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昭和19年編
行かないで.....死なないで
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1945年 昭和20年 3月
朝から何やら騒がしい。
顔を洗いモンペを着て居間へ。
朝ごはんの支度をしようと、台所へ向かう私を呼び止める父
家族全員集まった。
「正一さんに召集令状が来た」
私はその短い父の一言に喉が締め付けられたような感覚に陥る
家族の生還はばあちゃんの言った通りなら大丈夫。ただこの正一さんの事は分からない。
行かないで...死なないで...
そう叫びたかった
「今までお世話になりました。」
正一さんは畳に手を付き父に頭を下げた。
みな何も言わないが、きっと私と同じ気持ちだろう。
「墓参りに行きたいのですが」
正一さんは神戸へ墓参りへ行きたいと。
おひささんは、私に目を細めて言った
「行きたければ一緒に行きなされ。お父さんが一緒にいくよって。ただし、気い付けんと。いつ空襲があるやも知れん。神戸は」
戦時中、赤紙をもらった者の望みを聞くのは、一家の長として当然であったのか。
+++
個人的な利用は極めて限定的とされた列車の乗車券を得て出発した。
神戸へ着いた私達。
父が二人で行ってきなさい、私は用があると。
日没までに宿に来るように言われた。
全てが初めて見る世界。
スーツ姿の人もいれば、浮浪者のような恰好の人も
パーマネントの看板が目立つが店は閉まっている。
他の店も形だけで人けがない。
多くの人が田舎へ疎開するのか大きな荷物を抱えた人が行き交う。
無言で歩く正一さんについて、無言で歩く。
随分長く歩いて、墓地についた。
手を合わせる
また来た道を戻る。途中 途中で腰掛けて休んだ。
「疲れましたか?」
「いや。八千代ちゃんこそ。お供ありがとう。
何にも楽しい事なくてごめん」
「一緒に歩くだけで私は楽しいです」
「......」
正一さんは、私をぎゅっと抱きしめた。
周りの人は誰も男女の抱擁など気にもしない。
「生きて帰る。きっとまた会えます。」
戦時中生きて帰るなど、言ってはならない言葉だっただろう。
宿屋へ入り3人布団を並べた。
明日には帰り、まもなく出征の日を迎えるのだ。
なかなか眠れず、眠ったか起きているか定かではない正一さんの顔を父の顔越しに見ながら眠りについた。
夜も深まった深夜、空襲警報が鳴り響く。私は神戸の大空襲がいつだったか思い出せぬまま出発していた。
それはまさにこの日であった。
ウ――――――ウ――――――
田舎で聞いたより激しく緊迫した音量の空襲警報に飛び起きた
辺りが昼間かと思うくらい明るくなっていた。焼夷弾の嵐である。
「八千代!正一、出るぞ」
宿から飛び出ると目の前にも焼夷弾が.....
容赦無く降り注ぐ焼夷弾で、あっという間に燃え広がり辺りは炎が波打つ火の海となった。悲鳴が飛び交う、あちらこちらから泣き叫ぶ声、誰かを呼ぶ声.....
ガシャーン パチパチパチ そこら中で壁や柱が燃え落ちる。
正一さんは、火の粉が舞う中私を守りながら進んだ。
朝から何やら騒がしい。
顔を洗いモンペを着て居間へ。
朝ごはんの支度をしようと、台所へ向かう私を呼び止める父
家族全員集まった。
「正一さんに召集令状が来た」
私はその短い父の一言に喉が締め付けられたような感覚に陥る
家族の生還はばあちゃんの言った通りなら大丈夫。ただこの正一さんの事は分からない。
行かないで...死なないで...
そう叫びたかった
「今までお世話になりました。」
正一さんは畳に手を付き父に頭を下げた。
みな何も言わないが、きっと私と同じ気持ちだろう。
「墓参りに行きたいのですが」
正一さんは神戸へ墓参りへ行きたいと。
おひささんは、私に目を細めて言った
「行きたければ一緒に行きなされ。お父さんが一緒にいくよって。ただし、気い付けんと。いつ空襲があるやも知れん。神戸は」
戦時中、赤紙をもらった者の望みを聞くのは、一家の長として当然であったのか。
+++
個人的な利用は極めて限定的とされた列車の乗車券を得て出発した。
神戸へ着いた私達。
父が二人で行ってきなさい、私は用があると。
日没までに宿に来るように言われた。
全てが初めて見る世界。
スーツ姿の人もいれば、浮浪者のような恰好の人も
パーマネントの看板が目立つが店は閉まっている。
他の店も形だけで人けがない。
多くの人が田舎へ疎開するのか大きな荷物を抱えた人が行き交う。
無言で歩く正一さんについて、無言で歩く。
随分長く歩いて、墓地についた。
手を合わせる
また来た道を戻る。途中 途中で腰掛けて休んだ。
「疲れましたか?」
「いや。八千代ちゃんこそ。お供ありがとう。
何にも楽しい事なくてごめん」
「一緒に歩くだけで私は楽しいです」
「......」
正一さんは、私をぎゅっと抱きしめた。
周りの人は誰も男女の抱擁など気にもしない。
「生きて帰る。きっとまた会えます。」
戦時中生きて帰るなど、言ってはならない言葉だっただろう。
宿屋へ入り3人布団を並べた。
明日には帰り、まもなく出征の日を迎えるのだ。
なかなか眠れず、眠ったか起きているか定かではない正一さんの顔を父の顔越しに見ながら眠りについた。
夜も深まった深夜、空襲警報が鳴り響く。私は神戸の大空襲がいつだったか思い出せぬまま出発していた。
それはまさにこの日であった。
ウ――――――ウ――――――
田舎で聞いたより激しく緊迫した音量の空襲警報に飛び起きた
辺りが昼間かと思うくらい明るくなっていた。焼夷弾の嵐である。
「八千代!正一、出るぞ」
宿から飛び出ると目の前にも焼夷弾が.....
容赦無く降り注ぐ焼夷弾で、あっという間に燃え広がり辺りは炎が波打つ火の海となった。悲鳴が飛び交う、あちらこちらから泣き叫ぶ声、誰かを呼ぶ声.....
ガシャーン パチパチパチ そこら中で壁や柱が燃え落ちる。
正一さんは、火の粉が舞う中私を守りながら進んだ。
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