上 下
26 / 44
平成25年編再び

遠い昔に感じた

しおりを挟む
 賢人さんとまたあの近くの公園で待ち合わせをした。
ただでさえ、どんな言葉を交わせば良いのか絞り出さなければならない状況に、もうひとつオマケに気を遣うものが.....。木陰に佇む亮さんだ。

 日が暮れだし夕焼けが美しい時間、子供達も帰ったようで人けもまばらになってきた公園。落ち着かない亮さんの動きがやけに目立つ.....
ふと、亮さんがベンチに座る。きっと自分でも分かったのでしょうか。酷く目立っていることを。


 賢人さんが走り寄ってくる。前とは違い営業先に謝罪しに来たサラリーマンのように.....。
「すいません。遅くなりました。」
「いえ。気にしないでください。今回の件も。」
「僕が彼女をちゃんと納得せてなかったのが悪かった.....」
「私こそ、すいません。私、賢人さんに会えて舞い上がってしまって。あれからふと感じたんです。
昭和に居た私は、きっとばあちゃんの気持ちを感じたんだと。その、なんと言うか私自身では無く.....。

 先日、実家で手紙を見つけたんです。ばあちゃんが出せなかった正一さんへの手紙。その手紙にしたためられた言葉が、まるで私が貴方に抱いた気持ちと同じようだったんです。」
私はやけに早口に伝えたかったことを並べてしまった。一方的で彼の気持ちを突き放そうとするような内容だった。
私は言った先から反省した.....。


「ありがとう。教えてくれて。手紙のことも、君の気持ちも。大丈夫、僕は追いかけ回したりしませんよ。安心して。
でもね。きっと僕は.....君自身が好きでした。」
その素直な飾らない彼に私は返す言葉を失った。回りくどくあれやこれや、並べた自分が恥ずかしくなった。

 賢人さんは「元気でね。」と言い残し立ち去った。
私はこの人を出征の日涙ながら見送った。あの日がとてつもなく遠い昔に感じた。

「なんか優しい人だな」
亮さんが賢人さんの事を優しいと言った。他人を褒める亮さんを初めて見た気がした。
てか、話全部聞いてたの??

「さっ夜勤行くぞ」
「夜勤?」
あー夜勤。私は今から亮さんと夜勤だった。
完璧に忘れていました。

 いつもより、会話の無い私達.....
「巡回行くわ」
「あっはい。宜しくおねがいします。」
私はカルテの入力に勤しんだ。

 しばらくして戻った亮さんが引き出しを開け
「おやつにするぞ」
おやつ?!今まで何度か一緒に夜勤しましたけど。おやつタイムを亮さんが提案するなんて、明日は嵐が来るかもしれません。
「亮さんおやつ食べる派でした?」
きっと私を気にかけてくれているんだ。
「疲れたから欲しただけ」
ウエハースをチョコでくるんだお菓子を取り出した。
パキッ
「ほれ」
割った半分を私に渡す.....はんぶんこ。
「ありがとうございます」
ありがたく頂いた。
「甘っ歯痛ってぇ」
「亮さん虫歯じゃないですか?」

「わっ!」
私は突然光った空に驚いた。室内まで瞬間的に白く光る。ゴロゴロゴローッガッシャーン

「......雷?今落ちましたよね。どっか近く落ちましたよね」
ぷちパニックになる私。空襲を連想する光と音にあの恐怖が蘇る。雷は容赦なく光を落とし続け地響きすらしている。叩き打つような雨も降り出した。
「すごいな...」
亮さんも窓から外を見ていた。

「助けて~~助けて~~」
誰かが小さな声でたしかに、助けて.....と。
私は急いで入所者さん達が寝ている部屋を回る。
花さんだ.....花さんがベッドにちょこんと座っていた。
「大丈夫ですよ。花さん。雷です。」
「逃げなくていいんでしょうか?私達。ここにいたらみんな吹き飛ばされて。そこら中焼けてしまう.....」
花さんは私の制服の隅っこをぎゅっと掴んでいた。そっと花さんを抱きしめた。小さな体.....。
戦時中の記憶を呼び戻してしまったようだった。部屋の外で、亮さんはそんな私達を見守った。

ずっと降り続く猛烈な雨。台風の影響のようだ。
「亮さん今日何で来ました?」
「バイク」
「えっ。バイクで帰るのは無理そうですよ」
この雨は夜勤明けの朝まで降り続いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

飲みに誘った後輩は、今僕のベッドの上にいる

ヘロディア
恋愛
会社の後輩の女子と飲みに行った主人公。しかし、彼女は泥酔してしまう。 頼まれて仕方なく家に連れていったのだが、後輩はベッドの上に…

処理中です...