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8(アシュレイ視点)

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 俺も十五歳になり、父から結婚を考える次期だと言われた。

 自分の胸の中には、いつでもアイネ嬢がいる。
 剣士としても尊敬しているし、彼女と会うといつも何かしらの興奮を覚える。
 これは間違いなく恋であり、愛に違いない。
 俺は、アイネ嬢と結婚したい……と、現国王であり父であるランドスター・ガルランド国王陛下に伝えた。

「そうか、お前がそこまで望むのならば好きにするといい。バロムには私から言っておこう」
「父上、アイネ嬢を心から欲しいと思っているのは自分です。自分で気持ちを伝えます!」

 無事に父から許可を貰った。
 平静を取り繕うとしても、口元が緩んでしまう。
 俺の心は、晴々とした今日の青い空を写し取っているかのようだ。

 さっそく部屋に戻り、俺は手紙を書いた。
 しかし、いざ始めると、自分の気持ちを文字にするのは難しい。
 国政に関する書類も、法に関する文書だろうとも、こんなに考えることはなかった。
 何度も何度も書き直し、満足のいく内容になったと思えば、手紙の枚数がすごいことになっていた。
 しかし、アイネ嬢の魅力と俺の思いを伝えるには、これほど長い文章が必要になってしまうのだ。
 大きく息を吐き、窓の外を眺めると、王都が朝焼けに染まっていた。

「誰か! ベルベット公爵家に遣いを送れ! これは、何よりも重要な手紙である! 迅速に届けろ!」

 よし、これでいい。後は待つだけだ。
 王家の力を使うことにはなるが、次期国王として相応しい王妃を見つけるのも大事な仕事だからな。
 全ての令嬢には、次期国王を産むという貴族としての義務がある。婚約者に選ばれ、結婚して王妃となれば……だが。
 まあ、余程の理由がなければ断れないということだ。

「アシュレイ王子、ベルベット公爵家より手紙を預かっております」
「……そうか」

 き、きたー!
 数日後、待ちに待った返信が届いた!
 門番、執事、メイドに至るまで、アイネ嬢からの手紙を見たら、何よりも優先して俺のところに持ってこいと伝令を出しておいたからな。

 ……ふぅ、緊張する。
 中を見るのが怖い。
 どうせ、長々とした挨拶の後に、『お受けします』と書かれているのだろうが……相手はアイネ嬢だからな。万が一というものがある。
 さあ、開いてみよう。
 どのような内容であるか楽しみだ。

『お断りします』

 くぅー、そうきたか!
 さすがの俺も、これは予想外だ。
 ……た、たまらんぞ。
 断れるはずのない王家からの婚約の申し出を、たったの六文字で返してくるとは。なんと愛おしい手紙なのだろう。
 この中に、アイネ嬢の全てが詰め込まれているではないか!
 肌身離さず持っておきたいところだが……それだと仕事が手につかないだろう。
 悩ましいけれど、一緒に寝るくらいにしておくか。
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