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第一章
第17話 リリムはコスプレ好き
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赤沢詩織と都築秀、新谷千穂と木崎大悟の両カップルを成立させた日の放課後。リリムは水泳部の体験入部のためプールに来ていた。
水泳の授業で着用していた白スクから一転、赤のハイレグ競泳水着を着用。あざといコスプレ水着とは違う本気で泳ぐための水着で、華麗なクロールを披露する。
「凄いよ凛々夢ちゃん!」
プールから上がるリリムに声をかけてきたのは、茶髪ミディアムヘアーでおっとりゆるふわな雰囲気の同級生、三鷹佐奈。その後ろには以前ルシファーの脱衣ゲームに参加していた二年A組の幸村暦もいる。
「それだけ泳げるなら、ぜひうちの部に入って欲しいくらいよ」
「んー、競泳水着着られるのは魅力的だけど……とりあえず全部の部活回ってから決めるつもりなんだよね」
暦からのスカウトに、リリムは新体操部と時と同じように答えた。
「それにしても、佐奈ちゃんが水泳部なのってちょっと意外だよね。おっとりしてるからインドア派かと思ってた」
「泳ぐのは小さい頃から好きなんだー。ちなみに種目は平泳ぎだよー」
「なるほど確かに。授業のプールの時も思ったけど、ハイレグ競泳水着よく似合ってて着慣れてるって感じするもんね」
佐奈が着ているのはピンクの競泳水着。授業で着ていた紺色の競泳水着と同型の色違いである。リリムや暦が着ているものよりはカットが浅めだがきっちりハイレグ状になっている。
「あはー、実はちょっぴり恥ずかしいんだけどね。でもスパッツ型だとお尻大きいのかえって目立っちゃうし、こっちのがシュッとして見えるから」
「お尻が大きいのはいいことじゃない。私もお尻大きいけど、むしろ自慢な方だよ」
暦がすまし顔で言う。
佐奈はクラス一の安産型であり、クラス内外の巨尻好き男子から注目を集める存在。実際競泳水着を着て多少露出させた佐奈のお尻は、大変迫力のあるものであった。
「私も自分の魅力だとは思ってるんだけどねー。それはそれとして、乙女心としては恥ずかしい気持ちもある的な……」
男子からのいやらしい視線は何かと気になってしまうものである。
グラマーな身体で幾多の男子の心を奪ってきた暦も然り、彼女達の競泳水着姿を一目見たいと思っている男子は数知れず。だがこの学校のプールは外から覗けないようしっかりとフェンスが張られており、それを拝めるのは水泳部男子の特権なのだ。
翌日の放課後、今日の体験入部は陸上部である。セパレートのレーシングウェアでセクシーかつスポーティーにバッチリ決めて、疾風の如くグラウンドを駆ける。陸上部員にも決して劣らぬ健脚を見せ付けて、周囲からは喝采が起こった。
「凄いじゃん凛々夢。このまま陸上部入っちゃいなよ」
リリムより先にゴールしていた永井百合音が、お尻に食い込んだレーシングショーツを直しながら言った。
彼女は小麦色の肌に茶色のパイナップルヘアー、割れた腹筋と肉付きの良い太腿が魅力的なボーイッシュ少女である。レーシングウェア姿は実に様になっており、男心をくすぐる食い込み直しの動作は陸上部男子達にとっての眼福だ。
「いやー、流石ボク。どこの部活行ってもスカウトされちゃうなー」
リリムもまた、男子達の方に背を向けて見せびらかすようにレーシングショーツの食い込みを直しながら言った。
運動神経抜群のリリムは、実際大抵の運動部で即戦力になるだろう。それを本人も自覚しているからこそ、様々な部を回って一番楽しめそうな所を探しているのだ。
「あ、男子が走るよ!」
百合音が指差した先で、男子部員達がレースを始める。力強い走りでトップを飾ったのは、金髪と日に焼けた肌でチャラい印象の男子。
「あー、川澄君最下位だよ」
リリムと百合音の同級生、川澄龍之介は全力で走るも最下位でゴールし、息絶え絶えになっていた。
「川澄君も頑張ってはいるんだけどね、結果に繋がらないのが不憫というか……あ、一番になった人、あたしの彼氏ね。二年D組の久保謙哉」
「へー、えっちはもうしてるの?」
「ガッツリしてる」
にひっと歯を見せて笑い、百合音は言った。謙哉は見た目はチャラ男だが、経験人数は一人。百合音とはお互い一途なカップルのようである。
火曜日には新体操部でレオタード姿を、水曜日には水泳部で競泳水着姿を、木曜日には陸上部でレーシングウェア姿を披露。有力候補となるユニフォームがセクシーな部活三選を真っ先に消化し、次はどこに行こうかとリリムは自宅で考えていた。
「やっぱ次に着るとしたらテニスウェアかなー。ミニスカート可愛いしね」
(あくまでもコスプレ視点で部活を選ぶのか)
自作のテニスウェアを手にして言うリリムを見ながら、ルシファーは思った。
翌日の二時間目。二年B組の面々は調理実習で家庭科室に集まっていた。
班分けは六人一組で全五班、各班男女最低二人ずつのルールの下自由に組んでいいことになっている。
相川凛華、島本悠里、三鷹佐奈の仲良し女子三人組は当然のように組んで、そこに凛華の彼氏である川澄龍之介と悠里の彼氏である佐藤孝弘が合流する。
(三鷹さんの班、あと一人空いてる……!)
佐奈の巨尻に惹かれし男、星影刃は心臓が高鳴った。
(これは俺の特技を三鷹さんにアピールできるチャンスだ! しかも他二組がカップルだから俺と三鷹さんもカップルみたいに見えるぞ!)
「ねーねー、ボクもこの班入っていいー?」
妄想に胸膨らませながらいざ刃が佐奈に話しかけようとした時、リリムがそれより早く佐奈達の班に声をかけた。
「凛華ちゃんってすっごく料理上手いんでしょ? ボク一度凛華ちゃんの作った料理食べてみたかったんだー」
「どうぞー」
(恋咲ィーーー!!!)
凛華が快くリリムを受け入れると、刃は心の中で叫んだ。その後ろで、比嘉健吾が苦笑い。
「比嘉、星影、俺と組んでくれないか」
そんな二人に声をかけたのは、クラス一のイケメン柊一輝。
「副委員長と組まなかったのか?」
「孝弘には彼女と一緒にさせてやりたかったからさ。俺がいても邪魔者になってたろうし」
孝弘と一輝は体育会系と文化系でタイプも違うのだが、長身眼鏡男子同士だからか不思議と馬が合う。教室でもよく話している姿を見る二人だが、最近は孝弘を悠里と一緒にさせてやろうと一輝が身を引いていることも多い。一輝自身にも最愛の彼女がいるため、恋人との関係の大切さはよく理解しているのだ。
(俺と三鷹さんが付き合ったとして、健吾はここまで気を利かせてくれるだろうか)
一輝の優しさを受けて、刃は友人に対して一抹の不安をよぎらせた。
凛華達と同じく早々に組んだのが、山本大地と須崎美奈のカップルを中心に風間純一、野村菊花、桃井宏美といったサッカー部員と女子テニス部員で構成された班。
また、伊藤琢己、本宮茂、八島信司らオタク男子グループに茂の幼馴染である田村響子、響子と仲が良い高梨比奈子、そして比奈子の彼氏である二階堂篤が順々に合流していった班も完成。
「おーいエロ女子トリオ、俺らと組もうぜー」
代々木当真と大山寺茂徳のエロ男子コンビが声をかけるのは、倉掛里緒、永井百合音、渡乃々可の三人組。
「誰がエロ女子トリオだ!」
「お前ら女子版の俺らみてーなもんじゃねーか」
「一緒にすんな!」
案の定組むことを拒否されたエロ男子コンビ。だがそこに救いの手を差し伸べる者が。
「代々木君、私達と組まない?」
そう声をかけたのは、目黒冬香。ボリューミーなセミロングの黒髪で、ミステリアスな雰囲気の少女である。背丈は当真より少し高い。同じ班を組むのは宮田麗と富岡桜の新体操部ペアだ。
冬香は仄かに微笑み、当真の瞳をじっと見つめてきた。
「お、おう」
当真は冬香の誘いを承諾。麗は苦笑いした。
「あの二人と組むのは正直アレだけど、ここは冬香のためにガマンしとくか」
「そうですね」
エロ男子コンビと組まずに済んだ乃々可達三人は、刃達の班に合流。
「よろしくねー柊君」
(俺らには挨拶無しかよ)
「比嘉君と星影君もよろしくー」
乃々可の失礼な態度に健吾が舌打ちをすると、すかさず百合音がフォローを入れた。
次々と班が形成されてゆく中、最後に余った生徒が一人いた。友達のいない男子、木場流斗である。あまり手入れされていない黒髪をだらしなく伸ばし、特に前髪は目が若干隠れるくらいになっている。見るからに暗い印象を与える見た目をしており、他の生徒と話す姿は滅多に見ない。休み時間は大体寝たふりをして過ごしている。
流斗の入れる枠が残っている班は二つ。エロ男子と芸術系女子の班か、サッカー部と女子テニス部の班。ここで流斗が入らなかった方は五人で調理実習をやることになる。
「おーい木場ー、お前も俺んとこ来いよ」
大地に手招きされた流斗は、呼ばれたから渋々といった仕草をしながら無言でそちらの班へと足を進めた。
班組みが全て終わったところで、早速調理開始。張り切っていたのは刃である。
(たとえ班が違っても、俺の特技をアピールするチャンスに違いは無い! 見ててくれ三鷹さん!)
慣れた手つきで調理する刃。地味でパッとしない彼がただ一つ誰にでも自慢できると思っている特技こそがこれである。彼の家はレストランを経営しており、両親は共に調理師。刃自身も幼い頃から店の手伝いをしてきたのだ。
ちなみに刃という名前は包丁に由来する。そこに星影という苗字が合わさって中二病感というのか少年漫画の主人公感というのか、見た目に似合わぬ妙に格好いい名前になってしまった。
「わー! 凛華ちゃんすごーい!」
家庭科室に響くリリムの声。凛華の調理する姿は刃に劣らず手馴れていた。リリムのやらかした盛大な失敗を完璧にフォローし、何事も無かったように調理を進めてゆく。クラス中の注目が、彼女一点に集まった。
凛華は茶髪のウェーブセミロングを二つ結びのお下げにしていて、顔の印象も化粧っ気が強くクラスの女子の中で見た目はどちらかといえば派手な方。だがそれが実は主婦スキルに優れた家庭的な女の子、というのはなかなかのギャップであった。
地味な男子が料理上手よりも美少女が料理上手だった方が当然目立つ。刃の方なんて誰も見ちゃいなかった。凛華と仲良しの佐奈は、勿論刃に視線を向ける理由など無い。
(ああ……俺の立場って……)
自分の華の無さが恨めしい。やるせない気持ちになりながらも、料理には手を抜かない。いつか佐奈が振り向いてくれる日を信じて、刃は強く生き続けるのである。
「へー、いいんちょと佐奈ちゃんも料理上手なんだねー」
凛華と共に手際よく調理する悠里と佐奈を見ながら、リリムが言った。
「小学生の頃からよく三人でお菓子とか作ってたの」
「その頃から凛華は別格で上手かったんだよねー。今じゃもうプロ並だし」
「プロ並は流石に褒めすぎだよー」
照れ笑いする凛華。するとリリムは悪戯な笑顔を見せ、龍之介を肘で小突いた。
「凛華ちゃんのお弁当を毎日食べられるなんて、幸せ者だねぇこのー」
「いやぁ、はは……」
孝弘と二人で野菜を洗っていた龍之介は、嬉しさと恥ずかしさの入り混じったような表情。
「島本さん、これ、洗い終わったよ」
孝弘は野菜を入れたざるを悠里に手渡す。
「ありがとう佐藤君」
ざるを受け取ろうとした悠里の手が、孝弘の手に触れた。
「あっ……」
びくりとして一度手放した悠里だが、改めてしっかりとざるを受け取る。
「ごっ、ごめんね佐藤君」
「あっ、いや……」
付き合い始めてから二週間が経つ二人であるが、未だ手を繋いだこともなし。同日に付き合った大地と美奈がとっくに行くとこまで行ってるのとは対照的に、関係性の進展は随分とスローペースであった。
「おお~、こちらのカップルも見せつけてくれるねー」
リリムと佐奈がニヤニヤした顔で見てくるので、悠里は居た堪れなくなりますます顔を赤くした。孝弘はそんな悠里の顔を見て可愛いなぁと和みつつ、いい加減進展させねばと心に誓った。
悠里達の様子を見ていた凛華は龍之介の顔を見るが、龍之介は頭に疑問符を浮かべた様子だった。
「ごちそうさまー。ぷはー、おいしかったー」
凛華達三人を中心に作った肉じゃがを食べ終えて、リリムはご満悦。
「恋咲さん、凄く美味しそうに食べてくれるから作りがいあったよー」
「いやー、最近美味しいものいっぱい食べてて舌の肥えてるボクでも、これは大満足だよ!」
ルシファーと一緒に暮らすようになってから毎日ルシファーの手料理を食べているリリムであるが、今日の肉じゃがはそれに勝るとも劣らぬ味であった。
「それにしても今日はごめんね、ボク失敗しちゃって。実はボク料理作るのは全然ダメなんだー」
一度失敗して以降、リリムはほぼ見学状態であった。ちなみに自宅では、台所に立つことをルシファーから禁止されている。
「でも凛々夢ちゃんが料理苦手ってちょっと意外。先週の家庭科ではお裁縫とっても上手で凄いなぁって思ってたし」
「ボク、コスプレ衣装とか自作するの趣味なんだよね」
「だったらさ、手芸部入ろうよ」
凛華が言う。
「あれだけ裁縫技術あるなら絶対向いてるよ。それに部長とも気が合いそうだし」
「確かにそうだね。葉山部長、きっと喜びそう」
凛華と同じ手芸部の悠里が相槌を打つ。
「手芸部かぁ……うん、じゃあ今日は手芸部に体験入部させてもらうことにするよ」
家庭科の授業を終え、二年B組の面々は特別教室棟から本校舎に戻る。途中下駄箱の前を通ると、たった今登校してきた生徒と鉢合わせた。男女それぞれ一人ずつである。
「あれ、桑田先輩じゃないスか」
茂徳はそのうち男子の方に声をかける。彼の名は桑田達之。テニス部の三年生であり、茂徳にとっては部活の先輩にあたる。茶染めの長髪で顔は良いといえば良い方であるが、どちらかといえば雰囲気イケメンと呼ぶ方が近い。
(経験人数二十六人……ほえーすっごい)
リリムは達之の顔を見て経験人数を知り、感心した。
「佳苗ちゃん!?」
達之と一緒にいる女子の名を呼んだのは美奈である。彼女の名は中島佳苗。アップにした金髪巻き髪の、見るからにギャル系という雰囲気である。
(こっちの子は経験人数一人。このチャラ男に処女頂かれちゃったのかー)
「美奈、知り合いか?」
大地が尋ねる。
「うん、女テニの後輩」
「須崎先輩、桃井先輩、ちわーす」
「佳苗ちゃん、もしかして……」
「はい、桑田先輩んちに泊まってきたんスよ」
佳苗がそう言うと、美奈と宏美は顔を見合わせ気の毒そうな表情をした。
「おい茂徳、お前たまには部活に顔出せよ」
「そっスね、はは……たまには顔出します」
普段は態度のでかい茂徳だが、達之の前では腰が引けている。
「そうだ茂徳、今度お前に俺のお古一個貸してやるよ」
「マジッスか!? あざーす先輩!」
途端、テンションの上がる茂徳。
「お古って……服か、ゲームか……」
「本当はわかってんだろ、大地」
大地の呟きに、純一が返す。そうだったら嫌だなと思った答えが、恐らくは正解だ。
「なんつーか……知りたくない世界だな」
大地は茂徳のことを友達だと思っているが、茂徳のこういう部分は快く思えなかった。
「じゃあな茂徳、楽しみにしとけよ」
二年B組の面々に別れを告げ、達之と佳苗はそれぞれの教室へと向かった。
「あーあ、佳苗ちゃんってばもう。男子テニス部の桑田先輩は女たらしだからくれぐれも気をつけるようにって、新入部員全員に伝えたはずなのに」
美奈は呆れと哀れみを籠めて言う。すると突然、大地は左腕を美奈の腰に回して抱き寄せた。
「わっ!? な、何?」
「お前も気をつけろよ。あいつ、女子テニス部員狙ってるんだろ?」
身近な脅威の存在を知って不安に駆られた大地の、突発的な行動だった。だけど美奈は、そうしてくれたことが無性に嬉しくなった。
「心配してくれてありがと。大好きだよ大地」
人指し指で頬をつっつくと、大地は照れくさそうに笑った。
(ま、美奈ちゃんには先生の紋章刻まれてるんだから心配いらないんだけどね)
生徒の中ではリリムだけが知る、紋章の効果。カップルの幸せを壊そうとする輩を寄せ付けない、天使のご加護である。
教室に戻ると、そこには二年B組ではない生徒がいた。流斗の席に勝手に座って待っていたその女子生徒は、金色のロングヘアで四角いレンズの黒縁眼鏡を掛け、若干童顔気味ながら睫毛の長い美人。制服越しでもわかる大変豊かな胸とむちむちの太腿に、男子達は目を奪われる。制服の着方やメイクの傾向は先程会った中島佳苗と同じギャル系のようだが、あちらよりも大分上品な印象を受けた。
「葉山部長!?」
彼女を見るなり声を上げたのは凛華である。
「あ、凛華ちゃんお帰りー。連絡受けて早速来たよー」
「え、誰?」
「手芸部部長の葉山千鶴先輩」
リリムの問いに、悠里が答える。
授業後凛華はすぐにスマートフォンでリリムの体験入部の件を千鶴に伝えていた。連絡を受けるなり千鶴は三年生の教室からわざわざやってきたのである。
「どーもどーも、ボクが今日体験入部させてもらう恋咲凛々夢でーす。よろしくお願いしまーす」
「こちらこそー」
リリムと千鶴はがっちり握手。一目見ただけで波長が合うと、リリムは感じ取った。
「凛々夢ちゃんに会うためだけにわざわざここに?」
「勿論それだけじゃないよー。悠里ちゃんの彼氏を一目見とこうと思ってね」
千鶴の目線が悠里に向く。悠里は少し焦った様子だった。
「え、えーっと……こちらの彼が、お付き合いしている佐藤君です」
「どうも、島本さんとお付き合いさせて頂いてます、佐藤孝弘です」
紹介された孝弘は、頭を下げて挨拶。
「へー、君が悠里ちゃんの。でかいねー」
(でかい……)
孝弘の視線は、自然と千鶴の胸に向けられた。
千鶴が立ち上がると、ただでさえ強い存在感を放つ胸がたゆんと揺れてその存在感をより強調。スカートは下着の見えないギリギリの長さに調整されており、白い太腿を大胆に見せている。
「佐藤君ねー。今日の放課後、楽しみにしててね」
千鶴はそう言って手を振ると、背筋を伸ばして優雅に歩きながら教室を出て行った。
「すげー、でけー……」
千鶴に見蕩れながら、当真が呟く。
先程まで自分の席を奪われていた流斗は、千鶴が出て行ってすぐ席に座った。まだ千鶴の尻の温もりが椅子に残っており、自分の席なのにどこか落ち着かない。いつものように寝たふりをしようと机に顔を伏せると、こちらも妙に暖かかった。
流斗は先程の光景を思い出した。千鶴はあの重そうな胸を、机の上に載せていたことを。つまりこの温度は千鶴の胸の温もり。先程までは正直辛くはあったがかろうじて我慢できていたのに、これを知ってしまってはもう堪え切れなかった。
水泳の授業で着用していた白スクから一転、赤のハイレグ競泳水着を着用。あざといコスプレ水着とは違う本気で泳ぐための水着で、華麗なクロールを披露する。
「凄いよ凛々夢ちゃん!」
プールから上がるリリムに声をかけてきたのは、茶髪ミディアムヘアーでおっとりゆるふわな雰囲気の同級生、三鷹佐奈。その後ろには以前ルシファーの脱衣ゲームに参加していた二年A組の幸村暦もいる。
「それだけ泳げるなら、ぜひうちの部に入って欲しいくらいよ」
「んー、競泳水着着られるのは魅力的だけど……とりあえず全部の部活回ってから決めるつもりなんだよね」
暦からのスカウトに、リリムは新体操部と時と同じように答えた。
「それにしても、佐奈ちゃんが水泳部なのってちょっと意外だよね。おっとりしてるからインドア派かと思ってた」
「泳ぐのは小さい頃から好きなんだー。ちなみに種目は平泳ぎだよー」
「なるほど確かに。授業のプールの時も思ったけど、ハイレグ競泳水着よく似合ってて着慣れてるって感じするもんね」
佐奈が着ているのはピンクの競泳水着。授業で着ていた紺色の競泳水着と同型の色違いである。リリムや暦が着ているものよりはカットが浅めだがきっちりハイレグ状になっている。
「あはー、実はちょっぴり恥ずかしいんだけどね。でもスパッツ型だとお尻大きいのかえって目立っちゃうし、こっちのがシュッとして見えるから」
「お尻が大きいのはいいことじゃない。私もお尻大きいけど、むしろ自慢な方だよ」
暦がすまし顔で言う。
佐奈はクラス一の安産型であり、クラス内外の巨尻好き男子から注目を集める存在。実際競泳水着を着て多少露出させた佐奈のお尻は、大変迫力のあるものであった。
「私も自分の魅力だとは思ってるんだけどねー。それはそれとして、乙女心としては恥ずかしい気持ちもある的な……」
男子からのいやらしい視線は何かと気になってしまうものである。
グラマーな身体で幾多の男子の心を奪ってきた暦も然り、彼女達の競泳水着姿を一目見たいと思っている男子は数知れず。だがこの学校のプールは外から覗けないようしっかりとフェンスが張られており、それを拝めるのは水泳部男子の特権なのだ。
翌日の放課後、今日の体験入部は陸上部である。セパレートのレーシングウェアでセクシーかつスポーティーにバッチリ決めて、疾風の如くグラウンドを駆ける。陸上部員にも決して劣らぬ健脚を見せ付けて、周囲からは喝采が起こった。
「凄いじゃん凛々夢。このまま陸上部入っちゃいなよ」
リリムより先にゴールしていた永井百合音が、お尻に食い込んだレーシングショーツを直しながら言った。
彼女は小麦色の肌に茶色のパイナップルヘアー、割れた腹筋と肉付きの良い太腿が魅力的なボーイッシュ少女である。レーシングウェア姿は実に様になっており、男心をくすぐる食い込み直しの動作は陸上部男子達にとっての眼福だ。
「いやー、流石ボク。どこの部活行ってもスカウトされちゃうなー」
リリムもまた、男子達の方に背を向けて見せびらかすようにレーシングショーツの食い込みを直しながら言った。
運動神経抜群のリリムは、実際大抵の運動部で即戦力になるだろう。それを本人も自覚しているからこそ、様々な部を回って一番楽しめそうな所を探しているのだ。
「あ、男子が走るよ!」
百合音が指差した先で、男子部員達がレースを始める。力強い走りでトップを飾ったのは、金髪と日に焼けた肌でチャラい印象の男子。
「あー、川澄君最下位だよ」
リリムと百合音の同級生、川澄龍之介は全力で走るも最下位でゴールし、息絶え絶えになっていた。
「川澄君も頑張ってはいるんだけどね、結果に繋がらないのが不憫というか……あ、一番になった人、あたしの彼氏ね。二年D組の久保謙哉」
「へー、えっちはもうしてるの?」
「ガッツリしてる」
にひっと歯を見せて笑い、百合音は言った。謙哉は見た目はチャラ男だが、経験人数は一人。百合音とはお互い一途なカップルのようである。
火曜日には新体操部でレオタード姿を、水曜日には水泳部で競泳水着姿を、木曜日には陸上部でレーシングウェア姿を披露。有力候補となるユニフォームがセクシーな部活三選を真っ先に消化し、次はどこに行こうかとリリムは自宅で考えていた。
「やっぱ次に着るとしたらテニスウェアかなー。ミニスカート可愛いしね」
(あくまでもコスプレ視点で部活を選ぶのか)
自作のテニスウェアを手にして言うリリムを見ながら、ルシファーは思った。
翌日の二時間目。二年B組の面々は調理実習で家庭科室に集まっていた。
班分けは六人一組で全五班、各班男女最低二人ずつのルールの下自由に組んでいいことになっている。
相川凛華、島本悠里、三鷹佐奈の仲良し女子三人組は当然のように組んで、そこに凛華の彼氏である川澄龍之介と悠里の彼氏である佐藤孝弘が合流する。
(三鷹さんの班、あと一人空いてる……!)
佐奈の巨尻に惹かれし男、星影刃は心臓が高鳴った。
(これは俺の特技を三鷹さんにアピールできるチャンスだ! しかも他二組がカップルだから俺と三鷹さんもカップルみたいに見えるぞ!)
「ねーねー、ボクもこの班入っていいー?」
妄想に胸膨らませながらいざ刃が佐奈に話しかけようとした時、リリムがそれより早く佐奈達の班に声をかけた。
「凛華ちゃんってすっごく料理上手いんでしょ? ボク一度凛華ちゃんの作った料理食べてみたかったんだー」
「どうぞー」
(恋咲ィーーー!!!)
凛華が快くリリムを受け入れると、刃は心の中で叫んだ。その後ろで、比嘉健吾が苦笑い。
「比嘉、星影、俺と組んでくれないか」
そんな二人に声をかけたのは、クラス一のイケメン柊一輝。
「副委員長と組まなかったのか?」
「孝弘には彼女と一緒にさせてやりたかったからさ。俺がいても邪魔者になってたろうし」
孝弘と一輝は体育会系と文化系でタイプも違うのだが、長身眼鏡男子同士だからか不思議と馬が合う。教室でもよく話している姿を見る二人だが、最近は孝弘を悠里と一緒にさせてやろうと一輝が身を引いていることも多い。一輝自身にも最愛の彼女がいるため、恋人との関係の大切さはよく理解しているのだ。
(俺と三鷹さんが付き合ったとして、健吾はここまで気を利かせてくれるだろうか)
一輝の優しさを受けて、刃は友人に対して一抹の不安をよぎらせた。
凛華達と同じく早々に組んだのが、山本大地と須崎美奈のカップルを中心に風間純一、野村菊花、桃井宏美といったサッカー部員と女子テニス部員で構成された班。
また、伊藤琢己、本宮茂、八島信司らオタク男子グループに茂の幼馴染である田村響子、響子と仲が良い高梨比奈子、そして比奈子の彼氏である二階堂篤が順々に合流していった班も完成。
「おーいエロ女子トリオ、俺らと組もうぜー」
代々木当真と大山寺茂徳のエロ男子コンビが声をかけるのは、倉掛里緒、永井百合音、渡乃々可の三人組。
「誰がエロ女子トリオだ!」
「お前ら女子版の俺らみてーなもんじゃねーか」
「一緒にすんな!」
案の定組むことを拒否されたエロ男子コンビ。だがそこに救いの手を差し伸べる者が。
「代々木君、私達と組まない?」
そう声をかけたのは、目黒冬香。ボリューミーなセミロングの黒髪で、ミステリアスな雰囲気の少女である。背丈は当真より少し高い。同じ班を組むのは宮田麗と富岡桜の新体操部ペアだ。
冬香は仄かに微笑み、当真の瞳をじっと見つめてきた。
「お、おう」
当真は冬香の誘いを承諾。麗は苦笑いした。
「あの二人と組むのは正直アレだけど、ここは冬香のためにガマンしとくか」
「そうですね」
エロ男子コンビと組まずに済んだ乃々可達三人は、刃達の班に合流。
「よろしくねー柊君」
(俺らには挨拶無しかよ)
「比嘉君と星影君もよろしくー」
乃々可の失礼な態度に健吾が舌打ちをすると、すかさず百合音がフォローを入れた。
次々と班が形成されてゆく中、最後に余った生徒が一人いた。友達のいない男子、木場流斗である。あまり手入れされていない黒髪をだらしなく伸ばし、特に前髪は目が若干隠れるくらいになっている。見るからに暗い印象を与える見た目をしており、他の生徒と話す姿は滅多に見ない。休み時間は大体寝たふりをして過ごしている。
流斗の入れる枠が残っている班は二つ。エロ男子と芸術系女子の班か、サッカー部と女子テニス部の班。ここで流斗が入らなかった方は五人で調理実習をやることになる。
「おーい木場ー、お前も俺んとこ来いよ」
大地に手招きされた流斗は、呼ばれたから渋々といった仕草をしながら無言でそちらの班へと足を進めた。
班組みが全て終わったところで、早速調理開始。張り切っていたのは刃である。
(たとえ班が違っても、俺の特技をアピールするチャンスに違いは無い! 見ててくれ三鷹さん!)
慣れた手つきで調理する刃。地味でパッとしない彼がただ一つ誰にでも自慢できると思っている特技こそがこれである。彼の家はレストランを経営しており、両親は共に調理師。刃自身も幼い頃から店の手伝いをしてきたのだ。
ちなみに刃という名前は包丁に由来する。そこに星影という苗字が合わさって中二病感というのか少年漫画の主人公感というのか、見た目に似合わぬ妙に格好いい名前になってしまった。
「わー! 凛華ちゃんすごーい!」
家庭科室に響くリリムの声。凛華の調理する姿は刃に劣らず手馴れていた。リリムのやらかした盛大な失敗を完璧にフォローし、何事も無かったように調理を進めてゆく。クラス中の注目が、彼女一点に集まった。
凛華は茶髪のウェーブセミロングを二つ結びのお下げにしていて、顔の印象も化粧っ気が強くクラスの女子の中で見た目はどちらかといえば派手な方。だがそれが実は主婦スキルに優れた家庭的な女の子、というのはなかなかのギャップであった。
地味な男子が料理上手よりも美少女が料理上手だった方が当然目立つ。刃の方なんて誰も見ちゃいなかった。凛華と仲良しの佐奈は、勿論刃に視線を向ける理由など無い。
(ああ……俺の立場って……)
自分の華の無さが恨めしい。やるせない気持ちになりながらも、料理には手を抜かない。いつか佐奈が振り向いてくれる日を信じて、刃は強く生き続けるのである。
「へー、いいんちょと佐奈ちゃんも料理上手なんだねー」
凛華と共に手際よく調理する悠里と佐奈を見ながら、リリムが言った。
「小学生の頃からよく三人でお菓子とか作ってたの」
「その頃から凛華は別格で上手かったんだよねー。今じゃもうプロ並だし」
「プロ並は流石に褒めすぎだよー」
照れ笑いする凛華。するとリリムは悪戯な笑顔を見せ、龍之介を肘で小突いた。
「凛華ちゃんのお弁当を毎日食べられるなんて、幸せ者だねぇこのー」
「いやぁ、はは……」
孝弘と二人で野菜を洗っていた龍之介は、嬉しさと恥ずかしさの入り混じったような表情。
「島本さん、これ、洗い終わったよ」
孝弘は野菜を入れたざるを悠里に手渡す。
「ありがとう佐藤君」
ざるを受け取ろうとした悠里の手が、孝弘の手に触れた。
「あっ……」
びくりとして一度手放した悠里だが、改めてしっかりとざるを受け取る。
「ごっ、ごめんね佐藤君」
「あっ、いや……」
付き合い始めてから二週間が経つ二人であるが、未だ手を繋いだこともなし。同日に付き合った大地と美奈がとっくに行くとこまで行ってるのとは対照的に、関係性の進展は随分とスローペースであった。
「おお~、こちらのカップルも見せつけてくれるねー」
リリムと佐奈がニヤニヤした顔で見てくるので、悠里は居た堪れなくなりますます顔を赤くした。孝弘はそんな悠里の顔を見て可愛いなぁと和みつつ、いい加減進展させねばと心に誓った。
悠里達の様子を見ていた凛華は龍之介の顔を見るが、龍之介は頭に疑問符を浮かべた様子だった。
「ごちそうさまー。ぷはー、おいしかったー」
凛華達三人を中心に作った肉じゃがを食べ終えて、リリムはご満悦。
「恋咲さん、凄く美味しそうに食べてくれるから作りがいあったよー」
「いやー、最近美味しいものいっぱい食べてて舌の肥えてるボクでも、これは大満足だよ!」
ルシファーと一緒に暮らすようになってから毎日ルシファーの手料理を食べているリリムであるが、今日の肉じゃがはそれに勝るとも劣らぬ味であった。
「それにしても今日はごめんね、ボク失敗しちゃって。実はボク料理作るのは全然ダメなんだー」
一度失敗して以降、リリムはほぼ見学状態であった。ちなみに自宅では、台所に立つことをルシファーから禁止されている。
「でも凛々夢ちゃんが料理苦手ってちょっと意外。先週の家庭科ではお裁縫とっても上手で凄いなぁって思ってたし」
「ボク、コスプレ衣装とか自作するの趣味なんだよね」
「だったらさ、手芸部入ろうよ」
凛華が言う。
「あれだけ裁縫技術あるなら絶対向いてるよ。それに部長とも気が合いそうだし」
「確かにそうだね。葉山部長、きっと喜びそう」
凛華と同じ手芸部の悠里が相槌を打つ。
「手芸部かぁ……うん、じゃあ今日は手芸部に体験入部させてもらうことにするよ」
家庭科の授業を終え、二年B組の面々は特別教室棟から本校舎に戻る。途中下駄箱の前を通ると、たった今登校してきた生徒と鉢合わせた。男女それぞれ一人ずつである。
「あれ、桑田先輩じゃないスか」
茂徳はそのうち男子の方に声をかける。彼の名は桑田達之。テニス部の三年生であり、茂徳にとっては部活の先輩にあたる。茶染めの長髪で顔は良いといえば良い方であるが、どちらかといえば雰囲気イケメンと呼ぶ方が近い。
(経験人数二十六人……ほえーすっごい)
リリムは達之の顔を見て経験人数を知り、感心した。
「佳苗ちゃん!?」
達之と一緒にいる女子の名を呼んだのは美奈である。彼女の名は中島佳苗。アップにした金髪巻き髪の、見るからにギャル系という雰囲気である。
(こっちの子は経験人数一人。このチャラ男に処女頂かれちゃったのかー)
「美奈、知り合いか?」
大地が尋ねる。
「うん、女テニの後輩」
「須崎先輩、桃井先輩、ちわーす」
「佳苗ちゃん、もしかして……」
「はい、桑田先輩んちに泊まってきたんスよ」
佳苗がそう言うと、美奈と宏美は顔を見合わせ気の毒そうな表情をした。
「おい茂徳、お前たまには部活に顔出せよ」
「そっスね、はは……たまには顔出します」
普段は態度のでかい茂徳だが、達之の前では腰が引けている。
「そうだ茂徳、今度お前に俺のお古一個貸してやるよ」
「マジッスか!? あざーす先輩!」
途端、テンションの上がる茂徳。
「お古って……服か、ゲームか……」
「本当はわかってんだろ、大地」
大地の呟きに、純一が返す。そうだったら嫌だなと思った答えが、恐らくは正解だ。
「なんつーか……知りたくない世界だな」
大地は茂徳のことを友達だと思っているが、茂徳のこういう部分は快く思えなかった。
「じゃあな茂徳、楽しみにしとけよ」
二年B組の面々に別れを告げ、達之と佳苗はそれぞれの教室へと向かった。
「あーあ、佳苗ちゃんってばもう。男子テニス部の桑田先輩は女たらしだからくれぐれも気をつけるようにって、新入部員全員に伝えたはずなのに」
美奈は呆れと哀れみを籠めて言う。すると突然、大地は左腕を美奈の腰に回して抱き寄せた。
「わっ!? な、何?」
「お前も気をつけろよ。あいつ、女子テニス部員狙ってるんだろ?」
身近な脅威の存在を知って不安に駆られた大地の、突発的な行動だった。だけど美奈は、そうしてくれたことが無性に嬉しくなった。
「心配してくれてありがと。大好きだよ大地」
人指し指で頬をつっつくと、大地は照れくさそうに笑った。
(ま、美奈ちゃんには先生の紋章刻まれてるんだから心配いらないんだけどね)
生徒の中ではリリムだけが知る、紋章の効果。カップルの幸せを壊そうとする輩を寄せ付けない、天使のご加護である。
教室に戻ると、そこには二年B組ではない生徒がいた。流斗の席に勝手に座って待っていたその女子生徒は、金色のロングヘアで四角いレンズの黒縁眼鏡を掛け、若干童顔気味ながら睫毛の長い美人。制服越しでもわかる大変豊かな胸とむちむちの太腿に、男子達は目を奪われる。制服の着方やメイクの傾向は先程会った中島佳苗と同じギャル系のようだが、あちらよりも大分上品な印象を受けた。
「葉山部長!?」
彼女を見るなり声を上げたのは凛華である。
「あ、凛華ちゃんお帰りー。連絡受けて早速来たよー」
「え、誰?」
「手芸部部長の葉山千鶴先輩」
リリムの問いに、悠里が答える。
授業後凛華はすぐにスマートフォンでリリムの体験入部の件を千鶴に伝えていた。連絡を受けるなり千鶴は三年生の教室からわざわざやってきたのである。
「どーもどーも、ボクが今日体験入部させてもらう恋咲凛々夢でーす。よろしくお願いしまーす」
「こちらこそー」
リリムと千鶴はがっちり握手。一目見ただけで波長が合うと、リリムは感じ取った。
「凛々夢ちゃんに会うためだけにわざわざここに?」
「勿論それだけじゃないよー。悠里ちゃんの彼氏を一目見とこうと思ってね」
千鶴の目線が悠里に向く。悠里は少し焦った様子だった。
「え、えーっと……こちらの彼が、お付き合いしている佐藤君です」
「どうも、島本さんとお付き合いさせて頂いてます、佐藤孝弘です」
紹介された孝弘は、頭を下げて挨拶。
「へー、君が悠里ちゃんの。でかいねー」
(でかい……)
孝弘の視線は、自然と千鶴の胸に向けられた。
千鶴が立ち上がると、ただでさえ強い存在感を放つ胸がたゆんと揺れてその存在感をより強調。スカートは下着の見えないギリギリの長さに調整されており、白い太腿を大胆に見せている。
「佐藤君ねー。今日の放課後、楽しみにしててね」
千鶴はそう言って手を振ると、背筋を伸ばして優雅に歩きながら教室を出て行った。
「すげー、でけー……」
千鶴に見蕩れながら、当真が呟く。
先程まで自分の席を奪われていた流斗は、千鶴が出て行ってすぐ席に座った。まだ千鶴の尻の温もりが椅子に残っており、自分の席なのにどこか落ち着かない。いつものように寝たふりをしようと机に顔を伏せると、こちらも妙に暖かかった。
流斗は先程の光景を思い出した。千鶴はあの重そうな胸を、机の上に載せていたことを。つまりこの温度は千鶴の胸の温もり。先程までは正直辛くはあったがかろうじて我慢できていたのに、これを知ってしまってはもう堪え切れなかった。
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