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第二章
第54話 恥ずかしい秘密を言えなきゃ×××を見せるゲーム・2
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五回戦。桃井宏美VS高梨比奈子。
「ここまで出たお題がHの話と小学生の頃の話と自分の体の話でしょ? 他には何があるわけ?」
「それは出てのお楽しみー」
宏美の質問に対し、リリムはすっぱりとはぐらかした。
一方の比奈子は。
(ううー、恥ずかしい話するのもお尻の穴見せるのもやだよぉー……あ、そういえば昨日露天風呂でコケた時、もしかしてあっくんにお尻の穴見られちゃってた……?)
それを今になって認識し赤面する。
ジャンケンの結果は、宏美がチョキで比奈子がパー。
「ふぁ……」
負けた比奈子は開いた掌を見てぽかんとしていた。
「それではひなちゃん、くじをどうぞ」
「うう……」
涙目になりながら一枚引いて、出てきたのは「苦手なことの話」である。
「よかった、あんまりHじゃないので。でも苦手なことなんて沢山ありすぎて……あっ」
比奈子は何か一つ思い付いたようで、早速立ち上がる。
「おっ、ひなちゃんのそのポーズえっち!」
両掌で股間を隠しながら立ち上がった比奈子であったが、それによって胸が両側からむぎゅっと寄せられている。
「ええ~、凛々夢ちゃん何やってもHって言うー」
ルール通り両手を身体の横に付けて包み隠せぬ体勢をとると、比奈子は話し始める。
「実は私、自転車に乗れなくて……今も補助輪が付いてます!」
比奈子の打ち明けた秘密は、エロ方面ではないにせよかなり恥ずかしいものであった。
「ひなちゃんちで実物見た時はびっくりしたよ……」
比奈子の家に遊びに行ったことがある響子が言う。
高校生にもなってこれはなかなかびっくりさせられる話だが、補助輪付きの自転車に乗る比奈子の姿を想像してみたらそれが実にハマって見えると感じた人は多かった。
六回戦。永井百合音VS田村響子。
「あちゃー……あたしの負けかぁ」
百合音がグーで響子がパー。負けた百合音は苦笑いし、響子はほっと胸を撫で下ろした。
そして百合音はくじを引くと、かなり引き攣った顔。
「うわっ、エグいの引いた」
そう言って見せる紙に書かれているのは「家族の話」である。立ち上がった百合音は目を閉じて話し始める。
「うちの両親、離婚しててね。家族関係の恥ずかしい話はぶっちゃけここで話すのを憚られるレベルだから。というわけでパス!」
百合音は皆に背を向け、お尻に左手をかける。お尻には普段部活で穿いているレーシングショーツの形に付いた日焼け跡と、それより布面積の小さい昨日の水着の形に付いた二重の日焼け跡。左手だけで軽くお尻を外側に寄せて、恥ずかしい場所を一瞬チラッと見せた後すぐさま戻し湯に身を隠した。
「やっば! はっず!」
声は笑っているが、後ろからでもわかるくらい顔は真っ赤である。
「彼氏には普通に見せてるし平気かなって思ってたけどさ、これだけの人数に見せるのはキツいわー」
「百合音ちゃん、ナイスアナルだよ!」
リリムはそれをサムズアップで讃える。だが中には笑っていられない人も。
同性相手とはいえ性的な部位を露出してまで話すのを拒むほどの「家族の話」。里緒は百合音が母子家庭であることを知っているが、その離婚の詳細までは詳しく知らなかった。
七回戦。野村菊花VS三鷹佐奈。
「また家族の話かぁ」
負けてくじを引いた菊花は、前回の百合音と同じお題を手にする。
「勝ってよかったー。もし負けて自分の体の話とか引いてたらお尻のサイズ言わされてたとこだったよー」
佐奈は既に一人Hのオカズを暴露済みであり、仮に「えっちの話」を引いたら別の話題を考えねばならない立場。勝ったことで大分安心した様子だった。
「えーと、そんじゃ……」
同性相手に裸体を見せることに抵抗感の薄い菊花は、男の子のような裸体を隠そうともせず堂々と立ち上がる。
「あたし、小六まで父ちゃんや兄ちゃん達とお風呂入ってました!」
「え、マジ? 小六っていったらもう下の毛とか生えてんじゃないの?」
美奈が驚いた顔で反応。
「あたし生えたの中一だから。ワキはもう生えてたけど」
「達って言ってたけど、お兄ちゃん何人かいるの?」
「うん。兄ちゃん三人いて、あたしが末っ子」
佐奈の質問に答えると、佐奈は嬉しそうな顔。
「そっかー。私も末っ子でお兄ちゃん二人いるよ。二人ともイケメンなんだー」
男兄弟の末っ子紅一点という点で共通している菊花と佐奈。しかし菊花が兄達の影響でボーイッシュに育った一方、佐奈はむしろ紅一点だからこそゆるふわ可愛い趣味になった。
でも聞かれてもいないのにオカズ暴露してくれるような佐奈の下ネタ耐性の強さには、男兄弟で育った影響をそこはかとなく感じると凛華は思っていた。
「そういえば佐奈はいくつまでお父さんとかお兄さん達と一緒に入ってたの?」
「お兄ちゃん達とは今でもたまに入ってるよ」
「えっ」
耳を疑う発言を聞いて、全員の視線が佐奈に向く。
「お父さんとは流石に入らないけど」
「え、水着着用とかで?」
「ううん、普通に裸だよ。これ話すと聞いた人みんなビックリするんだけどさ、うちでは普通なんだよねー」
けろっとした様子で笑って話す佐奈。以前から知っていた悠里と凛華は顔を見合わせて「本当びっくりしたよねー」と笑い合う。
「ところで悠里、次悠里の番だけど」
「うっ……」
忘れて現実逃避しようとしても、それは必ずやってくる。しかも相手は、アイドルジャンケン大会優勝者の神崎彩夏である。悠里はお風呂に入っているのに顔が青くなった。
八回戦。神埼彩夏VS島本悠里。これが最後の一戦となる。
始まる前から涙目になっている悠里。もしも「えっちの話」が出てきてしまったらどうしようと、悪いことばかり考えてしまう。Hはおろか一人Hでさえ経験の無い悠里にとって、このお題は相当厳しいものであった。
ジャンケンが始まると彩夏は昨日と同じように目を鋭くし――悠里がグーを出すのとほぼ同時にチョキを出した。
「いいんちょの勝ちー!」
「か、勝った……」
安心して力が抜けた悠里は、肩まで湯に浸かった。
(今、わざと負けて……?)
リリムがそう思ったのも束の間、彩夏はリリムの持つ箱から一枚くじを引く。
「恋の話……ね」
「彩夏ちゃんの恋バナ!?」
誰もが注目する、衝撃のお題。神崎彩夏といえば恋愛禁止を遵守し一切スキャンダルを起こさないことで知られるアイドル。それが恋バナとあっては、これまでのどんな「恥ずかしい話」よりも注目度は高い。
「もしくはアナル、だね」
リリムが付け加える。勿論お題に沿った話ができなければそうなるわけであり、アイドルが皆の前でそれを見せるのはそれはそれで相当に衝撃的なことである。
「えーっと……じゃあ、言っちゃおっかな。私、実は好きな人がいまーす」
立ち上がって、さらりと言って、また座る。これには皆してぽかん。
(彩夏ちゃんの好きな人って、まさか……!)
心当たりのあるリリムは、身を震わせていた。
「あ、このことは誰にも言っちゃ駄目だからね。特にマスコミ関係には」
「心得ましたわ」
家がマスコミ関係とも付き合いのある櫻が答える。
「はっ、そうだ、あまりに衝撃的すぎて忘れてた!」
と、そこでリリムが声を発した。
「おまた隠すチームが五勝で、おっぱい隠すチームが三勝。というわけでおまた隠すチームの勝利! 負けたおっぱい隠すチームはチームを代表してリーダーのボクがM字開脚でおしっこしまーす」
「しなくていいから!」
悠里が慌てて制止する。
「それと、神崎さんのことに限らず今日ここで知った秘密は胸の内に仕舞って絶対に誰にも話さないこと。いいですね」
そして学級委員長として、そこはきっちりと念を押しておくのである。
消灯後。今日も女子部屋では恋バナが熱く燃えていた。だけども今日は、恥ずかしい話の影響もあってか何やら内容がアダルティーな方向になっていた。
「でさー、付き合って三日で初Hだよ? 手早すぎじゃない?」
大地との初体験を語る美奈である。
「ま、あいつのそういうスケベなとこ、嫌いじゃないんだけど」
「あはは……私からしたら羨ましい限りだよ。龍之介君ももうちょっとスケベになってくれてもいいのに。そういえば悠里はどうなの?」
「えっ、私!?」
凛華から話を振られて、悠里は慌てふためく。
「わっ、私はそういうの、結婚してからでもいいかなって……」
「委員長、夢見ちゃってるとこ悪いけど、男ってのは例外なくスケベだよ。プラトニックラブで満足できる男なんて、ファンタジーの産物だから」
悠里を咎めたのは里緒である。彼女自身、以前はそういうファンタジーを信じていた身であった。
(そう言われても……ハグされただけでいっぱいいっぱいなのに……)
勿論悠里も、恋人ができた以上はそういう行為を求められた時のための備え――即ち彼氏に見せられる体作りはしているつもりだ。だけども心の準備はできていないのが本音であった。
(やっぱり孝弘君も、そういうのを求めてるのかな……?)
思わず想像してしまって、必死にそれを振り払う。
「そういえばさ、美奈と山本が付き合うことになったその時の話って聞いたことなかったよね」
「え? あー……それは……」
里緒が尋ねると、美奈ははぐらかした。
「悠里も訊いても教えてくれないんだよねー」
それに佐奈も続く。
美奈も悠里も、考えていることは同じ。黒い翼の生えたホストみたいな姿をした自称キューピッドに、謎の空間に連れていかれて脱衣ゲームをした結果付き合うことになりました、なんて言えるわけがないのだ。言うこと自体が単純に恥ずかしいし、そもそも非現実的すぎて言ったところで誰も信じないだろう。
悠里が話すのを尻込みしている中、美奈は意を決して口を開く。
「……キューピッドってさ、いると思う?」
その言葉にピクリと反応したのはリリムの他に、悠里、比奈子、菊花、里緒。ルシファーの脱衣ゲームを経験した女子達である。
そしてもう一人、彩夏もまた反応を見せていたが、そのことにリリムが気付くことはなかった。
「何? 藪から棒に?」
「あたしと大地が気持ちを伝え合うのをさ、手助けしてくれた人がいるんだよね。その人がいなかったら、きっと今もあたしと大地は友達の関係を抜け出せてなかった。感謝してんだよね、その人に」
脱衣ゲームや非現実的な要素についてはぼかしつつ、美奈は話す。
同じく悠里も、あの日のことを思い出していた。とてつもなく恥ずかしい思いもさせられたけど、脱衣ゲームという異常すぎる状況でもなければきっと思いを伝え合うことなんてできなかった。まるで心まで丸裸にされたかのように、秘めていた気持ちがすらすらと口から出てきた。
比奈子も気持ちは同じだ。幼馴染であり保護者という立場に拘り、関係性を進展させようとしなかった篤。多少強引な手段でも取らなければ、もしかしたら永遠に進展は無かったかもしれない。
憧れの先輩から女扱いされていないのではと思っていた菊花。先輩の気持ちを知ることができたのは、ルシファーのお陰だ。
そして、全く好みのタイプではないと思っていた男子の魅力を知れた里緒。
皆、恥ずかしい思いをさせられたことに複雑な気持ちはあれど、想いを遂げることができたことや素敵な恋人ができたことへの感謝の気持ちは大きい。
(美奈ちゃん、先生に感謝してるんだ)
美奈の話を聞いたリリムは、自分のことのように嬉しくなった。美奈の参加した脱衣ゲームはまだリリムがアシスタントになる前のことだが、ルシファーの起こした行動が人を幸せにしていることを実感できたのが何より嬉しかった。
今日の恋バナも実に盛り上がり、それを楽しんで聴くリリム。彼氏持ちの子の惚気話は聴いてて幸せな気持ちになるし、片想い中の子の話はいつかキューピッドとして叶えてあげたい気持ちになる。
だけど恋バナを楽しむのも良いが、忘れてはいけない。今日も皆が寝付いた頃合いを見計らって抜け出し、ルシファーの所へ夜這いに行くことになっているのだ。
(ムフフ、旅行先でのえっちって何だか新鮮でいいよねー。まあ実際やる場所は領域の中なんだけど)
それが楽しみで仕方が無いリリム。ふと、そんな甘ったるい気持ちを形にしたかのような香りをリリムは感じ取った。
(あ、なんかいい匂いする)
恋バナに夢中な同級生達は、突然湧いたこの香りに対する反応はこれといって見られない。
(あれ、もしかしてボクだけ……?)
そう思ったが、時すでに遅し。リリムの意識は香りに呑まれ、深い眠りへと落ちていった。
「ここまで出たお題がHの話と小学生の頃の話と自分の体の話でしょ? 他には何があるわけ?」
「それは出てのお楽しみー」
宏美の質問に対し、リリムはすっぱりとはぐらかした。
一方の比奈子は。
(ううー、恥ずかしい話するのもお尻の穴見せるのもやだよぉー……あ、そういえば昨日露天風呂でコケた時、もしかしてあっくんにお尻の穴見られちゃってた……?)
それを今になって認識し赤面する。
ジャンケンの結果は、宏美がチョキで比奈子がパー。
「ふぁ……」
負けた比奈子は開いた掌を見てぽかんとしていた。
「それではひなちゃん、くじをどうぞ」
「うう……」
涙目になりながら一枚引いて、出てきたのは「苦手なことの話」である。
「よかった、あんまりHじゃないので。でも苦手なことなんて沢山ありすぎて……あっ」
比奈子は何か一つ思い付いたようで、早速立ち上がる。
「おっ、ひなちゃんのそのポーズえっち!」
両掌で股間を隠しながら立ち上がった比奈子であったが、それによって胸が両側からむぎゅっと寄せられている。
「ええ~、凛々夢ちゃん何やってもHって言うー」
ルール通り両手を身体の横に付けて包み隠せぬ体勢をとると、比奈子は話し始める。
「実は私、自転車に乗れなくて……今も補助輪が付いてます!」
比奈子の打ち明けた秘密は、エロ方面ではないにせよかなり恥ずかしいものであった。
「ひなちゃんちで実物見た時はびっくりしたよ……」
比奈子の家に遊びに行ったことがある響子が言う。
高校生にもなってこれはなかなかびっくりさせられる話だが、補助輪付きの自転車に乗る比奈子の姿を想像してみたらそれが実にハマって見えると感じた人は多かった。
六回戦。永井百合音VS田村響子。
「あちゃー……あたしの負けかぁ」
百合音がグーで響子がパー。負けた百合音は苦笑いし、響子はほっと胸を撫で下ろした。
そして百合音はくじを引くと、かなり引き攣った顔。
「うわっ、エグいの引いた」
そう言って見せる紙に書かれているのは「家族の話」である。立ち上がった百合音は目を閉じて話し始める。
「うちの両親、離婚しててね。家族関係の恥ずかしい話はぶっちゃけここで話すのを憚られるレベルだから。というわけでパス!」
百合音は皆に背を向け、お尻に左手をかける。お尻には普段部活で穿いているレーシングショーツの形に付いた日焼け跡と、それより布面積の小さい昨日の水着の形に付いた二重の日焼け跡。左手だけで軽くお尻を外側に寄せて、恥ずかしい場所を一瞬チラッと見せた後すぐさま戻し湯に身を隠した。
「やっば! はっず!」
声は笑っているが、後ろからでもわかるくらい顔は真っ赤である。
「彼氏には普通に見せてるし平気かなって思ってたけどさ、これだけの人数に見せるのはキツいわー」
「百合音ちゃん、ナイスアナルだよ!」
リリムはそれをサムズアップで讃える。だが中には笑っていられない人も。
同性相手とはいえ性的な部位を露出してまで話すのを拒むほどの「家族の話」。里緒は百合音が母子家庭であることを知っているが、その離婚の詳細までは詳しく知らなかった。
七回戦。野村菊花VS三鷹佐奈。
「また家族の話かぁ」
負けてくじを引いた菊花は、前回の百合音と同じお題を手にする。
「勝ってよかったー。もし負けて自分の体の話とか引いてたらお尻のサイズ言わされてたとこだったよー」
佐奈は既に一人Hのオカズを暴露済みであり、仮に「えっちの話」を引いたら別の話題を考えねばならない立場。勝ったことで大分安心した様子だった。
「えーと、そんじゃ……」
同性相手に裸体を見せることに抵抗感の薄い菊花は、男の子のような裸体を隠そうともせず堂々と立ち上がる。
「あたし、小六まで父ちゃんや兄ちゃん達とお風呂入ってました!」
「え、マジ? 小六っていったらもう下の毛とか生えてんじゃないの?」
美奈が驚いた顔で反応。
「あたし生えたの中一だから。ワキはもう生えてたけど」
「達って言ってたけど、お兄ちゃん何人かいるの?」
「うん。兄ちゃん三人いて、あたしが末っ子」
佐奈の質問に答えると、佐奈は嬉しそうな顔。
「そっかー。私も末っ子でお兄ちゃん二人いるよ。二人ともイケメンなんだー」
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でも聞かれてもいないのにオカズ暴露してくれるような佐奈の下ネタ耐性の強さには、男兄弟で育った影響をそこはかとなく感じると凛華は思っていた。
「そういえば佐奈はいくつまでお父さんとかお兄さん達と一緒に入ってたの?」
「お兄ちゃん達とは今でもたまに入ってるよ」
「えっ」
耳を疑う発言を聞いて、全員の視線が佐奈に向く。
「お父さんとは流石に入らないけど」
「え、水着着用とかで?」
「ううん、普通に裸だよ。これ話すと聞いた人みんなビックリするんだけどさ、うちでは普通なんだよねー」
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「ところで悠里、次悠里の番だけど」
「うっ……」
忘れて現実逃避しようとしても、それは必ずやってくる。しかも相手は、アイドルジャンケン大会優勝者の神崎彩夏である。悠里はお風呂に入っているのに顔が青くなった。
八回戦。神埼彩夏VS島本悠里。これが最後の一戦となる。
始まる前から涙目になっている悠里。もしも「えっちの話」が出てきてしまったらどうしようと、悪いことばかり考えてしまう。Hはおろか一人Hでさえ経験の無い悠里にとって、このお題は相当厳しいものであった。
ジャンケンが始まると彩夏は昨日と同じように目を鋭くし――悠里がグーを出すのとほぼ同時にチョキを出した。
「いいんちょの勝ちー!」
「か、勝った……」
安心して力が抜けた悠里は、肩まで湯に浸かった。
(今、わざと負けて……?)
リリムがそう思ったのも束の間、彩夏はリリムの持つ箱から一枚くじを引く。
「恋の話……ね」
「彩夏ちゃんの恋バナ!?」
誰もが注目する、衝撃のお題。神崎彩夏といえば恋愛禁止を遵守し一切スキャンダルを起こさないことで知られるアイドル。それが恋バナとあっては、これまでのどんな「恥ずかしい話」よりも注目度は高い。
「もしくはアナル、だね」
リリムが付け加える。勿論お題に沿った話ができなければそうなるわけであり、アイドルが皆の前でそれを見せるのはそれはそれで相当に衝撃的なことである。
「えーっと……じゃあ、言っちゃおっかな。私、実は好きな人がいまーす」
立ち上がって、さらりと言って、また座る。これには皆してぽかん。
(彩夏ちゃんの好きな人って、まさか……!)
心当たりのあるリリムは、身を震わせていた。
「あ、このことは誰にも言っちゃ駄目だからね。特にマスコミ関係には」
「心得ましたわ」
家がマスコミ関係とも付き合いのある櫻が答える。
「はっ、そうだ、あまりに衝撃的すぎて忘れてた!」
と、そこでリリムが声を発した。
「おまた隠すチームが五勝で、おっぱい隠すチームが三勝。というわけでおまた隠すチームの勝利! 負けたおっぱい隠すチームはチームを代表してリーダーのボクがM字開脚でおしっこしまーす」
「しなくていいから!」
悠里が慌てて制止する。
「それと、神崎さんのことに限らず今日ここで知った秘密は胸の内に仕舞って絶対に誰にも話さないこと。いいですね」
そして学級委員長として、そこはきっちりと念を押しておくのである。
消灯後。今日も女子部屋では恋バナが熱く燃えていた。だけども今日は、恥ずかしい話の影響もあってか何やら内容がアダルティーな方向になっていた。
「でさー、付き合って三日で初Hだよ? 手早すぎじゃない?」
大地との初体験を語る美奈である。
「ま、あいつのそういうスケベなとこ、嫌いじゃないんだけど」
「あはは……私からしたら羨ましい限りだよ。龍之介君ももうちょっとスケベになってくれてもいいのに。そういえば悠里はどうなの?」
「えっ、私!?」
凛華から話を振られて、悠里は慌てふためく。
「わっ、私はそういうの、結婚してからでもいいかなって……」
「委員長、夢見ちゃってるとこ悪いけど、男ってのは例外なくスケベだよ。プラトニックラブで満足できる男なんて、ファンタジーの産物だから」
悠里を咎めたのは里緒である。彼女自身、以前はそういうファンタジーを信じていた身であった。
(そう言われても……ハグされただけでいっぱいいっぱいなのに……)
勿論悠里も、恋人ができた以上はそういう行為を求められた時のための備え――即ち彼氏に見せられる体作りはしているつもりだ。だけども心の準備はできていないのが本音であった。
(やっぱり孝弘君も、そういうのを求めてるのかな……?)
思わず想像してしまって、必死にそれを振り払う。
「そういえばさ、美奈と山本が付き合うことになったその時の話って聞いたことなかったよね」
「え? あー……それは……」
里緒が尋ねると、美奈ははぐらかした。
「悠里も訊いても教えてくれないんだよねー」
それに佐奈も続く。
美奈も悠里も、考えていることは同じ。黒い翼の生えたホストみたいな姿をした自称キューピッドに、謎の空間に連れていかれて脱衣ゲームをした結果付き合うことになりました、なんて言えるわけがないのだ。言うこと自体が単純に恥ずかしいし、そもそも非現実的すぎて言ったところで誰も信じないだろう。
悠里が話すのを尻込みしている中、美奈は意を決して口を開く。
「……キューピッドってさ、いると思う?」
その言葉にピクリと反応したのはリリムの他に、悠里、比奈子、菊花、里緒。ルシファーの脱衣ゲームを経験した女子達である。
そしてもう一人、彩夏もまた反応を見せていたが、そのことにリリムが気付くことはなかった。
「何? 藪から棒に?」
「あたしと大地が気持ちを伝え合うのをさ、手助けしてくれた人がいるんだよね。その人がいなかったら、きっと今もあたしと大地は友達の関係を抜け出せてなかった。感謝してんだよね、その人に」
脱衣ゲームや非現実的な要素についてはぼかしつつ、美奈は話す。
同じく悠里も、あの日のことを思い出していた。とてつもなく恥ずかしい思いもさせられたけど、脱衣ゲームという異常すぎる状況でもなければきっと思いを伝え合うことなんてできなかった。まるで心まで丸裸にされたかのように、秘めていた気持ちがすらすらと口から出てきた。
比奈子も気持ちは同じだ。幼馴染であり保護者という立場に拘り、関係性を進展させようとしなかった篤。多少強引な手段でも取らなければ、もしかしたら永遠に進展は無かったかもしれない。
憧れの先輩から女扱いされていないのではと思っていた菊花。先輩の気持ちを知ることができたのは、ルシファーのお陰だ。
そして、全く好みのタイプではないと思っていた男子の魅力を知れた里緒。
皆、恥ずかしい思いをさせられたことに複雑な気持ちはあれど、想いを遂げることができたことや素敵な恋人ができたことへの感謝の気持ちは大きい。
(美奈ちゃん、先生に感謝してるんだ)
美奈の話を聞いたリリムは、自分のことのように嬉しくなった。美奈の参加した脱衣ゲームはまだリリムがアシスタントになる前のことだが、ルシファーの起こした行動が人を幸せにしていることを実感できたのが何より嬉しかった。
今日の恋バナも実に盛り上がり、それを楽しんで聴くリリム。彼氏持ちの子の惚気話は聴いてて幸せな気持ちになるし、片想い中の子の話はいつかキューピッドとして叶えてあげたい気持ちになる。
だけど恋バナを楽しむのも良いが、忘れてはいけない。今日も皆が寝付いた頃合いを見計らって抜け出し、ルシファーの所へ夜這いに行くことになっているのだ。
(ムフフ、旅行先でのえっちって何だか新鮮でいいよねー。まあ実際やる場所は領域の中なんだけど)
それが楽しみで仕方が無いリリム。ふと、そんな甘ったるい気持ちを形にしたかのような香りをリリムは感じ取った。
(あ、なんかいい匂いする)
恋バナに夢中な同級生達は、突然湧いたこの香りに対する反応はこれといって見られない。
(あれ、もしかしてボクだけ……?)
そう思ったが、時すでに遅し。リリムの意識は香りに呑まれ、深い眠りへと落ちていった。
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