10 / 13
10
しおりを挟む
アースランド帝国での日々は忙しくも充実していた。
ディーン様の補佐をしながら、公爵家の公務を一緒にこなすうち、私の心は少しずつ穏やかさを取り戻していた。
そんなある日、ザルカンド王国から私宛に手紙が届いたのだ。
最初はお父様からかと思い少し微笑んだが、封を開けてみると、それはあのマクーン王子からのものだった。
このまま捨ててしまいたい……そう思ったが、次期国王からの手紙に目を通さないわけにはいかない。
ふっと息を吐いて心を落ち着かせ、読み進めていく。
冒頭には、王子が婚約したアイリスの美しさについて並べられていた。
彼女の微笑みがいかに可憐か、誰もが振り返るほどの魅力を持っているか、など、私と比べると素晴らしい……とでも言いたいのだろう。
最初は淡々と目を通していたが、読み進めるうちに、だんだんと文章が怪しくなっていく。
「次期国王と次期王妃として、二人で公務に励んでいるものの、どうも上手くいっていない」
その一文に目を止めたとき、思わず呆れてしまった。
そんなもの、当然の結果だ。
アイリスはその美貌で皆を虜にしてきたのだろうけれど、王妃に求められる教養が備わっていない。
私が二年以上もかけて学び続け、時には辛い思いをしながらも身につけてきた知識や礼儀作法。それがなければ、次期王妃など務まるはずがないのだ。
王子は手紙の中で、最近の公務がうまくいかないのをまるで私に当てつけるかのように語り続けていた。そして、陛下が婚約破棄についてだいぶお怒りであることが書かれている。
あれだけ強引に私を婚約者の座から引き摺り下ろしておきながら、その責任が重くのしかかってきたのだろう。
「このままでは、第二王子が次期国王になってしまうかもしれない……」
なるほど、とうとう王位継承権が危ぶまれるところまで来ているらしい。
私を捨て、アイリスを次期王妃に据える決断をした結果がこれだ。
何の準備もしていない彼女に国政を任せ、そもそもアイリスには私のような補佐役もいないのだ。
公務に失敗して当然だろう。
続けて読み進めると、王子は手紙の終わりに、こう書いていた。
「お前はどうせまだ俺のことが好きなのだろうから、戻ってきて一緒に仕事を手伝え。側室としてなら囲ってやってもいい」
私はその一文を読み終え、しばらく無言で手紙を握りしめた。
あまりにも身勝手で、自己中心的な考え方に、もはや怒りを通り越して可哀想とすら思えてくる。
この期に及んで自分を助けに来いというのか。
側室として囲ってやるなどと、あれほどの屈辱を受けた私にそんな条件をつけるつもりなのか。
そのとき、私の部屋の扉をノックする音が。
ディーン様の補佐をしながら、公爵家の公務を一緒にこなすうち、私の心は少しずつ穏やかさを取り戻していた。
そんなある日、ザルカンド王国から私宛に手紙が届いたのだ。
最初はお父様からかと思い少し微笑んだが、封を開けてみると、それはあのマクーン王子からのものだった。
このまま捨ててしまいたい……そう思ったが、次期国王からの手紙に目を通さないわけにはいかない。
ふっと息を吐いて心を落ち着かせ、読み進めていく。
冒頭には、王子が婚約したアイリスの美しさについて並べられていた。
彼女の微笑みがいかに可憐か、誰もが振り返るほどの魅力を持っているか、など、私と比べると素晴らしい……とでも言いたいのだろう。
最初は淡々と目を通していたが、読み進めるうちに、だんだんと文章が怪しくなっていく。
「次期国王と次期王妃として、二人で公務に励んでいるものの、どうも上手くいっていない」
その一文に目を止めたとき、思わず呆れてしまった。
そんなもの、当然の結果だ。
アイリスはその美貌で皆を虜にしてきたのだろうけれど、王妃に求められる教養が備わっていない。
私が二年以上もかけて学び続け、時には辛い思いをしながらも身につけてきた知識や礼儀作法。それがなければ、次期王妃など務まるはずがないのだ。
王子は手紙の中で、最近の公務がうまくいかないのをまるで私に当てつけるかのように語り続けていた。そして、陛下が婚約破棄についてだいぶお怒りであることが書かれている。
あれだけ強引に私を婚約者の座から引き摺り下ろしておきながら、その責任が重くのしかかってきたのだろう。
「このままでは、第二王子が次期国王になってしまうかもしれない……」
なるほど、とうとう王位継承権が危ぶまれるところまで来ているらしい。
私を捨て、アイリスを次期王妃に据える決断をした結果がこれだ。
何の準備もしていない彼女に国政を任せ、そもそもアイリスには私のような補佐役もいないのだ。
公務に失敗して当然だろう。
続けて読み進めると、王子は手紙の終わりに、こう書いていた。
「お前はどうせまだ俺のことが好きなのだろうから、戻ってきて一緒に仕事を手伝え。側室としてなら囲ってやってもいい」
私はその一文を読み終え、しばらく無言で手紙を握りしめた。
あまりにも身勝手で、自己中心的な考え方に、もはや怒りを通り越して可哀想とすら思えてくる。
この期に及んで自分を助けに来いというのか。
側室として囲ってやるなどと、あれほどの屈辱を受けた私にそんな条件をつけるつもりなのか。
そのとき、私の部屋の扉をノックする音が。
369
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説

存在感と取り柄のない私のことを必要ないと思っている人は、母だけではないはずです。でも、兄たちに大事にされているのに気づきませんでした
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれた5人兄弟の真ん中に生まれたルクレツィア・オルランディ。彼女は、存在感と取り柄がないことが悩みの女の子だった。
そんなルクレツィアを必要ないと思っているのは母だけで、父と他の兄弟姉妹は全くそんなことを思っていないのを勘違いして、すれ違い続けることになるとは、誰も思いもしなかった。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。
ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。
屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。
家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

従姉妹に婚約者を奪われました。どうやら玉の輿婚がゆるせないようです
hikari
恋愛
公爵ご令息アルフレッドに婚約破棄を言い渡された男爵令嬢カトリーヌ。なんと、アルフレッドは従姉のルイーズと婚約していたのだ。
ルイーズは伯爵家。
「お前に侯爵夫人なんて分不相応だわ。お前なんか平民と結婚すればいいんだ!」
と言われてしまう。
その出来事に学園時代の同級生でラーマ王国の第五王子オスカルが心を痛める。
そしてオスカルはカトリーヌに惚れていく。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。
妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。
その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。
家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。
ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。
耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる