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第一章

第6話 神経衰弱・4

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「……山城、お前セクシーポーズしろ」

 鋭い目で睨みながら、声を低くして言う。長身に加えてこの目つきの悪さ。それはまるで背後に黒いオーラが見えるかのような威圧感。

「は? ちょ……は?」

 背筋に寒いものを感じた浩太は、何を言っているのかわからないといった調子で聞き返す。だがその体は、本人の意に反して勝手に動き出した。

「ちょっ、誰得だよこれー!!」

 魔法で無理矢理セクシーポーズをとらされながら、浩太は叫んだ。

「これでもう、このカードが使われることはない」

 篤はセクシーポーズのカードを力強く自分の捨て札に置き、言った。浩太に滑稽な姿を晒させて多少は、本当に多少ではあるが溜息の下がる思いはできた。

「くっ……だが次は高梨さんのターンだぞ! これで俺達の勝ちだ!」

 ここまで三度に渡ってお手つきをしている比奈子。浩太からしれみれば、またお手つきをしてくれるという強い信頼があった。

(ぐへへ、これで幸村と高梨さんは両方俺のモノだ。3Pしちゃうぞー! 巨乳と巨乳に挟まれてやるッ!)

 この上なくいやらしい顔をして笑う浩太を、隣の暦はまた目を細めて見ていた。
 比奈子は膝を床につけた姿勢で顔だけ机の上に出し、左腕は胸を隠しながら右手でカードを一枚めくる。出たカードは、強制使用。

「あっ、このカード……」

 もう一枚の強制使用は、四週目に比奈子が一度めくっている。それから大分時間は経っているが、比奈子はしっかりと覚えていた。

「よし、いいカードだ。それを使えば相手の手に渡ったダブル脱衣を発動させられる。これで相手が一度でもミスをすれば俺達の勝ちだ!」

 追い詰められた所からの、逆転の手立て。幸運にも次にターンが回ってくるのは、透視の影響を受けていない暦である。
 勝機は見えた――かに思えた。

「私はここでリバースのカードを使う」

『リバース:ターンの順番を逆周りにする』
 抑揚の無い調子で、暦がぼそっと言う。篤が放心していて見逃したターンに、暦が手に入れたカードは順番逆周りの効果を持つカードであった。つまり次にターンが回ってくるのは、暦ではなく浩太。お手つきの可能性がある自分のターンを先送りにしつつ、確実に欲しいカードを引ける浩太に強いカードを取らせる作戦だ。

「サンキュー幸村。さーて、どいつを取ろうか」

 いやらしい顔が元に戻らぬまま、浩太はカードをめくる。選んだカードは、トラップ。

「早速こいつを使うぜ!」

『トラップ:ランダムで選ばれた裏向きのカード一枚にトラップが仕掛けられる。それをめくったプレイヤーは一回分服を脱ぐ』
 カードが使われるも、この時点ではこれといって机のカードに変化の様子は無い。だが水面下では、どれか一枚のカードに恐怖のトラップが仕掛けられているのである。そのカードは、発動した本人にもわからない。残りカードが少なければ少ないほど、トラップを引く確率も上がる。この終わり間近で使うには絶好のカード。

「さあお前のターンだぜヤンキー野郎!」

 どや顔で篤を指差し、浩太は勝ち誇った。
 残るカードは四枚二種。片方は序盤で出て以来結局誰も揃えていないカード消滅のカード。もう片方は未だ一度も出ていない未知のカードである。唯一場所のわかっていたトラップのカードは浩太に取られ、四枚全てがどのカードかわからない状態。しかもその内一枚には、引けば即敗北のトラップが仕掛けられている。一枚目でトラップではないカードを引いても次は三択の運ゲーを強いられ、たとえ運よく揃ってもそれがトラップなら敗北。篤と比奈子を徹底的に追い詰める、完璧な布陣。

(それでも……僅かな可能性に賭けるしかない!)

 もう後には引けない。篤はカードを一枚めくる。
『パス:自分のターンをスキップする』
 そのカードはこの終盤で取ったところで意味の薄い効果を持った、初めて出るカード。一先ずトラップは仕掛けられていないようだ。
 次は三択。篤は運に身を任せ、もう一枚めくる。出たカードは――パスであった。

「よし!」

 篤はガッツポーズ。これで次の暦は、トラップを引くことが確定。自分達の勝利だ。
 そう思った矢先のことだった。パスの絵柄が、爆弾に変わったのである。

(トラップ……!)
「ゲーム終了ーーー!!!」

 ルシファーの声が、この空間に響き渡った。

「勝者は――山城浩太君&幸村暦さんのペアです!!」

 勝者の名が読み上げられると、篤は両掌を机に叩きつけ歯を食いしばった。

(こんな……こんな結末……!)
「それでは高梨さん、最後の一枚を脱いで下さい」

 ルシファーがそう言うと、浩太が卑猥な言葉を叫んで野次を入れた。

「また魔法で脱がせましょうか?」
「……自分で脱ぎます」
「しゃがんでちゃ駄目ですよ。立って脱いで下さいね」
「後ろ向くのも駄目ですか」
「まあ、それは許可しましょう」

 ルシファーの許しを得て、比奈子は浩太に背を向けた格好で立ち上がる。

「ごめんねあっくん……」

 目に涙を浮かべながら、ピンクのショーツに指をかけ震える手で下ろす。

「おケツ! おケツ!」

 浩太の歓喜の声。すべすべで柔らかそうなまんまるおしりだ。
 全てを脱いで一糸纏わぬ姿になった比奈子を見た途端、篤は衝動的に体が動き、比奈子を抱きしめた。

「ひゃっ」

 思わぬ事態に声が出る比奈子。篤は机と比奈子に挟まれるような位置に体を回し、大きな背中で浩太の視線から比奈子を隠した。

「おい何やってんだヤンキー野郎! その女はもう俺のもんだぞ! ていうか邪魔だ隠すなどけ!」

 浩太の暴言も耳に入らず、篤は目を閉じ熱い抱擁を続ける。回り込んで比奈子の裸を見ようとした浩太を、暦が服を引っ張って止めた。

「……お前をあんな奴に渡したくない」

 耳元で囁くように、篤は言う。

「お前が好きだ、ひな。ずっとずっと、お前のことが好きだったんだ」

 心の奥底に秘め続けていた想いが、口から流れ出る。

「私もあっくんが好き。ちっちゃい頃からずっと、ずっとずっと大好きだよ」

 比奈子は瞳を潤ませ、篤の身体に頬を寄せた。

「カップル成立、おめでとうございまーす!!」

 時間が止まったように抱き合う二人だったが、突然ルシファーから声をかけられはっと我に返った。篤が慌てて比奈子を離すと、その勢いで比奈子の胸がぷるんと揺れた。
 一糸纏わぬ姿の比奈子を篤が最後に見たのは、今ではこんなに実った胸がまだ膨らんですらいなかった頃であった。あの頃と同じ薄ピンクの乳首に、篤の目は釘付けになる。いけないと思って慌てて視線を下に向ければ、地肌が見えるくらいうっすらと生えた細い毛質のアンダーヘア。
 篤は身悶えした。一度意識してしまったら、男としての本能が体の奥底から湧き上がってきた。

「あの、あっくん……そんなに見つめられると恥ずかしいよ……」
「……あの、ひなの服、返して頂けますか」

 篤はルシファーの方を向いて頼む。反面教師にすべき性欲の獣を見ていたお陰もあってか、理性が本能に打ち勝った。

「どうぞ、お返しします」

 比奈子の脱いだ服一式を、ルシファーは篤に手渡す。それは丁度下着を一番上に載せる形で畳まれており、またも篤をどぎまぎさせた。

「それとお二人のカップル成立を祝し、私から天使のご加護を」

 比奈子の下腹部にルシファーの紋章が現れ、すっと消えた。ちなみにこの時、篤の下腹部にも同じく紋章が刻まれている。

「おいおいどういうことだよ! 勝った方が両方の女子を彼女にできるってルールだろ!」
「私はそんなルール認めた覚えはありませんよ。君が勝手に言ってるだけです」

 暦に捕まって比奈子の裸体を見に行けなかった浩太が文句を言うと、ルシファーはそれを冷たく突き放した。

「んな……まあ、いいや。それでも幸村とは付き合えるんだ。さあ幸村、俺達も……」

 あちらと同じように自分達も抱き合おうとばかりに、浩太は両腕を広げ暦に抱き付こうとした。
 刹那、浩太は顔に強い衝撃を受け吹っ飛んだ。頬に付いた真っ赤な紅葉を押さえ、浩太は何が起こったのかわからないとばかりに目を泳がせていた。

「あんたって最っ低。私、二股かける男って大っ嫌いなの」

 すっかり気を悪くした暦は、蔑んだ目で浩太を見下ろす。
 どぎついセクハラの数々をされても何だかんだで浩太のことを憎めずにいた暦であったが、あの両取り宣言を聞いた瞬間、今までの気持ちがすっと冷めてゆくのを感じたのだ。

「えー、誠に残念ながら、こちらはカップル不成立となりました。あ、幸村さん、服お返ししますね」

 ルシファーから手渡された服を、暦は怒りながら着る。

「何でだよ!? 勝ったらカップル成立って言ったじゃないか!」
「まあ、一応そういうことになってはいるんですけどね。本当に付き合うかどうか最後に決めるのはお互いの気持ちですから」
「ざっけんなよ! 気持ちとか過程とか無視して幸村が俺に惚れるんじゃねーのかよ!」
「私には記憶操作の力がありますから、そういうのもやろうと思えばやれるんですけどね。ですがそれはあえてやりません。何故ならそんなのは、恋愛ではなくただの洗脳だからです」

 ルシファーが丁寧に説明すると、浩太は一応納得してくれたようだ。

「ク、ククク……そうかよ。じゃあしょうがねえ。まあいいさ。たとえ彼女ができなくても、俺は高梨さんと幸村のおっぱいを見たんだ! これで一生オカズに困ることは無え!!」

 何やら妙な開き直りを見せた浩太を、ルシファーは呆れた顔で見下ろしていた。

「残念ながら、この領域内で恋人以外に裸や下着を見られた、及び恋人以外の裸や下着を見た記憶はお帰りの際に全て消去されます。山城君の場合誰とも恋人関係になれなかったので、高梨さんと幸村さん、両方の裸の記憶が消えることになりますね」

 ルシファーのその言葉を聞いた途端、浩太の目から光が消えた。

「そ、そんな! あんまりだあぁぁぁぁーーーっ!!」

 両手を床につき、ショックに震え慟哭する浩太。ルシファーはそんな彼に歩み寄った。

「山城君、女の子は君だけに都合のいい玩具ではありませんよ。そんな独りよがりな恋愛を今後も続けるようでしたら……」

 顔を上げた浩太の眉間を、ルシファーの人差し指が指す。

「お前は一生童貞だ」

 先程までとは口調も声色も変えて、蔑みと共に言い放った。
 返す言葉も無く、浩太は魂が抜けたように放心していた。
 女子二人が服を着終えたところで、ルシファーは始めの位置に戻る。

「今回成立したカップルは一組だけでした。二階堂君、高梨さん、改めましておめでとうございます。それではこれにて、今回の脱衣ゲームはお開きとなります。ゲストの皆さん、お疲れ様でした」


 四人の生徒は、この領域から元の世界に帰された。一人残されたルシファーは、机の上に置かれた篤の捨て札に手を伸ばす。そこから一枚選び取ったカードは、全公開。

(脱衣ゲームは、時に人の心をも丸裸にする。内に秘めた純粋な想いも、邪な思いもな)

 邪な思いを全公開して醜態を晒しまくった浩太は、見事に愛想を尽かされた。
 脱衣ゲームは一見すると、男子が女子の裸体を観賞するためのものに見える。だがその実、本当に見られているのは男子達の方。果たしてこの男と本当に付き合ってよいものか、女子達が見極められる場でもあるのだ。
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