『殿下、私は偽物の妃です』赤狸に追放された妃は青の国で逃げた妃の代わりに・・・殿下は冷めた豹君主

江戸 清水

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セリの腕前(サンサ視点)

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「いくぞ」

 真剣な目で剣を構えるセリの前、木刀を振る。万が一我が妃を傷つけてはまずいからだ。

「いてて……」
 セリを見てあろう事か昨夜の口づけの感触を思い出してしまい、ぼやっとした瞬間溝落ちを肘でつかれたのだ。

「このっ」
 本気を半分程だし、何度もセリの剣をかわし、顎先に木刀を当てる。

「う…………参りました」

「なかなかやるではないか」
「そ そうですか?!」

 嬉しそうに頬を緩める。だが全くもっていざ本番となれば通用しないであろう。中途半端に自信をつければ危ない。

「だが、戦では犬死するだろう。妃にしてはなかなかやると言ったのだ」

「…………」

 口先を尖らせたセリは肩を落とした。

「いざとなれば、急所だけを狙え。私を相手にしているからか躊躇いがある。力比べではない。戦は、命の奪い合いだ」

「……サンサ様は、戦に出てしまうのですか?いつか……その時が来たら」

「ああ」

 眉を寄せ口をへの字にし目を潤ませたセリが何かを言おうとしているかと待つ。
 すると私の元へ飛び込み肩を震わせた。

「何事だ?」
「嫌です……嫌なのです。サンサ様が居なくなったら嫌なのです。戦も嫌なのです」

 嫌……か。私も戦は嫌いだ。
 嫌と言われても定めならば仕方がない。泣き止まぬセリの頭をただ子をあやすように撫でた。

 この娘は、私が居るのが良いのだろうか。こんな私の傍が居心地が良いとは思えんが。または、王不在となり、名ばかり妃としてこの城に囚われたくないか。

「大丈夫だ。私が万が一居なくなればお前は自由の身だ」
「う゛そ そういう事では……」


「ゴホンッ 失礼いたします。殿下」

 タイガがニヤニヤしながら呼びかける。何もおかしなことはしていないのだが。

「なんだ?」

「お取り込み中失礼致します。先程南、あけの国より書状が届きました。それによると、セリ様を差し出さねば」

「戦か?」

「いえ、このままセリ様を差し出さなければセイの国に侵略しこの青の城の隣に城を建てると」

「は?……城を建ててどうするのだ」

「さあ」

 ヒュウイはやはりおかしなやつだ。

「猶予は三日。三日経てば動くとのことです」
「セリはどこへもやらぬ。まあ良い。動くまで放っておけ」
「は はあ」

「サンサ様、ヒュウイ様が城を建てたら、どうしますか?」
 やっと私の胸から顔を上げセリはまた不安な眼差しを向ける。

「心配か?そうだな、私も常にお前にへばりついているわけにも行かぬ。第一ヒュウイこそ南を放り出して馬鹿な男……それほどお前を気に入ったか?」
「そ、そんな事は……」
「ふっどうやってあの男を虜にしたのだ?」
「な 何もしておりません。私にはそんな術はございません」
「そうか?そんなことは無いと思うが」
「え?どんなことが無いのですか?」

 お前のそういう無知で透き通るような心がそうさせたのではないか?これまで女など皆同じと思っていた私でさえもお前だけは違うと思うのだから。

「もうよい」

 どうやら私は優しくお前の魅力を語ることはできない性分だ。
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