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手紙を書いて数日後、再びザルカンド王国から手紙が届いた。
貴族であれば誰でも分かるように、お断りをお伝えしたのだけれど……そう思いながらも、中を見ないわけにはいかない。
封を開けると、そこには以前と同じく、無礼極まりない内容が記されていた。
マクーン王子の婚約者となったアイリスとの公務が失敗続きで、次期国王としての地位が危ぶまれているという愚痴。
そして、何でもいいからさっさと戻ってこいノロマなどと、平然と書かれている。
よほど切羽詰まった状況らしい。
その無神経な手紙を目にして、私は思わず吹き出してしまった。
あれほど愛情を注ぎ、信じてついて行った相手が、今やこのような人間だったとは。
かつての私ならば悲しみに暮れただろうが、今となっては哀れさすら感じる。
「エルザ様、どうかされましたか?」
ディーン様が、私の様子に気付き、首をかしげる。
「ふふっ、少々……おかしな手紙を頂いてしまって」
私は、恥ずかしそうに手紙を閉じた。
「何か不愉快なことでもあったのであれば、おっしゃってください。私が解決いたします」
その真摯な眼差しと強い口調に、私は再び救われた思いがした。
そして、この手紙の内容を全て捨て去り、過去の私にさよならを告げる覚悟が、ようやくできたような気がする。
「いいえ、大丈夫です。もう、過去に未練などありません」
私はディーン様に微笑み返し、手紙をその場で破り捨てた。
かつての苦しみが静かに消え去っていくのを感じる。破り捨てたマクーン王子からの手紙は、過去の呪縛の象徴のようだった。
それが一片残らず消えた今、私はようやく自由になれた気がする。
ディーン様は、私の姿をじっと見つめて微笑んでいる。
「エルザ様、これまでのご苦労は、どれだけ深かったことでしょう。ですが、どうか忘れないでください。ここには、あなたを尊敬し、心から頼りにしている者がいることを」
「ありがとうございます、ディーン様」
私は、自然と彼に向かって微笑み返す。
彼の真摯な眼差しに応えたくて、この人の傍で、自分の価値を見つけ続けていきたいと思うようになっていた。
そんな私の心の変化に、ディーン様は気づいているかのようだった。
貴族であれば誰でも分かるように、お断りをお伝えしたのだけれど……そう思いながらも、中を見ないわけにはいかない。
封を開けると、そこには以前と同じく、無礼極まりない内容が記されていた。
マクーン王子の婚約者となったアイリスとの公務が失敗続きで、次期国王としての地位が危ぶまれているという愚痴。
そして、何でもいいからさっさと戻ってこいノロマなどと、平然と書かれている。
よほど切羽詰まった状況らしい。
その無神経な手紙を目にして、私は思わず吹き出してしまった。
あれほど愛情を注ぎ、信じてついて行った相手が、今やこのような人間だったとは。
かつての私ならば悲しみに暮れただろうが、今となっては哀れさすら感じる。
「エルザ様、どうかされましたか?」
ディーン様が、私の様子に気付き、首をかしげる。
「ふふっ、少々……おかしな手紙を頂いてしまって」
私は、恥ずかしそうに手紙を閉じた。
「何か不愉快なことでもあったのであれば、おっしゃってください。私が解決いたします」
その真摯な眼差しと強い口調に、私は再び救われた思いがした。
そして、この手紙の内容を全て捨て去り、過去の私にさよならを告げる覚悟が、ようやくできたような気がする。
「いいえ、大丈夫です。もう、過去に未練などありません」
私はディーン様に微笑み返し、手紙をその場で破り捨てた。
かつての苦しみが静かに消え去っていくのを感じる。破り捨てたマクーン王子からの手紙は、過去の呪縛の象徴のようだった。
それが一片残らず消えた今、私はようやく自由になれた気がする。
ディーン様は、私の姿をじっと見つめて微笑んでいる。
「エルザ様、これまでのご苦労は、どれだけ深かったことでしょう。ですが、どうか忘れないでください。ここには、あなたを尊敬し、心から頼りにしている者がいることを」
「ありがとうございます、ディーン様」
私は、自然と彼に向かって微笑み返す。
彼の真摯な眼差しに応えたくて、この人の傍で、自分の価値を見つけ続けていきたいと思うようになっていた。
そんな私の心の変化に、ディーン様は気づいているかのようだった。
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