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第二章
第30話 水鉄砲シューティング・1 ~爆乳水泳部員VSツンデレ水泳部員~
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「あんた、この前の……」
ルシファーの姿を見て、真っ先に反応したのは暦であった。他の三人がただただ困惑する中で、彼女一人だけがこの状況を理解している。
ブーメランパンツ一丁で雄雄しき色気に満ちた肉体を惜しげもなく晒すルシファーは、爪先だけで水面に立ち不敵な笑みを浮かべていた。
その水着は股上が浅く、下腹部にある淫魔の紋章を完全に露出していた。ルシファーの紋章は自身のトレードマークでもある二枚の黒翼をモチーフにした、何も知らない人が見たら単なるファッションタトゥーだと思えるクールでスタイリッシュなデザインをしている。
「そしてボクは、アシスタントのリリムちゃんでーす!」
と、そこでルシファーの背中に隠れていたリリムがひょっこりと顔を出す。
「貴方は前、体験入部に来ていた……」
「やっほー」
蝙蝠のような小さな翼を羽ばたかせて水面に立つリリムは、以前水泳部の体験入部で着ていたのと同じ赤のハイレグ水着姿。
「ていうかここ……例のプールじゃね?」
そう口に出したのは敦也である。哲昌も笑いを堪えるような仕草をしており、それが何か知っていることを窺わせる。水泳部員の四人が連れてこられたこの場所の風景は「例のプール」と言われれば大体通じるものであった。
「ねえ、先生」
リリムがこっそりルシファーに耳打ちする。
「これってさ……アレだよね?」
「こいつは淫魔だった頃に作ったセットを引っ張り出してきたものだ。今回の脱衣ゲームは急遽開催が決まったから、新しいセット作る時間が無かったんだよ」
アダルトビデオを髣髴とさせるセットはカップル成立を目的とした現在の脱衣ゲームにはそぐわないという考えを持つルシファーにとってこのセットを使うことは不本意ではあったが、今回の参加者が全員水泳部員であることを加味し使用に踏み切った。
「さて、幸村さんはご存知でしょうが、これより両ペアには脱衣ゲームで対決して頂きます。ゲームで負ける毎に女の子が服を脱いでいき、最終的に全裸になった方が負けです」
ほぼ裸の格好のまま飄々とした口調で、ルシファーは言う。
「さて今回のゲームは――水鉄砲シューティングです」
ゲーム名が宣言された途端、プールの両サイド付近に各二つずつ、合計四つの足場が現れた。足場は長方形で、イコールの記号のように二つ並んでいる。ルシファーとリリムは翼で飛行し、その片側の足場に降り立った。前の足場にルシファー、後ろの足場にリリム。そしてリリムの右手には、ピストル型のプラスチック製水鉄砲が握られた。いかにも百円ショップに売っていそうな、チープな代物だ。
「このゲームは男子が前衛、女子が後衛を務めます」
突然もう一方の足場に、鏡写しの如くルシファーとリリムがもう一人ずつ出現した。衝撃の光景に、参加者四人は呆気に取られる。
「水鉄砲を使用するのは女子だけです。これを使い、相手の女子を狙い撃ちます」
早速リリムが、手にした水鉄砲で分身リリム目掛けて水を撃ち出す。が、分身ルシファーは分身リリムを庇うように動きその身で水を受け止めた。
「男子はその身を盾にし、パートナーの女子が水に当たるのを防ぎましょう。もし女子が水鉄砲で撃たれた場合、アウトとなり服を脱がねばなりません」
「えっ」
「やっぱりそれなんだ……」
初めて脱衣ゲームに参加する友恵が素で驚いている一方、暦は呆れて顔が引き攣っている。
「っていうか今水着一枚なんだけど!? 一回脱いだらもうマッパなんだけど!?」
「そうです。そこで今回のルールではアウト一回目で水着をおへそが出る辺りまで下ろし、二回目で全裸となって敗北となります」
友恵の尤もな指摘に、ルシファーは返答。今回は普段の半分の回数で全裸にされてしまう、かなり緊張感のあるゲームである。
「何なのそれー!」
「二回もこんなのに参加させられるとか……最悪なんだけど……」
女子からブーイングが飛ぶ中、男子二人は動揺と胸の高鳴りを同時に感じていた。
(マジかよAVじゃんかこれ)
(え……幸村が裸に……?)
試験期間のため暫く脱衣ゲームを開催していなかったルシファーにとって、こういう反応には懐かしさと嬉しさを覚える。
それはそれとして、ルール説明を続行。
「なお、女子が落水した場合もアウトとして扱われます」
分身リリムが足を滑らせるように転んで落水。
「男子が落水した場合はアウトになりませんが、当然そうなると女子は無防備になります」
今度は分身ルシファーが派手にずっこけ、大きな水柱を上げて落水。所詮相手が分身だから、自分と同じ姿をしたもの相手にやりたい放題である。
「状況に応じて、落水も狙っていくとよいでしょう。水鉄砲の水の補充は足元のプールで行って下さい。補充のために手を水に付けるのは落水扱いになりませんが、水鉄砲をプールに落とすとアウトになるのでお気をつけ下さい」
足場に戻った分身リリムが、しゃがんで水鉄砲をプールに入れ補充を実演してみせる。
「なお補足として、水鉄砲から撃たれた水でも男子の体、足場、水面等に一度当たった水は女子が触れてもアウトになりません。アウトになるのは、水鉄砲から発射された後何も触れなかった水に限ります」
本物リリムの撃った水が分身ルシファーの脇腹を掠めて後ろの分身リリムに当たるも、これはセーフである。
「さて、最後にこのゲーム、負けた側の女子は全裸にされてしまいますが、勝ったペアはカップル成立となります」
その言葉を聞いた途端、電撃が走ったかのような表情で哲昌が暦を見た。
「ああ、それなら嘘ですよ先輩。私、以前にもあの銀髪男が主催するゲームに参加させられたことがありまして。ゲームには勝ったんですが、カップル成立は私が拒否しました。あの男はああ言ってますけど、勝っても強制的にカップルにさせられるわけではありません」
「そ、そうなのか」
多少ガッカリしつつも、その前回の際に暦がカップル成立を拒否していたことにほっとする気持ちもある。何とも複雑な心境であった。
そしてそんな暦の話を聞いた友恵に、焦りが生じる。
(負けたら全裸にされる上に勝っても敦也と付き合えるとは限らないって……何の意味があるのこれ!? 頑張っても損するだけじゃない?)
実際は何の強制力も無いが名目として存在する「勝ったらカップル成立」のルール。だが今回は過去にカップル不成立となった参加者が再度参加しているため、そのルールが嘘であると全員が知った状態でゲームを行うこととなるイレギュラーが発生。どうなっちゃうのと慌て顔のリリムであるが、ルシファーはむしろ不敵に笑っていた。
「さて、それでは皆様には足場の上に移動して頂きましょう」
分身ルシファーと分身リリムが消え、本物のルシファーとリリムはプールサイドまで飛んで移動。そして逆側のプールサイドにいた四人の参加者は、体が宙に浮かび上がった。
「うげっ!? 浮いてる!?」
不思議体験に仰天しながら、四人はそれぞれの足場へと運ばれた。四人が再び地に足付けたところで、ルシファーは恒例の参加者紹介。
「それでは改めまして今回の参加者をご紹介しましょう。赤コーナー男子、一年A組水泳部、芝田敦也! 同じく女子、一年A組水泳部、手島友恵Bカップ! 青コーナー男子、三年C組水泳部、安西哲昌! 同じく女子、二年A組水泳部、幸村暦Fカップ!」
男子二人の脳裏に、Fカップという言葉が繰り返し響いた。思春期の男子にとって、それはもう言葉だけで興奮できるほど魅惑的な言葉である。
「女子二人には水鉄砲をお渡しします。先程も説明致しましたが、プールに落とすとアウトとして扱われ服を一回分脱がねばなりませんのでご注意下さい」
先程リリムが使っていたピストル型の水鉄砲が女子二人の手の位置に現れ、ルシファーによって動かされた手が自動的にそれを握る。
「先輩、今は一分一秒でも時間が惜しいですから。一刻も早く勝ってこんな場所から脱出しましょう」
「あ、ああ……」
あくまでも自分とカップルになる気は一切無い。そう思わせる暦の様子に、哲昌は落胆していた。
(本当、微塵も意識されてないんだな……)
「皆さん準備はいいですね。それでは……ゲーム開始です!」
「よし、今だ友恵撃て!」
開始直後の隙を狙って、敦也は撃つことを指示。友恵は言われるがまま慌てて引き金を引いた。
「冷てっ!」
直後に響く敦也の声。友恵の撃った水は、見事敦也の背中にヒットしていた。
「あっごめん」
謝る友恵に振り返ろうとしたところで、今度は前から暦の撃った水がかかる。
「あぶねっ! くそっ、前と後ろ両方気にしなきゃならねーのかこのゲーム」
「ていうか当てにくくないこれ?」
友恵の指摘は尤もである。前衛と後衛が一直線に並んでいれば防御は完璧であるが、攻撃しようと思うと前衛の体が視界と射線を塞いで邪魔をする。隠れたままでは相手に水を当てることはままならず、ある程度自分の身を危険に晒さねば勝てないのだ。
そして前衛の男子も常に前後両方に注意を向けながら位置取りをせねばならず、一瞬たりとも油断のできない緊張感がある。
勝ちを急ぐ暦は、哲昌の後ろから少しだけ手と顔を出し少量の水を矢継ぎ早に連射する作戦に出る。敦也は一つたりとも友恵の方に行かせまいと、一つ一つ見切って体で受け止めた。
「相手ばっか攻めさせるな友恵! こっちからも撃て!」
暦がしゃがんで水の補充をしている内に、敦也は後ろを振り返って友恵に声をかける。
「わかってる!」
煩わしそうに返事をした友恵は顔だけ出し、暦が補充を終えて攻撃に出るのを待つ。
「ていうか敦也、あんた何必死になってんの? そんなに幸村先輩の裸が見たいわけ?」
「はあ!? 何言ってんだお前」
勝てばカップル成立というのが嘘だと判明した以上、勝つことによって得られる何よりの報酬は相手の女子の裸が見られることだ。それも相手は水泳部のアイドルにしてFカップの爆乳美人、幸村暦である。
入部して間もない頃、暦の競泳水着姿を見た敦也の下半身がいきり立っていたことが友恵は強く印象に残っている。
敦也を魅了したあの抜群のスタイルは自分では逆立ちしてもああはなれないものであり、友恵は敗北感に打ちひしがれるばかりであった。
「相手は待ち伏せしてるぞ、幸村」
哲昌が暦に注意を促すと、暦ははいと簡潔に返事をした。
水鉄砲の中が水で満たされると、暦は立ち上がる。暦が小声で作戦を伝えると、哲昌は頷いた。
暦は水鉄砲を構え哲昌の右側に大きく体を出す。友恵はすかさず水鉄砲を撃つが、それとほぼ同時に哲昌が暦の前に重なるように動いて防御。暦は瞬時にステップを踏んで左へと飛び出し、隙だらけの友恵目掛けて水を放つ。
一度右に出たのはフェイント。完全にそちらから撃ってくると踏んでいた敦也の防御をすり抜け、一直線に飛ぶ水が友恵の胸にヒット。
「手島さん、アウトー!」
ルシファーが人差し指で友恵を指して叫ぶ。
「え……ちょ……」
何が起こったか初めわからなかった友恵が次第に事を理解するにつれ、顔が青ざめていった。
「それでは手島さん、脱いで頂きましょう!」
「ほ、ホントに脱がなきゃダメ?」
「ダメです」
冷徹な物の言いようだが、ルシファーの口調はおどけている。
「……敦也、あんた絶対こっち見ちゃ駄目だからね! 安西部長もですよ!」
「えっ、マジで脱ぐのよかよお前」
「しょうがないでしょそれがルールなんだから! こらこっち見んな!」
疑り深そうに顔を少し後ろに向けようとする敦也に、友恵は釘を刺した。
一方の哲昌はといえば、見るなと言われても友恵と向き合うような位置にいる以上それも難しいことであった。とりあえずは友恵、敦也、哲昌が一直線に並ぶように位置取り、友恵の姿が敦也に隠れて見えないようにする。
「わかってますか先輩。見るなと言われてもある程度相手を目視しないと勝てませんよこのゲーム」
「わかってはいるんだが……」
女子の裸を、それも好きな人の見ている前で見るのは相当に抵抗があるのだ。
敦也も哲昌も見ていないのを確認した上で、友恵は水鉄砲を床に置き水着の肩紐を一つずつ外して脱ぎ始める。あと少しで胸の先端が見えそうな所で水着を下ろす手が止まるも、ほどなくして覚悟を決めて一気に下ろした。
リール説明通りおへそが見えるくらいまで下ろしたところで、友恵はすぐさま両掌で胸を隠す。掌に収まる程度の慎ましやかなサイズである。
「ほ、ほら脱いだけど……これでいい?」
勢い良く脱いだはよいものの、後から後悔。恥ずかしくて死にそうになり、耳まで真っ赤になっている。
「水鉄砲を拾わないとゲーム再開できませんよ。プールに落としたらアウトになりますから、気をつけて拾って下さいね」
ルシファーの指摘を受けた友恵はうーと呻りながら胸を隠すのを両掌から左腕一本に変える。片腕だけで胸を隠すというのは、なかなか安定しないものである。少し動けば簡単にずれてしまい、特に恥ずかしい部分を晒すこととなってしまう。
「敦也、ちょっと脚閉じて。今しゃがんだら脚の間から見えちゃう」
「お、おう」
敦也が脚を閉じたのを確認すると、友恵はその後ろでしゃがんで水鉄砲を拾った。
「友恵? 水鉄砲拾えたか?」
背中を向けたまま敦也が尋ねる。
「うん、拾えた」
「さっきのは相手のフェイントに引っかかった俺のミスだ。ごめん」
「あ、うん」
素直に謝られると、かえって反応に困る。
「それではそろそろゲームを再開しても宜しいでしょうか」
ルシファーの声に、四人はそれぞれ肯定の返事をした。
「では改めまして……水鉄砲シューティング、再開です!」
合図が出ると同時に、撃ち合いが始まる。女子二人は積極的に撃ち、プールの上をせわしなく水が飛び交う。暦が余裕を持って冷静に撃てているのに対し、左腕で胸を隠し羞恥心に耐えながら撃つ友恵は動きがぎこちない。
男子は時に胴で、時に大きく手を伸ばして水を受け止めてゆく。一度でも体に触れればその水が後ろの女子にかかってもセーフである以上、とにかく水に触れにいくよう動けばよいのだ。
「敦也もっと大きく動いてよ! さっきのギリギリだったよ!」
敦也の肘を掠った水が友恵の脇腹に当たり、アウトかセーフか紙一重なので血の気が引いた友恵。ルシファーが何も言わなかったので一先ず安心したが、それでも冷や冷やさせられたことには文句も言いたくなる。
「っせーな! つーかやりにくすぎるだろ後ろ向けないの!」
「しょうがないでしょ! あたしこんな状態なんだから!」
「そんな状態だからこそ安西先輩の視界に入んないように気を遣ってやってんじゃねーか!」
「えっ」
思いもよらぬ答えが返ってきたので、友恵は素でそんな声が出た。
敦也が不自然に少ない動きで防御していたのは、下手に動くと友恵の体が哲昌に丸見えになってしまうため。
好きな人が自分を守ってくれているという状況にドキドキしつつも、この男にそんなデリカシーがあったことが友恵には信じられなかった。
「とにかくまずは一点返さねーと……俺に作戦がある!」
「まあ……聞いてあげてもいいけど」
つんけんした気持ちもちょっと優しくされたらコロッと揺らぐが、それでもまだ素直になるには到らない。友恵は上から目線で消極的肯定の姿勢を見せた。
「安西部長はできるだけお前が視界に入らないようにしてる。だからお前の細かい動きまでは捉えきれないはずだ。それなら……」
友恵の攻撃が止んだ。哲昌が横目で見ると友恵は水の補充をしており、敦也はしゃがんだ友恵の体ができるだけ自分の体に隠れるよう姿勢を低くしていた。
暦の放った水は敦也の脚に防がれる。友恵と敦也は同時に立ち上がり、すると暦はすぐ哲昌の後ろに隠れた。
が、その時、暦の右肩に冷たい感触。直後にルシファーの声が響いた。
「幸村さん、アウトー!」
「えっ!?」
右肩から下に線を引くように水着を濡らす水を見て、暦はぎょっとした。
哲昌があまりはっきりとこちらを見ていないのを良いことに、友恵は斜め上に角度をつけて水鉄砲を撃っていた。放物線を描く水流が哲昌の頭上を飛び越え、暦にヒットしたのである。
「さて、それでは幸村さん、脱いで頂きましょう!」
「脱げばいいんでしょ、脱げば!」
脱衣ゲームへの参加二度目ともなると脱ぐことへの抵抗感も若干薄れており、暦は文句を言いつつも手に水鉄砲を持ったまま脱ぎ始める。背中の向こうから聞こえる濡れた布と肌の擦れる音が、哲昌を何とも言えない気持ちにさせた。
「ゆ、幸村? 位置大丈夫か? ちゃんと俺の体で隠れてるか?」
「はい、大丈夫です」
哲昌はピタリと静止して一瞬たりとも振り向こうとすらしないので、暦はその後ろで安心して脱ぐことができていた。おへそが見える辺りまで水着を下ろすと、すぐに左腕で胸を隠す。
「残念だったね敦也、幸村先輩のおっぱい見られなくって」
哲昌がバッチリとガードしてくれたお陰で、暦の脱ぐ姿は敦也には見えていない。
「うっせーな。何なんだよ幸村先輩幸村先輩って」
「別に何にも」
敦也を軽くからかった友恵であったが、それに文句を言われると今度は不機嫌そうに頬を膨らませた。
ルシファーの姿を見て、真っ先に反応したのは暦であった。他の三人がただただ困惑する中で、彼女一人だけがこの状況を理解している。
ブーメランパンツ一丁で雄雄しき色気に満ちた肉体を惜しげもなく晒すルシファーは、爪先だけで水面に立ち不敵な笑みを浮かべていた。
その水着は股上が浅く、下腹部にある淫魔の紋章を完全に露出していた。ルシファーの紋章は自身のトレードマークでもある二枚の黒翼をモチーフにした、何も知らない人が見たら単なるファッションタトゥーだと思えるクールでスタイリッシュなデザインをしている。
「そしてボクは、アシスタントのリリムちゃんでーす!」
と、そこでルシファーの背中に隠れていたリリムがひょっこりと顔を出す。
「貴方は前、体験入部に来ていた……」
「やっほー」
蝙蝠のような小さな翼を羽ばたかせて水面に立つリリムは、以前水泳部の体験入部で着ていたのと同じ赤のハイレグ水着姿。
「ていうかここ……例のプールじゃね?」
そう口に出したのは敦也である。哲昌も笑いを堪えるような仕草をしており、それが何か知っていることを窺わせる。水泳部員の四人が連れてこられたこの場所の風景は「例のプール」と言われれば大体通じるものであった。
「ねえ、先生」
リリムがこっそりルシファーに耳打ちする。
「これってさ……アレだよね?」
「こいつは淫魔だった頃に作ったセットを引っ張り出してきたものだ。今回の脱衣ゲームは急遽開催が決まったから、新しいセット作る時間が無かったんだよ」
アダルトビデオを髣髴とさせるセットはカップル成立を目的とした現在の脱衣ゲームにはそぐわないという考えを持つルシファーにとってこのセットを使うことは不本意ではあったが、今回の参加者が全員水泳部員であることを加味し使用に踏み切った。
「さて、幸村さんはご存知でしょうが、これより両ペアには脱衣ゲームで対決して頂きます。ゲームで負ける毎に女の子が服を脱いでいき、最終的に全裸になった方が負けです」
ほぼ裸の格好のまま飄々とした口調で、ルシファーは言う。
「さて今回のゲームは――水鉄砲シューティングです」
ゲーム名が宣言された途端、プールの両サイド付近に各二つずつ、合計四つの足場が現れた。足場は長方形で、イコールの記号のように二つ並んでいる。ルシファーとリリムは翼で飛行し、その片側の足場に降り立った。前の足場にルシファー、後ろの足場にリリム。そしてリリムの右手には、ピストル型のプラスチック製水鉄砲が握られた。いかにも百円ショップに売っていそうな、チープな代物だ。
「このゲームは男子が前衛、女子が後衛を務めます」
突然もう一方の足場に、鏡写しの如くルシファーとリリムがもう一人ずつ出現した。衝撃の光景に、参加者四人は呆気に取られる。
「水鉄砲を使用するのは女子だけです。これを使い、相手の女子を狙い撃ちます」
早速リリムが、手にした水鉄砲で分身リリム目掛けて水を撃ち出す。が、分身ルシファーは分身リリムを庇うように動きその身で水を受け止めた。
「男子はその身を盾にし、パートナーの女子が水に当たるのを防ぎましょう。もし女子が水鉄砲で撃たれた場合、アウトとなり服を脱がねばなりません」
「えっ」
「やっぱりそれなんだ……」
初めて脱衣ゲームに参加する友恵が素で驚いている一方、暦は呆れて顔が引き攣っている。
「っていうか今水着一枚なんだけど!? 一回脱いだらもうマッパなんだけど!?」
「そうです。そこで今回のルールではアウト一回目で水着をおへそが出る辺りまで下ろし、二回目で全裸となって敗北となります」
友恵の尤もな指摘に、ルシファーは返答。今回は普段の半分の回数で全裸にされてしまう、かなり緊張感のあるゲームである。
「何なのそれー!」
「二回もこんなのに参加させられるとか……最悪なんだけど……」
女子からブーイングが飛ぶ中、男子二人は動揺と胸の高鳴りを同時に感じていた。
(マジかよAVじゃんかこれ)
(え……幸村が裸に……?)
試験期間のため暫く脱衣ゲームを開催していなかったルシファーにとって、こういう反応には懐かしさと嬉しさを覚える。
それはそれとして、ルール説明を続行。
「なお、女子が落水した場合もアウトとして扱われます」
分身リリムが足を滑らせるように転んで落水。
「男子が落水した場合はアウトになりませんが、当然そうなると女子は無防備になります」
今度は分身ルシファーが派手にずっこけ、大きな水柱を上げて落水。所詮相手が分身だから、自分と同じ姿をしたもの相手にやりたい放題である。
「状況に応じて、落水も狙っていくとよいでしょう。水鉄砲の水の補充は足元のプールで行って下さい。補充のために手を水に付けるのは落水扱いになりませんが、水鉄砲をプールに落とすとアウトになるのでお気をつけ下さい」
足場に戻った分身リリムが、しゃがんで水鉄砲をプールに入れ補充を実演してみせる。
「なお補足として、水鉄砲から撃たれた水でも男子の体、足場、水面等に一度当たった水は女子が触れてもアウトになりません。アウトになるのは、水鉄砲から発射された後何も触れなかった水に限ります」
本物リリムの撃った水が分身ルシファーの脇腹を掠めて後ろの分身リリムに当たるも、これはセーフである。
「さて、最後にこのゲーム、負けた側の女子は全裸にされてしまいますが、勝ったペアはカップル成立となります」
その言葉を聞いた途端、電撃が走ったかのような表情で哲昌が暦を見た。
「ああ、それなら嘘ですよ先輩。私、以前にもあの銀髪男が主催するゲームに参加させられたことがありまして。ゲームには勝ったんですが、カップル成立は私が拒否しました。あの男はああ言ってますけど、勝っても強制的にカップルにさせられるわけではありません」
「そ、そうなのか」
多少ガッカリしつつも、その前回の際に暦がカップル成立を拒否していたことにほっとする気持ちもある。何とも複雑な心境であった。
そしてそんな暦の話を聞いた友恵に、焦りが生じる。
(負けたら全裸にされる上に勝っても敦也と付き合えるとは限らないって……何の意味があるのこれ!? 頑張っても損するだけじゃない?)
実際は何の強制力も無いが名目として存在する「勝ったらカップル成立」のルール。だが今回は過去にカップル不成立となった参加者が再度参加しているため、そのルールが嘘であると全員が知った状態でゲームを行うこととなるイレギュラーが発生。どうなっちゃうのと慌て顔のリリムであるが、ルシファーはむしろ不敵に笑っていた。
「さて、それでは皆様には足場の上に移動して頂きましょう」
分身ルシファーと分身リリムが消え、本物のルシファーとリリムはプールサイドまで飛んで移動。そして逆側のプールサイドにいた四人の参加者は、体が宙に浮かび上がった。
「うげっ!? 浮いてる!?」
不思議体験に仰天しながら、四人はそれぞれの足場へと運ばれた。四人が再び地に足付けたところで、ルシファーは恒例の参加者紹介。
「それでは改めまして今回の参加者をご紹介しましょう。赤コーナー男子、一年A組水泳部、芝田敦也! 同じく女子、一年A組水泳部、手島友恵Bカップ! 青コーナー男子、三年C組水泳部、安西哲昌! 同じく女子、二年A組水泳部、幸村暦Fカップ!」
男子二人の脳裏に、Fカップという言葉が繰り返し響いた。思春期の男子にとって、それはもう言葉だけで興奮できるほど魅惑的な言葉である。
「女子二人には水鉄砲をお渡しします。先程も説明致しましたが、プールに落とすとアウトとして扱われ服を一回分脱がねばなりませんのでご注意下さい」
先程リリムが使っていたピストル型の水鉄砲が女子二人の手の位置に現れ、ルシファーによって動かされた手が自動的にそれを握る。
「先輩、今は一分一秒でも時間が惜しいですから。一刻も早く勝ってこんな場所から脱出しましょう」
「あ、ああ……」
あくまでも自分とカップルになる気は一切無い。そう思わせる暦の様子に、哲昌は落胆していた。
(本当、微塵も意識されてないんだな……)
「皆さん準備はいいですね。それでは……ゲーム開始です!」
「よし、今だ友恵撃て!」
開始直後の隙を狙って、敦也は撃つことを指示。友恵は言われるがまま慌てて引き金を引いた。
「冷てっ!」
直後に響く敦也の声。友恵の撃った水は、見事敦也の背中にヒットしていた。
「あっごめん」
謝る友恵に振り返ろうとしたところで、今度は前から暦の撃った水がかかる。
「あぶねっ! くそっ、前と後ろ両方気にしなきゃならねーのかこのゲーム」
「ていうか当てにくくないこれ?」
友恵の指摘は尤もである。前衛と後衛が一直線に並んでいれば防御は完璧であるが、攻撃しようと思うと前衛の体が視界と射線を塞いで邪魔をする。隠れたままでは相手に水を当てることはままならず、ある程度自分の身を危険に晒さねば勝てないのだ。
そして前衛の男子も常に前後両方に注意を向けながら位置取りをせねばならず、一瞬たりとも油断のできない緊張感がある。
勝ちを急ぐ暦は、哲昌の後ろから少しだけ手と顔を出し少量の水を矢継ぎ早に連射する作戦に出る。敦也は一つたりとも友恵の方に行かせまいと、一つ一つ見切って体で受け止めた。
「相手ばっか攻めさせるな友恵! こっちからも撃て!」
暦がしゃがんで水の補充をしている内に、敦也は後ろを振り返って友恵に声をかける。
「わかってる!」
煩わしそうに返事をした友恵は顔だけ出し、暦が補充を終えて攻撃に出るのを待つ。
「ていうか敦也、あんた何必死になってんの? そんなに幸村先輩の裸が見たいわけ?」
「はあ!? 何言ってんだお前」
勝てばカップル成立というのが嘘だと判明した以上、勝つことによって得られる何よりの報酬は相手の女子の裸が見られることだ。それも相手は水泳部のアイドルにしてFカップの爆乳美人、幸村暦である。
入部して間もない頃、暦の競泳水着姿を見た敦也の下半身がいきり立っていたことが友恵は強く印象に残っている。
敦也を魅了したあの抜群のスタイルは自分では逆立ちしてもああはなれないものであり、友恵は敗北感に打ちひしがれるばかりであった。
「相手は待ち伏せしてるぞ、幸村」
哲昌が暦に注意を促すと、暦ははいと簡潔に返事をした。
水鉄砲の中が水で満たされると、暦は立ち上がる。暦が小声で作戦を伝えると、哲昌は頷いた。
暦は水鉄砲を構え哲昌の右側に大きく体を出す。友恵はすかさず水鉄砲を撃つが、それとほぼ同時に哲昌が暦の前に重なるように動いて防御。暦は瞬時にステップを踏んで左へと飛び出し、隙だらけの友恵目掛けて水を放つ。
一度右に出たのはフェイント。完全にそちらから撃ってくると踏んでいた敦也の防御をすり抜け、一直線に飛ぶ水が友恵の胸にヒット。
「手島さん、アウトー!」
ルシファーが人差し指で友恵を指して叫ぶ。
「え……ちょ……」
何が起こったか初めわからなかった友恵が次第に事を理解するにつれ、顔が青ざめていった。
「それでは手島さん、脱いで頂きましょう!」
「ほ、ホントに脱がなきゃダメ?」
「ダメです」
冷徹な物の言いようだが、ルシファーの口調はおどけている。
「……敦也、あんた絶対こっち見ちゃ駄目だからね! 安西部長もですよ!」
「えっ、マジで脱ぐのよかよお前」
「しょうがないでしょそれがルールなんだから! こらこっち見んな!」
疑り深そうに顔を少し後ろに向けようとする敦也に、友恵は釘を刺した。
一方の哲昌はといえば、見るなと言われても友恵と向き合うような位置にいる以上それも難しいことであった。とりあえずは友恵、敦也、哲昌が一直線に並ぶように位置取り、友恵の姿が敦也に隠れて見えないようにする。
「わかってますか先輩。見るなと言われてもある程度相手を目視しないと勝てませんよこのゲーム」
「わかってはいるんだが……」
女子の裸を、それも好きな人の見ている前で見るのは相当に抵抗があるのだ。
敦也も哲昌も見ていないのを確認した上で、友恵は水鉄砲を床に置き水着の肩紐を一つずつ外して脱ぎ始める。あと少しで胸の先端が見えそうな所で水着を下ろす手が止まるも、ほどなくして覚悟を決めて一気に下ろした。
リール説明通りおへそが見えるくらいまで下ろしたところで、友恵はすぐさま両掌で胸を隠す。掌に収まる程度の慎ましやかなサイズである。
「ほ、ほら脱いだけど……これでいい?」
勢い良く脱いだはよいものの、後から後悔。恥ずかしくて死にそうになり、耳まで真っ赤になっている。
「水鉄砲を拾わないとゲーム再開できませんよ。プールに落としたらアウトになりますから、気をつけて拾って下さいね」
ルシファーの指摘を受けた友恵はうーと呻りながら胸を隠すのを両掌から左腕一本に変える。片腕だけで胸を隠すというのは、なかなか安定しないものである。少し動けば簡単にずれてしまい、特に恥ずかしい部分を晒すこととなってしまう。
「敦也、ちょっと脚閉じて。今しゃがんだら脚の間から見えちゃう」
「お、おう」
敦也が脚を閉じたのを確認すると、友恵はその後ろでしゃがんで水鉄砲を拾った。
「友恵? 水鉄砲拾えたか?」
背中を向けたまま敦也が尋ねる。
「うん、拾えた」
「さっきのは相手のフェイントに引っかかった俺のミスだ。ごめん」
「あ、うん」
素直に謝られると、かえって反応に困る。
「それではそろそろゲームを再開しても宜しいでしょうか」
ルシファーの声に、四人はそれぞれ肯定の返事をした。
「では改めまして……水鉄砲シューティング、再開です!」
合図が出ると同時に、撃ち合いが始まる。女子二人は積極的に撃ち、プールの上をせわしなく水が飛び交う。暦が余裕を持って冷静に撃てているのに対し、左腕で胸を隠し羞恥心に耐えながら撃つ友恵は動きがぎこちない。
男子は時に胴で、時に大きく手を伸ばして水を受け止めてゆく。一度でも体に触れればその水が後ろの女子にかかってもセーフである以上、とにかく水に触れにいくよう動けばよいのだ。
「敦也もっと大きく動いてよ! さっきのギリギリだったよ!」
敦也の肘を掠った水が友恵の脇腹に当たり、アウトかセーフか紙一重なので血の気が引いた友恵。ルシファーが何も言わなかったので一先ず安心したが、それでも冷や冷やさせられたことには文句も言いたくなる。
「っせーな! つーかやりにくすぎるだろ後ろ向けないの!」
「しょうがないでしょ! あたしこんな状態なんだから!」
「そんな状態だからこそ安西先輩の視界に入んないように気を遣ってやってんじゃねーか!」
「えっ」
思いもよらぬ答えが返ってきたので、友恵は素でそんな声が出た。
敦也が不自然に少ない動きで防御していたのは、下手に動くと友恵の体が哲昌に丸見えになってしまうため。
好きな人が自分を守ってくれているという状況にドキドキしつつも、この男にそんなデリカシーがあったことが友恵には信じられなかった。
「とにかくまずは一点返さねーと……俺に作戦がある!」
「まあ……聞いてあげてもいいけど」
つんけんした気持ちもちょっと優しくされたらコロッと揺らぐが、それでもまだ素直になるには到らない。友恵は上から目線で消極的肯定の姿勢を見せた。
「安西部長はできるだけお前が視界に入らないようにしてる。だからお前の細かい動きまでは捉えきれないはずだ。それなら……」
友恵の攻撃が止んだ。哲昌が横目で見ると友恵は水の補充をしており、敦也はしゃがんだ友恵の体ができるだけ自分の体に隠れるよう姿勢を低くしていた。
暦の放った水は敦也の脚に防がれる。友恵と敦也は同時に立ち上がり、すると暦はすぐ哲昌の後ろに隠れた。
が、その時、暦の右肩に冷たい感触。直後にルシファーの声が響いた。
「幸村さん、アウトー!」
「えっ!?」
右肩から下に線を引くように水着を濡らす水を見て、暦はぎょっとした。
哲昌があまりはっきりとこちらを見ていないのを良いことに、友恵は斜め上に角度をつけて水鉄砲を撃っていた。放物線を描く水流が哲昌の頭上を飛び越え、暦にヒットしたのである。
「さて、それでは幸村さん、脱いで頂きましょう!」
「脱げばいいんでしょ、脱げば!」
脱衣ゲームへの参加二度目ともなると脱ぐことへの抵抗感も若干薄れており、暦は文句を言いつつも手に水鉄砲を持ったまま脱ぎ始める。背中の向こうから聞こえる濡れた布と肌の擦れる音が、哲昌を何とも言えない気持ちにさせた。
「ゆ、幸村? 位置大丈夫か? ちゃんと俺の体で隠れてるか?」
「はい、大丈夫です」
哲昌はピタリと静止して一瞬たりとも振り向こうとすらしないので、暦はその後ろで安心して脱ぐことができていた。おへそが見える辺りまで水着を下ろすと、すぐに左腕で胸を隠す。
「残念だったね敦也、幸村先輩のおっぱい見られなくって」
哲昌がバッチリとガードしてくれたお陰で、暦の脱ぐ姿は敦也には見えていない。
「うっせーな。何なんだよ幸村先輩幸村先輩って」
「別に何にも」
敦也を軽くからかった友恵であったが、それに文句を言われると今度は不機嫌そうに頬を膨らませた。
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