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第二章

第41話 海水浴だよ全員集合・2

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 彼氏が社会人の櫻、彼氏が三年生の菊花、彼氏が他校生という設定のリリムは、せっかくなので三人で寄り集まってビーチボールで遊んでいた。

「ねーねー、櫻ちゃんと菊花ちゃんは、もう彼氏に水着姿見せてあげたのー?」
「ええ、勿論ですわ」

 落ちてきたボールを優雅な動きでトスする櫻の水着は、気品溢れる純白のワンピース。むっちりした太腿を大胆に見せつつも清楚な雰囲気を崩さず、彼女の魅力をこれでもかと引き立てる一品だ。

「自宅のプールで彼にお見せしましたの。とても喜んで下さりました」
「あたしはまだだなー。でも夏休み入ったら海とかプールでデートしたいね!」

 菊花が軽快にボールを打ち上げると、リリムがツインテールを荒ぶらせながらの大ジャンプ。強烈なスパイクを打ち込み砂浜にボールをめり込ませた。

「イェイ決まった!」

 着地したリリムはウインクしてピースサイン。マイクロビキニ姿で暴れ回るリリムであるが、不思議と布は大事な所にピッタリ貼り付いたように離れずポロリすることはなかった。

「ねーねー、そういえば麗ちゃんは?」
「麗さんでしたら、ダンス仲間であるA組の畑山さんの所に行っていますわ」
「へぇー、それって男子?」
「ええ」

 話を聞いたリリムがニヤリとする。

(これはいずれ麗ちゃんもゲームに参加することになるかも!)


 そんな麗のダンス仲間、畑山はたけやま幹人みきとは、一人で海に向かって仁王立ちしていた。

(フフフ……いよいよこの広い海に灼熱のダンサーMIKITOの名を轟かせる時が来たようだぜ……)

 波の音に耳を傾けながら野望を思い描く幹人。だがその背後から、こっそりと近寄る影が一つ。

「わっ!」

 麗が大声で脅かすと、幹人はうひょいと奇声を上げて顔から海に突っ込んだ。

「なっ……何だ麗かよ! 脅かすなっての!」

 びしょ濡れの顔で心臓をバクバクさせながら幹人は麗に文句を言う。だけど見上げた麗のその姿を見て、今度はまた違った意味で心臓が五月蝿くなったのである。
 麗の水着は、意外と露出多めな青のバンドゥビキニ。爽やかなデザインと彼女のスレンダーな体型が合わさってあまりいやらしい感じはしないものの、普段は色気なんて皆無な印象の麗がちょっとセクシーな格好をしているために否が応でも意識してしまう。しかも今は体勢的に、股間を見上げる形となってしまっているのだ。

「まーた一人で黄昏てー。新しいダンスのことでも考えてた?」
「な、何だっていいだろ!」

 悪戯そうに笑う麗に、灼熱のダンサーMIKITOはたじろぐばかりであった。


 小学校からの親友である悠里と凛華がそれぞれの彼氏と一緒にいるため、独り身の佐奈は水泳部の友達と遊んでいる。

「あはー、海気持ちいいねー」

 足を海水に浸けて空に向かって背伸びする佐奈。泳ぐことが大好きな佐奈にとって、海をめいっぱい楽しめる今日は待ち望んでいた日だ。
 スカートの付いたピンクのフリルビキニは、お店で一目見て気に入ったもの。部活ではピンクの競泳水着を愛用している佐奈だが、それとはまた違った趣の水着姿である。綺麗な海と可愛い水着で、今日の気分は絶好調だ。

「ていうか暦ちゃん、何で海まで来て競泳水着なの!?」

 だが佐奈はどうしても気になることがあり、共に海を楽しむA組の幸村暦が着ている水着に突っ込みを入れる。お洒落な水着の自分とは対照的に、暦は部活と同じ青のハイレグ競泳水着姿であった。

「だって私、泳ぎに来てるわけだし」

 それをおかしなことだと思ってもいない様子で、暦はしれっと答える。

「まあ、暦ちゃんハイレグ超似合うもんね。暦ちゃんがそれでいいならそれでいいんじゃない?」

 そんな佐奈の姿を、少し離れた位置からひっそりと見ている男子がいる。佐奈に片想い中の刃である。

(みっ、三鷹さんの水着ぃぃぃぃぃ!!!)
「お前顔ヤバいことになってんぞ」

 充血するほど目を見開き鼻血を噴きそうなほど鼻息の荒い刃を見ながら、健吾が突っ込んだ。

(まあ、こんなのリア充だけじゃなく俺らみたいな非モテ陰キャにとっても一生使えるオカズが手に入る神イベントだもんなあ)

 刃のことを小馬鹿にしておきながら、自分も女子の水着姿をオカズにする気満々の健吾であった。


 健吾や刃と同じ地味な男子ではあるが幼馴染の女子がいる勝ち組の茂は、幼馴染の響子と二人パラソルの下で海を眺めていた。

「ん……響子」
「何?」
「あ、いや、こうして響子と海来るのも久しぶりだなーと」
「うん、ちっちゃい頃以来だよね」

 響子の水着姿にはこれといってコメントはしていない茂だが、気にはなっておりチラチラと見ている。
 釈然としない様子の友人を後ろから見守っていた琢己は、好美に思いを伝えられずにいたつい数日前までの自分を見ているようで無性に恥ずかしくなってきていた。

(僕の言えたことじゃないけど、あいつも大概だよなぁ)

 だがそれはそれとして、こうして好きな人の水着姿が見られることに羨ましさを感じていたりもするのだ。

(葉山さんの水着姿は見たいけど……海やプールでデートなんて柄じゃないしなぁ)

 お互いインドア派の絵師カップル故の悩みであった。


 その葉山好美の姉である千鶴と付き合っている流斗は、目立たない位置で一人スマホをいじっていた。
 彼女が出来て以降は同級生と話をすることが多少は増えたものの相変わらず人付き合いはあまり得意ではなく、結局向こうから話しかけてこられないとこうして一人でいることも多い。
 ふと、スマホにメッセージが入った。

『臨海学校楽しんでるー? 私も木場君と一緒に海行きたいけど、気分だけでもと思って水着の写真送るね』

 という文面にハートマークが添えられて、愛しの恋人がビキニを着て胸の谷間を強調したポーズの自撮り画像が目に飛び込んできた。

(は、葉山先輩……!)

 サービス精神旺盛な彼女のお陰で、今夜は捗りそうだと流斗は思ったのである。


 流斗と同じテニス部の茂徳は、他のクラスのチャラ男仲間と集まって女子達の水着姿をウォッチしていた。

「いいじゃんいいじゃん。みんな開放的になってるようでさ。これなら臨海学校中に誰かとヤれたりするんじゃね?」
「いや、流石にヤるのはやべーだろ。下手したら退学だぞ」

 チャラ男の先輩として茂徳とも親交のあった三年生の桑田達之が退学になった件は、茂徳に色々と危機感を抱かせていたようであった。

「つーか俺どうせヤるなら神崎彩夏とヤりてーわ」
「そういや神崎彩夏ってどんな水着着てんだ? グラビアでも水着になったことねーんだろ?」
「神埼ならほれ、見たらガッカリすんぞ」

 茂徳が親指で指した先にいる彩夏の水着は緑のタンキニにハーフパンツというかなり肌の露出を抑えたもの。二年B組女子の中では一番肌を隠しているほどだ。

「ケッ、高貴なアイドル様は下々の民に気安く肌は見せませんってか」
「まあ、ちょろいオタクはあれでも感動するみてーだがな」

 茂徳が次に視線を向けた先には、彩夏の水着姿を拝めたことで感涙している信司の姿があったのである。



 それぞれ思い思いに海水浴を楽しむ、綿環高校の二年生一同。
 水着姿のお披露目も済ませた孝弘と悠里は手を繋いで波打ち際を散歩し、波が足に触れる感覚を楽しんでいた。

「水、冷たいね」
「そうだな」

 お互い水着姿とあって嬉し恥ずかしな気持ちから会話にぎこちなさがあり、繋いだ手にも汗が悴んでくる。
 普段あまり肌を見せない悠里がここまで大胆になってくれているのだから惜しむことなく目に収めたい気持ちもあるが、あんまりじろじろ見るのはスケベだと思われかねないジレンマ。大好きな彼女の水着姿が、孝弘を悩ませる。
 と、その時だった。少し大きめの波が来て、それに足を取られた悠里がバランスを崩したのだ。

「おっと」

 孝弘はすかさず両腕で抱え込むようにして悠里を支えた。瞬間、直に触れ合う肌と肌。きめ細やかですべすべの感触と共に体温が伝わってきて、孝弘の中で何かが爆発しそうになる。

「し、島本さん大丈夫?」
「う、うん」

 さっと孝弘から離れた悠里は頭から湯気が出そうなほど顔を真っ赤にし、両掌を頬に当てていた。始めは平静を装い耐えていた孝弘であったが柔肌の感触が思い出されるにつれ男の本能が我慢を突き破り、極力自然な動きを装いながらその場にしゃがみ込んだ。

(早く収まってくれ……)

 とりあえずしゃがみ込んだ理由付けとしてそこに落ちていた貝殻をいじり始める孝弘。だけどふと気になって悠里の方に顔を向けてしまう。すると悠里は羞恥のあまり孝弘に背を向けていたのだ。
 孝弘は衝撃を受けた。一見清楚で上品な雰囲気のある悠里の水着だが、実は意外にお尻の部分の布面積は小さめ。腰からお尻にかけての美麗な曲線と、指を沈ませたくなるような張りのある柔らかそうなお尻が、ピークを過ぎて収まりかけていた孝弘の興奮を再び限界突破で引き戻した。

(ああもう、なんて無防備な……)

 悠里がこっちを見ていないからと、つい心を邪念に支配され目を釘付けにされる。
 丁度そうしていた時に悠里が恐る恐るこちらを振り返ったので、孝弘は一瞬血の気が引いた。お尻を見られていることに気付いた悠里は少し涙目になりながら、掌でお尻を隠す。
 だけどそういう恥じらいの仕草がますます孝弘を刺激するのであり、これはもう暫く収まりそうな気がしないと孝弘は掌で顔を覆った。


「……チッ」

 海辺でイチャイチャする二人の甘酸っぱく微笑ましい光景であるが、それに舌打ちをする男が一人。
 彼は目立たない位置に立てたパラソルの下で参考書を手にし、海には目もくれず一人勉強に励んでいた。二年A組の学級委員長であり悠里とは試験順位を競い合ってきた一学期期末試験学年一位の男、志藤克義である。
 苛立つあまりシャープペンを砂浜に突き刺し奥歯を噛み締めるが、孝弘達にはその存在すら認識されていない。
 偶然たまたま彼の目に入る位置で孝弘と悠里のイチャイチャが始まったわけなのであるが、それは勉強への集中力を削ぐには十分であった。
 だが彼が酷く苛立っている原因は、決してただ勉強の邪魔をされたからというのみではなかったのである。
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