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金の切れ目は縁の切れ目でもない

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 「高野さま~高野さま~あれ。38番でお待ちの高野さま~」

 あっ。私だ高野 綾です。全身全霊でこの苗字を拒否している為か結婚7年を迎えても反応できません。

 私の旧姓は七条《しちじょう》 綾《あや》。戻りたい....誰か時間を戻していただけませんか?

 私は銀行にいます。
100万円を超える引き出しは窓口だそうで。
近くのカフェで待ち合わせる相手は、昔しつこく私に恋い焦がれアプローチしていた後輩。マサ君。
彼も見事に、般若《はんにゃ》に斬り捨てられたのでした。あ、般若というのは私が夫を呼ぶ影の愛称です。

 「いいの?こんな大金借りて」
相変わらずのイケメン。私より4歳若い28歳。
彼も結婚し1児の父。なんでかは聞かないがサラ金3社から400万の借金があるらしい。
奥さんには内緒。言ったら即離婚だからって。
「いいよ。その代わりもう借金しちゃダメだよ」
「はぁ~綾ちゃんと結婚してたらなぁ。俺」
「金目当てでしょ」
「金と体ね。だって、まだこんなに綺麗じゃん。変わらず」

 私は般若に嫌われる努力も怠りません。
勝手にどっかの男になかなかの大金を貸す妻などありえないでしょ?

 街を歩けば昔と変わらずすれ違う人が、こちらを見る。その視線が色目を持ってることはこの歳になればわかるもの。あえて、目は合わさずに自分の魅力をただ再認識するだけ。私も大した変態に成り下がったもんです。

 自慢じゃないですがこの7年浮気したことありません。
般若に出会う前の若い私は、うぶなふりしてかなりの男ったらしでした。かなりの.....。

 友達は私にいつも言う。
「お金に困るわけじゃないんだし、別れたら?あんな夫」
私はなかなかいい家柄に生まれ、自分で店を2つしているの。ネットショップと、バー。
絶対に般若に生活をみてもらうのはプライドに傷がつく。意地でも守っている私の城なんです。


「海斗《かいと》くん!まま来たよー」
そう、これが私が別れない一番の理由。私の小さなエンジェル 海斗。4歳の息子。

「おかえりっ」「ただいまでしょ。おかえりカイ。」
ぎゅっと抱きしめる。

 スーパーへ行き、帰宅し洗濯。料理。
洗濯は、般若分はトイレのスリッパと雑巾と仲良くくるくる回ります。
うちは先にカイと私が食事し、般若の分はフライパンや鍋に放置。
味噌汁だって僅かに残る汁とクタクタの大根が煮詰まって鍋の中です。

 般若の帰宅。
「ぱぱーっ。まま!ぱぱ帰ってきたよ」
うん知ってるわ。
私は部屋にこもる。仕事をする為。

 私は極力言葉を発さず疑問系の時だけ返事するの。
「綾~今日仕事?夜は」
「ない」
「俺の晩ごはんある?」
「鍋にあるでしょ」
「毒入ってないよね~?」
「......」

 よくこんな愛想のない妻と居れるもんだなと、ある意味感心する。もしかしたら般若も息が詰まってるのかしら。
ならもっと詰まらせてあげましょ。
私には感じるの。
貴方のような人間を世にのさばらせてはならないと。
自己中心的でなんでも与えられて当然と思っているような人間が通用する世界なんて壊してあげる。

 般若の目も見ない為、顔を思い出せと言われても、思い出せない。毎日いるのにね。
災害時、もし避難所で夫を探す状況だとしても見つける自信がないくらい。
そう災害やこの地球が滅びますって言われてもこの人と居れば大丈夫!なんて思って結婚した。
何が良かったんだろう。
たしかに、若い頃は美男で口も上手く、手も早く。あっという間に年上の般若に持っていかれたのかもしれない。周りの男を遮断され。

 「綾~家の話、ちょっとー」
はぁ、今日ばかりは会話が必要らしいので、気怠そうにスリッパをパタパタさせリビングへ。
テーブルには食べ終わった皿がそのまま。醤油も飛ばしまくり。あー目が上に向きそう。その横にパンフレットを並べてある。

 「これさ、ある程度カスタマイズできるらしい。間取り、平屋にしたら庭無くなるけど平屋にするぞ。子供は打ち切りだろ?」
はぁ。上から発言の嵐です。
子供.....打ち切りです。忘れましたか?うちは自然妊娠出来ません。原因は貴方でした。精子ゼロの検査結果に親戚一同ひっくり返りましたが、精巣から元気なジュニア達を針で引っこ抜き、私の卵を取出し顕微鏡下で見事成功しましたよね。
私何度も自らお腹に針を刺し自己注射や投薬の日々。貴方に自分の子を授けてあげたくて。私もあなたと私の子が欲しかった.....。
貴方はそれを当たり前って顔してましたね。
私はきっと、その頃から冷めていきました。
あの時嘘でも「ごめんね。大変な事させて」って言っとけば今少しは変わったかも、まったく残念ね。
セックスレス7年 子供4歳という不思議な夫婦なのです。

「子供はもういい。」
「じゃ部屋も少なくていいし、リビング広くして~」
「私お金ないよ。貸しちゃったから」
「え?いくら。誰に?」
「マサ。200万」
「.....」
「おまえ200万あったら違うことしろよ。まっおまえの金だから文句言わないけど。そいつには会うなよ。変な気おこして、金づるにされかねない。」
そうね。彼は金と体って言ってたわね。
「まっ返ってきたらラッキーくらいに思え。家の金は俺が出してやる。まぁそういってちゃっかり蓄えてんだろ?」
出してやる?やる?
今にもめんたまが、ひっくり返りそうです。

 私はそれでも冷静に、平然を装います。目は見ませんけどねっ。
金、金、金
般若は今でこそ稼ぎますが、カイを妊娠した頃。仕事を辞めました。家業で年商10億ほどの会社を三代目として継ぎたかった次男の般若は経営陣の親、兄弟と喧嘩し飛び出したのです。
私は大きなお腹で働き、実家にはお金は借りず自力で養いました。夫を。蓄えも一切無かった夫を。
しかし、般若は自由に海外に就職し月収14万円でひとり海外生活を始めました。
私は産後すぐからの仕事と育児で、疲れ果て当時の記憶はほとんどありません。

 やっと最近、情けないことに家業に出戻り、今まさに大きな顔をしています。般若の口癖は
「バカばっかり。あいつら無能集団か。俺が仕方なく戻ってやったから持ちこたえてる会社だぞ。」
一番の無能は般若あなたではないでしょうか。
それを口にできない私はもっと、無能でしょうか....。

 私はこのマイホーム計画を破壊したいのです。
ひとつ屋根の下に般若とは無理でございます。
そこで私は、シェアホームを計画しました。
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