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捨てられて視力を失いました。でも安心してください、幸せになりますから!

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 私は少しずつ自分の役割に慣れていった。しかし、今日はいつもと違っていた。シスターが急な用事で教会を留守にし、私一人だけが教会に残されていた。

 静寂に包まれた教会の中で、私は花を手入れしながら、周囲の静けさを感じていた。
 私一人という状況は、この教会に来てから初めてだ。それに、目が見えないからか、ふとした瞬間に不安が心をよぎる。

 「大丈夫、私はここにいる」と自分に言い聞かせながら、仕事を続けていた。歌を歌えば、少し心が軽くなる。
 その時、教会の扉が開く音がした。驚きながらそちらを見たが、視界は暗闇のままだ。誰かが入ってきたのだろうか。
 不安が胸を締め付ける中、知らない声が響いた。

「目が見えないらしいね。手伝ってあげようか?」

 おそらく町人だろう。声に聞き覚えがないので、誰なのかは知らない。
 ……近づいてくるのが足音で分かる。私は心の中で警戒心が高まった。

「申し訳ありませんが、私は一人で大丈夫です。目が見えなくても、できる仕事を任されてますから」

 優しく断ろうとしたが、彼は少し強引に近づいてきた。恐怖が私の心を支配していく。

「まあ、そう言わずにさ。君の美しさをもっと多くの人に知ってもらうべきだ。一緒に外に出ようよ」

 その言葉には、どこか不穏な響きがあった。
 強い力で手首を掴まれてしまう。私は必死に彼の手を振り払おうとしたが、彼はその手を強く握りしめていた。

「離してください!」

 恐怖のあまり声を上げると、教会の静寂が破られた。
 そこに、運命的な瞬間が訪れた。教会の扉が開き、パトリックが現れたのだ。

「何をしているんだ、君は!」

 彼の声が響く。私はその言葉に救われた気がした。 パトリックはすぐに私の方へ駆け寄り、その大きな背中で私を守るように……町人を威圧するように立ちはだかった。

「この女性に何をしている! 手を離せ!」

 パトリックの言葉に町人は一瞬怯んだが、すぐに反発した。

「何だお前は! 関係ないだろ!」
「関係ないか。しかし、君がこの女性を無理に連れ出そうとしているのは明らかだ。ここは教会だぞ? 暴力を振るっていい場所ではない」

 パトリックの強い言葉に、町人は一瞬たじろいだらしい。私の手首を掴む手が緩む。
 その隙を見逃さず、勇気を振り絞って払いのけ、私はその場から逃げ出そうとした……のだが。

「危ない!」

 パトリックの声が耳に届いたが、私の足は床に引っかかり、つまずいてしまった。
 私は体制を崩し、思わず倒れそうになる……が、その瞬間、パトリックが私を抱きとめてくれた。
 彼の温かい腕が私の体を支え、安心感が広がっていく。

「大丈夫ですか、アンネさん?」

 彼の声に、私は心が落ち着きを取り戻す。
 彼の存在が、私にとってどれほど大切であるかを、改めて感じた。

「はい、でも……本当に怖かったです」

 パトリックは私をしっかりと抱きしめ、安心させるように言った。

「もう大丈夫です。私はあなたを守りますから」

 その言葉に、私は心が温かくなるのを感じた。彼の存在が、私にとっての光であることを再確認した。
 町人は、パトリックの威圧に気圧されたのか、結局その場を離れていったようだ。

「ありがとう、パトリック。あなたがいてくれて本当に良かった」

 彼は、私の手を優しく握った。その瞬間、私の心に温かい感情が広がっていく。彼の存在が、私にとってどれほど大切であるかを再確認したのだった。

 その後、私たちは少しの間、静かに過ごした。
 安心したとはいえ、恐ろしい思いをしたのだ。まだ少しドキドキしている。
 心の動揺が収まるまで、パトリックは私のそばにいてくれた。その時間が、私にとって何よりも心強いものであった。

「アンネさん、もう少し気をつけた方がいい。目が見えないことが、こういう危険を招くこともあるから」

 彼の言葉に、私はうなずいた。シスターに相談した方がいいかもしれない。
 自分の状況を理解し、これまで以上に気を引き締めなければならないと感じた。

 パトリックは本当に優しい。教会の仕事を続けようとしたら、手伝うよと言ってくれたのだ。
 パトリックの存在が、私にとってどれほど大切で頼りになるものかを、改めて実感した瞬間でもあった。
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