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ドM王子が婚約破棄してくれないのですが!

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 ガルランド王国の剣ことベルベット公爵家は、戦場で武勲を立て続けることで、地位を不動のものにしてきた。
 そのベルベット家の三女として生まれたのが、私――アイネ。幼い頃から剣の道を極めようと必死だった。

 朝早くから細剣レイピアを突く、振り抜く、刺す。日が暮れるまで……体が疲れ果て、やがて動けなくなるまでこれを続ける。
 毎日、毎日、庭で倒れている私を、メイドが家まで運ぶ。
 メイドに抱えられているぐったりした私の姿を見て、お父様でさえ呆れて大笑いしていた。

 身体能力の不利は、持ち前の魔力で強化すればいい。十三歳にもなれば、私に勝てる剣士はほとんどいなくなっていた。
 まだ剣を握らせてもらえなかった幼い頃の私は、神様が地上に落とした天使だなんて言われるくらい可愛い可愛いともてはやされていたけれど、今となっては見る影もない。
 髪は邪魔になるからと短く切りそろえ、手のひらは豆でゴツゴツとして、鍛え上げた体は肩が張り、腹筋なんて男性のように割れている。
 女性らしさの欠片も無い見た目……でも、これは自分で選んだこと。
 私には、剣の道を極めるという夢があるのだから。

 ある日、私の腕を一目見ようと、騎士団とともにアシュレイ・ガルランド王子が屋敷を訪れた。
 アシュレイ様は、私と同じ十三歳になられたばかり。どれほどの腕前かと興味があったのだろう。
 しかし、剣を教えるだとか、お茶をするだとか、そんな暇はない。
 自分のことで精一杯なので、見学くらいならどうぞご勝手に……という感じだ。

「おぉ……」

 鋭く踏み込み、風を切り裂く突きを放つ。
 基本の動きだが、洗練された私の動作に、騎士団も思わず声を漏らしている。
 そのとき、アシュレイ王子が立ち上がり、こちらに近づいてきた。

「素晴らしい剣技だなアイネ嬢! 一度、私にもその剣を振らせてはもらえないか?」

 キラキラと光る銀の髪を掻き上げ、並びのいい白い歯を見せながら、整った口元で微笑みを浮かべている。
 そして、ほっそりとした滑らかな手をこちらに差し出す。
 武人の稽古中に距離を詰めるなど、危なくて仕方がない。

「邪魔です! お怪我をなされたいのですか!」

 私は、声を張り上げた。
 国のために技を磨いているというのに、それを邪魔しようなど、いくら王子といえども無礼がすぎる。
 それに、王子の体を万が一でも傷つけようものなら、大問題になってしまう。

「……え? あ、あぁ。すまなかったな」

 俯き、じっとりとした視線をこちらに向けながら、王子が騎士団の方へと帰っていく。
 あの目つき、おそらく嫌われてしまったであろうが気にしない。
 私は、戦場で輝ければそれでいいのだから。
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