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第三章

第72話 ストラックアウト・2

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 三回裏。希耶がフリップに書いて掲げた数字は1。流石に三度目となると随分吹っ切れたようで、表情には恥じらいが残りつつも特に体を隠そうとする様子は見られない。

(希耶のまな板は見慣れてるんだよ! 今更それで心乱されるかってんだ!)

 脇目を振らず投げた翔馬の一球は見事1のパネルを射抜き、ルシファーから成功の一言を引き出した。

「っしゃあ!」

 ガッツポーズをする翔馬と、青ざめる杏。序盤は弾と杏の優勢だった勝負は、これで五分と五分に戻された。

「では柚木さん、服を脱いで下さい」
「は、はいぃ……うぅ……」

 おずおずと杏がハーフパンツを下ろすと、ブラとセットになったデザインの可愛らしいショーツがお目見え。肉付きの良い太腿と合わせて、清楚ながら色気を感じさせる下着姿である。

(うおおおおお!!)

 点を取られた側にも拘らず、弾は心の中でガッツポーズ。

(なんてエロい身体だ……完っ全に俺を誘ってやがる)

 溢れる高揚感と、早く勝ちたいという焦り。弾の心臓が強く脈打った。
 杏は「あぅあぅ」と声を漏らし、右腕をブラに添えつつ左手はショーツに当てる。そういう仕草がまた、弾を興奮させるのである。


 一方の翔馬は、希耶に駆け寄りハイタッチを求めた。

「やったぜ希耶!」

 が、希耶はむすっとした顔でそれをスルー。

「何だよ」
「……牧野先輩は柚木先輩の方チラチラ見ながらキョドってたりしたのに、何であんたはあたしが下着になっても全然平気でこっち見ようともしないわけ?」
「は?」

 突然わけのわからない動機で気を悪くされたので、翔馬はつい口からそんな声が出た。

「いやお前さっきは見んなとか言っといてそれで見なかったらキレるとか、理不尽じゃねーのかそれは。つーか俺はお前の下着なんて見慣れてんだから今更気にしねーっつの!」
「はぁ!? それって要はあたしの裸なんか見てもつまんないってこと!?」
「んなこと微塵も言ってねーんだが!?」
「ていうかあんたさっき柚木先輩の方見てたでしょ! そりゃあ胸おっきくて肌綺麗で、あたしよりずっと魅力的な身体してるもんね!」
「いや見るのは仕方ないだろ男なんだから!」

 二人がゲームそっちのけで口喧嘩をしていると、翔馬の背後からバコンという音。いつの間にやら弾がボールを投げており、4のパネルを落としていたのである。
 下着姿でフリップを上げていた杏は、それを見た後すぐさましゃがみ込んでフリップを胸に当てた。
 これで焦ったのは翔馬と希耶である。

「ゲーッ、先輩が調子取り戻してやがる!」
「何で!?」

 そんな二人の様子を見て、弾はほくそ笑む。

(勝てばあの身体を好きにできるんだ。下着くらいで動揺してる場合じゃねーだろ)

 再び視線を杏の方に向け、舌なめずり。
 そして希耶には、怖い罰ゲームが待っている。

「では天崎さん、ブラジャーを脱いで頂きましょう」
「え、ホントにブラ脱ぐの? 冗談でしょ?」
「当然本当です。先程説明致しましたよね?」
「ええー……」
「諦めて脱ごうぜ希耶。どの道脱がなきゃ終わらないんだ」

 むき出しになった希耶の肩に翔馬が手を置くと、希耶はその手を払い除けた。

「あーもう、脱げばいいんでしょ!」

 ブラのホックを外し、放り捨てるように脱いだブラはすっと消滅。希耶は小さな胸をすぐに掌で隠した。

「うー……後で絶対恨む」

 希耶はそう言った後、翔馬をキッと睨んだ。

「あんたとはもう口聞かないから!」
「はぁ!?」

 また理不尽にキレられて、落ち込みながら翔馬はマウンドに上がる。


 四回裏、翔馬のターン。希耶は杏と同じくフリップを胸に当てて隠しているが、勿論リリムがそれを許さない。杏の時と同様、人差し指で二の腕を突っつき腕を上げることを促すのである。

「ううー……」

 涙目になりながら腕を上げ、隠すもの一つない薄い胸を晒す。横から見ていた弾は視線をそちらに向け、見下し笑い。

(ハッ、無惨な乳してやがる)

 弾の視線に気付いた希耶は、背筋が凍る気持ち。

(やだやだやだ! 牧野先輩に胸見られた!)

 そんな希耶の気持ちなんか知る由もなく、弾はつまらないものを見せられたことへの口直しとばかりに杏の谷間に視線を移す。
 一方の翔馬であるが、弾が希耶の胸を見ていたことに気付いてはいなかった。先程言われたことが尾を引き胸中穏やかではないので、そんな所にまで注意が向かなかったのである。

(くそっ……何言っても嫌われちまう……これじゃ勝って付き合えてもまたすぐ破局だ! 一体どうしたらいいんだ……)

 そう考えると、ふと頭の片隅によぎったことがある。

(もしかして希耶は、元から俺のこと別に好きじゃない……?)

 思い返せば、過去四度の交際と破局はいずれも翔馬から交際を申し込み希耶から別れを告げた。希耶から好きだと言われたことは、一度として無かったのだ。ずっと希耶から翔馬への気持ちは無く、翔馬の片想いだったのではないか。そう考えるとみるみるうちに気持ちが沈んでいき、ボールを握った手にも力が入らなくなる。
 希耶の挙げた数字は2。だが翔馬が歯を食いしばって投げたボールは、その下の4のパネルがあった穴を通り抜けていった。

「残念、失敗です」

 ルシファーが無情に告げる。

(だ、駄目だ……)

 全く的を捉えられていないその様子は、さながら翔馬と希耶の現状を表しているかのよう。
 落ち込みながらマウンドを降りると、フリップで胸を隠した希耶が駆け寄ってきた。

「ちょっと翔馬!」

 もう口聞かないと言った直後に向こうから話しかけてくる。どうせ口うるさく文句言われるのだろうと高を括っていた翔馬だが、希耶の台詞は意外なものであった。

「さっき牧野先輩に胸見られた!」

 泣きそうな声で言う希耶。それに反応して、弾が怖い顔をこちらに向けるのである。

「調子こいてんじゃねーぞ勘違い女! お前の平たい胸なんざ見る価値もねーっつの。キンキンうるせーんだよ、自意識過剰もいい加減にしろやブス!」

 口汚い罵倒を浴びせられて、希耶の瞳が潤んだ。ぎゅっと唇を噛んで泣くのを堪えたその時。

「っざっけんなよ!!」

 翔馬が怒号を返し、一瞬弾は目を丸くした。

「確かに希耶の胸は小さいけど、むっちゃ感度いいんだぞ!!」
「あんた何言ってんの!?」

 的外れな反論に、希耶もキレる。だが翔馬は、構わず続けた。

「あんたには希耶の良さはわかんないだろうけどな、希耶はすっげー可愛いんだよ! そりゃあ希耶は胸小さいしワガママだし理不尽なことでキレたりするけど、そういうとこも含めて俺は可愛いと思ってんだよ! あんたにそこまで言われる筋合いなんか微塵もねーんだよ!!」

 修羅の如き剣幕で捲し立てる翔馬に怯んでいた弾だったが、翔馬が叫び疲れて黙ったことに気付くと我に返る。

「あ? てめえ一年の分際で誰に喧嘩売ってんだ?」
「うるせえ!! 先輩だろうが知ったことか! 好きな人馬鹿にされて黙ってられるほどヘタレちゃいねーんだよ!!」

 声が枯れかけていても、構わず叫んだ。弾は拳を握るが、腕を上げようとした時に杏が見ていることに気付いて止める。

(フン、女の趣味わりー奴。やっぱ女は柚木みたく乳でかくて奥ゆかしくないとな)

 心の中で翔馬を嘲り、鼻で笑う。

「だがお前がイキってられるのも今だけだ。次で俺の勝ちが決まるんだからな」
「あ……」

 言われて気付いた翔馬は、動揺して額を汗が伝った。

(くそっ、この状況でただ見ていることしかできないなんて……)

 あくまでもパネルを相手に交互に行うこのゲームは、対戦形式を取っていながらお互いのプレイヤーが直接対決することはない。どんなに気合を入れても、相手のターンには何もできないのだ。

「おっと、ここで追加ルールの発表です」

 しかしその思いに呼応するかのように、ルシファーが声を上げた。

「残りパネルが一枚となったペアのターン、相手側の男子は打席に入り、相手の投げたボールをバットで打つことが可能になります」

 翔馬の前に、バットとヘルメットがポンと現れた。

「そして、もしこれで打者がホームランを打った場合、投手側のペアの女子が服を脱がなければなりません」

 以前、このゲームのために大規模なものを作ったと発言したルシファー。サッカーグラウンドの時のようにどでかい建物をゲームで使わない部分まで精巧に作って無駄に魔力を消費したわけではなく、今回はちゃんと球場全体をゲームに使用するのである。

「マジか! まだ俺達にもチャンスがあるってことだよな!」
「何だと!?」

 降って沸いた逆転のチャンスに、翔馬は歓喜し弾は動揺。
 ヘルメットを被り打席に立った翔馬は、やる気に満ちた表情でバットを構えていた。

(打ってやるぜ! コースはわかりきってるんだ。いくらうちの元エースといえど、それなら打てない球じゃない!)

 後ろのパネルの位置をしっかりと確認し、そこを狙って飛んできたボールにバットを当てるイメージを頭の中で描く。
 対する弾は、追加ルールの発表に最初こそ動揺したものの始まってみれば落ち着いていた。

(所詮相手は一年坊主だ。これでとどめを刺してやる!)

 自信に満ちた一投に対し、翔馬はホームラン狙いのフルスイング。そしてボールはバットの下を通り抜けた。

(何!?)

 翔馬の背筋が凍ったのも束の間、ボールは1番のパネルの下、3番のパネルが嵌まっていた穴から後ろに抜けていった。

「残念! 失敗です!」

 普通の野球ならばこれでストライク。だがこのゲームでは、指定のパネルを落とせなければ失敗となる。弾は悔しそうに拳を震わせた。
 1番パネル中央辺りにバットを振ることを読んでバットの下を潜らせるようにボールを投げたが、下に行きすぎて狙いを外した。結果として打たれはしなかったが、バッターがいるが故に引き起こされたミスだ。

「悪い、希耶……」

 運よく首の皮一枚繋がったものの、打てなかったことに変わりはない。翔馬が落ち込みながら希耶の所に戻ると、希耶は翔馬を睨んだ。紅潮した頬はパンツ一丁の羞恥によるものか、はたまた。

「別に……パネルは落とされなかったんだし」
「あっ、いや……ホントにごめん」

 素っ気ない態度に、翔馬はまた怒らせてしまったのではと慌てふためいた。

「次、しっかり決めてきて。あたし、牧野先輩には全裸見られたくない」

 そう言って希耶は一度胸から手をどけ、弾に馬鹿にされた薄い胸を翔馬の視界に晒す。

「……お、おう」

 五回裏。戸惑いつつもマウンドに上がった翔馬。こちらはパネルがまだ二枚残っているので、バッターは無し。再び胸をさらけ出して掲げられたフリップには、3の数字が書かれている。

(そうだ……希耶だって悔しいよな、あんなこと言われて。あんな暴言パワハラマンに、これ以上希耶の裸を見せてたまるかよ!)

 翔馬の投げたボールは空を切り、狙い通り3のパネルを打ち抜いた。

「っし!」

 小さくガッツポーズで成功を喜ぶ翔馬。希耶も一安心だ。
 対する弾は、舌打ちしつつも杏の脱衣に期待を寄せる。

(まあせっかくだからな、乳を見てから勝った方が得だろうぜ)

 弾から視線を向けられた希耶は縮こまり、今にも泣き出しそうな顔。

「む、無理です。これ以上は流石に……」
「脱ぐのがルールだから、ね」

 リリムが杏に迫り、脱衣を促した。

「脱げよ柚木。脱がなきゃ終わんねーだろ」

 そこに追い打ちをかけるように弾が吐き捨てる。杏もこれには驚いたようで、びくりと体を震わせた。

「わかりました……脱ぎます……ですからその……向こう向いてて下さい……」

 杏は弾に訴えた後、翔馬とルシファーの方もちらっと見る。翔馬はそれを受けてさっと杏に背を向けた。ルシファーは「ふむ」と唸った後、その方が進行し易いと判断し背を向ける。弾は渋っていたが、どうせフリップを挙げる時に見られると気付いて渋々ながら後ろを向いた。
 誰も見ていないことを確認するためキョロキョロと首を動かしながら、おずおずと躊躇いがちな手つきでブラを外す。両腕とも肩紐から抜いたところですぐにブラが消えたので、杏はか細い声を上げつつ両掌を胸に当てた。
 杏の小さな手ではとても隠しきれず、押さえつけられた乳房は柔らかさを見せつけるように形を変える。リリムと希耶は羨ましげな目でそれを見ていた。

「さて、脱ぎ終えたようなのでゲームを再開しましょう。六回表、牧野君のターンです」

 ルシファーが進行を促し、弾は速足でマウンドに上がる。フリップが手元に現れた杏はそれを胸に当てることができてひとまず安心するも、この後に待っていることを思い出して身震い。

「では天崎さん、フリップを挙げて下さい」
「あっ、あの……フリップに数字書く必要なくないですか……1番のパネルしか残ってないんですから……」
「いえ、ルールなのでたとえ残るパネルが一枚でもフリップは挙げて頂きます」

 悪あがきは無駄。ルシファーにきっぱりと言われて、杏は顔を真っ赤にしながらおずおずとフリップを胸の前からどけ、腕を伸ばして頭上に掲げた。当然、弾の視線はフリップなんかには向かない。
 弾力のありそうな白い果実が二つと、そこに乗った綺麗なピンク。息を呑むような巨乳にして美乳を、弾はしっかりとその目に刻んだ。

(こいつは凄え……裕奈の乳よりよっぽど上物じゃねーか。ああっ揉みてえ! 乳首吸いてえ! セックスしてえ!!)

 極上のおっぱいを前に涎が溢れ、弾は舌なめずり。恥じらいに震える杏は胸もぷるぷると小刻みに揺れており、それがまた男心をくすぐる。

「み、見ないでくださ……」
(思えば裕奈と別れてから一回も乳揉んでなかったな……このゲームが終わったら……フフ……)

 すぐそこまで迫る未来を夢見て、マウンドに上がるピッチャーとは思えぬほど邪念に満ちた表情を浮かべる弾。バッターボックスに立つ翔馬はそれを黙って見ていた。

(あの様子なら前みたいに柚木先輩の方ばかり見てコントロールが崩壊する可能性もあるな。だがここは念のため……)

 股間のバットをおっ立てたまま、弾は勢いをつけて投球。コントロールはばっちり、1番のパネルど真ん中狙いだ。
 だが翔馬が取ったのはバントの構え。コンと音がして、ボールは転がった。

「野郎!!」
「残念失敗です」

 弾が怒鳴り声を上げ、ルシファーが無情に失敗を告げる。

(早く……早く終わって……)

 この失敗で弾以上にショックを受けているのは、ゲームが長く続けば続くほど胸を晒す回数の増える杏である。
 そして一応相手の得点を阻止した側である翔馬にも、緊張感が走っていた。

(やべーな、今の牧野先輩はエロで集中力が削がれるどころか、勝てば揉めるとばかりにエロで集中力が上がってやがる)
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