捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ

文字の大きさ
上 下
13 / 13

しおりを挟む
 ある日のこと、ディーン様は静かな庭園に私を誘った。
 澄んだ空気の中、木漏れ日が優しく私たちを包み込む。
 どこか緊張した様子のディーン様を見て、私は少し驚いた。
 いつも自信に満ちている彼が、こんなふうに戸惑っているなんて、珍しい光景だったからだ。

「エルザ様、少しお話したいことがあります」
「はい、何でしょうか?」

 彼は一呼吸置き、真剣な眼差しで私を見つめた。
 その目には揺るぎない決意が宿っていた。

「エルザ様……これまでのご助力に、心から感謝しています。そして、この気持ちが単なる感謝だけではないことも、自覚しています」

 ディーン様の言葉に胸が高鳴り、視線を逸らしそうになるのを必死でこらえる。
 私は静かに彼の次の言葉を待った。

「エルザ様……いえ、エルザ嬢。私の妻として、この先の人生を共に歩んでいただけないでしょうか?」

 その瞬間、周囲の音が全て消え去り、彼の言葉だけが胸に響いた。
 まさか、こんな日が訪れるなんて。
 マクーン王子の婚約者としてしか生きてこなかった私が、今やディーン様の隣に立つことを許される存在になれたなんて、信じられないほど夢のようだった。

「ディーン様……」

 私は、胸の中に溢れる喜びを抑えきれず、彼の真っ直ぐな目を見つめた。
 そして、心からの返事を伝える。

「私でよろしければ、喜んでお受けいたします!」

 ディーン様は、安堵の表情を浮かべ、穏やかに微笑んだ。
 その瞳には、未来への希望が輝いている。

「本当ですか! 父上……今の私たちを見て下さっているかな? 私は……世界一の幸福を手に入れました。そうだ! エルザ嬢のお父様にもご報告しないと! いや、その前に皇帝陛下に……」
「ふふっ、焦らないでください。これからも二人で、ゆっくりと進めていけばいいのですから」

 私たちは、互いに強く手を握り合った。
 過去の痛みから解放され、新たな未来を歩み始めることができる喜びが、心に満ちていく。

 ディーン様の妻として、この国で新しい人生を共に築いていく。
 それは、かつて夢見たものとは違うけれど、確かな幸せと満たされた心が、ここにはあると感じた。

 ―完―
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ぺる
2024.12.23 ぺる

ヒロインが幸せになるのはいいのですが、結局元婚約者と妹がどうなったのか結末が知りたかったです。元婚約者がクズであればあるほど逆にざまあ的な展開に期待してしまいます。それが無いせいか面白みが感じませんでした。

2024.12.24 ミィタソ

痛快なざまぁ展開に期待されていたのに、裏切ってしまった形になってしまったことを謝罪します。
この話のざまぁは、読者のみなさまの想像力に頼っています。
手紙の内容から、理想の花嫁を手に入れて国王として素晴らしい未来へ歩み始めたと思っていたマクーン王子の転覆模様が描かれています。
国を悪い方へと導きだしたマクーン王子とアイリスにはそれなりの罰が下るでしょう。
アイリスは、エルザの妹です。
例えば国賊扱いされたとき、そのしわ寄せが実家のローグアシュタル家まで及びます。
私にはエルザの父親にまで悲惨になってしまうであろうざまぁ展開を最後まで書くことができませんでした。
おそらくマクーン王子とアイリスは国からの信用を失って……という、真に国を思っていたエルザを手放した王子の無能さをみなさまの頭の中で補填していただくような物語としました。
ご期待に沿えず申し訳ありません。

解除

あなたにおすすめの小説

存在感と取り柄のない私のことを必要ないと思っている人は、母だけではないはずです。でも、兄たちに大事にされているのに気づきませんでした

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれた5人兄弟の真ん中に生まれたルクレツィア・オルランディ。彼女は、存在感と取り柄がないことが悩みの女の子だった。 そんなルクレツィアを必要ないと思っているのは母だけで、父と他の兄弟姉妹は全くそんなことを思っていないのを勘違いして、すれ違い続けることになるとは、誰も思いもしなかった。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

従姉妹に婚約者を奪われました。どうやら玉の輿婚がゆるせないようです

hikari
恋愛
公爵ご令息アルフレッドに婚約破棄を言い渡された男爵令嬢カトリーヌ。なんと、アルフレッドは従姉のルイーズと婚約していたのだ。 ルイーズは伯爵家。 「お前に侯爵夫人なんて分不相応だわ。お前なんか平民と結婚すればいいんだ!」 と言われてしまう。 その出来事に学園時代の同級生でラーマ王国の第五王子オスカルが心を痛める。 そしてオスカルはカトリーヌに惚れていく。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。