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愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……

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 もういい、出ていけ……と、お父様の書斎から追い出されて翌日。
 アンナが朝早くに部屋に入ってきて、あれよあれよという間に湯浴みやら着替えやらお化粧やらと支度をさせられて、私はまた馬車に乗っている。ムスッとした顔のお父様とお母様と向かい合いながら。
 行き先は、これまた昨日と同じくザーリ・アグナバル侯爵のお屋敷だ。
 どうやら到着したみたい。

「エミリア、分かってるわよね? ちゃんとレオン様に謝罪して、今日はあなたの方から婚約をお願いするのよ? こんな良縁を逃したら、一生結婚できないと思いなさい! ……聞いてるの!」

 全部聞いた上で黙っていたのに、お母様に叱られてしまった。分かってるわよね……と、言われましても。
 一方的に呼びつけられて、一方的に追い出されたから、昨晩はろくに話をしていない。私から婚約をお願いするだなんて初耳だ。
 そもそも、結婚したいだなんて言ったことも思ったこともない。
 のほほんと生きてきた私を見て、この子は結婚したくて焦ってる……とはならないよね。

 レオン様が好きだとか嫌いだとかの問題ではなく、わんさかといらっしゃる麗しい令嬢たちの中から、わざわざ大ハズレの私を選ぶことが不思議なのだ。
 だって、挨拶くらいはしたことがあるけれど、レオン様とはまともに話した覚えがないのだから。
 裏があるのでは……とか、お姉様と勘違いしたのでは……とか、色々と心配するのが普通だと思う。
 この件に関しては、私のほうが絶対に正しいという自信がある。

「お父様でもお母様でも、どちらでもいいので教えて欲しいのですが、レオン様はなぜ私を選んだのですか? 常日頃、お二人は私を無能と呼んでいます。もし私が結婚するのなら、旦那様は無能ではないお方がいいのですが。……ねぇ?」

 悪戯っぽく笑みを浮かべ、たとえお姉様であろうとも答えられない疑問を突きつけてあげた。
 ……しばし沈黙が続く。
 難しい顔をしたお二人が、うーんうーんと唸りながら、正解を導き出そうと必死である。
 私は、ニコニコしながらその様子を眺めておく。
 ……すると、お父様がハッとした表情で立ち上がった。

「そうだ! レオン様に聞いてみよう!」

 お母様に手を引かれた私は、おそらくレオン様が待っているであろうお屋敷へと向かう。
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