脱衣ゲームでカップル成立 ~史上最強の淫魔、光堕ちしてキューピッドになる~

平良野アロウ

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第二章

第45話 肝試しでイチャイチャ

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 臨海学校一日目夜のメインイベント、海沿いの林にて行われる肝試し。二人一組で一本道を通るだけの簡素なものであるが、実は生徒に伝えていないサプライズとして途中お化けに扮した先生が脅かしにくることになっている。
 二年B組の一組目は、相川凛華&川澄龍之介。ペアを組んだ二人のうち出席番号が若い方を基準にして順番が決まっている。B組、A組、D組、C組の順で行われるため、この二人は肝試し全体のトップバッターでもあるのだ。
 懐中電灯を手にした二人は手を繋ぎながら、恐る恐る歩いていた。
 暗闇の中で木々がざわめく林は、不気味な雰囲気に満ちている。所詮は学校行事であり本気で恐ろしい目に遭うことは無いとわかっていても、この雰囲気に呑まれて脅えてしまうのは致し方なし。
 だがそんな中でも凛華は、虎視眈々と関係性を深めるチャンスを窺っていたのである。

(手芸部の先輩が言うには、途中先生が脅かしに来るはず。それに乗じて驚いたふりして龍之介君に抱きつく! 水着はちゃんと見てもらえなかったけど、これで今度こそは龍之介君をドキドキさせてみせるんだから!)

 気合の入った凛華が無意識に龍之介の手を強く握ると、龍之介はびくんと体を震わせた。

(凛華……怖いのかな? 正直俺は怖い)

 凛華に抱きつかれてもいないのに既に龍之介の心臓は爆音を立てており、今にも張り裂けそうであった。
 今か今かとお化けが出てくるのを待ち侘びる凛華と、何事も起こらないことを祈る龍之介。
 そして凛華の懐中電灯が大きな茂みを一つ照らした瞬間だった。凛華の待ち侘びていた存在が、勢い良く飛び出してきたのである。
 緑の肌から青い血を流し目玉が片方眼孔から飛び出したゾンビが、しわがれた呻り声を上げて現れたのである。それも学校行事で先生が扮しているクオリティではない、リアルでグロテスクなゾンビだ。

「ぎゃあああああ!!!」

 凛華が悲鳴を上げるより先にまず龍之介が悲鳴を上げ、凛華の悲鳴はそれにかき消された。しかもゾンビは、その悲鳴に反応するかのようにこちらに走ってくるのである。

「ひいぃっ!」

 龍之介に抱きつくのも忘れ素で脅える凛華であったが、ゾンビは凛華には目もくれず龍之介の後ろに回り込むと、白目を向いて仰向けに倒れ込む龍之介を支えた。

「あー、大丈夫ですか、川澄君」

 先程まで恐怖心を煽るような不気味な唸り声を上げていたゾンビが突然とぼけた声で流暢に喋りだすので、凛華はぽかんとしてしまった。

「その声……黒羽先生?」
「すみません、少々脅かしすぎてしまったみたいですね」

 気を失った龍之介を肩に担ぎながら、黒羽は苦笑いした。


 ゾンビに扮した黒羽に案内されて、凛華はゴール地点となる外灯に照らされた広場まで来た。ゴールした生徒はクラス全員がここに来るまで待機することとなっている。
 黒羽に促されて凛華がベンチに腰を下ろすと、黒羽はまだ気絶したままの龍之介を肩から下ろして両腕に抱えた。
 普段の頼りない印象とは裏腹に男子生徒を軽々と持ち上げられる黒羽の腕力に、凛華は驚いていた。ましてや腐り果てたゾンビの姿でそれをやるものだから、ますますギャップが凄まじい。
 だがそんな凛華の驚きも、黒羽の次の行動によって更なる衝撃に上書きされた。
 龍之介の頭を凛華の膝の上に載せ、ベンチに寝かせたのである。

「え、えっ、ちょ、先生」
「私は持ち場に戻りますので相川さん、川澄君の介抱をお願いできますか」
「は、はい」

 凛華の返事を聞くと、黒羽は生徒達を待たせているのですぐにその場を立ち去る。
 残された凛華は、膝の上で眠る龍之介に視線を向けたのである。

(待って待って待って。ねえこれ夢!?)

 膝枕。恋人同士のイチャラブシチュエーションとしては、定番の一つだ。凛華はいつかしたいと思っていたのだが、龍之介がスキンシップに消極的なためこれまで機会が無かった。

(ほわああああ! 龍之介君の髪! ほっぺた! 触り放題!!!)

 思わぬ形で訪れた幸運にテンションが上がりまくって仕方が無い凛華。龍之介は意識が無く、この場にいるのは自分達二人だけ。もうこうなっては、凛華を止めるものは無かった。


 持ち場に戻ったルシファーは、ポケットからスマートフォンを取り出してカメラに自分の顔を写す。

(リリムの奴め、やりすぎだ)

 あまりにも怖すぎる自分の顔を見て絶句したルシファーだったが、こんな顔にされてしまった以上は仕方が無い。カメラアプリを閉じてスタート地点の沖田先生にメッセージを送り、次のペアを出発させるよう伝えた。
 二組目は伊藤琢己&木場流斗。彼女持ちのため女子と組むわけにはいかず男子同士で組んだペアである。

「さっきの凄い悲鳴だったよね。何か脅かす仕掛けでもあるのかな?」
「あ、うん……」

 琢己がそわそわした様子で流斗に話しかけると、流斗は微妙な返事。相変わらず人と話すのが得意ではないようである。

「僕さ、木場君とは友達になりたいと思ってたんだよね」

 恐怖を紛らわすように、琢己はそんな話題を切り出す。

「ほら、僕ら将来的に親戚同士になるかもしれないわけだし」

 琢己と流斗は彼女同士が姉妹なのである。見た目はギャル、中身はオタクの葉山姉妹だ。

「え、君もうそこまで考えてるんだ。凄いな……」
「あ、いや、今はまだ、妄想の段階でしかないんだけど……」

 二人は揃って彼女との結婚生活が頭の中に花開き、甘い妄想の世界へトリップし始めた。
 そうして油断しきった所を狙い澄ましたかのように、ルシファー扮するゾンビが茂みから現れたのである。

「うぎゃあああああ!!!!」

 天国から地獄へ。二人は同時に絶叫し、全速力で走り出した。
 ゴール地点に着くと、あまり体力が無い二人は揃って息を切らす。テニス部で鍛えられて多少マシになった流斗はまだしも、琢己はクラスの男子の中で一番運動音痴と言っていいレベル。今にも死にそうな様子でゼエゼエ言っていた。

「は、はは……何だったんだアレ……」

 そう言いながら顔を上げた琢己の目に映るのは、膝枕した龍之介の髪をでれっとにやけた顔をしながら梳く凛華の姿であった。

「あ……邪魔、しちゃったかな……」

 学校ではそうそう見ないレベルのイチャイチャタイムを見せられて、琢己と流斗は気まずそうに苦笑い。二人に見られたことに気付いた凛華は、顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。


 凛華から事のあらましを聞いて納得した二人は、息を整えつつベンチに腰掛ける。

「ねえ、木場君は彼女に膝枕してもらったこと、ある?」
「……あるよ」

 千鶴の太腿の感触を後頭部で味わいつつ、眼前でどどんと存在感を放つ下乳を観賞するのは、天国と言う他なかった。

「いいなぁ……」

 好美は千鶴と違って恥ずかしがりやのため、果たして頼んでもやってくれるだろうかと琢己は思った。そういう点では大胆な彼女を羨ましく感じたりもするのである。


 そうして話していたところ、林の方からは女子の悲鳴。直後に何やら鈍い音が鳴り、男子の悲鳴が続いた。
 程なくして、腫れた頬をさすりながら歩く風間純一と涙目になりながら謝る桃井宏美がゴール地点に到着。

「お前さぁ、驚いて殴りかかるだけでもアレなのに俺に誤爆するとか……」
「ごめーん!」

 純一が宏美に叩かれるのは本日二度目。一回目の時は失言による自業自得だが、今度は完全に理不尽な災難であった。

(こんなはずじゃなかったのに……)

 衝動的に拳が出てしまった宏美は、泣きたい気持ちであった。進展の無さという点では凛華以上に悲惨である。


 四組目は彼氏持ちの女子同士で組んだ倉掛里緒&永井百合音。キャーキャーと悲鳴を上げながらの到着である。

「あんなのいるだなんて聞いてないんだけどー」
「あたし部活の先輩から先生が脅かしに来ること聞いてたんだけどさ、まさかあそこまで本格的なゾンビが出てくるとは……」


 そして五組目となるのは、凛華&龍之介に続くクラス内カップルである佐藤孝弘&島本悠里。
 林に入る前から悠里は顔を青くし、孝弘の手を握る手も震えていた。
 映画館デートの際にホラー映画のポスターが目に入っただけでびくりとしそれを極力視界に入れないようにしていた姿を、孝弘は思い出す。

「島本さん、俺が付いてるから」

 励ましの言葉を贈ると悠里の震えが少し落ち着くも、まだ根本的な恐怖を取り除くまでには至らず。
 悠里がこうも脅えているのは、ここまで全員が悲鳴を上げているせいもあるだろう。尤もそのうち一人はゾンビに対してではなく殴られたことに悲鳴を上げているのだが。
 ここで悠里を抱き寄せて体を密着させでもすればより悠里の恐怖を和らげられるのではと、そんな考えが頭をよぎる。悠里を安心させてあげたい気持ちと下心が半々でそれを実行に移そうとしたその時、茂みの裏からルシファー扮するゾンビが姿を現したのである。

「ひっ……」

 悠里がか細い声を上げたかと思うと、孝弘は手を下に引かれる感覚。そしてそのまま、悠里の手から力が抜けて孝弘の手を離れた。孝弘が視線をそちらに向けると、悠里は顔を真っ青にしてぺたんと尻餅をついていた。

「逃げるぞ島本さん!」
「む、無理……」

 ふるふると首を横に振る悠里は、腰を抜かして立てない様子。

(また脅かしすぎたか)

 流石にルシファーがそう思った時のことだった。孝弘は突然悠里の膝の下と背中に手を回すと、持ち上げて抱え走り出した。

(ほう、これは……)

 孝弘の勇気ある行動にルシファーは感心。二人を見送りつつ、再び茂みの裏に戻っていった。


 ゴール地点の広場に着いたところで、孝弘と悠里を待っていたのは先に出発した八人。
 また気絶したままの龍之介を除く七人全員が、会話を止めてまで孝弘と悠里に顔を向けた。何せお姫様抱っこで現れたものだから、注目の的になって当然だ。

「ヒュー、やるじゃん佐藤君」

 真っ先に冷やかしてきたのは、孝弘と同じ中学出身の百合音であった。

「あっ、いや……」
「さ、佐藤君、手……」

 焦る孝弘に抱えられる悠里は尚更に焦った様子で、か細い声を発する。

「手?」
「その……右手……」

 悠里に言われて孝弘が自分の右手を見ると、ゾンビを見た時以上の衝撃を受けた。
 悠里を落とさないようしっかりと抱えるあまり、背中から回した右手が悠里の右胸を掴んでいたのである。

「ごっ、ごめん!!」

 慌てて悠里をベンチに下ろし、頭を下げた後自分も隣に腰掛ける。

「こちらこそごめんね、運んでもらっちゃって……」
「いや、気にしなくていいよ。細くて軽かったし……」

 お互い真っ赤になって焦りっぱなしで、見ている方が恥ずかしくなってくるほど。
 言葉が続かなくなって二人とも相手の顔を見られなくなったら、孝弘はふと自分の右手が目に入った。最初は全く気付かず触っていたけど、ひとたび意識してしまったらもうその感触をはっきりと認識。掌が余るくらいの物足りなさを感じるサイズながら、確かにそこに存在を感じられた。
 人生初、彼女のおっぱいタッチ。これには感慨深いものを感じてしまう。

(遂に触ってしまった……でももう、見てはいるんだよな……)

 思い起こされる、悠里と恋人になったあの日。あの清らかで可憐なヌードは一月経った今でも鮮明に思い出せるし、幾度と無く使用もした。思い出したら無性にムラムラしてきたので、孝弘はそれを振り払おうと必死で頭の中に他のことを思い浮かべたのである。


 一方、先程の孝弘と悠里の姿を見ていた里緒は溜息。

「お姫様抱っこかぁ……憧れる気持ちはあるけど、あたしの身長じゃ……」
「んー、でもできそうじゃない? 里緒の新しい彼氏なら」

 隣に座る百合音が何気なく言うと、里緒は目から鱗が落ちたようにぽかんとした。
 今日できたばかりの里緒の新しい彼氏、岡本清彦はあの身長にあの筋肉。長身女子の里緒をお姫様抱っこできたとして、何らおかしくはない。

「そっか。そっかぁー……」

 思わぬ形で気付いてしまった、清彦の新たな魅力。里緒は未来への希望に、目を輝かせていたのである。


 続く六組目は、またもクラス内カップルの須崎美奈&山本大地。こういうイベントを全力で楽しむ陽キャカップルらしく、悲鳴を上げつつも笑いながらゴール。

「おう大地に須崎、お前らは何見せてくれるんだ?」

 純一が冷やかすと、二人は何のことだかといった表情。

「川澄と相川は膝枕、佐藤と委員長はお姫様抱っこを披露した。お前らはどうする?」
「なるほどそういうことか」

 言葉の意味を把握した大地は、ニヤリと笑みを見せる。

「だったら俺は、乳を揉むぜ!」

 そう言うや否や、美奈の胸をむぎゅっと掴んだ。当然、直後に肘を入れられて悶える。

「あ、ちなみにそれもう佐藤がやった」
「マジかよ……やるなぁ副委員長!」
「あれは事故だからな!」

 そこはきっちり弁明する孝弘である。

「うーむ……乳揉みが既にされてるとなると……よし美奈、チューするぞ」
「えっ、ここで!?」

 大地と美奈は校内でも公然とイチャつくバカップルである。しかし流石に同級生達の見ている前でキスをすることには、美奈も抵抗があるようだ。

「……大地、ちょっとこっち来て」

 美奈は手招きして近くにある茂みの裏まで大地を誘うと、少しして二人で出てきた。大地はスケベなにやけ面でピースサイン。


 そんな二人を見ていて、今度は凛華が溜息をついた。

(龍之介君もあのくらい積極的だったらよかったのに。私としてはスケベでも全然構わないんだけどなー)

 奥手すぎる彼氏に対する不満が、他のカップルのイチャつく姿を見て湧いてきたのである。
 凛華と龍之介も毎日学校で一緒にお弁当を食べたりと人前でも結構イチャイチャしている方ではあるのだが、少しでも性的なことになると途端に龍之介がヘタレを拗らせだして全く進展しなくなる。
 このもどかしい気持ちをどう発散したらいいのか、凛華は途方に暮れていたのである。


 七組目は大山寺茂徳&渡乃々可のヤリチンヤリマンペア。二人は互いに恋愛感情こそ無いもののセフレとして度々性行為をしている関係である。

「ねえ聞いてよー」

 ゴール地点に来た乃々可は、仲良しの里緒と百合音に声をかけた。

「こいつさ、ゾンビが出てきた途端お経唱えだしたの。もう笑っちゃった」
「っせーな……」

 恥ずかしいことを暴露された茂徳は、不機嫌そうに顔を背けた。


 そして八組目は、幼馴染カップルの高梨比奈子&二階堂篤。
 比奈子だけが悲鳴を上げた後、程なくしてゴール地点にやってきた二人はやはり皆の期待通りであった。

「ほらひな、明るいとこ出たぞ。みんないるから。もう大丈夫だぞ」

 すんすんと泣きじゃくる比奈子を赤子のように抱っこしてあやす篤の姿は、文字通りオカンと言わざるを得ない。
 だけどもどんなに優しく声をかけても比奈子は篤にがっしりしがみ付いて離れず、篤はたじろいでいた。

「こちらのカップルもノルマ達成、と」

 百合音がぼそっと言う。
 二人は流石のイチャイチャぶりであるが、篤としてはこうも人前でくっつかれるのは気恥ずかしいのである。

「ひな、皆が見てるから……」
「やだ。まだくっついてたい」

 完全に甘えん坊モードに入った比奈子は、照れる篤により強くしがみ付く。結局篤は比奈子を抱えたままベンチに腰を下ろした。
 周囲のニヤニヤした視線が痛いのもさることながら、何より辛いのは思いっきり体に胸を押し当てられていることだ。海水浴の時は後ろからで、今度は前から。篤は案外とこの感触に弱く、勃たないよう堪えるのに必死であった。


(龍之介君もあのくらい甘えてくれればいいのに)

 比奈子達の様子を見ていた凛華がそんなことを思いながら龍之介の頭を撫でていると、龍之介がぱちりと目を開いた。途端、ゾンビが出たわけでもないのに悲鳴を上げてベンチから転がり落ちる龍之介。

「龍之介君!?」

 目が覚めたら凛華に膝枕されていたので驚いてしまった龍之介であるが、キョロキョロと辺りを見回して状況を把握した。

「ごっ、ごめん凛華、俺色々と迷惑かけちゃったみたいで……」
「ううん、気にしないで。私は私で楽しめたから」

 何だかんだで、龍之介が気絶してくれたお陰で結果オーライな面はあったのである。

「つーか川澄よ」

 と、そこで龍之介に話しかけたのは大地である。

「お前彼女の顔見て悲鳴上げることはねーんじゃねーのか」

 そこを指摘された龍之介ははっとして、凛華に土下座。

「ごっ、ごめん凛華! 決してそういうつもりじゃ……」
「そんなこと気にしてないから。土下座なんかやめてよ、もう」

 どこまでもヘタレな姿を見せられて、皆して何とも言えない表情になっていた。


 九組目の田村響子&本宮茂は、こちらも幼馴染同士の男女ペア。先程の二人とは逆に、男子の方だけが悲鳴を上げた。

「田村さん、ゾンビ怖くなかったの?」
「私、ホラー小説とかも結構好きで」
「響子は昔からホラー系平気なんだよな……」

 里緒が尋ねると、けろっとした様子の響子と顔を青くした茂が答えた。

(それでも本宮君は気絶したりしなかっただけ偉いよ)

 醜態晒しまくった龍之介が、心の中で自分を嘲った。


 十組目は富岡櫻&宮田麗の新体操部ペア。ギャン泣きした麗が櫻にしがみ付きながら歩いてきた。

「もぉやだあぁぁぁぁ」
「大丈夫ですよ麗さん、あれは先生ですから」

 普段の明るく勝気な麗とは随分ギャップのある弱々しさで、見ていた皆は驚きの表情を浮かべていた。


 十一組目は野村菊花&恋咲凛々夢の褐色肌ちびっ子コンビ。

「ひゃあっ!」

 ゾンビを見た瞬間、菊花だけが悲鳴を上げる。

「わー、菊花ちゃん可愛い悲鳴」
「り、凛々夢は平気なの? こんなグロいの……」
「ていうかこれ、衣装もメイクもボクがやったからね」

 そう言いながらリリムはルシファーの顔を覗き込み「流石はボク、いい仕事してるぅ」と自慢げ。

「じゃね、先生。お仕事頑張ってー」

 ルシファーに手を振り意気揚々と去るリリムを、ルシファーはしわがれた呻り声で見送った。
 龍之介が気絶するほど怖い姿にされた時はどうなることかと思ったルシファーであるが、そのお陰で結果としてクラス内カップル四組がいい感じにイチャイチャできるようになったわけでもある。そう考えるとリリムは本当に良い仕事をしたと思った。
 B組の残りは四組だが、ルシファーはA組の脅かし役も担当しているためまだまだ先は長い。リリムに負けぬ良い仕事をせねばと、心に気合を入れた。


 十二組目は柊一輝と比嘉健吾の余りもの男子ペア。
 肝試しなんて面倒だから参加したくないけど仕方が無いから刃と組もうと思っていた健吾であったが、刃が勇気を振り絞って佐奈を誘ったため余りものに。そこで同じく余りものとなっていた一輝と不本意ながら組んだのである。
 なお一輝は決して友達がいないわけではなく、単に仲の良い友達が彼女や好きな人と組めるよう気を遣った結果余っただけである。彼は芸能人顔負けなルックスを持つクラス一のイケメンで、試験の成績も常に上位。その上母親が有名フルート奏者で自身もフルート演奏が得意という完璧超人染みた超ハイスペック男子。そして勿論当然のように彼女持ちである。
 そんな男と組まされた何の取り得も無い地味男子の健吾は、どうにもいい気がしなかった。

(あーあ、何でよりにもよってこいつと組まされるかな。仮病使って旅館で寝ときゃよかった)

 そうしてニヒルぶっていた健吾であるが、ゾンビが出た途端。

「あああああ!!」

 そう叫んでコースを逆走しスタート地点の方に逃げ出そうとするも、小石に躓き前のめりに転倒。

「大丈夫か比嘉!」

 一輝に起こされた健吾は、改めてゾンビの方を見る。

(な、何だよ襲ってこねーじゃん。そりゃそうだよな、きっと正体は先生だ。本当にゾンビなんか出てくるわけねえし……)

 冷静になってみると、自分がいかに恥ずかしい挙動をしたかを実感。

(……ケッ、こいつがゾンビに食われて俺だけ生き残ったりした最高なんだけどな)

 羞恥心を払拭しようと、そんなことを考えてしまった。


 そしてそれに続く星影刃&三鷹佐奈のペア。

(三鷹さんは俺が守る! 三鷹さんは俺が守る! よーし……)

 妄想もといイメージトレーニングを繰り返す刃。その隣で、佐奈は不安げな表情。

「み、三鷹しゃっ……」

 話しかけようとしたら噛んでしまい赤面した刃であるが、佐奈はしっかりとこちらを振り返る。

「何? 星影君」
「あ、えっと……みっ、三鷹さんはこういうの、平気なタイプ!?」

 そしていざという所で緊張してしまい、格好いい台詞を吐けず当たり障りの無いことを言ってしまう。

「んー、あんまり平気じゃないかなー」
「そ、そっかー……」

 陰キャの刃はそこから気の効く会話を続けることができず、すっかり沈黙してしまった。だけども頭の中では。

(待てよ。ということは三鷹さんがキャーって言って俺に抱きついてくるのでは。そして……うへへ)

 例によって妄想に花開かせたタイミングで、ゾンビは出てくるのである。
 佐奈が悲鳴を上げる。その声を聞いた刃は一瞬で妄想から解かれ、今こそ佐奈を守る時だと動いた。

「み、三鷹しゃっ……」

 またも噛んだその瞬間、先程健吾を転ばせた石に刃も躓き転んだ。そして驚いた佐奈は後ろに飛び退き――刃の背中に尻餅をついたのである。

「ぐふっ!!!」

 巨尻に押し潰された刃は、衝撃を受けて声を出す。

「ご、ごめーん星影君! 大丈夫!?」
(こ、これが三鷹さんの尻圧……)

 痛い思いをしたにも関わらず、不思議と刃は嬉しそうであった。


 十四組目は目黒冬香&代々木当真。こちらは女子から男子への片想いペアだ。

「ねえ代々木君。私、人には見えないものが見えるって言ったら信じる?」
「は? 知るかよそんなこと」
「でも安心して。ここには霊の類はいないから」
「いるわけねーだろそんなもん!!」

 ぶっきらぼうに振舞う当真であるが、内心はビクビク。

「代々木君、怖かったら私に抱きついてもいいのよ?」
(正直お化けより目黒のがこえーよ)

 そう思っていた当真であるが、ゾンビが出た途端。

「ギャーッ!!」

 冬香の希望通り、驚いた拍子に思いっきり冬香に抱きついたのである。

(あ、やべ。これおっぱいだ)

 冬香の胸に顔をうずめて、その体温と感触で自分のやったことに気が付く。

(マジかよ人生初おっパフが目黒かよ。正直俺としてはもう少し大きい方が……ああでもなんかいい匂いする……)

 何だかんだで満更でもなさそうな当真を見る冬香は、仄かに頬を染めながらくすくす笑い当真を抱き返した。


 そしてB組ラスト、八島信司&神崎彩夏のペア。

「あ、彩夏ちゃん! どんなお化けが出ても僕が彩夏ちゃんを守るよ! 彩夏ちゃんのファンを代表して!」
「ありがとう矢島君。頼りにしてるね」

 刃が最後まで言えなかった台詞を堂々と言い放つこのオタク。対する彩夏は相変わらずの神対応である。
 茂みの裏に隠れるルシファーは、隙間から覗き見て出るタイミングを窺っていた。

(八島と神埼か……このままただのファンであり続ける分には問題無いが、本気で恋をしても実る確率は限りなく低いぞ八島……)

 二人が近付いてきたら、ルシファーはこれまで同様に飛び出し二人を脅かす。

「キャー!」

 彩夏の悲鳴。直後、信司は衝撃を受けた。彩夏は信司に抱きつき、がっしりとホールドしていたのである。

「あ、彩夏ちゃんが僕に……」

 あまりの衝撃に、思ったことが口から出る。
 信司がカチンコチンになっていると、彩夏ははっとして離れる。

「あ、ご、ごめんね矢島君」
「あ、う、うん……」

 信司を見る彩夏は頬を赤くし、星のような瞳を潤ませていた。

(何だ……今のわざとらしさは)

 驚いたのはルシファーである。さも彩夏は信司に恋していると言わんばかりの態度。
 ルシファーは転向初日から彩夏を怪しんで彼女について念入りに調べていた。彼女はアイドルとしてのプロ意識が非常に高く、恋愛禁止を律儀に守ることに定評がある。それ故にファンからも業界からも信頼される人気アイドルなのである。ましてやあんな身体的接触を伴った過剰なファンサービスをするようなアイドルでは決して無い。

(こいつはどうも……きな臭くなってきたな……)

 校内ではこれといって怪しいそぶりを見せることなく楽しい学校生活を送っていた神崎彩夏。彼女が綿環高校に編入してきた目的は未だ掴めぬままだった。
 だがこの臨海学校で、いよいよ何かが動き出す。そんな予感が、ルシファーはしていたのである。
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