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第三章
第76話 叩いて被ってジャンケンカードバトル・1 ~清純お嬢様VS義理の妹~
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「利乃、とにかく早く勝ってこのわけのわからない状況から脱出しよう!」
一輝の言葉に、利乃は頷く。困惑の中、早速始まった脱衣ゲーム。女子二人は、ルールに則ってそれぞれの山札からカードを五枚引いた。
(こういうゲームは得意中の得意なんだ。負ける気がしねえ)
戸惑っている一輝とは対照的に、千里は余裕の笑みを浮かべていた。
「では、最初の一ターン目は相手に手札を公開して下さい」
ルシファーの指示に従って、櫻と利乃は手札の表面を相手の側に向けた。
櫻の手札はヘルメット、チョキ、グー、ハンマー、グー。利乃の手札はハンマー、グー、パー、ハンマー、パーである。
櫻はハンマーとヘルメット両方持っているが、利乃はハンマーのみ。それでいてどちらの手札にもグーチョキパーの全ては揃っていない。櫻はパーが欠けていて、利乃はチョキが欠けている。これを踏まえて相手の出すカードを予測してゲームを組み立てるのが、男子側の役割だ。
それぞれの男性が相手の手札を覚えて頷くと、女子二人は手札の公開をやめてそれぞれのパートナーの男性に表面を向けた。ここからはどのカードを出すかのシンキングタイムである。
(相手がヘルメットを持っていない今は絶好の攻撃チャンス……か。こちらの手札にパーが無い以上相手はグーを出してくる可能性が高いように思えるが……グーとグーであいこになったら、相手の手札にはパーしか無くなる。そして俺のチョキで一気に二点という流れに繋がるわけだ。つまり相手にとって初手グーは最悪手。パーを出してくる可能性が高いと見てこちらの初手はチョキがベストと言えるか)
そう考える千里であるが、当然一輝もそうやって二点奪われる流れは頭に浮かんでいた。
(この状況、相手がグーで俺もグーだったら最悪の展開になる。相手のグーを読んでこちらがパーを出せば勝てるが、相手はそれを読んでチョキを出してくるかもしれない。それで相手のチョキを読んでグーを出すこともできるが……最悪の展開になりかねないグーはできるなら避けたい。ならばここは……)
一輝と千里はそれぞれパートナーの持つ手札から一枚を選び、場に伏せる。
「では用意はいいですね?」
ルシファーが二人に確認を取ると、共に頷いた。
「ジャン、ケン、ポン」
二人はカードを表に向ける。一輝のカードはパーで――千里のカードはグー。二人は勝敗を瞬時に判断した。一輝は利乃の持つ手札に顔を向けて素早く手を伸ばし、ハンマーのカードを選び取った。慌てて叩き付けるように場にそれを出すと、僅かに遅れて千里がヘルメットのカードを出した。
千里の頭上に現れたピコピコハンマーが独りでに動いて振り下ろされ、ピコっと可愛い音が響いた。千里の表情は変わらない。
(相手の思考を見るつもりであえてグーを出したが、なるほどどうやら簡単に勝たせてくれる相手ではないらしい)
ジャンケンに負けること自体は想定内。だが早出し勝負に負けたのはそうではなかった。どうしてヘルメットのカードを出すのが遅れたのは解っている。櫻の掴む手札が、千里がすぐに確認し辛い角度を向いていたからだ。
(このゲーム、手札を持っているのが自分自身ではないことが計算を狂わせる不確定要素になるな。早めに対処せねば……)
千里が櫻の顔を見ると、櫻は酷く焦った顔。
「ごっ、ごめんなさい! 私のせい、ですよね……」
「櫻、自分は手札を持っているだけという認識はやめろ。ゲームの参加者の一人だという自覚を持て」
「はい!」
千里の目を見て頷く櫻だったが、その直後リリムに尻を突っつかれて悲鳴を上げた。
「ひゃっ!?」
「櫻ちゃん櫻ちゃん、服脱がなきゃいけないってこと、忘れてない?」
「恋咲さんっ……本当に脱ぐんですの?」
「脱がない子はルシファー先生が魔法で脱がせちゃうよ」
「そうだ、早く脱げよ櫻」
リリムがそう言っても脱ぐのを躊躇っている櫻に、脱ぐことを促したのは千里だった。
「千里さん、でも柊君が……」
「脱げよ。見せつけてやろうぜこのロリコンに」
千里が不敵な笑みを浮かべながら言うと、櫻は歯向かうことを拒むかのように上着を脱ぎ始めた。
それを見た一輝は、さっと顔を背ける。
「あ、俺、向こう向いてるから……」
上半身をブラジャー一枚になるまで脱いだ櫻は両腕でブラを隠そうとするが、千里はその手首を掴んで隠すのを止める。
「どうだ? エロいだろ俺の彼女は」
一輝に見せつけるように、櫻の身体の正面を千里の方に向ける。平均よりやや大きめくらいの、柔らかそうなバスト。色気の中に気品を交えた黒レースのブラジャーを晒されながら、櫻は恥じらいに頬を染め身をよじった。
「お? その反応、君そんな面して童貞かな?」
見ないよう気を遣いつつもつい気になってしまう動きをする一輝を見て、千里はにやける。一輝がこれほどの美男子でありながら、たかだかブラジャーに初心な反応を見せることが物珍しいようであった。
脱衣ゲームの参加者というのは、基本的にカップル成立の可能性がある者達である。そのためこれまでの参加者は女子は勿論のこと、男子も比較的容姿に恵まれた生徒から選出されていた。
それを踏まえた上でも今回の参加者である一輝と千里は、過去史上トップレベルのルックス。そしてその二人を上回る絶世の美男子がゲームマスターをやっているため、女子三人も含めて全員美形という煌びやかさ。それでいてやっているのが脱衣ゲームというのが、何とも言えない状況を作り出していた。
(富岡さんの彼氏、どう見ても社会人だよな。それが高校生にあんなことをするなんて。俺は……あんな大人にはなるものか)
同じく年下の恋人を持つ者として、一輝にとって千里の存在は反面教師そのものであった。
「さて、では第二ターンを始めましょう。女子二人は手札が五枚になるように山札からカードを引いて下さい。相手に見せる必要があるのは初回だけなので、今回は不要です」
ルシファーの進行に従って、二人はカードを引く。櫻は左手で手札を掴みながら左腕を胸に当て、右手でカードを引いた。
「櫻」
「はい、どうぞ」
櫻は手札を千里が見やすい角度に向けるが、千里の視線は手札よりも胸元に向けられていた。
一方の一輝と利乃。利乃は一輝の服を引っ張り、むすっと頬を膨らませていた。
「お兄ちゃん、あの人の方見てたでしょ」
「それは、まあ……」
一輝は人差し指で眼鏡を上げながら口を濁す。
「とりあえず、今はゲームに集中しよう」
そう言って利乃の引いたカードに目を向けると、利乃はじとーっと目を細くした。
グー、ハンマー、パー、ヘルメット、チョキ。新たに引いたカードはヘルメットとチョキの二枚だ。相手の手札でわかっているのはチョキ、グー、ハンマー。そこから相手の出す手を予想する。
(こちらの手札で相手に割れてるのはグー、ハンマー、パー。こちらの手札にチョキがあることを知らない相手がグーを出してくる可能性は低いか? もし引いたカードの中にパーがあるならそれを出してくる可能性も……)
そう考えた所で、ふと一輝は気付いたことがあり利乃の耳元に顔を近づける。
「利乃、手札シャッフルして。このままだと出すカード相手にバレバレになる」
小声で耳打ちすると、利乃はボッと顔を赤くした。
「おっ、お兄ちゃん!」
一輝からしてみれば相手側に聞こえないようにそうしただけであったが、好きな人から耳元で囁かれるという乙女のときめきシチュエーションが不意打ちでやってきたら焦っても仕方が無い。
とりあえずは言われた通りシャッフルをしつつ、先程の感覚を思い出して悦に浸る。するとまた、一輝が利乃の耳元に口を近づけた。
「利乃、相手が手札シャッフルしたかどうかわかるか?」
「ひゃえっ!? え、えと……私はそういうところは一度も見てないけど……」
しどろもどろになりながら答えると、一輝は利乃の様子は特に気にしないまま自分の顎に指を当て考え始めた。
(もしこれで本当に相手が手札を一度もシャッフルしていないとすれば、左三枚はチョキ、グー、ハンマーだ)
と、そこで丁度千里が櫻の握る手札の中の、千里から見て左から二番目のカードを場に伏せた。
(カードを出した! あのカードはグーだ!)
一輝はすぐさま手札からパーのカードを取って伏せる。
「両者カードは決まったようですね。では始めましょう。ジャン、ケン、ポン」
ルシファーの掛け声に合わせて、二人はカードを表に向ける。一輝は左手で場のカードを捲るとほぼ同時に、予め位置を把握しておいた手札の中の一枚を右手で掴んで勢いよく机に叩き付けた。
パーの上に重ねられたハンマーのカード。それから遅れて、千里も場にカードを出した。
(勝った!)
そう思った一輝の頭上に現れたピコピコハンマー。可愛らしい音と共に頭を叩かれた一輝は、何が起こったのかわからずにいた。慌てて机に視線を移すと、千里の場に出されていたカードはチョキとハンマー。ジャンケンは千里の勝ちであり、たとえ一輝が先にハンマーを出してもジャンケンに負けている以上は攻撃も防御もできなかったのだ。
「一体どうして……?」
「簡単だよ。君達がこっちから目を離している間にすり替えたんだ。丁度櫻がシャッフルし忘れていたことに気付いてね、それを利用してちょっとしたトラップを仕掛けてみたのさ」
千里の方が一枚上手。いとも簡単に騙されてしまった一輝は、悔しさに拳を震わせた。
「では柊利乃さん、服を脱いで頂きます」
そこで響くルシファーの声。一輝はぎょっとして利乃の方を見る。
「ま、待て! 利乃はまだ中学一年生だぞ! こんなことさせられていい歳じゃない!」
ルシファーに抗議する一輝であったが、その横で利乃が構わず脱ぎだしたので一輝は目を丸くした。
「利乃!?」
発展途上な胸を包むのは、僅かにピンクがかった白のジュニアブラ。一輝にとっては洗濯物として何度か見たことのあるものだが、実際に着用した姿を見るのは初めてだ。
「これがルールでしょ、お兄ちゃん」
ほんのりと頬を染めながらじとーっとした目で見つめられ、一輝はたじろいだ。
「……もう少し躊躇えよ。相手の男だって見てるんだから」
中学一年生らしいサイズの小胸についつい視線を吸い寄せられるが、できるだけ見ないよう精神を強く保つ。
(勝てば富岡さんが、負ければ利乃が脱がされる……一体どうしたらいいんだ……)
同級生女子の裸も、妹で恋人の裸も、見たら気まずいことになる。一輝の心の平穏はゴリゴリと削られてゆく。
三ターン目。利乃が引いたカードはパーとグー。これで手札はグー、ヘルメット、チョキ、パー、グー。先程無駄使いさせられたハンマーを引き直すことはできなかった。
このゲームにおいてハンマーは攻撃の要。とにかくそれを引けなきゃどうにもならないことは、一輝もよくわかっている。
千里は一ターン目に公開したカードを優先的に出すプレイングをしているため、現在一輝が把握している千里の手札はグー一枚のみ。尤も一輝も同様のプレイングをしているため、同じくこちらの手札も一枚しか相手に割れていない状態だ。
(何を出してくるのか全く読めない……相手の手札が見えていたこれまでの二回とは訳が違う。この段階じゃ捨て札から手札を推察することも難しい。幸い手札にヘルメットは握ってるし、ハンマーが無い以上勝ててもメリットが薄い。今回のジャンケンは運ゲーと割り切るべきか……いや)
一輝は相手に割れているグーを消化目的で考え無しに出すのは、狙いが見え見えの下策だと判断。むしろ相手がそれを読んでパーを出してくることを読み、チョキを場に伏せた。それを見て千里もカードを出す。
「ジャン、ケン、ポン」
千里の出したカードは――グー。相手に割れているカードを消化目的で出すという一輝の否定した手を、千里の方が打ってきた。
二人は素早くパートナーの持つ手札に手を伸ばし、カードを一枚選び取る。一輝がヘルメットを机に叩き付け、千里は手にしたカードを抜き取ることなく僅かに引っ張っただけで手を止めた。
「何!?」
驚く一輝に、千里はほくそ笑んだ。
「審判! これは有りなのか!?」
「ええ、何もカードを出さなかった扱いになりますね。御門千里さんの攻撃は失敗。このターンは点の変動は無しとなります」
攻撃失敗と言えばさも一輝の作戦が成功したかのように聞こえるが、実際にしてやられたのは一輝の方だ。何せヘルメットを無駄使いさせられたのである。
(ハンマーを持っていないから勝っても点にはならないと判断し、フェイントで俺にヘルメットを使わせたのか? いや、そもそも本当にハンマーを持っていなかったのか……? 仮に持っていないとすれば、ハンマーを引く確率を上げるために適当なカードを出して捨て札にした方がいい。先程掴んだカードはハンマーだったが、俺のヘルメットより遅くなると察したから出さずに止めたと見るべきか……)
千里の行動の意図をあれこれ推察するも、はっきりとしたものは掴めず。相手のハンマーの有無で次のターンのピンチの度合いは大きく変わる。ハンマーがあるのか、無いのか、あるけど無いと見せかけているのか、無いけどあると見せかけているのか。
指を広げた掌で額から前髪を掻き上げ、一輝は奥歯を噛み締めた。
「お兄ちゃん……」
思い悩む一輝を見る利乃の瞳は、不安げに揺れる。
一輝の言葉に、利乃は頷く。困惑の中、早速始まった脱衣ゲーム。女子二人は、ルールに則ってそれぞれの山札からカードを五枚引いた。
(こういうゲームは得意中の得意なんだ。負ける気がしねえ)
戸惑っている一輝とは対照的に、千里は余裕の笑みを浮かべていた。
「では、最初の一ターン目は相手に手札を公開して下さい」
ルシファーの指示に従って、櫻と利乃は手札の表面を相手の側に向けた。
櫻の手札はヘルメット、チョキ、グー、ハンマー、グー。利乃の手札はハンマー、グー、パー、ハンマー、パーである。
櫻はハンマーとヘルメット両方持っているが、利乃はハンマーのみ。それでいてどちらの手札にもグーチョキパーの全ては揃っていない。櫻はパーが欠けていて、利乃はチョキが欠けている。これを踏まえて相手の出すカードを予測してゲームを組み立てるのが、男子側の役割だ。
それぞれの男性が相手の手札を覚えて頷くと、女子二人は手札の公開をやめてそれぞれのパートナーの男性に表面を向けた。ここからはどのカードを出すかのシンキングタイムである。
(相手がヘルメットを持っていない今は絶好の攻撃チャンス……か。こちらの手札にパーが無い以上相手はグーを出してくる可能性が高いように思えるが……グーとグーであいこになったら、相手の手札にはパーしか無くなる。そして俺のチョキで一気に二点という流れに繋がるわけだ。つまり相手にとって初手グーは最悪手。パーを出してくる可能性が高いと見てこちらの初手はチョキがベストと言えるか)
そう考える千里であるが、当然一輝もそうやって二点奪われる流れは頭に浮かんでいた。
(この状況、相手がグーで俺もグーだったら最悪の展開になる。相手のグーを読んでこちらがパーを出せば勝てるが、相手はそれを読んでチョキを出してくるかもしれない。それで相手のチョキを読んでグーを出すこともできるが……最悪の展開になりかねないグーはできるなら避けたい。ならばここは……)
一輝と千里はそれぞれパートナーの持つ手札から一枚を選び、場に伏せる。
「では用意はいいですね?」
ルシファーが二人に確認を取ると、共に頷いた。
「ジャン、ケン、ポン」
二人はカードを表に向ける。一輝のカードはパーで――千里のカードはグー。二人は勝敗を瞬時に判断した。一輝は利乃の持つ手札に顔を向けて素早く手を伸ばし、ハンマーのカードを選び取った。慌てて叩き付けるように場にそれを出すと、僅かに遅れて千里がヘルメットのカードを出した。
千里の頭上に現れたピコピコハンマーが独りでに動いて振り下ろされ、ピコっと可愛い音が響いた。千里の表情は変わらない。
(相手の思考を見るつもりであえてグーを出したが、なるほどどうやら簡単に勝たせてくれる相手ではないらしい)
ジャンケンに負けること自体は想定内。だが早出し勝負に負けたのはそうではなかった。どうしてヘルメットのカードを出すのが遅れたのは解っている。櫻の掴む手札が、千里がすぐに確認し辛い角度を向いていたからだ。
(このゲーム、手札を持っているのが自分自身ではないことが計算を狂わせる不確定要素になるな。早めに対処せねば……)
千里が櫻の顔を見ると、櫻は酷く焦った顔。
「ごっ、ごめんなさい! 私のせい、ですよね……」
「櫻、自分は手札を持っているだけという認識はやめろ。ゲームの参加者の一人だという自覚を持て」
「はい!」
千里の目を見て頷く櫻だったが、その直後リリムに尻を突っつかれて悲鳴を上げた。
「ひゃっ!?」
「櫻ちゃん櫻ちゃん、服脱がなきゃいけないってこと、忘れてない?」
「恋咲さんっ……本当に脱ぐんですの?」
「脱がない子はルシファー先生が魔法で脱がせちゃうよ」
「そうだ、早く脱げよ櫻」
リリムがそう言っても脱ぐのを躊躇っている櫻に、脱ぐことを促したのは千里だった。
「千里さん、でも柊君が……」
「脱げよ。見せつけてやろうぜこのロリコンに」
千里が不敵な笑みを浮かべながら言うと、櫻は歯向かうことを拒むかのように上着を脱ぎ始めた。
それを見た一輝は、さっと顔を背ける。
「あ、俺、向こう向いてるから……」
上半身をブラジャー一枚になるまで脱いだ櫻は両腕でブラを隠そうとするが、千里はその手首を掴んで隠すのを止める。
「どうだ? エロいだろ俺の彼女は」
一輝に見せつけるように、櫻の身体の正面を千里の方に向ける。平均よりやや大きめくらいの、柔らかそうなバスト。色気の中に気品を交えた黒レースのブラジャーを晒されながら、櫻は恥じらいに頬を染め身をよじった。
「お? その反応、君そんな面して童貞かな?」
見ないよう気を遣いつつもつい気になってしまう動きをする一輝を見て、千里はにやける。一輝がこれほどの美男子でありながら、たかだかブラジャーに初心な反応を見せることが物珍しいようであった。
脱衣ゲームの参加者というのは、基本的にカップル成立の可能性がある者達である。そのためこれまでの参加者は女子は勿論のこと、男子も比較的容姿に恵まれた生徒から選出されていた。
それを踏まえた上でも今回の参加者である一輝と千里は、過去史上トップレベルのルックス。そしてその二人を上回る絶世の美男子がゲームマスターをやっているため、女子三人も含めて全員美形という煌びやかさ。それでいてやっているのが脱衣ゲームというのが、何とも言えない状況を作り出していた。
(富岡さんの彼氏、どう見ても社会人だよな。それが高校生にあんなことをするなんて。俺は……あんな大人にはなるものか)
同じく年下の恋人を持つ者として、一輝にとって千里の存在は反面教師そのものであった。
「さて、では第二ターンを始めましょう。女子二人は手札が五枚になるように山札からカードを引いて下さい。相手に見せる必要があるのは初回だけなので、今回は不要です」
ルシファーの進行に従って、二人はカードを引く。櫻は左手で手札を掴みながら左腕を胸に当て、右手でカードを引いた。
「櫻」
「はい、どうぞ」
櫻は手札を千里が見やすい角度に向けるが、千里の視線は手札よりも胸元に向けられていた。
一方の一輝と利乃。利乃は一輝の服を引っ張り、むすっと頬を膨らませていた。
「お兄ちゃん、あの人の方見てたでしょ」
「それは、まあ……」
一輝は人差し指で眼鏡を上げながら口を濁す。
「とりあえず、今はゲームに集中しよう」
そう言って利乃の引いたカードに目を向けると、利乃はじとーっと目を細くした。
グー、ハンマー、パー、ヘルメット、チョキ。新たに引いたカードはヘルメットとチョキの二枚だ。相手の手札でわかっているのはチョキ、グー、ハンマー。そこから相手の出す手を予想する。
(こちらの手札で相手に割れてるのはグー、ハンマー、パー。こちらの手札にチョキがあることを知らない相手がグーを出してくる可能性は低いか? もし引いたカードの中にパーがあるならそれを出してくる可能性も……)
そう考えた所で、ふと一輝は気付いたことがあり利乃の耳元に顔を近づける。
「利乃、手札シャッフルして。このままだと出すカード相手にバレバレになる」
小声で耳打ちすると、利乃はボッと顔を赤くした。
「おっ、お兄ちゃん!」
一輝からしてみれば相手側に聞こえないようにそうしただけであったが、好きな人から耳元で囁かれるという乙女のときめきシチュエーションが不意打ちでやってきたら焦っても仕方が無い。
とりあえずは言われた通りシャッフルをしつつ、先程の感覚を思い出して悦に浸る。するとまた、一輝が利乃の耳元に口を近づけた。
「利乃、相手が手札シャッフルしたかどうかわかるか?」
「ひゃえっ!? え、えと……私はそういうところは一度も見てないけど……」
しどろもどろになりながら答えると、一輝は利乃の様子は特に気にしないまま自分の顎に指を当て考え始めた。
(もしこれで本当に相手が手札を一度もシャッフルしていないとすれば、左三枚はチョキ、グー、ハンマーだ)
と、そこで丁度千里が櫻の握る手札の中の、千里から見て左から二番目のカードを場に伏せた。
(カードを出した! あのカードはグーだ!)
一輝はすぐさま手札からパーのカードを取って伏せる。
「両者カードは決まったようですね。では始めましょう。ジャン、ケン、ポン」
ルシファーの掛け声に合わせて、二人はカードを表に向ける。一輝は左手で場のカードを捲るとほぼ同時に、予め位置を把握しておいた手札の中の一枚を右手で掴んで勢いよく机に叩き付けた。
パーの上に重ねられたハンマーのカード。それから遅れて、千里も場にカードを出した。
(勝った!)
そう思った一輝の頭上に現れたピコピコハンマー。可愛らしい音と共に頭を叩かれた一輝は、何が起こったのかわからずにいた。慌てて机に視線を移すと、千里の場に出されていたカードはチョキとハンマー。ジャンケンは千里の勝ちであり、たとえ一輝が先にハンマーを出してもジャンケンに負けている以上は攻撃も防御もできなかったのだ。
「一体どうして……?」
「簡単だよ。君達がこっちから目を離している間にすり替えたんだ。丁度櫻がシャッフルし忘れていたことに気付いてね、それを利用してちょっとしたトラップを仕掛けてみたのさ」
千里の方が一枚上手。いとも簡単に騙されてしまった一輝は、悔しさに拳を震わせた。
「では柊利乃さん、服を脱いで頂きます」
そこで響くルシファーの声。一輝はぎょっとして利乃の方を見る。
「ま、待て! 利乃はまだ中学一年生だぞ! こんなことさせられていい歳じゃない!」
ルシファーに抗議する一輝であったが、その横で利乃が構わず脱ぎだしたので一輝は目を丸くした。
「利乃!?」
発展途上な胸を包むのは、僅かにピンクがかった白のジュニアブラ。一輝にとっては洗濯物として何度か見たことのあるものだが、実際に着用した姿を見るのは初めてだ。
「これがルールでしょ、お兄ちゃん」
ほんのりと頬を染めながらじとーっとした目で見つめられ、一輝はたじろいだ。
「……もう少し躊躇えよ。相手の男だって見てるんだから」
中学一年生らしいサイズの小胸についつい視線を吸い寄せられるが、できるだけ見ないよう精神を強く保つ。
(勝てば富岡さんが、負ければ利乃が脱がされる……一体どうしたらいいんだ……)
同級生女子の裸も、妹で恋人の裸も、見たら気まずいことになる。一輝の心の平穏はゴリゴリと削られてゆく。
三ターン目。利乃が引いたカードはパーとグー。これで手札はグー、ヘルメット、チョキ、パー、グー。先程無駄使いさせられたハンマーを引き直すことはできなかった。
このゲームにおいてハンマーは攻撃の要。とにかくそれを引けなきゃどうにもならないことは、一輝もよくわかっている。
千里は一ターン目に公開したカードを優先的に出すプレイングをしているため、現在一輝が把握している千里の手札はグー一枚のみ。尤も一輝も同様のプレイングをしているため、同じくこちらの手札も一枚しか相手に割れていない状態だ。
(何を出してくるのか全く読めない……相手の手札が見えていたこれまでの二回とは訳が違う。この段階じゃ捨て札から手札を推察することも難しい。幸い手札にヘルメットは握ってるし、ハンマーが無い以上勝ててもメリットが薄い。今回のジャンケンは運ゲーと割り切るべきか……いや)
一輝は相手に割れているグーを消化目的で考え無しに出すのは、狙いが見え見えの下策だと判断。むしろ相手がそれを読んでパーを出してくることを読み、チョキを場に伏せた。それを見て千里もカードを出す。
「ジャン、ケン、ポン」
千里の出したカードは――グー。相手に割れているカードを消化目的で出すという一輝の否定した手を、千里の方が打ってきた。
二人は素早くパートナーの持つ手札に手を伸ばし、カードを一枚選び取る。一輝がヘルメットを机に叩き付け、千里は手にしたカードを抜き取ることなく僅かに引っ張っただけで手を止めた。
「何!?」
驚く一輝に、千里はほくそ笑んだ。
「審判! これは有りなのか!?」
「ええ、何もカードを出さなかった扱いになりますね。御門千里さんの攻撃は失敗。このターンは点の変動は無しとなります」
攻撃失敗と言えばさも一輝の作戦が成功したかのように聞こえるが、実際にしてやられたのは一輝の方だ。何せヘルメットを無駄使いさせられたのである。
(ハンマーを持っていないから勝っても点にはならないと判断し、フェイントで俺にヘルメットを使わせたのか? いや、そもそも本当にハンマーを持っていなかったのか……? 仮に持っていないとすれば、ハンマーを引く確率を上げるために適当なカードを出して捨て札にした方がいい。先程掴んだカードはハンマーだったが、俺のヘルメットより遅くなると察したから出さずに止めたと見るべきか……)
千里の行動の意図をあれこれ推察するも、はっきりとしたものは掴めず。相手のハンマーの有無で次のターンのピンチの度合いは大きく変わる。ハンマーがあるのか、無いのか、あるけど無いと見せかけているのか、無いけどあると見せかけているのか。
指を広げた掌で額から前髪を掻き上げ、一輝は奥歯を噛み締めた。
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