白い結婚のはずなのに、なぜ私を殺そうとしたのですか? など、恋愛小説短編集

ミィタソ

文字の大きさ
76 / 128
ドM王子が婚約破棄してくれないのですが!

6(アシュレイ視点)

しおりを挟む
 お茶会はまずかったか。
 アイネ嬢との中を深めたくても、普通の令嬢と同じように接すると失敗する。
 前回の失敗を活かし、今度は練習試合をお願いすることにしよう。

「誰か! ベルベット公爵家に遣いを送れ! さらに、騎士団に通達。練習試合をするぞ! 走れ、時間との勝負だ!」

 騎士団を連れてベルベット公爵家に行ったとき、みんなアイネ嬢の剣を見て刺激を受けていた。
 団長が言うには、俺と一緒に見学した騎士たちの気迫と練習の質が変わったらしい。

 アイネ嬢は、剣術を極めようと人生を捧げるほどの武人。練習試合という形ではあるが、今の実力を測れる機会というのは嬉しいのではないか。
 双方にとって得がある素晴らしい提案だろう。

 アイネ嬢のことを考え続け、何も手につかぬまま数日が過ぎ、ついに練習試合の当日となった。

「アイネ嬢、よく来てくれたな。今日は君の剣技を騎士たちにも見せてやってくれ」
「承知しました。それでは、お見せいたしましょう」

 王国では、美人といえば艶やかな長い髪から覗く整った顔立ちはもちろんのこと、柔らかな白い肌に、出るところが出たスタイルが重要だ。
 しかし、俺も剣術を学び始めたから分かるのだが、アイネ嬢の鍛え抜かれた体は、剣を振るために無駄が削ぎ落とされている。
 歩くとわずかに揺れるくらいに短く切り揃えられた髪。遠目からは華奢に見えるのだが、日に焼けた体のおかげで筋肉の形がよく分かり、剣のために引き締まった究極の造形美に映る。
 こんなことを令嬢相手に直接言うのは失礼だが、あの顔が素晴らしい。すっと伸びた鼻筋に、血色のいい唇。……そして、あの瞳だ。あの銀の瞳に、私の心は吸い込まれてしまう。
 レイピアのように切れ長の双眸そうぼう。流すような横目でキッと見つめられると、心臓に刃を突き刺されたかのように……おっと、そろそろ始まるみたいだな。

 今回、アイネ嬢の相手を務めるのは、仕事などの都合で俺とともに見学に行けなかった者たち。
 ベルベット公爵家に行った周りの仲間がメキメキと実力を上げている事実を受け、是非やらせてくれと懇願してくるほどに気合いが入っている。
 彼らは王国騎士団の一員だ。実力は申し分ない。

「ぐああああぁ!」
「参りました!」

 だが、次から次に倒れていく。
 誰一人として、アイネ嬢の涼しげな表情すら変えられる者はいなかった。

「アイネ嬢、どうか私に剣を教えてくれないか? 実は、アイネ嬢の動きを参考にしつつ、王国剣術を学んでいるのだが、何かが足りない気がするのだ。気づいたことがあれば教えて欲しい」

 俺はまだ、剣術を学び始めて日が浅い。
 何もかもが足りていないのは分かっている。
 王族として生まれ持った膨大な魔力に任せて、アイネ嬢の動きを習ってはいるのだが、彼女のように風を切り裂くあの音を一度たりとも聞いたことがない。
 身体を強化した状態であれば、騎士団のほとんどの者よりも、単純な力だけなら上だと思うのだが。

「なるほど、そういうことであれば拝見いたします」

 これで断られたらどうしようかと思ったが、アイネ嬢に了承してもらうことができた。
 今の俺を見て欲しい。……あの、身震いするほど恐ろしい目で。

「――ハッ!」

 全力の剣を振る。
 限界まで出し切った。練習よりもいい動きができたと思う。

「素振りも大事ですが、王子の場合は何かに剣を当てるといいかもしれません。蹴り足の力が逃げていますので、一つ一つの動作で蹴り足の力を増幅させることこそ上達に繋がりますから」

 アイネ嬢から、俺に足りないことを教わった。
 言われて気付くことは多い。まだまだ先は長そうだ。
 
「なるほど、そういうことか。謎が解けた。俺に足りないと感じていたのはそれか。木人を使った訓練も取り入れてみよう。……それで、最後にアイネ嬢の全力の突きを見せてもらえないだろうか? 私に向けて放って欲しい」

 一番近くで、目標とする剣を見たい。
 アイネ嬢の体の動かし方、筋肉の使い方、何もかもをこの目に焼き付けたい。

 アイネ嬢が、腰を落として低く構える。
 俺は、皿に残ったスープをパンですくいとるような気持ちで瞬きを禁じ、両の目を見開く。

 なのに、一瞬で接近されてしまう。
 ……これが、アイネ嬢の突き。
 自分に迫る剣先を視界に捉えながら、脳が死を予感した。

 そのとき、世界が止まる。
 いや、驚くほどゆっくりと時間が流れていく。

 アイネ嬢のレイピアは、俺の体のどこを狙っているのだろうか。
 なるほど、右肩のようだ。
 あんな突きを食らったら、腕ごと持っていかれるかもしれない。

 来る。
 いいぞ、そのまま突き刺せ!
 アイネ嬢の剣で、俺の肩を貫いてくれ!
 ……っ!
 駄目か、寸止めか。

「ほあぁ……」

 でも、なぜだかすごく気持ちがいい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

処理中です...