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第二章
第39話 連動紙尻相撲・2
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作戦会議が終わったところで、舞子は再び土俵に上がる。司に尻を向けたところで、目を丸くしたのは司である。
「君、それは一体……どこからそんな物を!?」
驚くのも無理は無い。舞子は両足の踵に、プロテクターのような物を付けていたのである。
司はルシファーに顔を向けるが、特にコメントは無し。
(行司が何も言わないということは、反則ではないということか?)
やむなく司は背を向け、舞子と尻を合わせた。
「はっけよい、のこった!」
二人は同時に、勢いよくお尻を突き出す。二人のパワーは互角。
(凄い……何だかバランスが安定してる!)
これまでの試合のような前に引っ張られる感覚は無く、舞子はそれを強く実感していた。そしてその勢いのまま、一気に司を押し出した。
「姫川舞子さんの勝利ー!」
「やったよ白浜君!」
譲の取った手段は見事に成功を収めた。舞子はそのことを伝えるようにピースサイン。
「……一体どういうことだ? あのプロテクターは一体……」
ブラウスを脱ぎながら、司が尋ねる。司のブラジャーはショーツと同じく紫色で蝶の羽をモチーフにした、非情に色気のあるものである。豊かなバストも相まって、その下着姿は見ているだけで心臓を高鳴らせる。
「さて、白浜君が気付いたようなので、ここで隠しルールを説明致しましょう。実はこのゲームでは、厚紙の余白を使ってオプションパーツを作り紙力士に装備することができるのです。そしてそのパーツは、土俵上で尻相撲をする女子の見た目にも反映されます。最初に晒しを作らせたのは、そのヒントですね。誰も気付かなくてもこの四回戦が終わった段階で説明する予定でしたが、流石白浜君は勘が良い」
褒められた譲は、ほっと胸を撫で下ろす。譲は厚紙の余白を使って紙力士の裏側足部分に重石を貼り付け、顔側に傾いた重心のバランスを整えたのである。賭けではあったが、どうやらこれで正解だったようだ。
「オプションパーツは一試合につき一つ、もしくは左右の同じ場所に一対付けることができます。一度付けたオプションパーツを外すことはできません。それでは次の五回戦から、本格的にオプションパーツを用いた試合が始まります。男子のお二人は、オプションパーツの製作を始めて下さい」
譲の瞳に、炎が宿ったかのように見えた。
「この勝負、勝てるよ姫川さん! ホビーのカスタマイズは、得意中の得意だから!」
オプションパーツのルールが正式に説明されてから最初の対戦となる、第五試合。両ペアはゲームを有利に進めるためのオプションパーツ作りを始めていた。
その間は紙土俵は一時撤去され、テーブルの中央には仕切りが設けられる。これにより相手がどんなパーツを作っているかは判らないのである。
「白浜君、どう? 上手くできそう?」
そう尋ねる舞子の掌は両方とも後ろに回してお尻に当てられている。リリムに下着を食い込まされてTバック状にされたことが、よほど恥ずかしいようだ。
「大丈夫。このパーツは確実に有利になるパーツだよ」
普段の儚げな印象から一転、眉が逆八の字に上がり熱血ヒーローのような精悍な顔立ちに。この変貌ぶりには、舞子も少々困惑していた。
そして二人とも完成したパーツをのりで貼り付けたところで、仕切りが取り払われ再び紙土俵が出現。二人は紙力士を紙土俵に置く。
「さて、ではお二人がどんなパーツを作ったのか見てみましょう。まずは森沢君から」
司を模った紙力士は、廻し全体を覆うようにスカートが貼り付けられている。
「下着丸出しでは可哀想だったんでな、スカートを穿かせてやった」
「なるほどなるほど、森沢君は紳士ですねぇ。そして白浜君の方は」
舞子を模った紙力士は、天使のような純白の翼を背に付けていた。
「おおっ、これは! なんと見事な造形でしょうか!」
ルシファーが感嘆の声を上げる。この白い翼は羽根の一枚一枚がとても精巧に作られており、非常にリアル。はさみ一つで作ったとは思えぬ珠玉の出来であった。ただ雑に厚紙を切って貼っただけの元治が作ったスカートとは、比べるのもおこがましい代物である。
「凄い白浜君。流石!」
これには舞子も褒め称えるばかり。譲はますます得意気になった。
「それでは女子のお二人は土俵に上がって下さい」
指示に従って、舞子と司は机から土俵に移動。すると、舞子の背から純白の翼がぶわっと現れた。
「お、おおお……」
舞子はキョロキョロと左右に首を動かし、目を輝かせていた。
「すっごい、私天使になったみたい!」
「で、僕の方は何も出てこないんだけど」
疑問に思った司が尋ねた。紙の司は確かに白いスカートを穿いているはずだが、司本人は相変わらずパンツ丸出しだったのである。
「ああ、言い忘れていましたが、胸部や腰部を覆うようなパーツは女子本人には反映されません。なお紙相撲の方での物理的な影響はちゃんとありますので、その点はご安心下さい」
あくまでもこれは脱衣ゲーム。せっかくの脱衣の醍醐味を台無しにする無粋なパーツは相応の措置が取られるのである。
「うーむ……そうだったのか」
「まあ、そんなとこだろうとは思ってたけどね」
目論見が外れた元治は悔しそうに唸る。その一方で司は冷静であった、
「では男女とも準備を始めて下さい」
男子はそれぞれ紙力士の位置を正し、女子は背中を向け合いお尻を合わせる。司は羽根が背中に触れて、少しこそばゆく感じた。
「はっけよい……のこった!」
開始が宣言されると、二人の女子は勢いよく尻を突き合わせた。パワーは互角かに思われたが、羽根が背中をくすぐったことで司の力が一瞬緩む。
(くっ、この翼……やり辛い!)
押し出されそうになるのを踏ん張って堪え、反撃に出る。だが大きな翼が、それすらも邪魔するのである。
(何だかよくわかんないけど、勝てそうな気がする!)
その理由が何であるかまでは気付かずとも、自分の優勢は舞子も感付いていた。
そして翼の有効性を実感していたのは、紙相撲側も同じであった。譲の操る紙の舞子は、譲が土俵を叩く度揺れる翼で紙の司を果敢に攻めるのである。
翼が狙い通りの効果をもたらしたことで、譲は興奮していた。この翼は決してかっこいいだけの飾りではない。本来紙相撲の力士は、前方に腕を伸ばした姿勢をしている。この腕で相手の力士と組み合うのである。だがこの紙尻相撲に使用する力士の腕は、側面に印刷されているにすぎない。そこで譲は腕の役割を果たすパーツとして背中から後方に伸びる物、即ち翼を付けたのである。
翼を授けられた紙の舞子は遥かに強化された攻撃力で、紙の司を寄せ付けない。そして遂には紙と本物の司が、同時に倒されたのである。
「姫川舞子さんの勝利ー! 見事逆転です! これで王手がかかりました!」
オプションパーツを的確に活かして勝利を掴む譲の姿を見て、ルシファーの実況にも熱が入る。
「く……オプションパーツの性能というのはこのゲームで相当重要なようだね……」
起き上がる司は悔しそうにしながらも、不敵な微笑を浮かべていた。
「おやおや霧島さん、まだ余裕という表情ですが、これから脱がなければならないことは忘れていませんよね?」
「ああ、忘れてなんかいないさ」
きりっと精悍な表情を崩さぬまま、司は右手を背中に回してブラのホックを外す。左腕でブラを押さえながら丁寧に肩紐から腕を抜き、左腕の位置を動かさずブラを下に抜き取った。バストトップの位置を一分の隙も無く正確に隠し、決してそれを衆目に晒すことなくブラを脱いだのである。
(王子様、隠しながら脱ぐの上手……!)
舞子はその様子に感心しつつも、王子様のあられもない姿が見られなくて少し残念に思う気持ちもあった。
脱いだブラが消えると司は右腕も胸に当て、よりガードを強化する。王子様フェイスとギャップのある豊かな胸が腕に押さえられ、むにゅんと形を変えていた。
服を脱ぐことに抵抗が無さそうな素振りを見せる司であるが、頬は仄かに染まっており全く恥じらいが無いわけではないことを窺わせる。
女子二人は土俵から降りてそれぞれのパートナーの所へ行き、次の作戦会議へ。
「凄いよ白浜君! 裁縫だけじゃなくてこういうのも得意だったんだね!」
「うん、今まで隠してたんだけどね」
既に譲の中で次のパーツの設計図は出来ていた。後はそれにそって厚紙を切り抜くのみ。舞子の下着姿には目もくれず、譲は全神経を作業に集中させていた。
一方の三年生ペア。手際の良い譲とは対照的に、元治はパーツ作りに苦心していた。
「どうだい森沢君、良いパーツは作れそうかい?」
司は腕で胸を隠したまま、自分の身体が元治の視界に入らないよう背後から話しかける。
「うーむ……造形技術に関してはあちらの方が圧倒的に上だ。俺の作るパーツではどうやったってあちらの出来には勝てない。パーツの性能よりも紙相撲や尻相撲の技術で勝つ方向にした方がいいかもしれん」
「尻相撲の技術か……それなら僕に試してみたいことがある」
両ペアともパーツが出来上がったところで、まずはお披露目である。
(やはりそっちも翼を作ってきたか……)
神の司にははさみでざっくばらんに切り抜いたいびつな形の翼が付けられており、それを正確に模った翼を司本人も生やしていた。
「不恰好な羽ですまんな霧島」
「いや、十分だよ」
そして舞子はといえば、なかなかにクールなデザインのロングブーツを履いていた。厚紙の色を反映した白いブーツは天使の翼との親和性が高く、ピンクの下着との組み合わせも案外とはまって見える。これはデザイン性もさることながら脚部の重量を更に増して倒れにくくする効果にも期待できる、譲の技術力の高さを窺わせる一品だ。
「姫川さん、次を取れば僕達の勝利だ! この装備なら行けるよ!」
「うん! 勝ってくるよ!」
二人とも勝利に自信アリ。勝負を決めに行くため、それぞれの土俵に上がる。
もう後が無い司であるが、不思議とこちらも自信はありげ。王子様スマイルを崩さず、この状況においても己の勝利を疑っていない余裕を見せる。
「それでは第六試合……はっけよい、のこった!」
開始が合図されると、尻と同時に翼もかち合った。翼で翼を防ぐことにより背中をくすぐられることもなくなるのだ。
司はぐりぐりと尻を押し付けて牽制。しかし足腰の強化された舞子はびくともしない。小柄な身からは想像もできぬ、大岩を相手にしているかのような重量感だ。
(なるほど……これは強敵だ)
見た目の印象としてはただお洒落なブーツを履いただけだが、このゲームで土俵上の彼女達は紙相撲の紙力士と連動している。紙相撲側で重量が増して接地バランスが安定すれば、尻相撲を戦う女子もその恩恵に与れるのだ。
しかも現在司は両腕を胸に当てている状態。これでは踏ん張りも効きにくく、司にとって不利な要素ばかりだ。
そしてその司は、まるで挑発でもするかのようにお尻を押し付けるのを繰り返していた。
(うっ……なんか腰の動きがいやらしい……)
舞子はそんな風に感じてしまい少し動揺するが、どうにか気を立て直す。司の攻撃が緩んだところで、今だとばかりにお尻を突き出した。
が、司の狙いはそこであった。司は一気に身体を横に反らし、舞子のお尻は空を突く。そして司は側面から腰で舞子を押し出した。
「霧島司さんの勝利ー!」
完全に不意を突かれる形で倒された舞子は、暫く何が起こったのか解らず唖然としていた。
「おおっ、作戦勝ちだな霧島!」
「ああ、上手くいってよかったよ」
三年生ペアはお互い笑顔で勝利を喜び合う。
起き上がる舞子は、少し体を震わせていた。王手をかけたこのタイミングで、再び勝負は五分に引き戻された。
「それでは姫川さん、脱いで頂きましょう」
「ま、待って!? これどうやって脱いだらいいの!?」
「そこはボクに任せて!」
きっちり巻かれた晒しの脱ぎ方が解らず戸惑っていた舞子に助け舟を出すかのように、リリムがポンと魔法をかける。瞬時に晒しが消滅し、薄紅色の小さな蕾が露となった。舞子は慌てて両掌で胸を隠す。
「ひゃあっ!? いきなりやらないで下さいよー!」
ほんの僅かな時間ではあったが司の時と違って恥ずかしい部分をはっきりと衆目に晒された舞子は、当然リリムに文句を訴えた。しかしリリムはどこ吹く風で笑っているのである。
「さあ、泣いても笑っても次がラストです! オプションパーツの作成を始めて下さい!」
そして最終戦のために作られたオプションパーツは。
「これ……ティアラ?」
両胸を掌で隠しながら、舞子が恐る恐る紙の舞子を覗き込む。紙の舞子が頭に付けているのは、はさみで器用に穴を開けて作られた可憐なティアラであった。
「機能性という面では、前回の段階で完成と言っていい。これ以上余計な物を付けるとかえって邪魔になる可能性があるからね。だから今回は装飾性を重視してみたんだ」
「奇遇だな白浜君」
そう声をかけてきたのは、対戦相手の元治であった。彼が手にした紙の司は、デフォルメされたシンプルな王冠を被せられている。
「俺はもう何を付けたらいいかさっぱりわからんかったからな、霧島が王子って言われてるから王冠でも付けてみた」
二人は紙力士を土俵に置き、紙相撲に備える。舞子と司が土俵に上がると、それぞれティアラと王冠が装着された。
(勝てば好きな人と結ばれる……私は絶対勝って、絶対それを叶えてみせる!)
そう胸に誓う舞子の視線は、真剣な眼差しで紙土俵を見つめる譲に向けられた。
(白浜君はいい人だし、裁縫の技術も尊敬してる、私の大切な友達。でも私にとって彼は恋愛対象じゃない。周りには私と白浜君をくっつけようとする人が多いけど、私は白浜君をそういう風には見られない。私が本当に好きな人は――)
胸に秘めた想い。舞子はまっすぐ正面を見据え、最後の決戦に臨む。
さながら姫と王子に扮したかのような装飾を付けた舞子と司は互いに背中を向け合い、尻と翼を合わせた。
「この一戦で全てが決まります。はっけよい……のこった!」
決戦の火蓋は切って落とされた。開始と同時に、二人は勢いよくお尻をかち合わせた。このぶつかり合いは、やはり優れたオプションパーツを装備する舞子が優勢。
(負けない! 勝って私は……!)
もう恥ずかしがって胸を隠していられる状況じゃない。負ければもっと恥ずかしい所まで見せなければならないのだ。舞子は手を胸からどけ、一番踏ん張りが効く体勢になるよう直角に折り曲げて体の横に据える。奇しくも、司も胸を隠すのをやめて腕を同じようにしていた。
お互い胸を丸出しにしてお尻を押し付け合い、胸と尻が激しく揺れる扇情的な光景。だが紙相撲に集中する男子二人は、そちらには目を向けることすらなかった。
奮戦する譲は、一心不乱に土俵を叩く。紙の舞子は土俵の振動を己が力に変えて、二枚の翼で紙の司を揺さぶる。パワーに物を言わせる元治も、パーツの性能差を前にしては猛攻を凌ぎ切るので精一杯。
(ぐぬぬ……やるな白浜君! だがかくなる上は……!)
一年生ペアが押し込んで、勝敗が決するかに見えたその時だった。元治は両手を土俵から離して自分の目の位置くらいまで上げたかと思うと、二つの手で同時に、ゴリラの如きパワーで土俵をぶっ叩いた。
思わぬ行動を受けて、譲は目を丸くし口をあんぐり開けていた。土俵に生じた衝撃は生易しいものではなく、二つの紙力士を空中に舞い上がらせた。無論、それに連動する二人の女子本人も。
「んなぁーっ!?」
吹き飛んで体が宙に浮くというハチャメチャな状況に、舞子は悲鳴を上げる。
最早こうなっては尻相撲は成立せず、先に地面に着いた方が負けという勝負となる。まともにやっても勝てそうにないと思った元治は、思い切った賭けに出たのだ。
誰もが唖然とする中、二人の女子は土俵に落下。勝敗をつけるためその様子をルシファーは身を乗り出しはっきりと目に収めた。
背中合わせの向きで尻相撲をしていたはずの舞子と司は、空中で体勢が反転し向き合う形で落下してきていた。そして舞子が土俵に背中をつけ、司はそれに覆い被さるような姿勢になっていたのである。
「……大丈夫だったかい、姫川さん」
脳をとろけさせるほど艶やかなハスキーボイスが、舞子の胸に響く。司は両腕をピンと伸ばした状態で体を支え、自分の身が舞子を押し潰さないようにしていた。そして勿論舞子の眼前には、放り出された豊かなバストがぼーんと存在感を主張していたのである。乳首と目線が合って慌てて顔を上に向けると、今度は王子様フェイスが微笑を浮かべてこちらを見ていた。
「ひゃ、ひゃい……」
王子様の床ドンにノックアウトさせられた舞子は、気の抜けた声で返事をした。
果たしてどちらが先に着地したのか、ルシファーにはちゃんと見えている。軍配が上がり、勝利者の名を高らかに宣言。
「霧島司さんの勝利ー!!!」
「やったな霧島!」
元治が立ち上がり、力強くガッツポーズした。
「ああ……僕達の勝利だ」
起き上がった司は再び腕で胸を隠す。舞子は胸を隠すのも忘れうつ伏せに寝転んだままであった。
ゲームの決着がついたことで、二人の装備していたオプションパーツは全て消える。
「さてさて、それでは勝った森沢君、好きな人に告白をどうぞ!」
今回は舞子が最後の一枚をまだ脱いでもいない内から、ルシファーがそちらの進行を促す。元治はルシファーの方を見て頷くと、今度は司に視線を向けた。
「霧島……」
名前を呼ばれた司は胸を隠す腕に少し力が入り、目を細めて元治を見た。
「すまん。お前のような女子ならば、もしかしたらとは思っていた。だがこうして裸になった姿を見たら、やっぱり違うと思ったんだ」
そして元治の視線は、正面の対戦相手に向く。
「白浜君! 俺は君のような美男子がタイプなんだ! 俺と付き合ってくれ!」
またも誰もが唖然とするような衝撃の告白。彼の真剣な眼差しを見れば、それが冗談で言っているわけではないことは明白。そして譲の返答は。
「……はい。実は僕も、森沢先輩のような逞しい男性が好きなんです。喜んでお付き合いします!」
譲は元治の手を握り、その告白を承諾。まさかの事態に、リリムは慌てふためいていた。
(えーっ!? 何この展開!? てことは霧島先輩と舞子ちゃんは失恋!?)
どうしていいかわからず口元に手を当てて気まずそうにしながら女子二人の方を見ると、まだ寝転がったままの舞子に司が近づいていた。
「負けた人は脱がなきゃいけないんだったよね」
ニコッと微笑んで、司は舞子を見下ろす。電撃を浴びたように飛び起きた舞子は、慌てて下着に手をかけた。
「ひゃ、ひゃいっ! 脱ぎます! 脱ぎますよぉ!」
やけっぱちで一気に下着を下ろすと、薄めのアンダーヘアがお目見え。司は仄かに頬を染めながらくすっと笑った。
「可愛い毛だね。なんだか僕も脱ぎたくなってきちゃったよ」
そう言うと司は胸から腕をどけ、自分も一気にショーツを下ろした。男子が二人とも女子の体に興味が無いと判ったものだから、全く恥らうことなく堂々と。
ごく狭い範囲だけ残し綺麗に剃り整えたアンダーヘアは、彼女の拘り。人に見せることを意識した、美麗な裸体だ。
「舞子ちゃん」
胸の奥にまで響かせるような甘い声で、司は舞子の名を呼ぶ。
「僕はずっと、君のような女の子を求めていたんだ。僕のお姫様になってくれないか」
「はい! 私も霧島先輩のことをお慕いしておりましたぁー!」
舞子が目を輝かせて告白に応じると、司はハグを求めて両腕を軽く広げる。胸をきゅーんとときめかせながら、舞子はふかふかのおっぱいに飛び込み恍惚の表情で顔をうずめた。
「えー、二組ともカップル成立おめでとうございます」
舞子と司が一糸纏わぬ姿で熱く抱き合っていると、そろそろ進行したいルシファーが水を差す。
「まずは女子のお二人に服をお返ししましょう」
ルシファーが消されていた舞子と司の服を再び出現させると、二人はどこか名残惜しそうな顔をしていた。
ゲーム終了後の工程各種を済ませて四人を元の世界に帰した後、ルシファーは譲の座っていた椅子に腰を下ろし一息つく。
「ふう、上手くいったようでよかった」
「ていうか先生! こうなるってこと最初からわかってたの!?」
「ああ、実験的に一度こういうのをやってみた」
「霧島先輩意外と経験してるなーと思ったけど、もしかして……」
「ああ、相手は全部女子だ」
「ほへぇー」
王子様の意外な裏の顔。リリムはまたしてもぽかんとしてしまった。
「まあそれはそれとして、今回の実験も上手く行ったようだし、いつか四人全員女子で全員脱ぐ! なんてゲームを開催するのも面白そうじゃないか」
新たなゲームのアイデアが降りてきてテンションの上がったルシファーは、口角を上げて笑い出す。
「なーんか物作りのことになると燃え出す辺り、先生と白浜君って似たもの同士かも。ま、ボクも衣装のことなら人のこと言えないんだけどね」
自信作であるルシファーの行司姿を眺めながら、リリムは頬が緩んだ。
放課後。被服室では手芸部恒例のそれに向けて、舞子と譲が恋人が出来た報告をしていたのである。
この二人でくっつくとばかり思われていた美少女と美少年の仲良し一年生ペアのまさかの事態に手芸部員達は驚いていたが、案外と皆から受け入れられていた。
「葉山部長! 私、お姫様コス希望です!」
「よしきた! すっごい可愛いの作るから、それで霧島さんをときめかせちゃおう! 白浜君はどうするの?」
「そうですね……僕は男らしくて格好いい衣装を希望します。それこそ森沢先輩の隣に立って見劣りしないような」
意外なリクエストに始め千鶴は目を丸くしていたが、やがて笑顔で頷いた。
「オッケー任せて! カッコいいの作っとくね!」
少しずつではあるが、自分の本当に好きなものを表に出していく。男が好きだということでさえ受け入れられたのだから、きっと皆本当の自分を受け入れてくれる。
そんな思いを胸に、譲は新たな一歩を歩み出したのである。
その日帰宅したリリムは、明日の臨海学校に向けて鞄に入れる荷物のチェックをしていた。
待ちに待った二年生最大のイベントである。否が応でもテンションが上がり、ニコニコ笑顔に花が咲く。だがふとした拍子に、その笑顔に陰りが見えた。
「あーあ、明日からの天気心配だなー。特に海水浴のある明日は晴れて欲しいよ。ボク超カワイイ水着用意してきたしー、みんなの水着姿も見たいのにー」
机に向かっていたルシファーはその言葉を聞き、ゲームのアイデアをノートに書き留める手を止め振り返った。
「ああ、それなんだが、この後上空まで行って雲吹き飛ばしてこようと思う。これで三日間晴れるぞ」
「そういうことさらりと言う!?」
スケールの大きい発言をさもコンビニに行くような感覚で言うルシファーに、リリムはぎょっとした。
「まあこういう大それたことすると相応に魔力も食うからな。回復の準備はしておいてくれ」
それを聞かされたリリムはピンと背筋を伸ばす。回復というのは勿論、淫魔にとって生きる糧となるアレのことである。
「がってん承知ぃ!」
親指を立て、テンションMAXのお返事。今夜は激しくなる予感に、リリムは胸を躍らせたのである。
「君、それは一体……どこからそんな物を!?」
驚くのも無理は無い。舞子は両足の踵に、プロテクターのような物を付けていたのである。
司はルシファーに顔を向けるが、特にコメントは無し。
(行司が何も言わないということは、反則ではないということか?)
やむなく司は背を向け、舞子と尻を合わせた。
「はっけよい、のこった!」
二人は同時に、勢いよくお尻を突き出す。二人のパワーは互角。
(凄い……何だかバランスが安定してる!)
これまでの試合のような前に引っ張られる感覚は無く、舞子はそれを強く実感していた。そしてその勢いのまま、一気に司を押し出した。
「姫川舞子さんの勝利ー!」
「やったよ白浜君!」
譲の取った手段は見事に成功を収めた。舞子はそのことを伝えるようにピースサイン。
「……一体どういうことだ? あのプロテクターは一体……」
ブラウスを脱ぎながら、司が尋ねる。司のブラジャーはショーツと同じく紫色で蝶の羽をモチーフにした、非情に色気のあるものである。豊かなバストも相まって、その下着姿は見ているだけで心臓を高鳴らせる。
「さて、白浜君が気付いたようなので、ここで隠しルールを説明致しましょう。実はこのゲームでは、厚紙の余白を使ってオプションパーツを作り紙力士に装備することができるのです。そしてそのパーツは、土俵上で尻相撲をする女子の見た目にも反映されます。最初に晒しを作らせたのは、そのヒントですね。誰も気付かなくてもこの四回戦が終わった段階で説明する予定でしたが、流石白浜君は勘が良い」
褒められた譲は、ほっと胸を撫で下ろす。譲は厚紙の余白を使って紙力士の裏側足部分に重石を貼り付け、顔側に傾いた重心のバランスを整えたのである。賭けではあったが、どうやらこれで正解だったようだ。
「オプションパーツは一試合につき一つ、もしくは左右の同じ場所に一対付けることができます。一度付けたオプションパーツを外すことはできません。それでは次の五回戦から、本格的にオプションパーツを用いた試合が始まります。男子のお二人は、オプションパーツの製作を始めて下さい」
譲の瞳に、炎が宿ったかのように見えた。
「この勝負、勝てるよ姫川さん! ホビーのカスタマイズは、得意中の得意だから!」
オプションパーツのルールが正式に説明されてから最初の対戦となる、第五試合。両ペアはゲームを有利に進めるためのオプションパーツ作りを始めていた。
その間は紙土俵は一時撤去され、テーブルの中央には仕切りが設けられる。これにより相手がどんなパーツを作っているかは判らないのである。
「白浜君、どう? 上手くできそう?」
そう尋ねる舞子の掌は両方とも後ろに回してお尻に当てられている。リリムに下着を食い込まされてTバック状にされたことが、よほど恥ずかしいようだ。
「大丈夫。このパーツは確実に有利になるパーツだよ」
普段の儚げな印象から一転、眉が逆八の字に上がり熱血ヒーローのような精悍な顔立ちに。この変貌ぶりには、舞子も少々困惑していた。
そして二人とも完成したパーツをのりで貼り付けたところで、仕切りが取り払われ再び紙土俵が出現。二人は紙力士を紙土俵に置く。
「さて、ではお二人がどんなパーツを作ったのか見てみましょう。まずは森沢君から」
司を模った紙力士は、廻し全体を覆うようにスカートが貼り付けられている。
「下着丸出しでは可哀想だったんでな、スカートを穿かせてやった」
「なるほどなるほど、森沢君は紳士ですねぇ。そして白浜君の方は」
舞子を模った紙力士は、天使のような純白の翼を背に付けていた。
「おおっ、これは! なんと見事な造形でしょうか!」
ルシファーが感嘆の声を上げる。この白い翼は羽根の一枚一枚がとても精巧に作られており、非常にリアル。はさみ一つで作ったとは思えぬ珠玉の出来であった。ただ雑に厚紙を切って貼っただけの元治が作ったスカートとは、比べるのもおこがましい代物である。
「凄い白浜君。流石!」
これには舞子も褒め称えるばかり。譲はますます得意気になった。
「それでは女子のお二人は土俵に上がって下さい」
指示に従って、舞子と司は机から土俵に移動。すると、舞子の背から純白の翼がぶわっと現れた。
「お、おおお……」
舞子はキョロキョロと左右に首を動かし、目を輝かせていた。
「すっごい、私天使になったみたい!」
「で、僕の方は何も出てこないんだけど」
疑問に思った司が尋ねた。紙の司は確かに白いスカートを穿いているはずだが、司本人は相変わらずパンツ丸出しだったのである。
「ああ、言い忘れていましたが、胸部や腰部を覆うようなパーツは女子本人には反映されません。なお紙相撲の方での物理的な影響はちゃんとありますので、その点はご安心下さい」
あくまでもこれは脱衣ゲーム。せっかくの脱衣の醍醐味を台無しにする無粋なパーツは相応の措置が取られるのである。
「うーむ……そうだったのか」
「まあ、そんなとこだろうとは思ってたけどね」
目論見が外れた元治は悔しそうに唸る。その一方で司は冷静であった、
「では男女とも準備を始めて下さい」
男子はそれぞれ紙力士の位置を正し、女子は背中を向け合いお尻を合わせる。司は羽根が背中に触れて、少しこそばゆく感じた。
「はっけよい……のこった!」
開始が宣言されると、二人の女子は勢いよく尻を突き合わせた。パワーは互角かに思われたが、羽根が背中をくすぐったことで司の力が一瞬緩む。
(くっ、この翼……やり辛い!)
押し出されそうになるのを踏ん張って堪え、反撃に出る。だが大きな翼が、それすらも邪魔するのである。
(何だかよくわかんないけど、勝てそうな気がする!)
その理由が何であるかまでは気付かずとも、自分の優勢は舞子も感付いていた。
そして翼の有効性を実感していたのは、紙相撲側も同じであった。譲の操る紙の舞子は、譲が土俵を叩く度揺れる翼で紙の司を果敢に攻めるのである。
翼が狙い通りの効果をもたらしたことで、譲は興奮していた。この翼は決してかっこいいだけの飾りではない。本来紙相撲の力士は、前方に腕を伸ばした姿勢をしている。この腕で相手の力士と組み合うのである。だがこの紙尻相撲に使用する力士の腕は、側面に印刷されているにすぎない。そこで譲は腕の役割を果たすパーツとして背中から後方に伸びる物、即ち翼を付けたのである。
翼を授けられた紙の舞子は遥かに強化された攻撃力で、紙の司を寄せ付けない。そして遂には紙と本物の司が、同時に倒されたのである。
「姫川舞子さんの勝利ー! 見事逆転です! これで王手がかかりました!」
オプションパーツを的確に活かして勝利を掴む譲の姿を見て、ルシファーの実況にも熱が入る。
「く……オプションパーツの性能というのはこのゲームで相当重要なようだね……」
起き上がる司は悔しそうにしながらも、不敵な微笑を浮かべていた。
「おやおや霧島さん、まだ余裕という表情ですが、これから脱がなければならないことは忘れていませんよね?」
「ああ、忘れてなんかいないさ」
きりっと精悍な表情を崩さぬまま、司は右手を背中に回してブラのホックを外す。左腕でブラを押さえながら丁寧に肩紐から腕を抜き、左腕の位置を動かさずブラを下に抜き取った。バストトップの位置を一分の隙も無く正確に隠し、決してそれを衆目に晒すことなくブラを脱いだのである。
(王子様、隠しながら脱ぐの上手……!)
舞子はその様子に感心しつつも、王子様のあられもない姿が見られなくて少し残念に思う気持ちもあった。
脱いだブラが消えると司は右腕も胸に当て、よりガードを強化する。王子様フェイスとギャップのある豊かな胸が腕に押さえられ、むにゅんと形を変えていた。
服を脱ぐことに抵抗が無さそうな素振りを見せる司であるが、頬は仄かに染まっており全く恥じらいが無いわけではないことを窺わせる。
女子二人は土俵から降りてそれぞれのパートナーの所へ行き、次の作戦会議へ。
「凄いよ白浜君! 裁縫だけじゃなくてこういうのも得意だったんだね!」
「うん、今まで隠してたんだけどね」
既に譲の中で次のパーツの設計図は出来ていた。後はそれにそって厚紙を切り抜くのみ。舞子の下着姿には目もくれず、譲は全神経を作業に集中させていた。
一方の三年生ペア。手際の良い譲とは対照的に、元治はパーツ作りに苦心していた。
「どうだい森沢君、良いパーツは作れそうかい?」
司は腕で胸を隠したまま、自分の身体が元治の視界に入らないよう背後から話しかける。
「うーむ……造形技術に関してはあちらの方が圧倒的に上だ。俺の作るパーツではどうやったってあちらの出来には勝てない。パーツの性能よりも紙相撲や尻相撲の技術で勝つ方向にした方がいいかもしれん」
「尻相撲の技術か……それなら僕に試してみたいことがある」
両ペアともパーツが出来上がったところで、まずはお披露目である。
(やはりそっちも翼を作ってきたか……)
神の司にははさみでざっくばらんに切り抜いたいびつな形の翼が付けられており、それを正確に模った翼を司本人も生やしていた。
「不恰好な羽ですまんな霧島」
「いや、十分だよ」
そして舞子はといえば、なかなかにクールなデザインのロングブーツを履いていた。厚紙の色を反映した白いブーツは天使の翼との親和性が高く、ピンクの下着との組み合わせも案外とはまって見える。これはデザイン性もさることながら脚部の重量を更に増して倒れにくくする効果にも期待できる、譲の技術力の高さを窺わせる一品だ。
「姫川さん、次を取れば僕達の勝利だ! この装備なら行けるよ!」
「うん! 勝ってくるよ!」
二人とも勝利に自信アリ。勝負を決めに行くため、それぞれの土俵に上がる。
もう後が無い司であるが、不思議とこちらも自信はありげ。王子様スマイルを崩さず、この状況においても己の勝利を疑っていない余裕を見せる。
「それでは第六試合……はっけよい、のこった!」
開始が合図されると、尻と同時に翼もかち合った。翼で翼を防ぐことにより背中をくすぐられることもなくなるのだ。
司はぐりぐりと尻を押し付けて牽制。しかし足腰の強化された舞子はびくともしない。小柄な身からは想像もできぬ、大岩を相手にしているかのような重量感だ。
(なるほど……これは強敵だ)
見た目の印象としてはただお洒落なブーツを履いただけだが、このゲームで土俵上の彼女達は紙相撲の紙力士と連動している。紙相撲側で重量が増して接地バランスが安定すれば、尻相撲を戦う女子もその恩恵に与れるのだ。
しかも現在司は両腕を胸に当てている状態。これでは踏ん張りも効きにくく、司にとって不利な要素ばかりだ。
そしてその司は、まるで挑発でもするかのようにお尻を押し付けるのを繰り返していた。
(うっ……なんか腰の動きがいやらしい……)
舞子はそんな風に感じてしまい少し動揺するが、どうにか気を立て直す。司の攻撃が緩んだところで、今だとばかりにお尻を突き出した。
が、司の狙いはそこであった。司は一気に身体を横に反らし、舞子のお尻は空を突く。そして司は側面から腰で舞子を押し出した。
「霧島司さんの勝利ー!」
完全に不意を突かれる形で倒された舞子は、暫く何が起こったのか解らず唖然としていた。
「おおっ、作戦勝ちだな霧島!」
「ああ、上手くいってよかったよ」
三年生ペアはお互い笑顔で勝利を喜び合う。
起き上がる舞子は、少し体を震わせていた。王手をかけたこのタイミングで、再び勝負は五分に引き戻された。
「それでは姫川さん、脱いで頂きましょう」
「ま、待って!? これどうやって脱いだらいいの!?」
「そこはボクに任せて!」
きっちり巻かれた晒しの脱ぎ方が解らず戸惑っていた舞子に助け舟を出すかのように、リリムがポンと魔法をかける。瞬時に晒しが消滅し、薄紅色の小さな蕾が露となった。舞子は慌てて両掌で胸を隠す。
「ひゃあっ!? いきなりやらないで下さいよー!」
ほんの僅かな時間ではあったが司の時と違って恥ずかしい部分をはっきりと衆目に晒された舞子は、当然リリムに文句を訴えた。しかしリリムはどこ吹く風で笑っているのである。
「さあ、泣いても笑っても次がラストです! オプションパーツの作成を始めて下さい!」
そして最終戦のために作られたオプションパーツは。
「これ……ティアラ?」
両胸を掌で隠しながら、舞子が恐る恐る紙の舞子を覗き込む。紙の舞子が頭に付けているのは、はさみで器用に穴を開けて作られた可憐なティアラであった。
「機能性という面では、前回の段階で完成と言っていい。これ以上余計な物を付けるとかえって邪魔になる可能性があるからね。だから今回は装飾性を重視してみたんだ」
「奇遇だな白浜君」
そう声をかけてきたのは、対戦相手の元治であった。彼が手にした紙の司は、デフォルメされたシンプルな王冠を被せられている。
「俺はもう何を付けたらいいかさっぱりわからんかったからな、霧島が王子って言われてるから王冠でも付けてみた」
二人は紙力士を土俵に置き、紙相撲に備える。舞子と司が土俵に上がると、それぞれティアラと王冠が装着された。
(勝てば好きな人と結ばれる……私は絶対勝って、絶対それを叶えてみせる!)
そう胸に誓う舞子の視線は、真剣な眼差しで紙土俵を見つめる譲に向けられた。
(白浜君はいい人だし、裁縫の技術も尊敬してる、私の大切な友達。でも私にとって彼は恋愛対象じゃない。周りには私と白浜君をくっつけようとする人が多いけど、私は白浜君をそういう風には見られない。私が本当に好きな人は――)
胸に秘めた想い。舞子はまっすぐ正面を見据え、最後の決戦に臨む。
さながら姫と王子に扮したかのような装飾を付けた舞子と司は互いに背中を向け合い、尻と翼を合わせた。
「この一戦で全てが決まります。はっけよい……のこった!」
決戦の火蓋は切って落とされた。開始と同時に、二人は勢いよくお尻をかち合わせた。このぶつかり合いは、やはり優れたオプションパーツを装備する舞子が優勢。
(負けない! 勝って私は……!)
もう恥ずかしがって胸を隠していられる状況じゃない。負ければもっと恥ずかしい所まで見せなければならないのだ。舞子は手を胸からどけ、一番踏ん張りが効く体勢になるよう直角に折り曲げて体の横に据える。奇しくも、司も胸を隠すのをやめて腕を同じようにしていた。
お互い胸を丸出しにしてお尻を押し付け合い、胸と尻が激しく揺れる扇情的な光景。だが紙相撲に集中する男子二人は、そちらには目を向けることすらなかった。
奮戦する譲は、一心不乱に土俵を叩く。紙の舞子は土俵の振動を己が力に変えて、二枚の翼で紙の司を揺さぶる。パワーに物を言わせる元治も、パーツの性能差を前にしては猛攻を凌ぎ切るので精一杯。
(ぐぬぬ……やるな白浜君! だがかくなる上は……!)
一年生ペアが押し込んで、勝敗が決するかに見えたその時だった。元治は両手を土俵から離して自分の目の位置くらいまで上げたかと思うと、二つの手で同時に、ゴリラの如きパワーで土俵をぶっ叩いた。
思わぬ行動を受けて、譲は目を丸くし口をあんぐり開けていた。土俵に生じた衝撃は生易しいものではなく、二つの紙力士を空中に舞い上がらせた。無論、それに連動する二人の女子本人も。
「んなぁーっ!?」
吹き飛んで体が宙に浮くというハチャメチャな状況に、舞子は悲鳴を上げる。
最早こうなっては尻相撲は成立せず、先に地面に着いた方が負けという勝負となる。まともにやっても勝てそうにないと思った元治は、思い切った賭けに出たのだ。
誰もが唖然とする中、二人の女子は土俵に落下。勝敗をつけるためその様子をルシファーは身を乗り出しはっきりと目に収めた。
背中合わせの向きで尻相撲をしていたはずの舞子と司は、空中で体勢が反転し向き合う形で落下してきていた。そして舞子が土俵に背中をつけ、司はそれに覆い被さるような姿勢になっていたのである。
「……大丈夫だったかい、姫川さん」
脳をとろけさせるほど艶やかなハスキーボイスが、舞子の胸に響く。司は両腕をピンと伸ばした状態で体を支え、自分の身が舞子を押し潰さないようにしていた。そして勿論舞子の眼前には、放り出された豊かなバストがぼーんと存在感を主張していたのである。乳首と目線が合って慌てて顔を上に向けると、今度は王子様フェイスが微笑を浮かべてこちらを見ていた。
「ひゃ、ひゃい……」
王子様の床ドンにノックアウトさせられた舞子は、気の抜けた声で返事をした。
果たしてどちらが先に着地したのか、ルシファーにはちゃんと見えている。軍配が上がり、勝利者の名を高らかに宣言。
「霧島司さんの勝利ー!!!」
「やったな霧島!」
元治が立ち上がり、力強くガッツポーズした。
「ああ……僕達の勝利だ」
起き上がった司は再び腕で胸を隠す。舞子は胸を隠すのも忘れうつ伏せに寝転んだままであった。
ゲームの決着がついたことで、二人の装備していたオプションパーツは全て消える。
「さてさて、それでは勝った森沢君、好きな人に告白をどうぞ!」
今回は舞子が最後の一枚をまだ脱いでもいない内から、ルシファーがそちらの進行を促す。元治はルシファーの方を見て頷くと、今度は司に視線を向けた。
「霧島……」
名前を呼ばれた司は胸を隠す腕に少し力が入り、目を細めて元治を見た。
「すまん。お前のような女子ならば、もしかしたらとは思っていた。だがこうして裸になった姿を見たら、やっぱり違うと思ったんだ」
そして元治の視線は、正面の対戦相手に向く。
「白浜君! 俺は君のような美男子がタイプなんだ! 俺と付き合ってくれ!」
またも誰もが唖然とするような衝撃の告白。彼の真剣な眼差しを見れば、それが冗談で言っているわけではないことは明白。そして譲の返答は。
「……はい。実は僕も、森沢先輩のような逞しい男性が好きなんです。喜んでお付き合いします!」
譲は元治の手を握り、その告白を承諾。まさかの事態に、リリムは慌てふためいていた。
(えーっ!? 何この展開!? てことは霧島先輩と舞子ちゃんは失恋!?)
どうしていいかわからず口元に手を当てて気まずそうにしながら女子二人の方を見ると、まだ寝転がったままの舞子に司が近づいていた。
「負けた人は脱がなきゃいけないんだったよね」
ニコッと微笑んで、司は舞子を見下ろす。電撃を浴びたように飛び起きた舞子は、慌てて下着に手をかけた。
「ひゃ、ひゃいっ! 脱ぎます! 脱ぎますよぉ!」
やけっぱちで一気に下着を下ろすと、薄めのアンダーヘアがお目見え。司は仄かに頬を染めながらくすっと笑った。
「可愛い毛だね。なんだか僕も脱ぎたくなってきちゃったよ」
そう言うと司は胸から腕をどけ、自分も一気にショーツを下ろした。男子が二人とも女子の体に興味が無いと判ったものだから、全く恥らうことなく堂々と。
ごく狭い範囲だけ残し綺麗に剃り整えたアンダーヘアは、彼女の拘り。人に見せることを意識した、美麗な裸体だ。
「舞子ちゃん」
胸の奥にまで響かせるような甘い声で、司は舞子の名を呼ぶ。
「僕はずっと、君のような女の子を求めていたんだ。僕のお姫様になってくれないか」
「はい! 私も霧島先輩のことをお慕いしておりましたぁー!」
舞子が目を輝かせて告白に応じると、司はハグを求めて両腕を軽く広げる。胸をきゅーんとときめかせながら、舞子はふかふかのおっぱいに飛び込み恍惚の表情で顔をうずめた。
「えー、二組ともカップル成立おめでとうございます」
舞子と司が一糸纏わぬ姿で熱く抱き合っていると、そろそろ進行したいルシファーが水を差す。
「まずは女子のお二人に服をお返ししましょう」
ルシファーが消されていた舞子と司の服を再び出現させると、二人はどこか名残惜しそうな顔をしていた。
ゲーム終了後の工程各種を済ませて四人を元の世界に帰した後、ルシファーは譲の座っていた椅子に腰を下ろし一息つく。
「ふう、上手くいったようでよかった」
「ていうか先生! こうなるってこと最初からわかってたの!?」
「ああ、実験的に一度こういうのをやってみた」
「霧島先輩意外と経験してるなーと思ったけど、もしかして……」
「ああ、相手は全部女子だ」
「ほへぇー」
王子様の意外な裏の顔。リリムはまたしてもぽかんとしてしまった。
「まあそれはそれとして、今回の実験も上手く行ったようだし、いつか四人全員女子で全員脱ぐ! なんてゲームを開催するのも面白そうじゃないか」
新たなゲームのアイデアが降りてきてテンションの上がったルシファーは、口角を上げて笑い出す。
「なーんか物作りのことになると燃え出す辺り、先生と白浜君って似たもの同士かも。ま、ボクも衣装のことなら人のこと言えないんだけどね」
自信作であるルシファーの行司姿を眺めながら、リリムは頬が緩んだ。
放課後。被服室では手芸部恒例のそれに向けて、舞子と譲が恋人が出来た報告をしていたのである。
この二人でくっつくとばかり思われていた美少女と美少年の仲良し一年生ペアのまさかの事態に手芸部員達は驚いていたが、案外と皆から受け入れられていた。
「葉山部長! 私、お姫様コス希望です!」
「よしきた! すっごい可愛いの作るから、それで霧島さんをときめかせちゃおう! 白浜君はどうするの?」
「そうですね……僕は男らしくて格好いい衣装を希望します。それこそ森沢先輩の隣に立って見劣りしないような」
意外なリクエストに始め千鶴は目を丸くしていたが、やがて笑顔で頷いた。
「オッケー任せて! カッコいいの作っとくね!」
少しずつではあるが、自分の本当に好きなものを表に出していく。男が好きだということでさえ受け入れられたのだから、きっと皆本当の自分を受け入れてくれる。
そんな思いを胸に、譲は新たな一歩を歩み出したのである。
その日帰宅したリリムは、明日の臨海学校に向けて鞄に入れる荷物のチェックをしていた。
待ちに待った二年生最大のイベントである。否が応でもテンションが上がり、ニコニコ笑顔に花が咲く。だがふとした拍子に、その笑顔に陰りが見えた。
「あーあ、明日からの天気心配だなー。特に海水浴のある明日は晴れて欲しいよ。ボク超カワイイ水着用意してきたしー、みんなの水着姿も見たいのにー」
机に向かっていたルシファーはその言葉を聞き、ゲームのアイデアをノートに書き留める手を止め振り返った。
「ああ、それなんだが、この後上空まで行って雲吹き飛ばしてこようと思う。これで三日間晴れるぞ」
「そういうことさらりと言う!?」
スケールの大きい発言をさもコンビニに行くような感覚で言うルシファーに、リリムはぎょっとした。
「まあこういう大それたことすると相応に魔力も食うからな。回復の準備はしておいてくれ」
それを聞かされたリリムはピンと背筋を伸ばす。回復というのは勿論、淫魔にとって生きる糧となるアレのことである。
「がってん承知ぃ!」
親指を立て、テンションMAXのお返事。今夜は激しくなる予感に、リリムは胸を躍らせたのである。
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