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第三章

第78話 叩いて被ってジャンケンカードバトル・3

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「え、あ……」

 怯えながら、助けてと懇願するように千里の袖を掴む櫻。だけども千里は、それを鼻で笑って突き放した。

「さあ、脱ごうか櫻。早く終わらせるには君が脱ぐしかないよ」

 頭をぽんぽんと撫でて諭す姿は一見優しげに見えて、言っていることは鬼畜そのものだ。その様子に一輝は不快感を覚えつつ、櫻の脱ぐ姿を見ないよう努めるべく視線を逸らした。
 櫻がやむなくロングスカートを下ろすと、その下から現れたのは肉付きの良い太腿。清楚で大人しい印象から一転した、しなやかながらも逞しい新体操選手の脚である。
 艶やかながらも上品な色気を醸し出す黒レースのショーツは、お尻が殆ど丸出しのTバック状。一輝の方には、とても背中を向けられない。
 そして今回はあいこが一回あったため、ブラジャーも脱がなければならない。もじもじと躊躇っている櫻に、千里はねっとりとした視線を送った。その妖しい瞳に見つめられただけで、櫻はびくりと身体を揺らす。

「わかりました……脱ぎます……でもせめて、柊君には見えないように隠していて下さい……」

 櫻を暫し見つめていた千里は、やがて頷き懇願を承諾。机と櫻の間に入るようにして、大きな背中で櫻の裸体を一輝の視線から覆い隠した。
 一先ず安全を確認すると、櫻は周囲に視線を配りながらブラを外し始める。桜色の先っぽが姿を現すと、櫻は恥ずかしさに耐えかねてぎゅっと千里に抱きついた。


「さて、服も脱ぎ終えたことですし、次のターンに参りましょう。両者、捨て札が山札となります」

 ルシファーがそう言うと、捨て札の束が独りでに動きだしてひっくり返り、それぞれの残った山札の下に移動した。
 利乃はまた左腕で胸を隠しながらカードを三枚引くが、櫻は千里に抱きついたまま動かない。

「ほら櫻、早く始めないと。君がカード引かないとゲームが終わらないよ」

 千里の言葉に対し、櫻は千里の胸に顔をうずめたまま首を横に振った。
 すると千里は、櫻を突き放すように肩を掴んでその身から引き剥がす。そして潤んだ瞳で見上げてくる櫻の顎に指をかけると、その唇に喰らいついた。
 突然の出来事に櫻が目を丸くしていると、千里は櫻の口内に舌を突っ込んで絡めた。耐えられなくなった櫻の甘い声が漏れる。
 静かなカジノに響く生々しい音。千里の背中の後ろで行われている出来事を想像して、一輝は顔を赤くした。そしてはっとし、利乃の両目を掌で覆う。

「お兄ちゃん何で隠すの」
「お前にはまだ早い!」
「キスしてることくらい利乃にもわかるよ。ていうか利乃達もしてるでしょ?」
「いや、あれは……」

 自分達もまだしていない大人のキスだということを、利乃はわかっているのだろうか。しかも千里は左手をいつの間にか櫻の背中側に回しており、どうやら位置的に尻を触っているように見える。こんな光景、中学生にはとてもとても見せられない。


 櫻の柔らかいお尻を揉みしだきながら同じく柔らかい唇を長く長く堪能していた千里は、櫻が苦しそうな声を漏らしたところでようやく唇を離した。足元がおぼつかなくなった櫻を左腕で支えたかと思うと、今度は耳たぶに甘噛みをする。そして耳元で、ひっそりと囁くのだ。

「安心しなよ櫻。俺の着せた下着は、これ以上脱がさせやしないから」



 御門千里はその大変恵まれたルックスに加え、頭が切れて運動神経も良く、それでいて裕福な家庭の生まれ。幼い頃から周りに女子がいない時期が無かった。
 中学に入る頃にはモテる男の当然の権利として、自分を好いてくる女子を食い散らかすようになった。中には弄ばれたことに憤る女子もいたが、金の力で黙らせた。
 父親のコネで富岡コーポレーションに就職してからは、その才覚を早くも発揮して社内で頭角を現した。だが優秀であるということはその分任せられる仕事が増えるということであり、何事も完璧にこなすが故にあれこれ押し付けられて常に仕事に追われる日々を過ごしていたのである。
 この頃になると、昔から常習していた女遊びは仕事のストレスを解消する手段になっていた。セックスをしている時は仕事のことを忘れられ、女性を物のようにぞんざいに扱うことで行き場のない負の感情を晴らしていた。

 およそ一年前の、新年度が始まる少し前頃。千里は社長室に呼び出されていた。

「君を呼んだのは他でもない。私の娘、櫻のことだ」
(社長の娘? 手を出した覚えはないぞ。そもそも確かまだ中学生くらいだったろ?)

 一体どんな厄介仕事を押し付けられるのかと思ったら、急にわけのわからないことを言われて千里は困惑した。

「櫻は四月から高校に上がるのだが、そこで困ったことがあってな。幼稚園からずっと通っていたセントカラリヲ女学院の高等部に内部進学せず、どことも知らん公立の共学に勝手に進学したのだ」
「社長、県立綿環高校です」

 秘書が指摘する。

「新体操部の強い学校で、櫻お嬢様の敬愛する一つ年上の選手がそこの新体操部に所属しているためそちらの学校を選ばれました」
「櫻が共学なぞに行けば、男子どもが放っておくはずがない。だから悪い虫が付く前に信頼の置ける男に預けようと思ってな。そうしたら御門専務から君を薦められたのだ」
(親父の差し金か……)
「わが社において、君ほど仕事のできる男は他にいない。君ならば安心して櫻を任せられると思ってな」
(このオッサンの目は節穴か? どう考えても俺は悪い虫の側だろうに。男女交際に関して俺ほど信頼の置けない男もそうそういないっての)

 千里は心の中で社長を嘲るが、そんなことは露知らず社長は話を続ける。

「そういうわけで君には櫻の許婚になって貰いたい。明日私の家に来なさい。櫻も交えて改めて話をしよう」
(親父め……とんでもないもん俺に押し付けやがって)

 父の思惑はすぐに解った。社長令嬢という立場の強い女性を婚約者の立場に置くことで、千里の女遊びを抑制させようという魂胆だ。

「……畏まりました」

 どんな厄介仕事よりも面倒な話だが社長命令とあってははっきりと断れず、本音を表に出すことなく承諾。翌日社長宅を訪ねることとなったのである。

(親馬鹿拗らせた過保護系毒親に人生振り回されて、親の決めた男と結婚させられる……お嬢さんも可哀想に)

 そんな風に哀れみながら千里は櫻を顔を合わせた。お見合い用に誂えたと思わしきドレス姿で千里を出迎えた櫻は初め浮かない顔をしていたものの、千里の顔を見た途端雷に打たれたように目を見開き、口元に手を当て瞳を揺らしていた。
 千里にとって富岡櫻という人物の認識は、幼い子供そのものであった。彼女が生まれた時から知っているし、遊び相手もよくしてあげていた。勿論性的な意味でではなく、本来の意味で。
 彼女の成長過程はずっと見てきたが、八つも歳が離れている分いつまで経っても幼子という印象が抜けず性欲の対象とは見られなかった。
 改めてこうして彼女を見てみると、まさに大和撫子という言葉が相応しい清楚で上品な美少女だ。中学を卒業したばかりでまだあどけなさが抜けていないが、間違いなくその場にいるだけで人目を引く可憐な立ち姿。ロリ嗜好を持たない大人の目から見ても十分すぎるほどの上物だと、千里は感じた。

(気付かない間に随分と……案外意識して見ないと変化ってのはわからないものだ)

 少なくとも千里から見て、未来の花嫁は好感触。だが果たして、櫻から見た千里はどうか。

「やあ櫻お嬢さん。話は社長から聞いてると思うけど、俺が君の許婚になることになったみたいで……」
「本当に……千里さんなのですか……?」
「ええ、どういうわけか俺がなっちゃったみたいで」

 目の前の出来事を信じられないとでも言わんばかりの震えた声で尋ねる櫻に、千里は遜った調子で答えた。すると櫻は顔を真っ赤にし、あわあわと高揚しているようにも取り乱しているようにも見える焦りよう。

「う、嬉しいですっ! いつかこんな日が来ることを夢見ていましたっ。これからよろしくお願いしますっ、千里さん!」

 普段落ち着いていてはきはきと喋る櫻だが、珍しくしどろもどろになって声が裏返っている。まるで餌を見せられた飼い犬のような喜びように、千里は逆に気圧されてしまった。
 正直な所、彼女の気持ちには薄々勘付いていた。こちらからは性欲の対象にならないため気付かないふりをしていたに過ぎない。いざこうして気持ちを明確化されても、やっぱりかという感覚が強かった。


 許婚となることを互いに承諾したら、後は若い二人に任せてとばかりに二人きりで街に出てデートとなった。
 ドレス姿から一転、中高生らしい清楚なデートファッションに着替えた櫻と共に、千里は昼間の街を散策する。千里にとってデートとは大概夜にするものであり、こういう中高生のような健全なデートはある意味新鮮であった。
 だけどもそれで済ます気など微塵も無いのがこの男である。許婚ができた以上はもう女遊びはできないのだ、ストレス解消を兼ねた性欲処理は許婚にやって貰わねば困る。
 監視の追手を撒いて櫻を自宅に連れ込んだ千里は、あれよあれよという間に裸に剥いて美味しく頂いたのである。

(処女食うのも暫くぶりだが……ましてやJKとやるなんて俺自身が高校生だった頃以来か? ああ、まだ三月だから一応卒業済みとはいえこいつギリギリJCか)

 行為が終わった後、服も着ぬまま息を荒くしてベッドに横たわる櫻を見た千里は、改めてとんでもない歳の子と身体を交えてしまったことを認識した。

(こんな子供をこんなクズ男によこすなんて、俺の親父もこいつの父親もどうかしてる)

 嫌に冷静なのは、俗に言う賢者タイム故にであることは自覚できていた。だがそれでも、彼女に対して憐れむ気持ちは本物であった。
 だがそれはそれとして、先程した行為に大変興奮したこともまた事実。初心で可愛らしい反応を沢山見せてくれて、男の本能を激しく刺激させられた。純粋無垢な処女を己の手で穢し、快楽に溺れさせることの背徳感。ここ最近股の緩い女とばかりしていたため、実に久しい感覚だった。

(最初はどうなることかと思ったが、これは暫く退屈しなさそうだ)

 彼女に対する好感触を示すように千里がそっと手を伸ばし頬を撫でると、櫻はか細い声で返事をした。


 そうして千里と櫻は、その後も表向きには恋人関係として交際を続けていった。
 上に対するアピールとしてごくごく普通のカップルのようにデートすることもあったが、基本千里は櫻のことを性奴隷として見ていた。
 千里が初めて櫻に贈ったプレゼントは、この歳の少女が着るには大人っぽすぎるセクシーランジェリーであった。千里からしてみれば自分の色に染めるため自分好みの下着を着せてやったに過ぎなかったが、櫻はこれを大層喜んだ。
 櫻とのセックスは、期待通り千里を大変満足させるものであった。支配欲をくすぐる初々しい反応や従順さもさることながら、体幹バランスと柔軟性に優れどんな体位もこなし、スタミナもあるので連戦や長期戦にも耐えられる身体能力は実に素晴らしい。それでいて教えたことをすぐに覚えて千里の希望通りに実践してくれる。気付いた頃には、百戦錬磨の千里をして「彼女ほど夜伽の相手として素晴らしい女性はいないのではないか」と思わせるほどの床上手に成長していた。
 間違いなく自分は櫻を気に入っている。千里がそれを自覚するのに、そう時間はかからなかった。だけどあくまでも性奴隷で、あくまでも上から押し付けられた許婚。あくまでもただ、セックスしていて気持ち良いだけの存在。それ以上の特別な感情は無いと、自分に言い聞かせた。

 だけど気付けば、いつしか彼女の存在そのものが、自分にとっての癒しとなっていた。身体を重ねずとも彼女の顔を見ただけで仕事の疲れが吹き飛んだり、性的な触れ合いも無く二人で過ごす穏やかな時間が無性に心地良く感じたり、貰ったプレゼントを並べて眺めてみたくなったり、残業中会いたい寂しさに苛まれたり、特に理由も無く抱きしめたくなったり、ふとした拍子にどうしたら喜ばせられるかを考えてしまったり――月日を重ねるごとに櫻への感情が高まってゆくのを自覚しては、それを必死に自分で否定した。
 それでも考えれば考えるほど否定しきれず、愛しい想いが頭を悩ませる。大人びているように見えて時折見せる歳相応の無邪気な笑顔が可愛らしく、好きなことに一生懸命打ち込む努力家な姿には応援したい気持ちにさせられ、自分が下心を持ってしたことの一つ一つに疑いを持たず喜んでくれる純粋無垢さには、胸の痛みを感じさせられた。清らかな乙女を墜としていたつもりが、落ちていたのは自分自身の方だったのだ。

 そしてそれを自覚したら、次にやってくるのは不安と焦燥感だった。櫻は大人しいようで、案外と親への反発心が強い子だ。親に決められた学校を辞めて自分の行きたい学校に進んだし、多才こそ是として親に沢山されられていた習い事は特別好きな一部以外辞めてしまった。今でこそ恋は盲目で千里を慕ってくれているが、いずれは親に押し付けられた許婚として千里を捨てる日が来るかもしれない。ましてや千里の過去の所業を知れば、一気に目が覚めて拒絶してくるかもしれない。
 想像しただけで絶望感に暮れ、心が折れそうになる。自分に遊び捨てられた女性達もこんな気持ちだったのかと、後悔の念が押し寄せてきた。

(俺のような人間の屑に、人を愛する資格なんて……)

 千里の選んだ道は、自己防衛だった。彼女を愛していることをひた隠しにして、性欲処理の道具としてぞんざいに扱い続ける。自分は彼女のことなど何とも思っていない。だから捨てられたって何も悲しくなんかない。そう自分に言い聞かせながら、これまでと変わらぬ態度をとり続けてきたのである。


 そして今、謎の理不尽な状況で愛しの彼女が脱がされていた。
 あと一枚。最後の一枚を脱がされれば、千里だけしか知らぬ櫻の秘め処が他の男の目に晒される。

「さあ、ゲームを続けましょう。富岡櫻さん、手札が五枚になるようにカードを引いて下さい」

 ルシファーが進行を促す。櫻が両胸を掌で覆ったのを確認すると、千里は櫻を自分の身から離した。櫻はしゃがみ込んで裸体を机の影に隠しながらカードを引いた。
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