幹人の興奮を誘う。
「ではスコアを発表します。まず矢島君、8点。難しいダンスながらよくできました。ここまで色々なダンスを踊ってきてコツを掴んだようですね。ダンス自体は上手くなくとも、要所要所で手本の特徴的な動きが模倣できており堅実に点を稼げていました」
「お、おお! これはなかなか良いのではありませんか!?」
思っていた以上の高得点が出たことに、信司は自分でも驚いていた。
「そして真世ちゃん。8点! 凄いよ真世ちゃん! 感想は先生の矢島君へのコメントと一緒かなー」
奇しくも、真世も信司と同じようにコツを掴んでいたようだった。
「こちらのペアの合計スコアは16点。果たして畑山君と宮田さんはこれを超えることができるのでしょうか」
「じゃあ次は麗ちゃんね。麗ちゃんは~当然10点満点! 最後の開脚もすっごい綺麗に決まってたよ!」
「ううー……思い出させないでー」
赤面して顔を覆いたくなる麗だが、手が空いていない以上はそうもいかない。
「では最後に畑山君」
(当然俺も10点満点だろ)
「5点」
「は?」
信じ難い点数。思わず幹人の目が点になった。
「通常のダンスパートは完璧でした。しかし最後の決めポーズ、本来はこのように掌で目を全て覆っていなければなりませんでした」
ルシファーは再び決めポーズをとって見せて説明。
「しかし貴方は宮田さんが女性器を露出した姿を見たいがあまり、掌をずらし指の隙間から覗いてしまいました。よって決めポーズのボーナスは無しとなり5点です」
(うわあああああああああ!!!)
幹人の心の中で、嵐が吹き荒れた。自分好みのダンスで、完璧に踊れたつもりだったのに。最後の最後で下心を出してしまい、卑劣なトラップに足元を掬われてしまった。
「スケベ。スケベ」
麗に繰り返し罵られ、その言葉が胸に突き刺さる。
麗が八連続パーフェクトという大記録を打ち立てていながら、徹頭徹尾幹人が足を引っ張り続けて負けた。その事実が、幹人の心を抉り続けた。
「合計15点。よってこのゲームの勝者は、矢島君&君島さんとなりました! では宮田さん、そのスケベな彼にお胸をお見せしてあげて下さい」
「ううー……」
涙目で唸り声を上げる麗だが、もう女の子の一番大事な所まで見せているのだ。今更ということもあり、あっさりと折れてスポーツブラを脱ぎ捨てた。
薄茶色で小さめの蕾を目の当たりにした幹人は、股間を手で押さえて粗相を我慢。
麗はすぐさま右腕で胸を、左手で股間を隠しながらしゃがみ込んだ。
「何なのもぉー! 何がしたいのリリムは!」
「うひひ」
麗が尋ねても、リリムは怪しく笑うのみであった。
「すまん麗、全部俺が悪いんだ……俺のせいでお前にこんな恥ずかしい思いを……」
「別に……幹人になら見られてもそこまで嫌じゃないし……」
「は?」
土下座して謝る幹人だったが、麗の口から思わぬ発言が飛び出したので目を丸くして顔を上げる。
麗は幹人と目を合わせないようにしながら、ぼそぼそと小声で話し始めた。
「幹人はあたしのこと単なるダンス仲間としか思ってないのかもしんないけどさ、好きでもない男にビキニとかレオタードとか、それに裸だって……見せたりしないよ」
「マ、マジかよ。俺もてっきり麗は俺のこと単なるダンス仲間としか思ってないんだとばかり……そっか、俺ら両想い……」
そう考えた瞬間、興奮のあまり股間に何かが込み上げてきた。
「あ……」
しくじった、と幹人は理解した。パンツの中が真っ白になって、頭も真っ白になった。
だけども麗は何が起こったのかわかっていない様子で、不思議そうに目をぱちくりさせていたのである。
一方のドルオタペア。
「では君島さん、矢島君、貴方達の願いを叶えて差し上げましょう」
「まよさん! アイドルデビューを願うチャンスですぞ!」
「にょきにょき仮面さん、私こっちです」
眼鏡をしていない信司は、あらぬ方向を向いて虚空に向かって話しかけていた。
ルシファーの魔法で、信司のポケットに入った眼鏡が動き出し独りでに信司の顔に掛かった。そして信司の体が勝手に動き、上半身裸の真世と向き合う形になったのである。
「あっ、ま、まよさん……」
パンダの目の模様のような大きな乳輪に視線が行き、信司は慌てて顔を上げ視線を真世の顔に向ける。真世は顔を真っ赤にして、両掌を胸に当てて隠した。
「あの……にょきにょき仮面さん。いえ、信司さん。私と……お付き合いして頂けませんか? それが私の願いです」
「え? え? ど、どういう……まよさんはアイドルになりたいのでは!?」
「はい、それが私の夢でした。でもあの日信司さんに助けて頂いて、大好きな彩夏ちゃんの話を沢山して、私の夢を叶えるために沢山協力して頂いて。気が付いたら私、信司さんのことを好きになっていたんです。でもアイドルは恋愛禁止だから……きっとそれはアイドルになる夢と両立はできない。それで考えたんです。私は彩夏ちゃんと同じステージに立つよりも、同じ趣味を持つ好きな人と一緒に、これからも彩夏ちゃんを応援していきたいと」
思いもよらぬ告白に、信司は言葉が出なかった。
自分はアイドルオタクというモテない趣味の代表みたいな存在で、容姿も決して恵まれている方ではない。最低限人を不快にさせない程度の清潔感は心がけているが、ファッションセンスは確実にダサい方だ。そんな自分を好きになる女子がいるだなんて、考えたこともなかった。
「え、えーと……僕としてもまよさんのことは、可愛いと思っている、ので……」
「で、では……」
「お付き合い、しましょうか……」
「は、はい」
お互いどもりながらも気持ちを伝え合い、無事カップル成立。勿論そこにすかさず祝福を入れるのがルシファーである。
「畑山君と宮田さん、矢島君と君島さん、両ペアともカップル成立おめでとうございまーす! それを祝して、私から天使の加護を」
四人それぞれの下腹部にルシファーの紋章が現れて、すっと消えた。そして女子二人の前には、一度消滅した服が戻ってくる。
信司は服を着る女子二人に背を向け、幹人はティッシュを手渡されカーテンに身を隠しながら大変になった所の処理をしていた。
「そういえば矢島君の願いはまだ聞いていませんでしたね」
「あ、はい。では……一ファンとしてこれからも彩夏ちゃんが幸せでいることを願いましょうか」
「その願い、聞き届けました」
言われなくとも、その願いは保障されている。ルシファーの紋章によって彩夏は芸能界に巣食う悪意から護られているし、いつか恋愛が解禁された時に彼女を幸せにしてくれる人もいる。
四人を元の世界に送り届けたルシファーは、ターンテーブルからお気に入りの音楽を流しながら満足げに口元を緩めていた。
「先生今日は機嫌いいねー」
BGMに合わせて陽気に踊るリリムが声をかけると、ルシファーは目を閉じてフッと微笑む。
一度は彩夏に利用されて不本意ながら脱衣ゲームの参加者にさせられた信司。そしてそのために脱衣ゲームへの参加を先延ばしにさせられた麗と幹人。
だが信司はその彩夏のファンであることをきっかけに良い出会いに恵まれ、麗と幹人も無事カップル成立。
残していた課題を一つ終わらせてスッキリした気分で、ルシファーは音楽に浸ることができたのである。
衝撃的な決めポーズを手本として見せられて、幹人と麗に緊張が走った。
(やるのか麗、まさかあれを……)
幹人が唾を呑む中、ルシファーが開始を宣言。そして決戦の火蓋を切るパーカッションが鳴り出した。顔を真っ赤にして瞳を揺らしていた麗は即座に切り替えて、股間を隠していた手をどける。
ややモリマン気味の恥丘。掌一つで隠せる範囲の長方形に整えられたアンダーヘア。上半身はスポーツブラで下半身裸というマニアックな格好をして堂々と立つ麗の姿に、幹人はぎょっと目を見開いた。
(信じられるか? 俺今麗のマン毛見てるんだぜ?)
夢でも見ているような光景に、幹人は喜びと焦りを同時に感じる。麗は両手を頭上に持ち上げ、手本通りに艶めかしく腰をくねらせる。ただでさえ扇情的な振り付けに下半身裸という異様な格好が合わさって、それは最早狂気すら感じさせるいかがわしさ。
はっとして自分も踊り始めた幹人であるが、どうしても視線は麗に向いてしまう。
ふと下半身から顔に視線を向ければ、平気で堂々としているように見える麗が実際は顔の赤みが冷めず表情も強張っていることに気付く。
ダンスをしていれば恥じらいは忘れる。その感覚だった麗だが、流石にこれは堪えたようだ。
視線だけは麗から離さぬまま必死にオタ芸を踊る幹人。パーカッションの終わりが近づくにつれその鼓動は早まってゆく。
さっと幹人に背を向けた麗は、笑顔で振り返り左手は細くくびれたウエストに、右手は小さく引き締まったヒップに当てた。
そして目を血走らせる幹人に見つめられながら、麗はその期待に沿うかの如く、右手でくいっとお尻を開いたのである。
肉の薄い小尻は、軽く開いただけで窄まった所が丸見えに。幹人は唾を呑み、それをしっかりと目に収めた。
たとえこんな恥ずかしすぎるポーズでも、笑顔でこなす麗。だが良い感じに身体の捻りを効かせて立つこのポーズは、下半身裸でお尻を開くという部分を除けば普通に格好いいと言える代物。バッチリ決まった姿は不思議と気品すら感じさせる。
それらは全て、麗のダンサーとしての技量あってのものだ。並大抵の者がそれをしていたなら、ただ無暗に恥部を見せびらかしているだけのいやらしく下品なポーズに留まっていただろう。彼女が如何ほどに自分の身を魅せる術に長けているか――そのために一体どれほどの努力を積んできたか。たった一つのポーズで、その全てを幹人は理解させられた。
そんな幹人であるが、これ以上醜態を晒すわけにはいかないと最後の決めポーズだけはバッチリと決める。それは昭和の定番ギャグ、所謂『シェー』のポーズであり、好きな女の子のお尻の穴を目の当たりにしてしまった今の心境と妙にマッチしていた。
ルシファーが「そこまで」の宣言をすると、麗はすぐさま割れ目に重ねるように腕を置いてお尻を隠した。そして左手は股間に添えて、再び正面を向く。
「……幹人、ガン見してたでしょ」
女の子は案外と男からの視線に鋭いもの。当然、幹人が見ていたことは麗にバレていた。
幹人は前かがみになりながら、気まずそうに無言で麗から目を逸らす。
「じゃあ今回のスコアを発表するねー。まず真世ちゃん、7点!」
この色っぽいダンスを上半身裸で踊ることに抵抗感の強かった真世は、通常のダンスパートは2点に留まる。しかし後ろを向くことで胸を隠せることに加えてショーツの上からお尻を開くだけなのでさして恥ずかしくもない決めポーズは問題なく決まり、5点のボーナスを得るに至った。
「続いて矢島君、10点満点。流石オタ芸は踊り慣れているだけありますね。決めポーズもバッチリでした。お二人のスコアを合計して17点。これはなかなかの高得点が出ました」
信司は勿論今回も手本を覚えた後はすぐに眼鏡を外し、女子の裸体が視界に入らずダンスに集中できるようにしていた。
「じゃあ次は麗ちゃん。勿論~10点満点!!! ナイスアナルだったよ麗ちゃん!」
「いや出したくて出したわけじゃないからね!?」
羞恥に耐えてやりきっただけの結果は得られた。だが今回は相手側もパーフェクトを含む高得点を出しており、まだ油断はできない。
「最後に畑山君……7点。決めポーズはちゃんとできていましたが、ダンスパートは宮田さんの方ばかり見ていてボロボロでした」
そして幹人のスコアが発表され、麗と幹人は落胆した。ましてや情けない減点の理由をはっきりと口に出されて、幹人は赤っ恥である。
「……スケベ」
「うっせー! 男はみんなスケベだバカヤロー!」
白けた顔で罵られた幹人はやけっぱちになって反論するも、麗の冷めた目つきは変わらず。
「さて、こちらのペアの合計スコアも17点。よって今回は同点のため脱衣は無しで八回戦へと移行します」
「えぇ……まだ続くんですか……」
げんなりする真世であったが、ルシファーは待ってはくれない。次のパーカッションが、早くも鳴り出した。
リリムが踊るのは可愛らしく上品でありつつも優れた技術と柔軟性を必要とするバレエ。動き自体はゆったりとしており激しく跳ねたりするような部分は無いものの、踊り疲れた真世にとって厳しいものであることに変わりはない。
そしてルシファーは、こちらもハイレベルなジャズダンスを披露。どうせまたおふざけだろうと高を括っていた幹人は、逆の意味で驚かされた。漆黒の翼を翻しクールに舞うその姿は、幹人の目を麗の裸体からさえ奪う。
最後は掌を顔の前に持っていった厨二感溢れるスタイリッシュなポーズで決め。幹人は鳥肌が立った。
(やっぱあいつ……凄え……!)
そう思った瞬間だった。麗の「ちょーっ!」という叫びを聞いて、幹人は顔をそちらに向けた。
リリムの決めポーズは、片足立ちでもう一方の脚を高く上げた所謂ところのY字バランス。それも一番恥ずかしい所――このポーズで大きく目立つ、両脚の付け根の間にある一点が丁度パートナーに見やすいように体を向けている。
「あたし今下半身裸!!」
「だからこそだよ麗ちゃん」
「もう凛々夢とは絶交だから!」
「ガーン!」
『気にするな。元の世界に帰す時お前が恋咲凛々夢であることは忘れる』
絶交宣言にショックを受けるリリムに、ルシファーはテレパシーで伝えた。
そしてこのポーズに麗以上に動揺しているのが幹人である。
(麗がY字バランス!? 下半身裸で!?)
下半身裸で踊っている麗だが、正面の毛やお尻は見えても奥まった所にあるそれはそうそう見られるものではない。
幹人の心臓が爆音を立てる中、ダンスは始まった。
(そうだ! こういうクールなダンスを俺は待ってたんだ! 麗の裸に気を取られてる場合じゃない!)
今度こそ失敗は許されないと、幹人は気合いでダンスに集中。相手が眼鏡を外すという最強の集中手段を持っている以上、こちらがそれと並ぶ集中力を得るにはとにかく根性を絞り出すしかない。
麗は下半身裸のまま優雅にバレエを踊っているが、たとえ黒い茂みが視界にちらついても幹人はそちらに視線を引かれることなくきびきびと体を動かす。
(これで……ジ・エンドだ!)
パーカッションの終わり、かっこよすぎるくらいかっこいいポーズを華麗に決めて締める。満足のいくダンスが踊れた高揚感で、幹人の心はこの上なく昂っていた。
そして顔の前に置いた掌の指の隙間から見えるは――一番恥ずかしい所をまっすぐこちらに向けて下半身裸でY字バランスをとる麗の姿であった。
(綺麗なピンク……!)
AVにおいてさえモザイクがかかっていて、実物を見ることはそうそう叶わないその一点。幹人はしっかりと瞳に刻んで、もうこの場で射精してもいいと思えるほどの興奮を覚えた。
「そこまで!」
ルシファーの宣言が出ると、麗は即座に足を下ろして両手で股間を隠す。そして顔を真っ赤にしながら、揺れる瞳で幹人と目を合わせた。むすっとした表情は恥じらいに満ち、背徳感を押し上げてますます幹人の興奮を誘う。
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「お、おお! これはなかなか良いのではありませんか!?」
思っていた以上の高得点が出たことに、信司は自分でも驚いていた。
「そして真世ちゃん。8点! 凄いよ真世ちゃん! 感想は先生の矢島君へのコメントと一緒かなー」
奇しくも、真世も信司と同じようにコツを掴んでいたようだった。
「こちらのペアの合計スコアは16点。果たして畑山君と宮田さんはこれを超えることができるのでしょうか」
「じゃあ次は麗ちゃんね。麗ちゃんは~当然10点満点! 最後の開脚もすっごい綺麗に決まってたよ!」
「ううー……思い出させないでー」
赤面して顔を覆いたくなる麗だが、手が空いていない以上はそうもいかない。
「では最後に畑山君」
(当然俺も10点満点だろ)
「5点」
「は?」
信じ難い点数。思わず幹人の目が点になった。
「通常のダンスパートは完璧でした。しかし最後の決めポーズ、本来はこのように掌で目を全て覆っていなければなりませんでした」
ルシファーは再び決めポーズをとって見せて説明。
「しかし貴方は宮田さんが女性器を露出した姿を見たいがあまり、掌をずらし指の隙間から覗いてしまいました。よって決めポーズのボーナスは無しとなり5点です」
(うわあああああああああ!!!)
幹人の心の中で、嵐が吹き荒れた。自分好みのダンスで、完璧に踊れたつもりだったのに。最後の最後で下心を出してしまい、卑劣なトラップに足元を掬われてしまった。
「スケベ。スケベ」
麗に繰り返し罵られ、その言葉が胸に突き刺さる。
麗が八連続パーフェクトという大記録を打ち立てていながら、徹頭徹尾幹人が足を引っ張り続けて負けた。その事実が、幹人の心を抉り続けた。
「合計15点。よってこのゲームの勝者は、矢島君&君島さんとなりました! では宮田さん、そのスケベな彼にお胸をお見せしてあげて下さい」
「ううー……」
涙目で唸り声を上げる麗だが、もう女の子の一番大事な所まで見せているのだ。今更ということもあり、あっさりと折れてスポーツブラを脱ぎ捨てた。
薄茶色で小さめの蕾を目の当たりにした幹人は、股間を手で押さえて粗相を我慢。
麗はすぐさま右腕で胸を、左手で股間を隠しながらしゃがみ込んだ。
「何なのもぉー! 何がしたいのリリムは!」
「うひひ」
麗が尋ねても、リリムは怪しく笑うのみであった。
「すまん麗、全部俺が悪いんだ……俺のせいでお前にこんな恥ずかしい思いを……」
「別に……幹人になら見られてもそこまで嫌じゃないし……」
「は?」
土下座して謝る幹人だったが、麗の口から思わぬ発言が飛び出したので目を丸くして顔を上げる。
麗は幹人と目を合わせないようにしながら、ぼそぼそと小声で話し始めた。
「幹人はあたしのこと単なるダンス仲間としか思ってないのかもしんないけどさ、好きでもない男にビキニとかレオタードとか、それに裸だって……見せたりしないよ」
「マ、マジかよ。俺もてっきり麗は俺のこと単なるダンス仲間としか思ってないんだとばかり……そっか、俺ら両想い……」
そう考えた瞬間、興奮のあまり股間に何かが込み上げてきた。
「あ……」
しくじった、と幹人は理解した。パンツの中が真っ白になって、頭も真っ白になった。
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一方のドルオタペア。
「では君島さん、矢島君、貴方達の願いを叶えて差し上げましょう」
「まよさん! アイドルデビューを願うチャンスですぞ!」
「にょきにょき仮面さん、私こっちです」
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「あの……にょきにょき仮面さん。いえ、信司さん。私と……お付き合いして頂けませんか? それが私の願いです」
「え? え? ど、どういう……まよさんはアイドルになりたいのでは!?」
「はい、それが私の夢でした。でもあの日信司さんに助けて頂いて、大好きな彩夏ちゃんの話を沢山して、私の夢を叶えるために沢山協力して頂いて。気が付いたら私、信司さんのことを好きになっていたんです。でもアイドルは恋愛禁止だから……きっとそれはアイドルになる夢と両立はできない。それで考えたんです。私は彩夏ちゃんと同じステージに立つよりも、同じ趣味を持つ好きな人と一緒に、これからも彩夏ちゃんを応援していきたいと」
思いもよらぬ告白に、信司は言葉が出なかった。
自分はアイドルオタクというモテない趣味の代表みたいな存在で、容姿も決して恵まれている方ではない。最低限人を不快にさせない程度の清潔感は心がけているが、ファッションセンスは確実にダサい方だ。そんな自分を好きになる女子がいるだなんて、考えたこともなかった。
「え、えーと……僕としてもまよさんのことは、可愛いと思っている、ので……」
「で、では……」
「お付き合い、しましょうか……」
「は、はい」
お互いどもりながらも気持ちを伝え合い、無事カップル成立。勿論そこにすかさず祝福を入れるのがルシファーである。
「畑山君と宮田さん、矢島君と君島さん、両ペアともカップル成立おめでとうございまーす! それを祝して、私から天使の加護を」
四人それぞれの下腹部にルシファーの紋章が現れて、すっと消えた。そして女子二人の前には、一度消滅した服が戻ってくる。
信司は服を着る女子二人に背を向け、幹人はティッシュを手渡されカーテンに身を隠しながら大変になった所の処理をしていた。
「そういえば矢島君の願いはまだ聞いていませんでしたね」
「あ、はい。では……一ファンとしてこれからも彩夏ちゃんが幸せでいることを願いましょうか」
「その願い、聞き届けました」
言われなくとも、その願いは保障されている。ルシファーの紋章によって彩夏は芸能界に巣食う悪意から護られているし、いつか恋愛が解禁された時に彼女を幸せにしてくれる人もいる。
四人を元の世界に送り届けたルシファーは、ターンテーブルからお気に入りの音楽を流しながら満足げに口元を緩めていた。
「先生今日は機嫌いいねー」
BGMに合わせて陽気に踊るリリムが声をかけると、ルシファーは目を閉じてフッと微笑む。
一度は彩夏に利用されて不本意ながら脱衣ゲームの参加者にさせられた信司。そしてそのために脱衣ゲームへの参加を先延ばしにさせられた麗と幹人。
だが信司はその彩夏のファンであることをきっかけに良い出会いに恵まれ、麗と幹人も無事カップル成立。
残していた課題を一つ終わらせてスッキリした気分で、ルシファーは音楽に浸ることができたのである。
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大衆娯楽
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吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
今日の授業は保健体育
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(性的描写あり)
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