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第一章

第4話 神経衰弱・2

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(とにかく今ひながカードの位置を忘れてしまったのをどうにかしなければならない。そのために取るべきカードは……)

 篤は最初に覚えておいた通りにカードをめくり、揃ったカードを手札に加えた。
『全公開:伏せられた全てのカードを一旦表向きにして確認する』

(よし、これをひなの番に使えばひながお手つきをすることはない)

 続いて浩太も、新たなカードを入手。
『連続ターン:選択したプレイヤーは二回連続でターンを行う』
 そして再び、比奈子のターンが回ってきた。

「ここで俺は全公開のカードを使う。ひな、これでカードの場所を覚えるんだ」
「じゃあそれに無効化のカードを」

 暦は篤に無効化のカードを見せて言う。篤は口を開けて驚いた。

(そんなカードを持っていたのか!? しまった……ひなが脱がされたのに気を取られてて気付かなかった)

 もしもこれにカード泥棒を使っていれば、それ自体は無効にされぞ無効化のカードを消費させることができていた。
 しかもあのカードは、数少ない比奈子が場所を知っているカード。これでそれに該当するのはカード消滅一枚だけになってしまった。

「残念だったな、高梨さんには今後もお手つきしまくってもらうぜ!」

 勝ち誇る浩太は、歯を見せて笑う。

「すまんひな、俺が迂闊だった」
「そんなことないよ、私が忘れちゃったのが悪いんだし……」

 そう言いながら、比奈子はカードを一枚めくった。
『回復:お手つきできる回数を一つ回復し、脱いだ服を一回分着る』

「あっ、これいいカード」

 何としてでも手に入れたいと、比奈子は一生懸命に頭を振り絞って思い出そうとする。

「多分……これ!」

 出たカードは。
『シャッフル:裏向きのカードを全てシャッフルして置き直す』

「高梨さん、再びお手つきです!」

 比奈子の顔から血の気が引いていくのが、篤にはわかった。

「ご、ごめんねあっくん」
「何で俺に謝るんだよ!?」

 スカートを下ろすと、その下には部屋着として穿くような緩やかなショートパンツ。比奈子はよく転ぶためその拍子に公衆の面前で下着を公開してしまわないよう、篤の進言で普段からスカートの下には短パンを穿いている。

「あ、その短パンも脱いで下さいね」

 勿論ルシファーは、この状態で終えることを許さない。比奈子が渋々短パンを脱ぐと、白いフリルで飾られたキュートなピンクのショーツが姿を見せる。

「おーっ、可愛いパンツ!」

 浩太が声に出して反応してきたことで、篤は不快な気持ちにさせられた。

「次の俺の番で、必ずこの状況を打破するカードを取ってみせる。これ以上お前に脱がさせはしない」

 比奈子を少しでも安心させようと、篤は気の強いことを言う。

「あっくん……」

 恥ずかしさに紅潮していた比奈子の頬が、更に赤く染まった。

「ところが残念、ここで連続ターンのカードを高梨さんに使わせてもらうぜ!」

 が、そんないい雰囲気を壊すかのように浩太の声が響く。

「二回連続で脱いでもらうぞ。さあ、次はおっぱいだ!」
「そんな……酷いよ……」

 比奈子の悲しみの声。怯えた表情をする比奈子を見て、浩太はより愉快な気分になった。

(連続ターンのカード……全く警戒していなかった。まさかこんな使い方をするだなんて……)

 篤はこれを完全に浩太自身に使うカードとして認識していた。だが取り札の枚数ではなくお手つきの回数が重要なこのゲームにおいては、自分のターンよりも相手のターンを増やした方が有効なのだ。
 またも篤は、カード泥棒を使わなかったことを後悔した。カード泥棒は使えるタイミングが他プレイヤーのカード取得時に限定されているため、後からあの時使うべきだったと思ってももう遅い。
 比奈子は裏向きになったカードを、じっと見つめる。既に場所がわかっているカードは、カード消滅と回復とシャッフル。この中のどれかを引ければ、ブラジャーを脱ぐのは回避できるのだ。
 だがこの三十枚、既に何か判っているものを除いても二十七枚のカードの中から、僅か三枚の当たりを引けるのはよほどの運が無ければ無理である。
 震える手が、一枚目のカードをめくる。出たカードは。
『再挑戦:二枚目のカードをめくった後に使用。めくったカードを全て裏向きに戻し、一枚目からめくり直す』
 当たりのカードではなかった。今このカードを手札に持っていたらどれほどよかっただろうと言わんばかりの、皮肉なカードだ。

(そんな……)

 最早こうなっては、二十六分の一の幸運に賭けるしかない。

「落ち着くんだひな。一度は表側を見てるんだ。もう一枚の再挑戦があった場所を、落ち着いて思い出すんだ」

 平静を装っているが、落ち着けと言っている篤自身が相当焦っており、気が気じゃない状態であった。

「そんなこと言われても……」

 見るのが怖くなったのか、比奈子は目を瞑り机に手を下ろす。そして運に全てを委ね、触れたカードをそのままめくった。
 恐る恐る片目を開けると――手には二枚目の再挑戦。

「あ……当たった……」

 比奈子は胸を撫で下ろす。そして同じく篤も。

「くっ、運に救われたか」

 浩太は心底悔しそうな顔。
 再挑戦のカードは、現在の比奈子の置かれた状況と好相性だ。その点でも大きな救いになったと言える。
 次は暦のターン。暦はシャッフルのカードを取る。

(またひなの一度めくったカードを……)

 比奈子にとっての当たりを少しでも減らす、理に叶った作戦である。

「俺はここでカード泥棒を使用する」

 ここまで散々使うタイミングを逃してきたカードを、篤はここぞとばかりに使用。暦は無言でシャッフルを手渡した。
 シャッフルのカードを使われたら、せっかくここまで比奈子の覚えたカードも無駄になってしまう。使われたくないカードを自らの手に握り封じ込めるのが、カード泥棒の最も有効な使い方なのだ。
 そして再び、ターンは篤に回ってくる。

「安心しろひな。この状況を打破できるカードの目星はついてる。これだ」

 篤は自信満々にカードを一枚めくる。
『封印:裏向きのカード一枚を選択する。そのカードはこのターンめくれない』

「違う! このカードじゃない!」

 篤は表情を歪ませながら、渋々もう一枚の封印をめくった。浩太はそれを鼻で笑う。

「残念だったな。お前の欲しかったカード、こいつだろ」

 浩太は一枚目の封印の隣にあったカードをめくる。
『ターンスキップ:自分以外のプレイヤー一人のターンをスキップする』
 そしてもう一枚のターンスキップへと手を伸ばした。

「ここで俺は封印のカードを使う。対象はそのカードだ」

 今まさに浩太が取ろうとしていたカードを、篤は指差した。

「なっ……!」

 目を見開きぎょっとする浩太を、篤は鋭い目で見る。

「お前、ハメやがったな!」

 浩太は渋々別のカードをめくった。
『リサイクル:自分の捨て札一枚を手札に戻す』

「山城君、お手つきです! それでは幸村さん、脱いで頂きましょう!」

 浩太は期待に胸を膨らませ、いやらしい笑みを浮かべて暦を見る。

「へへへ、感謝するぜ。幸村が一回も脱がないまま勝っちまうのも味気なかったからな!」
「ったく……脱げばいいんでしょ」

 暦はあまり抵抗せず服を脱ぎ始める。浩太が歓喜に拳を振っている一方、篤は見てはいけないとばかりに目を逸らす。
 暦のFカップブラは紫のレース。浩太の期待を裏切らない、大人っぽいセクシー系である。ド迫力の胸には、比奈子でさえも気圧される。

「すごいおっぱい……」
「ひ、ひな!?」
「ほら、早くゲーム進めてよ!」

 堂々としているようで仄かに頬をピンクに染めながら、暦は進行を急かした。

「えっと、私の番だったよね」

 少し眉を下げて机のカードを見る比奈子。すごいおっぱいの衝撃でまたカードの場所を忘れてやしないかと、篤は少し心配になった。
 だが比奈子はしっかりと篤の意図を理解していた。一枚目にターンスキップのカードをめくり、二枚目には先程篤が封印したカードをめくる。ターンスキップのカードが二枚揃い、比奈子の手札に加わった。

「これでいいんだよね、あっくん」
「ああ」

 下着姿で篤を見上げ微笑む比奈子に、篤は一瞬ドキッとしてしまった。一度目を閉じて首を振り気を取り直すと、精悍な表情で比奈子を見る。

「ひな、ここからは積極的に攻めていくぞ。俺はシャッフルのカードを使用する!」
「ここでシャッフル!?」

 伏せられたカードは目で捕捉できないほどの高速で動き、位置をシャッフルされた。どのカードがどこにあるのか何一つわからない状態で挑まねばならないという、最初の比奈子と同じ状況の出来上がり。そして次にターンが回ってくるのは、暦である。

「……まあ、あと一回くらいなら全然脱げるし? ここは場所を覚えるためと思って割り切っておこうかな」

 そんな風に言っているものの、声の震えからは悔しさがにじみ出ている。出たカードの一枚目は、これまでに出ていなかったカード。
『手札交換:指定したプレイヤー二名は手札を一枚ずつ交換する』
 そしてもう一枚は、比奈子が一度めくっていた回復のカードであった。

「お手つきです! さあさあ脱いで下さい!」
「ブラまで見せたんならショーツくらい別に恥ずかしくもないし……」

 気にしていないそぶりでスカートを下ろし、布面積小さめな紫のショーツを露にする。とりわけお尻側の露出度が高く、彼女の抜群のプロポーションも相まってとてつもない色気を放っている。

「ぐへへ、お前下着も身体もエロいな……」

 恥も外聞も無くいやらしい目つきで暦の身体を舐め回すように見つめる浩太。暦は恥らう姿を見せることそのものを恥ずかしがっているのか、ツンとした態度ですまし顔。

「堂々としてるなぁ……かっこいい」

 そんな暦に、比奈子は羨望の眼差しを向けた。

「で、そっちのターンなんだけど」

 暦はまた進行を急かす。

「ひな、俺にターンスキップを使うんだ」
「う、うん。あっくんにターンスキップ使います」

 これで篤のターンが飛ばされ、浩太にターンが回ってくる。シャッフル直後の状態で自分にターンを回さず、比奈子にターンが回る頃にはある程度情報が出ている。攻めと守りを両立した、シャッフル後のバックアップも完璧な作戦だ。

(くそっ、圧勝だと思ってたのにいつの間にか追いつかれちまったぜ)

 先程までは暢気に鼻の下伸ばしていた浩太だが、ここで少し焦りが見えた。
 一枚目にめくったカードは、これまでに出ていないカード。
『トラップ:ランダムで選ばれた裏向きのカード一枚にトラップが仕掛けられる。それをめくったプレイヤーは一回分服を脱ぐ』
 続く二枚目も、また別のカード。
『おさわり:指定したプレイヤー一人の体の好きな部分に触れる』

「おさわりだと!?」

 それは最初にルシファーが禁止事項として説明した、他のプレイヤーの体に触れる行為を一時的に可能とするカード。浩太は目玉が飛び出そうになった。

(そんなカードもあったのか! セクシーポーズに気を取られて気付かなかったぜ。絶対欲しいぞこれは……)

 おさわりのカードに描かれた絵は人が人の肩に触れているだけであり、これといってやらしい要素は無い。美女の描かれたセクシーポーズにまず視線が行くのは無理も無いことであった。

(だがそれよりもだ、ここで俺がお手つきをしたってことは……)

 浩太は勢いよく首を動かし、暦の方を向く。暦は流石に動揺しており、顔を赤くし体は小刻みに震えていた。

「ここで二階堂&高梨ペアが逆転です。幸村暦さんのFカップおっぱい、大公開となります」
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