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第三章
第80話 葉山姉妹とダブルデート
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綿環市内の繁華街。彫刻を目印にした広場で、男子高校生が二人スマホを手に恋人が来るのを待っていた。
一人は伊藤琢己、もう一人は木場流斗。共に黒羽崇ことルシファーが担任を務める綿環高校二年B組の生徒である。
デートスポットに男二人で並んで待つ気まずさ。二人の間に会話は無い。
だが流石に気まずさに耐えかねたのか、先に口を開いたのは琢己の方であった。
「あのさ、木場君」
急に話しかけられたので、流斗はびくりと体を震わせた。
「な、何?」
「木場君は、漫画だったらどういうのが好き?」
「え、漫画? えーっと……」
流斗は戸惑いつつも、毎週買っている週刊少年誌に載っている王道バトル漫画のタイトルを二つほど挙げた。
「へぇー、木場君ってそういうのが好きなんだ」
基本的に美少女萌えジャンルを好む琢己は、あまり趣味が合わないと感じた。
(でも、葉山さんもその漫画好きって言ってたな。話題に合わせられるように履修しとくべきか……それに、プロを目指すなら美少女だけじゃなくそういう格好いい絵も描けるようにするべきだし……)
琢己が考え込んでいると、丁度そこで二人を呼ぶ声。
「おーい木場君」
「おはようございます、伊藤先輩」
待ち合わせ場所にやってきたのは派手なファッションとメイクの金髪ギャル姉妹。背が高くてかなり胸が大きい方が姉の千鶴、背も胸もそこそこの方が妹の好美。いずれも夏らしい薄着で、男子としては目のやり場に困る。
今日は千鶴の提案で、姉妹一緒にダブルデートをすることになったのである。
「待ったー?」
「あ、いえ」
暫し退屈な時間を過ごしていた流斗だが、口ではそのことを否定。葉山姉妹の格好を見れば、彼女達がこのデートのために気合を入れて時間をかけた準備をしてきたであろうことは理解できる。それでいてちゃんと指定の時間には間に合っているので、多少待たされたくらいで責めるつもりなど無い。
「何話してたの?」
「……まあ、他愛もない話を」
「じゃあ、そろそろ行こっか」
そう言って千鶴が、流斗の腕を抱き寄せて豊かな胸を押し当てる。何かとスキンシップしたがりな彼女に、流斗はどぎまぎである。
その様子を見ていた好美は、当事者ではない自分まで顔が熱くなってきた。
自分もそういうのが可能なくらいのサイズはあるが、流石に人前で堂々とやる勇気は無い。
「葉山さん」
と、そこで琢己に呼ばれたので好美はドキリ。もしかしてあれと同じことを求められるのでは……と考えたところで、琢己が「あ……」と声を漏らした。
ふと視線を感じて好美が振り返ると、千鶴も琢己の呼びかけに反応してこちらを向いていたのである。
「あ、えっと……」
姉妹だから当然二人とも「葉山さん」だ。自分の恋人だけを呼ぶ手段は知っているが、奥手な琢己はこれまで一度もそれをしたことがなかった。だけども必要性を迫られた今こそ、それに踏み込む好機だ。
「好美、さん」
俯いて人差し指で頬を掻きながら、初めて恋人を名前で呼ぶ。この声を聴いた好美はぽーっと顔を赤くした。
「何ですか、琢己先輩」
こちらも名前で呼ばれて、琢己の心臓が高鳴る。
その様子を見ていた千鶴は、流斗の腕を抱いたまま顔を見た。
「えっ、あ、その……」
どもる流斗をじっと見つめ、何かをアピール。勿論その意図を流斗は読めていた。
「千鶴先輩」
期待に応えてあげると、千鶴はにんまり。
「なーに、流斗君」
流斗からしてみれば「葉山先輩」で元から区別できていたので必要性があるわけではなかったが、彼女に期待された以上はそれに応えるのが男の定め。これには千鶴も大満足であった。
「あの、ところで先輩。周りの視線が痛いんですが……」
陰キャ男子二人とギャル姉妹、傍から見れば不釣り合いなカップル二組はどこか異様な光景で、ましてやそれがこんな濃厚なイチャつきを見せるものだから自然と周囲の人々の注目を集めてしまっていた。
「だいじょぶだいじょぶ。もっと見せつけてあげよーよ」
しかし千鶴はそれを全く気にする様子が無く、実に堂々としている。対して妹の好美は、概ね男子勢に近い反応で顔を赤くしていた。
見た目は姉を真似て派手にしているが、中身は内気なオタク女子。パリピのノリに迎合しきれていないのである。
周囲の視線が刺さる中で出発して、四人が向かった先は大型ショッピングモール。
何を買おうかと暫く見て回っていると、千鶴がふと何かに気付いてそちらに手を振った。
「あっ、桃果。おーい!」
千鶴が見つけたのは、中学からの友人である小林桃果。おだんごヘアーの茶髪で、千鶴ほどではないがなかなかのスタイルの持ち主な三年生の新体操部員である。
その隣にいるのは、三年生の卓球部員である内村小次郎。これまた流斗らと大差ない地味目なルックスで、美少女である桃果と並ぶと落差が激しい。
「ちーちゃん! 奇遇だねー」
こちらに寄ってきた桃果は、千鶴と手を取り合ってきゃいきゃいとはしゃいだ。
「何何? 妹さんとダブルデート?」
「そうなんだよねー。もしかして桃果もデート?」
千鶴がちらっと小次郎の方を見ると、小次郎は挙動不審に目を泳がせた。
「まあ、デートといえばデートなのかなー。コジローの大会出場祝いにねー」
レギュラーとして出場予定だった二年生の山城浩太が臨海学校で何かあったらしくすっかり腑抜けてしまい、補欠の小次郎が繰り上がりで出場となったのである。なお、あくまでも出場祝いであり勝ったとは言っていないのがミソである。
二人の会話を聞いていた流斗は、あの小次郎という先輩にどこか自分と近いものを感じ取った。
「で、どうなの? 今日告られたりとか?」
千鶴が小次郎に聞こえないよう桃果の耳元で尋ねると、桃果は苦笑い。
「どうかなー。今日は大会で惨敗して落ち込んでるコジローの慰めも兼ねてるから、そういう空気じゃなさげなんだよねぇ」
「いっそ桃果から告ったらどうなの」
「いやー……どうせなら彼の方から聞きたいっていうか……」
あちらの気持ちは既にわかっていて、後はいつ告白されるかという段階。だけどそれがなかなか来ず、桃果はもどかしい日々を送っていたのである。
好きな人とのデートにも関わらず浮かない顔をしている小次郎の胸中は、不甲斐ない自分への嫌悪。
今から二年前、綿環高校に入学した小次郎は同じクラスで桃果と出会った。初めは可愛いくて胸大きい子だなと思う程度であったが、程なくして決定的に落ちた出来事があった。
小次郎がトイレから教室に戻ってくると、桃果が小次郎の机に腰を下ろして小次郎の前の席の女子と話していたのである。
小次郎はぎょっとした。特に仲が良いわけでもない男子の机に堂々と尻を乗せる大胆さ。それでいてその机の主が戻ってきても降りようとする様子が無い。
こういう陽キャ女子との会話に慣れていない小次郎は声をかけることに躊躇っていたが、すると小次郎の存在に気付いた桃果が明るい調子で言った。
「あ、私に構わず座っていーよー」
そうは言われたものの、そこで自分の椅子に腰を下ろせば目の前にあるのは桃果のお尻。良いとは言われたものの、衆人環視の中、下心を持って堂々とそれを眺める度胸はこの陰キャには無かった。
(からかわれてるのか、これは)
暫くオロオロしていたが、ここで逃げればかえって負けた気にさせられると感じた小次郎は意を決して椅子に座った。小次郎の眼前には、まだ卸したてのプリーツスカートに包まれた大きなお尻。眼福でありつつも目のやり場に困る光景だ。今夜のオカズを確定させつつ、その場で勃ち上がってしまい立ち上がれなくなった小次郎である。
モテない男子をからかって遊んでいることはわかっていても、こんなことをされれば恋してしまうのが悲しき男の性。我ながらチョロいと自嘲した。
そんな中、目の前で尻を揺らしながらテンション高く話す桃果はどんな男子がタイプかの話題を始めた。小次郎からしてみれば、大変気になる話だ。
「私はねー、やっぱスポーツ頑張ってる人だなー」
が、直後に桃果がそう答えたことで小次郎の玉砕は確定した。何せ小次郎は極度の運動音痴。彼女の好みとは、正反対と言っていいのである。
(ああ……所詮こんなものだよな)
好きになった直後に失恋。なんて無様だと自嘲していた小次郎だが、女子達はそんなこと気にも留めず会話を続ける。いつの間にか話題は入りたい部活のことに変わっていた。
「そういや桃果は新体操部入るんだっけ」
「勿論だよー」
以前教室内で聞いた話によれば桃果は幼い頃から新体操をやっており、この高校に来たのも新体操部が強いからだとのこと。それならば当然自分と同じような運動部の男子を好きになるのが自然な話だ。
まだ好きになって日が浅いのだから傷も浅い、さっさと切り替えよう――等と小次郎が考えたところで、ふと思い立ったことがある。
(そうだ、俺も運動部に入ろう。せっかく高校生になったんだ、ここで変わらなくてどうする。運動音痴を克服して、小林さんに相応しい男になろう)
突発的な決意を胸に、卓球部の門を叩いた小次郎。運動部の中では比較的陰キャにも優しい卓球部であるが、入部してやってきたのは自分が想像以上に出来ないという厳しい現実。同じ卓球初心者の新入部員を含む部の中の誰よりもヘタクソで、練習を積んでも上達が実感できないまま恥ずかしさと情けなさだけが蓄積されてゆく。
部活は辛いばかりだったが、だがそれはそれとして教室での日々は充実していた。
桃果は普段からスカートを短くしていてぴょんぴょん跳ねるため、頻繁にパンチラを拝ませてくれる。色はピンクや白であることが多いようだ。そして体操着に着替えたら、今度はぽよんぽよんと胸を揺らしてくれるのである。
女友達からそれを指摘された本人が言うには、男子の視線は別に気にならないそうだ。こんな子と同じクラスで過ごせるというのは、思春期の男子にとっては好都合この上ない。小次郎に限らず、少なくない男子が桃果をオカズにしていたことだろう。
しかも桃果は今は部活が恋人だそうで、これまで一度も彼氏がいたことはないのだと言う。それでいて好みのタイプがはっきりしているということは、それに見合った相手が現れさえすれば将来的に彼氏を作る気はあるということだ。少なくない男子が、桃果との交際を狙っている。小次郎のライバルは多いのである。
そしてその桃果と小次郎の関係はといえば。
「ねぇねぇコジロー」
いつの間にか、小次郎は桃果から下の名前で呼ばれるようになっていた。尤も桃果は基本誰に対しても分け隔てなく話しかけ、馴れ馴れしくあだ名や下の名前で呼んでくるので決して小次郎が特別なわけではない。だがそれが結果として多くの男子を勘違いさせており、小次郎自身も自分がその一人であることは自覚していた。
そして彼女の用事はといえば。
「今度の中間試験のためにさ、勉強教えてくんない? コジローって勉強はできるんでしょ? お礼に何か驕るから!」
手を合わせて懇願する桃果。こんな降って沸いたチャンス、小次郎に断る理由は無かった。
そうして次第に中を深めていった二人。あれから二年が経った今では、こうしてデートと呼べる行為ができる程度には仲良くなった。
しかし未だ、小次郎がその気持ちを伝えることはない。降って沸いた幸運により出場権を得たこの夏の大会は、自分が未だ桃果に相応しい男には微塵も近づけていない現実を見せつけられる結果となった。
二年経っても未だ足踏みを続け、このまま卒業まで何も進展が無いのではないか――小次郎桃果双方が、その可能性を危惧していたのである。
桃果達と別れた四人が向かったのは、書店やアニメ系のグッズショップが並ぶエリア。この地域でオタ活をしている人にはお馴染みの場所である。
「あ、そうだ。いいこと思い付いた!」
そこで突然、千鶴が挙手して提案。
「ここで女子組と男子組に分かれて、それぞれ自分の彼氏彼女へのプレゼントを選んで、後でここに集合して贈り合うってのはどう?」
「え?」
突発的な提案に、一同は首をかしげる。
「何お姉ちゃん、せっかくのダブルデートなのに別行動なの? それもその組み合わせで」
「ほら、彼氏彼女に何贈ったら喜ばれるかとか、男の子同士女の子同士で相談し合ったりするのも楽しそうでしょ?」
千鶴がそう言うと、流斗と琢己は顔を見合わせた。千鶴は好美に耳打ちする。
「流斗君の友達作りの一環だよ。これをきっかけに伊藤君と仲良くなれたら最高でしょ? 将来的な親戚付き合いのことも考えて、ね」
「な、なるほど」
将来的な親戚付き合い、という言葉の意味を理解して好美は頬を染めた。
一人は伊藤琢己、もう一人は木場流斗。共に黒羽崇ことルシファーが担任を務める綿環高校二年B組の生徒である。
デートスポットに男二人で並んで待つ気まずさ。二人の間に会話は無い。
だが流石に気まずさに耐えかねたのか、先に口を開いたのは琢己の方であった。
「あのさ、木場君」
急に話しかけられたので、流斗はびくりと体を震わせた。
「な、何?」
「木場君は、漫画だったらどういうのが好き?」
「え、漫画? えーっと……」
流斗は戸惑いつつも、毎週買っている週刊少年誌に載っている王道バトル漫画のタイトルを二つほど挙げた。
「へぇー、木場君ってそういうのが好きなんだ」
基本的に美少女萌えジャンルを好む琢己は、あまり趣味が合わないと感じた。
(でも、葉山さんもその漫画好きって言ってたな。話題に合わせられるように履修しとくべきか……それに、プロを目指すなら美少女だけじゃなくそういう格好いい絵も描けるようにするべきだし……)
琢己が考え込んでいると、丁度そこで二人を呼ぶ声。
「おーい木場君」
「おはようございます、伊藤先輩」
待ち合わせ場所にやってきたのは派手なファッションとメイクの金髪ギャル姉妹。背が高くてかなり胸が大きい方が姉の千鶴、背も胸もそこそこの方が妹の好美。いずれも夏らしい薄着で、男子としては目のやり場に困る。
今日は千鶴の提案で、姉妹一緒にダブルデートをすることになったのである。
「待ったー?」
「あ、いえ」
暫し退屈な時間を過ごしていた流斗だが、口ではそのことを否定。葉山姉妹の格好を見れば、彼女達がこのデートのために気合を入れて時間をかけた準備をしてきたであろうことは理解できる。それでいてちゃんと指定の時間には間に合っているので、多少待たされたくらいで責めるつもりなど無い。
「何話してたの?」
「……まあ、他愛もない話を」
「じゃあ、そろそろ行こっか」
そう言って千鶴が、流斗の腕を抱き寄せて豊かな胸を押し当てる。何かとスキンシップしたがりな彼女に、流斗はどぎまぎである。
その様子を見ていた好美は、当事者ではない自分まで顔が熱くなってきた。
自分もそういうのが可能なくらいのサイズはあるが、流石に人前で堂々とやる勇気は無い。
「葉山さん」
と、そこで琢己に呼ばれたので好美はドキリ。もしかしてあれと同じことを求められるのでは……と考えたところで、琢己が「あ……」と声を漏らした。
ふと視線を感じて好美が振り返ると、千鶴も琢己の呼びかけに反応してこちらを向いていたのである。
「あ、えっと……」
姉妹だから当然二人とも「葉山さん」だ。自分の恋人だけを呼ぶ手段は知っているが、奥手な琢己はこれまで一度もそれをしたことがなかった。だけども必要性を迫られた今こそ、それに踏み込む好機だ。
「好美、さん」
俯いて人差し指で頬を掻きながら、初めて恋人を名前で呼ぶ。この声を聴いた好美はぽーっと顔を赤くした。
「何ですか、琢己先輩」
こちらも名前で呼ばれて、琢己の心臓が高鳴る。
その様子を見ていた千鶴は、流斗の腕を抱いたまま顔を見た。
「えっ、あ、その……」
どもる流斗をじっと見つめ、何かをアピール。勿論その意図を流斗は読めていた。
「千鶴先輩」
期待に応えてあげると、千鶴はにんまり。
「なーに、流斗君」
流斗からしてみれば「葉山先輩」で元から区別できていたので必要性があるわけではなかったが、彼女に期待された以上はそれに応えるのが男の定め。これには千鶴も大満足であった。
「あの、ところで先輩。周りの視線が痛いんですが……」
陰キャ男子二人とギャル姉妹、傍から見れば不釣り合いなカップル二組はどこか異様な光景で、ましてやそれがこんな濃厚なイチャつきを見せるものだから自然と周囲の人々の注目を集めてしまっていた。
「だいじょぶだいじょぶ。もっと見せつけてあげよーよ」
しかし千鶴はそれを全く気にする様子が無く、実に堂々としている。対して妹の好美は、概ね男子勢に近い反応で顔を赤くしていた。
見た目は姉を真似て派手にしているが、中身は内気なオタク女子。パリピのノリに迎合しきれていないのである。
周囲の視線が刺さる中で出発して、四人が向かった先は大型ショッピングモール。
何を買おうかと暫く見て回っていると、千鶴がふと何かに気付いてそちらに手を振った。
「あっ、桃果。おーい!」
千鶴が見つけたのは、中学からの友人である小林桃果。おだんごヘアーの茶髪で、千鶴ほどではないがなかなかのスタイルの持ち主な三年生の新体操部員である。
その隣にいるのは、三年生の卓球部員である内村小次郎。これまた流斗らと大差ない地味目なルックスで、美少女である桃果と並ぶと落差が激しい。
「ちーちゃん! 奇遇だねー」
こちらに寄ってきた桃果は、千鶴と手を取り合ってきゃいきゃいとはしゃいだ。
「何何? 妹さんとダブルデート?」
「そうなんだよねー。もしかして桃果もデート?」
千鶴がちらっと小次郎の方を見ると、小次郎は挙動不審に目を泳がせた。
「まあ、デートといえばデートなのかなー。コジローの大会出場祝いにねー」
レギュラーとして出場予定だった二年生の山城浩太が臨海学校で何かあったらしくすっかり腑抜けてしまい、補欠の小次郎が繰り上がりで出場となったのである。なお、あくまでも出場祝いであり勝ったとは言っていないのがミソである。
二人の会話を聞いていた流斗は、あの小次郎という先輩にどこか自分と近いものを感じ取った。
「で、どうなの? 今日告られたりとか?」
千鶴が小次郎に聞こえないよう桃果の耳元で尋ねると、桃果は苦笑い。
「どうかなー。今日は大会で惨敗して落ち込んでるコジローの慰めも兼ねてるから、そういう空気じゃなさげなんだよねぇ」
「いっそ桃果から告ったらどうなの」
「いやー……どうせなら彼の方から聞きたいっていうか……」
あちらの気持ちは既にわかっていて、後はいつ告白されるかという段階。だけどそれがなかなか来ず、桃果はもどかしい日々を送っていたのである。
好きな人とのデートにも関わらず浮かない顔をしている小次郎の胸中は、不甲斐ない自分への嫌悪。
今から二年前、綿環高校に入学した小次郎は同じクラスで桃果と出会った。初めは可愛いくて胸大きい子だなと思う程度であったが、程なくして決定的に落ちた出来事があった。
小次郎がトイレから教室に戻ってくると、桃果が小次郎の机に腰を下ろして小次郎の前の席の女子と話していたのである。
小次郎はぎょっとした。特に仲が良いわけでもない男子の机に堂々と尻を乗せる大胆さ。それでいてその机の主が戻ってきても降りようとする様子が無い。
こういう陽キャ女子との会話に慣れていない小次郎は声をかけることに躊躇っていたが、すると小次郎の存在に気付いた桃果が明るい調子で言った。
「あ、私に構わず座っていーよー」
そうは言われたものの、そこで自分の椅子に腰を下ろせば目の前にあるのは桃果のお尻。良いとは言われたものの、衆人環視の中、下心を持って堂々とそれを眺める度胸はこの陰キャには無かった。
(からかわれてるのか、これは)
暫くオロオロしていたが、ここで逃げればかえって負けた気にさせられると感じた小次郎は意を決して椅子に座った。小次郎の眼前には、まだ卸したてのプリーツスカートに包まれた大きなお尻。眼福でありつつも目のやり場に困る光景だ。今夜のオカズを確定させつつ、その場で勃ち上がってしまい立ち上がれなくなった小次郎である。
モテない男子をからかって遊んでいることはわかっていても、こんなことをされれば恋してしまうのが悲しき男の性。我ながらチョロいと自嘲した。
そんな中、目の前で尻を揺らしながらテンション高く話す桃果はどんな男子がタイプかの話題を始めた。小次郎からしてみれば、大変気になる話だ。
「私はねー、やっぱスポーツ頑張ってる人だなー」
が、直後に桃果がそう答えたことで小次郎の玉砕は確定した。何せ小次郎は極度の運動音痴。彼女の好みとは、正反対と言っていいのである。
(ああ……所詮こんなものだよな)
好きになった直後に失恋。なんて無様だと自嘲していた小次郎だが、女子達はそんなこと気にも留めず会話を続ける。いつの間にか話題は入りたい部活のことに変わっていた。
「そういや桃果は新体操部入るんだっけ」
「勿論だよー」
以前教室内で聞いた話によれば桃果は幼い頃から新体操をやっており、この高校に来たのも新体操部が強いからだとのこと。それならば当然自分と同じような運動部の男子を好きになるのが自然な話だ。
まだ好きになって日が浅いのだから傷も浅い、さっさと切り替えよう――等と小次郎が考えたところで、ふと思い立ったことがある。
(そうだ、俺も運動部に入ろう。せっかく高校生になったんだ、ここで変わらなくてどうする。運動音痴を克服して、小林さんに相応しい男になろう)
突発的な決意を胸に、卓球部の門を叩いた小次郎。運動部の中では比較的陰キャにも優しい卓球部であるが、入部してやってきたのは自分が想像以上に出来ないという厳しい現実。同じ卓球初心者の新入部員を含む部の中の誰よりもヘタクソで、練習を積んでも上達が実感できないまま恥ずかしさと情けなさだけが蓄積されてゆく。
部活は辛いばかりだったが、だがそれはそれとして教室での日々は充実していた。
桃果は普段からスカートを短くしていてぴょんぴょん跳ねるため、頻繁にパンチラを拝ませてくれる。色はピンクや白であることが多いようだ。そして体操着に着替えたら、今度はぽよんぽよんと胸を揺らしてくれるのである。
女友達からそれを指摘された本人が言うには、男子の視線は別に気にならないそうだ。こんな子と同じクラスで過ごせるというのは、思春期の男子にとっては好都合この上ない。小次郎に限らず、少なくない男子が桃果をオカズにしていたことだろう。
しかも桃果は今は部活が恋人だそうで、これまで一度も彼氏がいたことはないのだと言う。それでいて好みのタイプがはっきりしているということは、それに見合った相手が現れさえすれば将来的に彼氏を作る気はあるということだ。少なくない男子が、桃果との交際を狙っている。小次郎のライバルは多いのである。
そしてその桃果と小次郎の関係はといえば。
「ねぇねぇコジロー」
いつの間にか、小次郎は桃果から下の名前で呼ばれるようになっていた。尤も桃果は基本誰に対しても分け隔てなく話しかけ、馴れ馴れしくあだ名や下の名前で呼んでくるので決して小次郎が特別なわけではない。だがそれが結果として多くの男子を勘違いさせており、小次郎自身も自分がその一人であることは自覚していた。
そして彼女の用事はといえば。
「今度の中間試験のためにさ、勉強教えてくんない? コジローって勉強はできるんでしょ? お礼に何か驕るから!」
手を合わせて懇願する桃果。こんな降って沸いたチャンス、小次郎に断る理由は無かった。
そうして次第に中を深めていった二人。あれから二年が経った今では、こうしてデートと呼べる行為ができる程度には仲良くなった。
しかし未だ、小次郎がその気持ちを伝えることはない。降って沸いた幸運により出場権を得たこの夏の大会は、自分が未だ桃果に相応しい男には微塵も近づけていない現実を見せつけられる結果となった。
二年経っても未だ足踏みを続け、このまま卒業まで何も進展が無いのではないか――小次郎桃果双方が、その可能性を危惧していたのである。
桃果達と別れた四人が向かったのは、書店やアニメ系のグッズショップが並ぶエリア。この地域でオタ活をしている人にはお馴染みの場所である。
「あ、そうだ。いいこと思い付いた!」
そこで突然、千鶴が挙手して提案。
「ここで女子組と男子組に分かれて、それぞれ自分の彼氏彼女へのプレゼントを選んで、後でここに集合して贈り合うってのはどう?」
「え?」
突発的な提案に、一同は首をかしげる。
「何お姉ちゃん、せっかくのダブルデートなのに別行動なの? それもその組み合わせで」
「ほら、彼氏彼女に何贈ったら喜ばれるかとか、男の子同士女の子同士で相談し合ったりするのも楽しそうでしょ?」
千鶴がそう言うと、流斗と琢己は顔を見合わせた。千鶴は好美に耳打ちする。
「流斗君の友達作りの一環だよ。これをきっかけに伊藤君と仲良くなれたら最高でしょ? 将来的な親戚付き合いのことも考えて、ね」
「な、なるほど」
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