捨てた私をもう一度拾うおつもりですか?

ミィタソ

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「エルザ様、少しお時間をいただけますか? 相談したいことがありまして」
「はい、どうぞお入りください」

 訪れたのは、ディーン様だった。おそらく仕事についての話だろう。
 ディーン様は真面目な方だ。領地を守るために、成長しようという意欲が感じられる。
 自分だけで考えず、少しでも疑問が生じれば、他国の貴族である私の力を頼ってくれるのだ。

「おや、どうされました? ずいぶんと難しいお顔をされているようですが」
「えぇ、実は……王国から手紙が届きまして。王子からなのですが、私に帰ってこいと」
「……そうですか。エルザ様のような優秀な方が、これほど長期間、国を離れるのは痛手ですものね。残念です」
「あっ、いえ。戻るつもりはないのです。私は、お父様から勤めを果たしてこいと送り出されておりますので。ディーン様さえよろしければ、まだまだお世話になるつもりですよ!」
「それは助かります! でも、よろしいのですか? ……その、先ほどの辛そうな表情は、何かあったのではないかと心配で」

 ディーン様の言葉に、私はふと手紙に目を向けてしまう。
 王子の物言いには少し腹が立ったけれど、あの人との間にあったことは、もう忘れようと思い始めていた。
 手紙を読みながらも、それほど心は揺れていないつもりだったのに。
 ディーン様に心配されるほど、私は酷い顔をしていたのだろうか。
 ……言ってしまおう。

「私には婚約者がおりました。相手は、ザルカンド王国の第一王子であるマクーン様です。実は、帝国に来る前にパーティがありまして……そこで、結婚を破棄すると告げられました」
「なんですって! それはいったいどうして。……申し訳ありません。続けてください」
「理由は単純で、私の容姿が悪いせいなのです。新たに選ばれたのは、妹のアイリスでした。あの子は王国一の美女だなんて、もてはやされてましたから」

 本当はお父様がマッカラン公爵家に来るはずだったのに、なぜかその娘の私が代理でお世話になっている。
 ディーン様は、そんな私に嫌な顔一つせず、豪華なお部屋を用意していただき、専属のメイドまでつけていただいた。
 自分の置かれている状況を、隠さず説明すべきだろう。
 それに、なぜだか分からないけれど、ディーン様に全てを吐き出せば、見せ物のようにされた婚約破棄を忘れられる気がする。

「なるほど。エルザ様がいらっしゃったのには、そのような理由があったのですね。エルザ様の妹君であれば、優秀なのでしょう。しかし、マクーン王子は失敗しましたね」
「え? 失敗とは、なぜそれを……」

 手紙の内容については明かしていない。
 ディーン様は、王子が次期国王の座を奪われそうになっている事実を知らないはず。

 まさか、アースランド帝国はザルカンド王国に密偵を忍び込ませている?
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