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第三章
第88話 まねっこダンスゲーム・2
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ゲームは一勝一敗、お互いに上半身がブラジャー一枚になった状態で迎える三回戦。
再びこのダンスホールに、パーカッションがどこからともなく鳴り響いた。
リリムが踊るのはさながらお城の舞踏会のような、ゆったりとして優雅なクラシックダンス。これまでの二つと違ってリリム自身が好んでやるタイプのダンスではないが、今回のゲームのためにルシファーが教えたものだ。
ちなみにルシファーはその昔西欧で貴族をやっていた経歴があり、舞踏会の経験は豊富。華麗な舞いで多くの令嬢の心を奪ったのである。
そしてそのルシファーはといえば、何を思ったか男子二人に背を向けお尻を突き出した中腰姿勢になった。そして尻文字で平仮名の「る」を書いたのである。
(馬鹿にしてんのか)
最早ダンスと呼んでいいのか微妙な代物に、幹人はイラっとさせられた。
「はい、ここまで。では皆さん、踊って下さい」
再びパーカッションが小気味よく鳴り始め、女子二人はすぐさまリリムの手本を覚えた通りに踊り始める。
信司が後ろを向いたのを確認した幹人はやむなく自分も後ろを向き、中腰姿勢を取った。
(何で俺がこんな……)
屈辱的な思いをしながらやらされる尻文字。しかもこれはもう一つ辛い点がある。麗に完全に背を向ける格好になるから、せっかくの下着姿が見られないのだ。
(ちょっとだけ……なら……)
ただでさえこんなふざけた踊りにはやる気が出ないのだ。邪念の誘惑を振りきれず、幹人は顔を後ろに向ける。
スポーツブラとハーフパンツ姿で踊る麗は、そんな服装でありながらどこか気品を感じさせる。動きの一つ一つが優雅で、これは最早手本以上と言っていい出来だ。
幹人は息を呑み、華麗な舞踊に目を奪われる。そしてそうしている間に、終了が告げられたのである。
「そこまで! まず畑山君、1点。途中からずっと踊るのを忘れて宮田さんの方を見ていましたね。よって4点減点です」
「幹人ぉ!」
麗に怒鳴られて、幹人は気まずそうに視線を逸らした。
「続いて矢島君、3点。るの字の最後に書く丸が大分歪んでいました」
(うーん、とりあえず畑山君には勝ったか)
(まだ二点差だ。女子の点差次第で全然勝てるな)
負けたら確実に自分の責任。信司も大したスコアじゃないことに、幹人はほっとしていた。
「じゃあ、次は女の子のスコア発表! 麗ちゃんは~5点満点!」
麗が満点であることは、聞くまでもなく幹人にはわかっていたことだ。問題はそれに続く真世の方。
「そして真世ちゃんは……4点! よく頑張ったね真世ちゃん!」
想像以上に良いスコアが発表されて、不安げだった真世の表情がぱっと明るくなった。
一方でみるみるうちに顔が引き攣っていったのが幹人である。
「畑山君&宮田さんペア、6点。矢島君&君島さんペア、7点。よって今回は、矢島君&君島さんペアの勝利です!」
「や、やりましたよにょきにょき仮面さん!」
一回戦と同じく幹人の愚かな自爆による勝利であるが、それよりも真世は自分が高得点を取れたことが嬉しい模様。
「では宮田さん、もう一枚脱いで頂きましょう」
「う……」
「すまん麗、また俺のせいで!」
ルシファーが詰め寄ると、麗は怖気づいた顔。だけどもすぐに覚悟を決め、無言でハーフパンツを一気に下ろした。
黒地に白いラインの、ちょっぴり大人っぽいガールズブリーフ。想像していたのとは少し違った雰囲気の下着に、幹人はどぎまぎさせられる。
「……これ、あたしのお気に入りのショーツ。言っとくけど男物じゃないからね?」
「あっ、いや、別に変だとか似合わないとか、決してそういう風に思ったわけじゃないから! むしろ似合ってるというか、お前のボーイッシュな雰囲気に合ってるというかっ……」
前かがみになって股間を押さえながら焦って弁明する幹人を、麗は目を細めてじとっと見つめる。
「……ありがと」
頬を染め俯く麗の口元は、むずがゆそうにもぞもぞと揺れる。その反応は下着を見られたことによる恥じらいか、或いは。
そしてゲームは四回戦へと進む。
自分のせいで負け越している幹人は、次で挽回せねばと気合を入れていた。
そして流れるパーカッション。リリムが踊るのは、甘い砂糖をまぶしたが如き可愛らしさのアイドル系ダンス。あざとすぎると感じさせるくらいに、あどけない笑顔でぶりっ子全開の可愛さを振りまく。男子の踊らされているヘンテコな踊りとは違うベクトルで、踊ることに恥ずかしさを感じさせる代物だ。
そしてルシファーはといえば、例によってまたおふざけ。美しい顔を恥ずかしげもなく崩した顔芸と共に、宴会芸の定番どじょう掬いをしていた。
(先生ってこういう時無駄に芸人魂発揮するよね)
普通にしてれば耽美なのに、場を盛り上げるためなら道化を演じることを厭わないルシファーの姿勢にリリムは複雑な気持ち。
そもそも普段から自分を偽り冴えないおっさんを演じている男である。笑い者になることに恥じらいなど無いと言っていい。
五秒が経ちパーカッションが鳴り終わると、ルシファーは何事も無かったようにきりっとした決め顔に戻った。そこがまた、笑いと呆れを誘うのである。
「では皆さん、踊って頂きましょう」
「幹人、今度はちゃんと踊ってよ!」
「お、おう」
次で負けたら、いよいよ麗は下着まで脱ぐことになってしまう。釘を刺された幹人の額に、一筋の汗が伝う。
(あんなの踊らされるとかマジで勘弁願いたいんだが……俺はカッコいいダンスしか踊る気はねーんだよ!)
そうは思ったものの、返事をしてしまった以上は応じる他ない。幹人はやむなく踊り始めるが、顔芸だけはやることを拒む。
その幹人の正面で踊る麗はといえば、パーカッションが始まると同時にぱあっと花が咲くような笑顔になった。そして踊るのが恥ずかしいくらい可愛すぎるダンスを、全く恥じらうことなく堂々と踊ってみせたのだ。
麗が一番メインにしているのは格好いい系のダンスであるヒップホップだが、アイドル系の可愛いダンスも好んでしているのは幹人もご存じ。とはいえここまで自身のボーイッシュなイメージを粉々にするキラキラぶりっ子感を出してきたのを見るのは、これが初めて。しかも今は下着姿というおまけ付きだ。自分の踊りを止めて見ていたい幹人だが、ぐっと堪えてどじょう掬いを続ける。
そして最後の決めポーズと共にパーカッションが鳴り止むと――麗はプッと息を噴き出して腹を抱えて笑い出した。
「ちょっ……幹人のどじょう掬いヤバいって! 笑い堪えるの必死だったんだから!」
「うっせーうっせー! 俺だってやりたくてやったんじゃねーよ!!」
そう言い返した幹人であるが、思えば麗は結構凄いことをやっていると気付く。
麗は笑顔で踊っていたわけではあるが、それは可笑しいものを見て反射的に笑ったものではなくパフォーマンスとして魅せるための笑顔だ。
それも今の麗は下着姿で、恥じらう気持ちもあるだろうにダンス中はそれすらも押し殺している。
笑いや羞恥によって表情や体勢を崩すことのない、圧倒的な集中力。あらゆる要素に集中を乱されていた幹人とは大違いだ。
「では今回のスコアを発表します。まず畑山君、3点。まあまあ頑張ってはいましたが、所々動きがぎこちなくなり明らかに手本と違っていました。よって2点減点です。矢島君も同じく3点。こちらは大分疲れが溜まっている様子が見えました」
ただでさえ嫌々踊らされたどじょう掬いを酷評されて、幹人は悔しい思いをする。脱がされてるのは女子だけなのに、どうして自分が一番恥ずかしい思いをさせられているのか理解不能だった。
男子のスコアは同点となり、勝敗は女子に委ねられる。だがこの時点で、誰もが勝敗を察していたのである。
「麗ちゃん、5点満点! さっすが麗ちゃん、無敵すぎだね!」
まずはガッツポーズをする麗。これで最低でも引き分けであり、今回麗が脱ぐことはないことが確定した。
「真世ちゃんは……2点! あれれー? アイドル志望だからこういうのは得意かと思ったのに全然だよぉ?」
「だ、だって疲れてるし……恥ずかしすぎなんですもん! こんなあざとすぎるダンス! しかも下着姿で……」
「その結果ブラだけじゃなくおぱんつまで丸見えになっちゃうねー」
「うぅ……」
「さて、そういうわけで今回は8対5で畑山君&宮田さんペアの勝利です。君島さんは、服を脱いで下さい」
「はいぃ……」
あざといアイドルにはなりきれなかった真世がハーフパンツを下ろすと、白地にピンクの水玉で正面に小さなリボンの付いたキュートなおぱんつがお目見え。まるで先程の振り付けを下着にしたかの如き、あざと可愛い一品だ。ふくよかな腰つきにはなかなか男心をそそられるものがあり、信司は目を奪われる。
(まよさん、肉付きいいな……グラビアとか向いてそう。目指す方向が彩夏ちゃんだから、そういうのは求めていないんだろうけど)
右腕をお腹に当てつつ左手を下腹部に置く真世は、信司にじっと見られていることに気付いてぼっと顔を赤くした。
「あのっ、にょきにょき仮面さん! そっそんなに見ないでください!」
「あっ、ごめん」
「あの、こんなだらしない体、人にお見せできるものではないので……」
「えっ? あ、いや、決してそんなことは……これはこれで、大変魅力的と言いますか……」
「ふぇっ!?」
魅力的と言われた真世は、ますます顔を赤くする。
「さて、では五回戦に参ろうと思いますが……」
と、そこでルシファーが進行を促す。
「皆さんお疲れのようなので、小休止と致しましょう」
ルシファーとリリムを含む全員の前に、スポーツドリンク入りのペットボトルがポンと現れた。
「ごく普通の市販のスポーツドリンクですので、どうぞ遠慮なくお飲み下さい」
ルシファーがそう言うより先に、真世は蓋を開けて飲み始めた。そこから一人一人、ペットボトルに口を付けてゆく。
「では、休憩をしつつ五回戦以降の追加ルールについて説明致しましょう。五回戦からは、ダンスの最後に行う決めポーズを完璧に再現することでプラス5点のボーナスが入ります。完璧か否かの判定は厳しめとなっており、細かい部分までの正確な再現が求められます。完璧ではないものの通常のダンスパートでセーフになる程度なら、マイナスはありませんがボーナスもありません」
毎度恒例の、半分辺りで行われるルール変更。四人はスポーツドリンクを飲みつつ、静かに聴いていた。
「決めポーズさえ完璧ならば、ダンススキルで劣る側にも逆転のチャンスがあるわけです。皆さん頑張って下さい。さて、では改めて五回戦に参りましょう。皆さん準備は宜しいですね? 次で負けたら、いよいよ下着を脱ぐこととなります」
「おい待てよ」
「質問ですか、畑山君」
突然幹人から呼び止められ、ルシファーはそちらを見る。
「いい加減ふざけた踊りはやめようぜ。せっかくのダンスバトルなんだ、技術の必要なカッコいいダンスで勝負をつけないか。それとも何か? あんたはそういうダンスを踊れないからああいうトンチキな踊りで茶を濁してるのか?」
「ちょっと幹人!」
麗が幹人の失礼な態度を注意するも、幹人は知らんぷり。幹人に煽られたルシファーは、真顔のまま考え込むような仕草をした。
「……なるほど、格好いいダンスをご所望ですか。分かりました」
そう言い終えた瞬間に鳴り出すパーカッション。瞬間、空気が変わった。
長い手足をダイナミックに振り、クールに、スタイリッシュに、それでいて繊細に、銀髪美形の黒翼天使は鮮烈に舞う。
その一挙一動が心を震わせ、誰もが瞬きすら惜しむほどに目を奪われる。この場の全てを魅了する五秒間のラストに、ルシファーは右手を伸ばし少し身体を捻って立つスタイリッシュな決めポーズ。そして同時に、二枚の黒翼を大きく広げて無数の羽根を舞い散らせた。
黒い雪のように羽根が降るダンスホースは、パーカッションが鳴り終えても暫く沈黙が続いた。
はっと気が付いた麗は、思わず拍手を贈る。
ルシファーは腕を下ろして翼を畳み、通常の立ち姿勢に戻った。
「えー、こちらが今回の男子の手本となります。なお、最後の翼についてはノリでやったものなので、皆さんは真似できなくて問題ありません」
ダンス中に踏んだら危ないので、散らばった無数の羽根はすっと消える。
ルシファーを煽った幹人は、あんぐりと口を開けるばかりであった。
(あっやべぇ、俺の百倍上手え……)
対してその幹人の正面に立つ麗は、全身を疼かせて目を輝かせる。
(凄い凄い凄い! あたしもあんなダンス踊りたいっ!!!)
だけども麗は、ふとこのゲームのルールを思い出したのである。
「あっ、ごめん凛々夢、あたしそっち見てなかった!」
「あ、ボクも先生の方見ててお手本踊ってなかった」
フッ、とルシファーの笑い声。
「ではこうしましょう。今回は男女とも先程の私のダンスが手本ということで」
「えぇ……」
真世の驚嘆の声が漏れる。信司も元より踊れる気がしないと諦めの表情で、煽った結果恥の上乗りを喰らわされた幹人に到っては頭が真っ白になって何も考えられなくなる始末。
そんな中で麗は一人ぐっとガッツポーズし、瞳の中に炎を宿らせていた。
再びこのダンスホールに、パーカッションがどこからともなく鳴り響いた。
リリムが踊るのはさながらお城の舞踏会のような、ゆったりとして優雅なクラシックダンス。これまでの二つと違ってリリム自身が好んでやるタイプのダンスではないが、今回のゲームのためにルシファーが教えたものだ。
ちなみにルシファーはその昔西欧で貴族をやっていた経歴があり、舞踏会の経験は豊富。華麗な舞いで多くの令嬢の心を奪ったのである。
そしてそのルシファーはといえば、何を思ったか男子二人に背を向けお尻を突き出した中腰姿勢になった。そして尻文字で平仮名の「る」を書いたのである。
(馬鹿にしてんのか)
最早ダンスと呼んでいいのか微妙な代物に、幹人はイラっとさせられた。
「はい、ここまで。では皆さん、踊って下さい」
再びパーカッションが小気味よく鳴り始め、女子二人はすぐさまリリムの手本を覚えた通りに踊り始める。
信司が後ろを向いたのを確認した幹人はやむなく自分も後ろを向き、中腰姿勢を取った。
(何で俺がこんな……)
屈辱的な思いをしながらやらされる尻文字。しかもこれはもう一つ辛い点がある。麗に完全に背を向ける格好になるから、せっかくの下着姿が見られないのだ。
(ちょっとだけ……なら……)
ただでさえこんなふざけた踊りにはやる気が出ないのだ。邪念の誘惑を振りきれず、幹人は顔を後ろに向ける。
スポーツブラとハーフパンツ姿で踊る麗は、そんな服装でありながらどこか気品を感じさせる。動きの一つ一つが優雅で、これは最早手本以上と言っていい出来だ。
幹人は息を呑み、華麗な舞踊に目を奪われる。そしてそうしている間に、終了が告げられたのである。
「そこまで! まず畑山君、1点。途中からずっと踊るのを忘れて宮田さんの方を見ていましたね。よって4点減点です」
「幹人ぉ!」
麗に怒鳴られて、幹人は気まずそうに視線を逸らした。
「続いて矢島君、3点。るの字の最後に書く丸が大分歪んでいました」
(うーん、とりあえず畑山君には勝ったか)
(まだ二点差だ。女子の点差次第で全然勝てるな)
負けたら確実に自分の責任。信司も大したスコアじゃないことに、幹人はほっとしていた。
「じゃあ、次は女の子のスコア発表! 麗ちゃんは~5点満点!」
麗が満点であることは、聞くまでもなく幹人にはわかっていたことだ。問題はそれに続く真世の方。
「そして真世ちゃんは……4点! よく頑張ったね真世ちゃん!」
想像以上に良いスコアが発表されて、不安げだった真世の表情がぱっと明るくなった。
一方でみるみるうちに顔が引き攣っていったのが幹人である。
「畑山君&宮田さんペア、6点。矢島君&君島さんペア、7点。よって今回は、矢島君&君島さんペアの勝利です!」
「や、やりましたよにょきにょき仮面さん!」
一回戦と同じく幹人の愚かな自爆による勝利であるが、それよりも真世は自分が高得点を取れたことが嬉しい模様。
「では宮田さん、もう一枚脱いで頂きましょう」
「う……」
「すまん麗、また俺のせいで!」
ルシファーが詰め寄ると、麗は怖気づいた顔。だけどもすぐに覚悟を決め、無言でハーフパンツを一気に下ろした。
黒地に白いラインの、ちょっぴり大人っぽいガールズブリーフ。想像していたのとは少し違った雰囲気の下着に、幹人はどぎまぎさせられる。
「……これ、あたしのお気に入りのショーツ。言っとくけど男物じゃないからね?」
「あっ、いや、別に変だとか似合わないとか、決してそういう風に思ったわけじゃないから! むしろ似合ってるというか、お前のボーイッシュな雰囲気に合ってるというかっ……」
前かがみになって股間を押さえながら焦って弁明する幹人を、麗は目を細めてじとっと見つめる。
「……ありがと」
頬を染め俯く麗の口元は、むずがゆそうにもぞもぞと揺れる。その反応は下着を見られたことによる恥じらいか、或いは。
そしてゲームは四回戦へと進む。
自分のせいで負け越している幹人は、次で挽回せねばと気合を入れていた。
そして流れるパーカッション。リリムが踊るのは、甘い砂糖をまぶしたが如き可愛らしさのアイドル系ダンス。あざとすぎると感じさせるくらいに、あどけない笑顔でぶりっ子全開の可愛さを振りまく。男子の踊らされているヘンテコな踊りとは違うベクトルで、踊ることに恥ずかしさを感じさせる代物だ。
そしてルシファーはといえば、例によってまたおふざけ。美しい顔を恥ずかしげもなく崩した顔芸と共に、宴会芸の定番どじょう掬いをしていた。
(先生ってこういう時無駄に芸人魂発揮するよね)
普通にしてれば耽美なのに、場を盛り上げるためなら道化を演じることを厭わないルシファーの姿勢にリリムは複雑な気持ち。
そもそも普段から自分を偽り冴えないおっさんを演じている男である。笑い者になることに恥じらいなど無いと言っていい。
五秒が経ちパーカッションが鳴り終わると、ルシファーは何事も無かったようにきりっとした決め顔に戻った。そこがまた、笑いと呆れを誘うのである。
「では皆さん、踊って頂きましょう」
「幹人、今度はちゃんと踊ってよ!」
「お、おう」
次で負けたら、いよいよ麗は下着まで脱ぐことになってしまう。釘を刺された幹人の額に、一筋の汗が伝う。
(あんなの踊らされるとかマジで勘弁願いたいんだが……俺はカッコいいダンスしか踊る気はねーんだよ!)
そうは思ったものの、返事をしてしまった以上は応じる他ない。幹人はやむなく踊り始めるが、顔芸だけはやることを拒む。
その幹人の正面で踊る麗はといえば、パーカッションが始まると同時にぱあっと花が咲くような笑顔になった。そして踊るのが恥ずかしいくらい可愛すぎるダンスを、全く恥じらうことなく堂々と踊ってみせたのだ。
麗が一番メインにしているのは格好いい系のダンスであるヒップホップだが、アイドル系の可愛いダンスも好んでしているのは幹人もご存じ。とはいえここまで自身のボーイッシュなイメージを粉々にするキラキラぶりっ子感を出してきたのを見るのは、これが初めて。しかも今は下着姿というおまけ付きだ。自分の踊りを止めて見ていたい幹人だが、ぐっと堪えてどじょう掬いを続ける。
そして最後の決めポーズと共にパーカッションが鳴り止むと――麗はプッと息を噴き出して腹を抱えて笑い出した。
「ちょっ……幹人のどじょう掬いヤバいって! 笑い堪えるの必死だったんだから!」
「うっせーうっせー! 俺だってやりたくてやったんじゃねーよ!!」
そう言い返した幹人であるが、思えば麗は結構凄いことをやっていると気付く。
麗は笑顔で踊っていたわけではあるが、それは可笑しいものを見て反射的に笑ったものではなくパフォーマンスとして魅せるための笑顔だ。
それも今の麗は下着姿で、恥じらう気持ちもあるだろうにダンス中はそれすらも押し殺している。
笑いや羞恥によって表情や体勢を崩すことのない、圧倒的な集中力。あらゆる要素に集中を乱されていた幹人とは大違いだ。
「では今回のスコアを発表します。まず畑山君、3点。まあまあ頑張ってはいましたが、所々動きがぎこちなくなり明らかに手本と違っていました。よって2点減点です。矢島君も同じく3点。こちらは大分疲れが溜まっている様子が見えました」
ただでさえ嫌々踊らされたどじょう掬いを酷評されて、幹人は悔しい思いをする。脱がされてるのは女子だけなのに、どうして自分が一番恥ずかしい思いをさせられているのか理解不能だった。
男子のスコアは同点となり、勝敗は女子に委ねられる。だがこの時点で、誰もが勝敗を察していたのである。
「麗ちゃん、5点満点! さっすが麗ちゃん、無敵すぎだね!」
まずはガッツポーズをする麗。これで最低でも引き分けであり、今回麗が脱ぐことはないことが確定した。
「真世ちゃんは……2点! あれれー? アイドル志望だからこういうのは得意かと思ったのに全然だよぉ?」
「だ、だって疲れてるし……恥ずかしすぎなんですもん! こんなあざとすぎるダンス! しかも下着姿で……」
「その結果ブラだけじゃなくおぱんつまで丸見えになっちゃうねー」
「うぅ……」
「さて、そういうわけで今回は8対5で畑山君&宮田さんペアの勝利です。君島さんは、服を脱いで下さい」
「はいぃ……」
あざといアイドルにはなりきれなかった真世がハーフパンツを下ろすと、白地にピンクの水玉で正面に小さなリボンの付いたキュートなおぱんつがお目見え。まるで先程の振り付けを下着にしたかの如き、あざと可愛い一品だ。ふくよかな腰つきにはなかなか男心をそそられるものがあり、信司は目を奪われる。
(まよさん、肉付きいいな……グラビアとか向いてそう。目指す方向が彩夏ちゃんだから、そういうのは求めていないんだろうけど)
右腕をお腹に当てつつ左手を下腹部に置く真世は、信司にじっと見られていることに気付いてぼっと顔を赤くした。
「あのっ、にょきにょき仮面さん! そっそんなに見ないでください!」
「あっ、ごめん」
「あの、こんなだらしない体、人にお見せできるものではないので……」
「えっ? あ、いや、決してそんなことは……これはこれで、大変魅力的と言いますか……」
「ふぇっ!?」
魅力的と言われた真世は、ますます顔を赤くする。
「さて、では五回戦に参ろうと思いますが……」
と、そこでルシファーが進行を促す。
「皆さんお疲れのようなので、小休止と致しましょう」
ルシファーとリリムを含む全員の前に、スポーツドリンク入りのペットボトルがポンと現れた。
「ごく普通の市販のスポーツドリンクですので、どうぞ遠慮なくお飲み下さい」
ルシファーがそう言うより先に、真世は蓋を開けて飲み始めた。そこから一人一人、ペットボトルに口を付けてゆく。
「では、休憩をしつつ五回戦以降の追加ルールについて説明致しましょう。五回戦からは、ダンスの最後に行う決めポーズを完璧に再現することでプラス5点のボーナスが入ります。完璧か否かの判定は厳しめとなっており、細かい部分までの正確な再現が求められます。完璧ではないものの通常のダンスパートでセーフになる程度なら、マイナスはありませんがボーナスもありません」
毎度恒例の、半分辺りで行われるルール変更。四人はスポーツドリンクを飲みつつ、静かに聴いていた。
「決めポーズさえ完璧ならば、ダンススキルで劣る側にも逆転のチャンスがあるわけです。皆さん頑張って下さい。さて、では改めて五回戦に参りましょう。皆さん準備は宜しいですね? 次で負けたら、いよいよ下着を脱ぐこととなります」
「おい待てよ」
「質問ですか、畑山君」
突然幹人から呼び止められ、ルシファーはそちらを見る。
「いい加減ふざけた踊りはやめようぜ。せっかくのダンスバトルなんだ、技術の必要なカッコいいダンスで勝負をつけないか。それとも何か? あんたはそういうダンスを踊れないからああいうトンチキな踊りで茶を濁してるのか?」
「ちょっと幹人!」
麗が幹人の失礼な態度を注意するも、幹人は知らんぷり。幹人に煽られたルシファーは、真顔のまま考え込むような仕草をした。
「……なるほど、格好いいダンスをご所望ですか。分かりました」
そう言い終えた瞬間に鳴り出すパーカッション。瞬間、空気が変わった。
長い手足をダイナミックに振り、クールに、スタイリッシュに、それでいて繊細に、銀髪美形の黒翼天使は鮮烈に舞う。
その一挙一動が心を震わせ、誰もが瞬きすら惜しむほどに目を奪われる。この場の全てを魅了する五秒間のラストに、ルシファーは右手を伸ばし少し身体を捻って立つスタイリッシュな決めポーズ。そして同時に、二枚の黒翼を大きく広げて無数の羽根を舞い散らせた。
黒い雪のように羽根が降るダンスホースは、パーカッションが鳴り終えても暫く沈黙が続いた。
はっと気が付いた麗は、思わず拍手を贈る。
ルシファーは腕を下ろして翼を畳み、通常の立ち姿勢に戻った。
「えー、こちらが今回の男子の手本となります。なお、最後の翼についてはノリでやったものなので、皆さんは真似できなくて問題ありません」
ダンス中に踏んだら危ないので、散らばった無数の羽根はすっと消える。
ルシファーを煽った幹人は、あんぐりと口を開けるばかりであった。
(あっやべぇ、俺の百倍上手え……)
対してその幹人の正面に立つ麗は、全身を疼かせて目を輝かせる。
(凄い凄い凄い! あたしもあんなダンス踊りたいっ!!!)
だけども麗は、ふとこのゲームのルールを思い出したのである。
「あっ、ごめん凛々夢、あたしそっち見てなかった!」
「あ、ボクも先生の方見ててお手本踊ってなかった」
フッ、とルシファーの笑い声。
「ではこうしましょう。今回は男女とも先程の私のダンスが手本ということで」
「えぇ……」
真世の驚嘆の声が漏れる。信司も元より踊れる気がしないと諦めの表情で、煽った結果恥の上乗りを喰らわされた幹人に到っては頭が真っ白になって何も考えられなくなる始末。
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