4 / 13
4
しおりを挟む
これだけの貴族が集まる場で宣言してしまった以上、誰が何と言おうが、何をしようが、私と王子の婚約破棄が覆ることはないだろう。
でも、黙って帰るなんて私にはできない。
王子のために生きてきた時間分の気持ちをぶつけてやるんだ。
両手の拳を決意とともに強く握りしめたあと、心を落ち着かせてフワッと力を抜く。
私になんて一度も向けたことのない優しい笑みで……何年も前から婚約していたかのような態度でアイリスと話す王子を見据え、貴族らしい優雅な足取りで歩きだす。
「いつ婚約を発表してくださるのか、待ち遠しくてしかたありませんでしたわ」
「アイリス、君と一緒になれて嬉しいよ」
「わたくしもですわマクーン王子」
近づくにつれて、二人の会話が聞こえてくる。
こんなクズな男に振り回されて生きてきたのか。
拳を振り上げて大声で怒鳴りつけてやりたい。
泣きたいくらい悔しい。
でも、王妃となるために必死で身に着けた微笑みを浮かべて押し殺す。
「王子、少しよろしいですか?」
「……ん? あぁ、まだいたのか。お前のおかげで、アイリスとの婚約発表が盛り上がったよ。最後に役に立ってくれてありがとうなエルザ。もう帰っていいぞ?」
「もう私と話す気もないと……。分かりました、アイリスとお幸せに。婚約破棄の件、お父様には私から伝えておきますので」
私をわざわざ壇上近くの階段で待機させた理由……そういうことだったのね。
話す気も失せてしまった。
私が婚約破棄を受け入れず、しつこく引き下がるとでも思っていたのか、王子はぽかんと口を開けている。
舌を出して、こちらを馬鹿にしたように手を振るアイリスには少し腹がたったけれど、それもどうだっていい。
胸を張り、顎を上げ、堂々と貴族らしい態度で会場を後にした。
でも、黙って帰るなんて私にはできない。
王子のために生きてきた時間分の気持ちをぶつけてやるんだ。
両手の拳を決意とともに強く握りしめたあと、心を落ち着かせてフワッと力を抜く。
私になんて一度も向けたことのない優しい笑みで……何年も前から婚約していたかのような態度でアイリスと話す王子を見据え、貴族らしい優雅な足取りで歩きだす。
「いつ婚約を発表してくださるのか、待ち遠しくてしかたありませんでしたわ」
「アイリス、君と一緒になれて嬉しいよ」
「わたくしもですわマクーン王子」
近づくにつれて、二人の会話が聞こえてくる。
こんなクズな男に振り回されて生きてきたのか。
拳を振り上げて大声で怒鳴りつけてやりたい。
泣きたいくらい悔しい。
でも、王妃となるために必死で身に着けた微笑みを浮かべて押し殺す。
「王子、少しよろしいですか?」
「……ん? あぁ、まだいたのか。お前のおかげで、アイリスとの婚約発表が盛り上がったよ。最後に役に立ってくれてありがとうなエルザ。もう帰っていいぞ?」
「もう私と話す気もないと……。分かりました、アイリスとお幸せに。婚約破棄の件、お父様には私から伝えておきますので」
私をわざわざ壇上近くの階段で待機させた理由……そういうことだったのね。
話す気も失せてしまった。
私が婚約破棄を受け入れず、しつこく引き下がるとでも思っていたのか、王子はぽかんと口を開けている。
舌を出して、こちらを馬鹿にしたように手を振るアイリスには少し腹がたったけれど、それもどうだっていい。
胸を張り、顎を上げ、堂々と貴族らしい態度で会場を後にした。
281
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説

存在感と取り柄のない私のことを必要ないと思っている人は、母だけではないはずです。でも、兄たちに大事にされているのに気づきませんでした
珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれた5人兄弟の真ん中に生まれたルクレツィア・オルランディ。彼女は、存在感と取り柄がないことが悩みの女の子だった。
そんなルクレツィアを必要ないと思っているのは母だけで、父と他の兄弟姉妹は全くそんなことを思っていないのを勘違いして、すれ違い続けることになるとは、誰も思いもしなかった。
私達、政略結婚ですから。
黎
恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。
それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。
ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。
屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。
家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

従姉妹に婚約者を奪われました。どうやら玉の輿婚がゆるせないようです
hikari
恋愛
公爵ご令息アルフレッドに婚約破棄を言い渡された男爵令嬢カトリーヌ。なんと、アルフレッドは従姉のルイーズと婚約していたのだ。
ルイーズは伯爵家。
「お前に侯爵夫人なんて分不相応だわ。お前なんか平民と結婚すればいいんだ!」
と言われてしまう。
その出来事に学園時代の同級生でラーマ王国の第五王子オスカルが心を痛める。
そしてオスカルはカトリーヌに惚れていく。

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。
妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。
その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。
家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。
ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。
耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

可愛い妹を母は溺愛して、私のことを嫌っていたはずなのに王太子と婚約が決まった途端、その溺愛が私に向くとは思いませんでした
珠宮さくら
恋愛
ステファニア・サンマルティーニは、伯爵家に生まれたが、実母が妹の方だけをひたすら可愛いと溺愛していた。
それが当たり前となった伯爵家で、ステファニアは必死になって妹と遊ぼうとしたが、母はそのたび、おかしなことを言うばかりだった。
そんなことがいつまで続くのかと思っていたのだが、王太子と婚約した途端、一変するとは思いもしなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる